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華龍Story  作者: ryo
38/142

第38章

38.

エルフたちに伝わる伝承によれば、万物には全てその物が備える『本質』というものがある。たとえば『発火薬』の原料である『ケール硝石』の粉は、『燃える』という事が『本質』だった。エルフたちは原料である『ケール硝石』の粉に『火の属性を持つ魔力を通す』事で、より顕著に原料の持つ『本質』を顕現させ『発火薬』を造りだす。

そして『魔力を通す』とは、対象に『魔力を宿らせる』事に等しい。

実際には一つの『魔法薬』を造るのに複数の原料を合わせ調合したり、複数の属性の魔力を通したりもするが、基本的な考え方は一緒だった。

ドワーフの為す『魔力を持って、あるいは魔力を触媒にして、素材の組成を変える』事が魔力を手段とする一種の化学変化であるとするならば、エルフが為すのは単純化すれば『素材に魔力を封ずる』事であり、その結果の違いは術式後の対象に『魔力が宿るか否か』と言う事になる。


「長老はこの剣を、手紙の中で『得体が知れない』と言った。僕にも最初は、この剣の持つ『本質』が何であるかが良く分からなかった。僕らエルフはね、人間は元よりドワーフに比べてもそういった事に敏感なんだよ。剣は敵を切る事が目的ではあるけれど、その『本質』は『如何なる物をも切る』という意志にも近い物だったり、『綻びず曲がらず、欠ける事もない』固さであり同時にしなやかさであったりもする。長老が魅入られるだけあって、今言った様な性質は何れも見事な位に顕著なんだが、この剣の場合、それらは唯一無二の『本質』じゃあ、ない。ああ、後は『雷撃』の痕跡もあったが、それは『雷撃』を使うキミのせいだろうな」

俺は出立の朝、改めてドーナのエルシャナの家を訪れている。朝になって、降り続いた雨も漸く上がっていた。森の中の街道はまだぬかるんでいるだろうが、葦毛たちをゆっくり走らせれば馬車でも大丈夫だろう。後は、エルシャナに預けた『同田貫』を受け取るだけだった。

「自分が切られでもしたら、分かるかと思ったんだが。キミは僕を切らなかっただろう?それでね、傷も癒えた事だし、昨日の夜、妻に頼んでその剣で少し僕を切ってもらった」

それにしても、コイツやはり馬鹿だな。

当然、『魔法薬』で傷は癒してあるにしても。

訪ねた俺を前に、エルシャナは長々と説明をしてくれている。人付き合いが悪いと言われるエルフだが、実はエルフというのはおしゃべり好きなんじゃないだろうか?

俺たちが向い合せて座る間には、テーブルに置かれた『同田貫』があるが、正直なところ俺には預ける前と何が変わったのかが分からない。ドワーフの長老に預けた際は、受け取った鞘から抜いた途端に、剣の重さもバランスも何ら変わらないのに周囲を凍らせる様な異様な感触があった。今でもそれは同じだが、エルシャナに預ける前との変化はない様な気がする。

「お蔭で分かったよ、正しくこの剣は『時を別つ』力がある。奇妙な事に、刃先と柄では流れている時間が違っている。簡単に言うと、切ろうという意志が『柄より先に刃先を走らせる』のさ。つまり、地面に水平にこの剣を振り下ろすならば『何故か、先に刃先が地を打つ』んだよ」

俺が使った『雷撃』が、単に『同田貫』の柄に巻いた革の焦げ目以上の痕跡を残すというのなら、同じ様に『同田貫』は、俺がこの世界に意図せずして持ち込んだらしい特殊な力の影響を受けているのかもしれない。確かあの男(だったのかは分からないが)は『時間の進みを止める力』と言っていた。

「問題はね、そんな馬鹿げた『本質』を持つこの剣には、四大元素のどれもが合わなさそうだということさ。で、キミを待っていた訳だ。この剣も十分に面白いのだが、キミを見ていて更に面白いのは、キミは強力な魔力をその身に宿しているが色がないというか、キミ自身が四大元素のどの属性の色も持っていない。敢えて言うなら『無色透明』の力。丁度良いじゃないか、僕がこの剣に『魔力が通る状態』を造る。後はキミ自身が、あの『雷撃』の要領でキミの持つ魔力を通せば良い」

そういえば、ソフィアが似た様な事を言っていた。俺は体内に魔力を貯め込んでいると。色の事は言っていなかったと思うが、周囲の空間に影響を与えている様な事を言っていたと思う。

結局のところ良くわからないが、つまりコイツは調べはしたが自分では何もしていないので、手伝うから自分でヤレと、そういう事だろう。調べる過程で決闘したり自分のかみさんに切らせたり、かなりマニアックではあるが。俺の中で、エルフはおしゃべりで、変なヤツに決定。

エルシャナが鞘から引き抜いた『同田貫』の柄を、俺の右手に握らせる。エルシャナ自身はテーブルに水平に置いた『同田貫』の刃先に右手の平を添え、自分の左手で俺の右手の上から握り込む。

男に手を握られても、うれしくない。


「・・・、リ・デル・リザーク」

俺は自分の左手を懐の『藍の宝玉』に触れる。どれくらい、っていうのはあるが、少しづつ力を籠めればよいのだろうか?エルシャナを黒焦げにしてもマズイし。

俺は、エルシャナを見ながら、小声で『発動言語』を呟く。

体中の体温が俺の右手に集まっていく感触。戦いの最中には気にもしていなかったが、体温を奪われた体が急激に冷える。

だが、スパークも爆発音も起こらず、ズズッと無制限に魔力だけが引き抜かれる。


「あ、言っておくけど、キミのその莫大な魔力を持ってしても、一度は空になるよ?僕がキミの全ての魔力を強引に引き出すからね、って、もう聞こえてないか・・・」

やはりコイツは食えないヤツだ。

エルフとはおしゃべりで変なヤツで、しかも最低なヤツに決定。

薄れゆく意識の中で俺は、併せて今日の旅立ちの延期を決定していた。


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