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4・1 四月の馬鹿

4・1 四月の馬鹿


 四月になった。雨が降っている。今日はエイプリルフール、らしい。おれは、年中無休の馬鹿者だ。

 世間は嘘で賑わっていた。だが、いつだって語られる出来事など、すべて嘘だ。語られるものはすべて物語だ。すべて恣意的に繋がれた事実の断片が、織りなす、現実に近い嘘だ。

 僕も、嘘をひとつ考えてみた。稀勢の里がたけのこの里に改名。綱取りも噂される来場所での初優勝に向け、「はやく芽が出るように」との願を掛けた形だ。僕には、嘘をつく相手など、いなかった。一人で考えて、まるで馬鹿らしい。

 四月のはじまりは、寒かった。寒くて、どんよりと曇っていた。曇っていたから、昼間は散歩に出た。道ばたの桜は、よく咲いていた。

 花曇りの桜は涙を誘う。過ぎてゆく日々が、涙を誘う。花は、曇りに散るのが美しい。うらぶれた日々にも、花は散っていく。散って、地面を花は染め上げる。それは花たちの浄土の姿だ。散った花びらは、掃かれて、朽ちる。地に落ちて死んだ花々の離断体。浄土の姿こそ、人には愛おしい。

 うらぶれた日々をどうすればいいのか。世間とは、何者かになったものたちの浄土だ。僕はそこを地獄だと恐れている。それでいて何者かになってゆくものたちを、恨めしい目で見つめている。それでこんなものなどを書いたりしている。これを書いたって、世間には無意味だ。だが、書かずにはいられない。これを読む読者は、おれひとり。おれは、おれだけの慰みに、これを書く。

 そしてまた何者にもなれない、四月一日。四月に変わっても、馬鹿は治らない。(了)


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