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【────ところで、妹って誰のことですか?】シリーズ短編集まとめ  作者: As-me・com


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6/6

Episode:6

「君の妹のことが好きになってしまったんだ」と婚約者から婚約破棄されました。────ところで、妹って誰のことですか?シリーズ 〈6〉

「実は、君の妹のことが好きになってしまったんだ。────僕はこれからどうすればいいと思う?」


「……あらまぁ、それは大変ですね。つまりそれは私という婚約者以外の人間を好きになられたということですよね。それなら、私とは婚約破棄するしかないのではありませんか?」



 私と彼は正式な婚約者同士だが、ふたりの間に流れる空気はひんやりと冷たい。それは私が背後にブリザードを背負っているからだが、彼は気付いていないのか気にしていないのか……たぶん両方だろう。「やっぱりそれしかないかぁ~」と間延びした返事をした。曲がりなりにも婚約者に浮気宣言をしたとは思えない態度である。


 でも、この婚約が歪んでいるなんてみんな承知のことだ。なにせ、この国の第三王子である彼と子爵令嬢の私なんて……身分的にもぎりぎりアウトだろう。なにせ法律で王族に嫁げるのは伯爵位からと決まっているんだから。


 それでも、この婚約は決行された。


 彼が王族とはいえ三番目であったこと、特化した才能もない無能でお飾りの王子であること、さらに上位貴族の令嬢と婚約して下手に後ろ盾を持たれたら謀反を企む人間に利用される可能性があること、なにより本人がポンコツであること。


 全ての理由を加味してそんなこんなで選ばれたのが私だ。確かに、しがない子爵家の娘と結婚したって後ろ盾になんかなれないからね。まぁ、せいぜい田舎にある小さな領地くらいか。本当に何もないド田舎だけど。


 つまりは、私と結婚したって王子にはなんのメリットもないが、陛下たちは第三王子には王族のスペアのスペアとして静かに暮らしていて欲しいらしい。それにどんなにポンコツでも、結婚さえすれば王族の血筋を残すという最低限の役割をしていると認められる。そうすれば王家が衣食住を保証してくれるそうだ。


 ちなみに第一王子と第二王子は健康そのもので末っ子と違って優秀でハイスペックなのだとか。スペアのスペアが活躍する日はきっとこないだろうと言われている。


 王族の婚約者になれるなんてシンデレラストーリーだって?いやいや、そんな理由で選ばれた私の身にもなって欲しい。だって私には王子を利用する野心も、王子をやる気にさせる魅力もないと言われたようなものだ。いやまぁ、実際どちらもないんだけどさ。


 それでも周りからは嫉妬されるし嫌味を言われるし、なんならちょっとイジメられてるし。学園って怖いのよ。嫉妬するくらいなら代わってっての!


 しかし彼は、多少困惑している私に向かってにっこりと笑みを浮かべた。自分がとんでもないことを言っているなんて微塵も思っていない笑顔で、はっきりと言ったのである。 




「じゃあ、婚約破棄しよっか」と。




「えっ────わ、かり……ました」




 私は彼の返答に少しだけ驚いてしまった。そう、まさかの返しにびっくりした……だから、即答出来なかっただけだ。ただ、それだけである。












 お茶会を切り上げ、帰りの馬車の中でさっきのことを考えているとモヤモヤとした感情が湧き上がってきた。ついでに王子が「手続きはこっちでやっておくから、もう二度と僕の前に現れないでね~」なんて笑顔で見送ってきたのにもモヤモヤしていた。



 婚約してから約3年。婚約する時はあれだけ大変だったのに、破棄する時はあまりにもあっさりしすぎではないのか。私は3年前の騒動を思い出してまたもや「うーん」と頭を悩ませる。


 確か、いくら第三王子があんなのでもさすがに婚約者が子爵令嬢なんてどーのこーのと苦情が凄かったのよね。でもお父様も王家からの申し込みを断るなんて出来なかっただろうし、針の筵ってやつよ。周りからは散々嫌がらせされたし、しまいには王家の弱みを握ってを脅したんじゃないかとかなんて噂が立ち……ストレスの結果的にお父様の頭部が薄くなる始末だ。ララバイ、お父様の頭髪。


 それでも王家に逆らうわけにもいかず正式に婚約したものの、それからがまた大変だった。詳しくは省くが、とにかく大変だった。その辺は察して欲しい。ポンコツ王子に権力を持たせないためだけの婚約者なのに、王子妃教育はやたら厳しかった。


 さらにあの第三王子だ。


 実はものすごく惚れっぽいのである。


 これまでだって大変だった。兄王子たちの婚約者が自分を個室に誘ってきたから、どーのこーの。パーティーで目が合った令嬢がハンカチを渡してきて密会を提案してきたから、どーのこーの。しまいにはお忍びで行った街の角で食パンを咥えた少女がぶつかってきて目と目が合ったから、どーのこーの。


 その度に「◯◯を好きになってしまったかもしれないんだ。どうしたらいい?」なんて、耳にタコができるくらい聞かされてきた。


 その度に適当に聞いて流してきたが、逆にどうしろと?!と思わなくもない。浮気するならせめてバレないようにするものではないのか。自分から発信してどうする?!


 しかし私はしがない子爵令嬢。しかもポンコツ王子を静かに暮らさせる足枷になるために結ばれた婚約者だ。第三王子自身がそれを不満に思って浮気を繰り返したからってこちらから咎めることなんて出来ない。


 私は頷いて王子の提案を飲み込むことしか出来ないのだ。


 それでも、これまで同じような会話は何度も繰り返されていた。殿下に「◯◯を好きになってしまったみたいだ。どうしたらいい?」なんて相談を受けたことは片手の指では数え切れないくらいにある。私だって最初は慌てふためいたし、それこそ悩んで眠れない夜を過ごしたことだってある。しかし王子が望むならと「婚約破棄しましょうか」と提案したのに。


 しかし王子は「それは面倒くさい」と言った。


 あの時も、あの時も、あの時も……。毎回同じ相談をされて、同じ返しをして、そして毎回「婚約破棄かぁ……面倒くさいからこのままでいいや」と言われるのである。面倒くさいのはお前だ!そう言って殴りたい衝動に何度駆られたかわからない。


 それからは、この人はそういう病気なのだと思って適当に聞き流していた。もはやお約束のように「婚約破棄」を口にして、「面倒くさい」と返ってくる。今回もどうせまた「面倒くさい」と、「このままでいいや」と、言うと思っていたのに……。



「まさか今度は、《《私の妹》》を好きになるなんて─────ん?」


 そこまで言ってから、私は首を傾げたのである。



 もう数え切れないくらい「◯◯を好きになった」なんて言われ続けていたから聞き流すのが癖になっていてちゃんと聞いていなかったのだが、落ち着いて思い出すとおかしな話である。




 だって……私に、妹なんていないんですけど?




 我が家には兄と弟がいるが女児は私ひとりだ。それは王子だって知っているはずである。それなのになぜ、わざわざ「君の妹を好きになった」なんて言って婚約破棄してきたのだろうか。


 しかもあんなに笑顔で。


 結局モヤモヤは晴れないまま、家族に婚約破棄されたことを伝えて食事もとらずに自室に籠もった。


 妹の真意はわからないままだが、どのみち明日には王家から正式な婚約破棄の書類が届くだろう。そして私はポンコツ王子から婚約破棄された役立たずとして名を馳せるのだ。




 しかし翌朝、わが家に届いたのは……第三王子から私宛の一通の手紙だった。



 家族が心配するなか、私は意を決して封を開けた。するとその内容は思いもかけないものだったのだ。





 そして私はその手紙を読んで────《《とんでもないこと》》を思い出したのである。




 とある記憶が強烈な勢いで私の中に流れてきて、そしてやっとわかったのである。第三王子が婚約破棄した意味が……。



「ふっざけんなぁぁぁ!!」



 私はそう叫びながら、走り出していた。










 ✱✱✱




(視点が変わります)



 もう手紙はあの子の元へ届いただろうか。


 馬車の窓から見える明るくなってきた空を見上げて、ぼんやりとそんなことを考えていた。


 こんな名ばかりの第三王子の婚約者なんかにされて、彼女は迷惑だっただろうな。でも僕にとっては幸せな3年間だったんだ。


 実は僕は、王族の血筋にたまに生まれる“魔力持ち”というやつだった。しかも厄介だと言われる“魅了の魔力”だ。珍しいらしいけど、もっと違う力だったら良かったのにって何度思ったかわからない。


 普段は特殊な薬で抑え込んでいるけれど、たまに感情に左右されて魔力が暴走してしまうことがある。


 そのせいで兄上の婚約者や酷いときは目が合っただけで相手を魅了してしまうし、街角でぶつかった少女なんてパンを口に咥えたまま僕に襲いかかろうとしてきたくらいだ。しっかり薬も飲んで顔も隠して対策していたのに、ちょっとびっくりしただけであんな目に遭うなんて散々だった。しかも向こうは僕のことを知っている感じで「やっと見つけた!」なんてわけのわからないことを叫んでいたし、護衛が守ってくれなかったらどうなってたかと考えるとゾッとする。それからは迂闊に外に出かけられなくなった。この力は年々強くなっている。そう感じていた。


 まぁ一応、その相手が僕に好意を持っている場合に限られているのだが……まさか2番目の兄上の婚約者である公爵令嬢が僕のグラスに媚薬を盛ったとわかった時はさすがに動揺したっけ。それがバレたせいでふたりの関係が悪化していると聞いて申し訳なく思っていた。それから2番目の兄上にはとても嫌われているのだ。


 けれど、神に誓って誰にも指一本触れてはいない。元々媚薬は効きにくい体質だし、ギリギリのところで魔力をコントロールできたのは全て愛しい婚約者のおかげだった。


 彼女は僕の魔力に干渉されず、さらに一緒にいると僕の魔力を抑えてくれる特異体質の持ち主だったのだ。


 最初にこのことに気づいたのは偶然だったが、それでも子爵令嬢を婚約者にするのには難色を示されたので必死にお願いした。


 僕の最初で最後のわがままで婚約者にしてもらった子爵令嬢(女の子)。実はその特異体質が判明する前から君の笑顔に一目惚れしていたと言ったら信じてくれるだろうか?


 まさか初恋の子がこんな体質だなんてと、夢でも見ているようだった。


 それに、彼女のことを想うと心が落ち着いて感情を抑えることができた。魔力が暴走する心配のない彼女とのお茶会は唯一心の安らぐ時間で、とても楽しかったんだ。


 彼女は僕にとってはまさに救いの女神だ。


 笑った顔も、呆れた顔も、怒った顔も……泣きそうな顔だけは心が痛んだけれど、全部が宝物でとても大切なのに……君に僕が魔力持ちだとは言えなかった。


 君が僕に恋愛感情を持っていないこともわかっていたから、もし僕の本当の気持ちを伝えて意識されたらと思うと怖かったんだ。僕に好意を持ったら、今度こそ魅了の力が効いてしまうかもしれない。


 だから、わざと嫌われるようにあんなことを言ってたって知ったら君は怒るかな?


 それに君はこのままじゃ僕の力を抑えるためだけに王家に飼い殺しにされる。何度も君を解放しなければと思っていた。だから浮気したフリをして、その度に君から婚約破棄を持ちかけられて……でもやっぱり決意が出来なくて笑って誤魔化すばかりの僕は最低だ。



 でも……今度こそ君を解放するよ。なにせ僕はこれから2番目の兄上の策略で異国に連れて行かれるんだ。異国ではひっそりと魔力について研究がされていて、兄上は人体実験の研究材料として僕を売ったんだってさ。「人の婚約者を惑わす厄介な疫病神なんだから、せめて人類の役に立って死ね。もうお前は弟でも何でもない!」って言われたよ。どうやら公爵令嬢が僕に無理矢理襲われたって兄上に泣きついたらしい。1番上の兄上も僕には無関心だったし、父上たちも僕の存在を持て余していたからちょうどよかったのかもしれない。


 だけど……僕と婚約したままだと君まで巻き込むかもしれないから、その前に婚約破棄できて良かった。婚約破棄さえすれば君は無関係だって兄上も約束してくれたからね。



 でもね、今度は浮気なんてしてないって気持ちを込めたくて「君の妹のことが好きになった」なんて嘘をついた。君に妹なんていないのにね。


 君がいつかそれに気づいてくれるかはわからないけれど……これが僕に出来る精一杯の悪足掻きだ。



 もちろん、このことは手紙には書いていない。ただひと言だけ伝えたかっただけなんだ。





 “君を心から愛しています”。と。






 ガタン!!


 その時、馬車が大きく揺れて止まった。


 何事かと様子を見ると、外でバタバタと人が倒れる音が聞こえてきたのだ。もしかして野盗にでも襲われたのだろうか。男には魅了の力は効かないし、いっそこのまま殺されてしまった方がいいのかもしれない。


 そう思って覚悟を決めたのに……馬車の扉が開いた先に見えたのは、もう二度と会えないと思っていた人物だった。



「……全くもう!なんなんですか、あの手紙は?!勝手に婚約破棄して勝手に告白してきて……私は怒ってるんですからね!」


「どうしてここに……?それに、外にいた御者とかは……」


 するとその人物は「ふふん!」と得意気に笑った。


「私が特異体質だってことは……もちろんわかってますよね?実は私も“魔力持ち”でその力が“反転させる力”だったことを思い出したんですよ!魔力って自分で気付かないとちゃんと作用されないから厄介でしたけど……外の人たちには“意識を反転”させて眠ってもらいました」


「な、なんだよそれ……最強じゃないか」


 眩しい笑顔て笑う彼女の顔をもっと見ていたいのに、涙で滲んでしまう。


「まだ魔力に慣れていないのでそんなに持続はしないんですけど……とにかく逃げましょう!あなたの事情も……全部思い出したから、私はあなたを救いに来たんです」


 そう言って差し出された手を、僕は黙って握りしめたのだった。









「君を巻き込みたくなかったから婚約破棄したのに……。それに全部《《思い出した》》ってどういうことなんだい?」


「そうですねぇ、私も急に思い出したのでどこから言えばいいか……。まぁ、予知?みたいなものです。王子が異国に連れて行かれることと、その先でなにが起こるか知っていたので……分岐点は今しかないって感じで」


「……全然わからない」


「世の中にはわからない方がいいこともあります。とにかくラスボス化は防げたはずなのでこれで世界は滅亡しませんよ!さすがは“私”!さすがは追加アップロードされた課金キャラ!」


「ますますわからない……」


 彼女の言っていることがさっぱり理解出来なくてクエスチョンマークが浮かんでくる。それに、何か少し性格?が変わっているような気がするんだけど……。


 すると彼女は僕の考えがわかったのか首を傾げて目を細めた。


「……“私”は私ですよ。あなたとの思い出も全部覚えてます。ただ少し……ちょっと容量が《《2人分》》になっただけです。今の私は嫌ですか?」


 その仕草にドキッとしてしまい、心臓が鷲掴みにされたみたいにぎゅっとなる。今まではただ心が安らいでいた笑顔のはずなのに、こんなに心臓がうるさくなるなんて初体験だ。こんなに感情を揺さぶられたらまた魔力が暴走をするんじゃないかと心配になるくらいに。これじゃあまるで、僕の方が魅了されたみたいじゃないか。


 でも彼女は平気そうにしていて、「そうだ」と僕をまっすぐに見つめたんだ。




「……そういえば、私の妹を好きになったから婚約破棄したいっておっしゃっていましたけど、ひとつだけ聞きたいことがあったんです」


「えっ?!そ、それは実は……っ」


 思わず誤解を解こうとした僕の唇に彼女の人差し指がそっと重なる。そして、意地悪く笑ったその顔は今までで1番キレイに見えた。





「────ところで、妹って誰のことですか?」





 どうやら僕の気持ちはすでに全部バレているようだ。浮気なんかしてなかったことも、本当は初恋だったことも……。



「手紙じゃなくて、ちゃんと告白してください。これでも“推し”を幸せにする甲斐くらいありますから!」


 やっぱり彼女の言うことはよくわからないけれど、そんなことはどうでもよくなった。


 ただ……彼女には一生勝てない。そんな気がしたんだ。












 その後、お忍びで異国へ留学するはずだった第三王子は野盗に襲われて死亡したと発表された。婚約者の子爵令嬢はすでに婚約破棄されていて、王族から婚約破棄されたキズモノ令嬢と言われるのに耐えられなくなり田舎に引きこもっているらしいと噂が流れた。しかし、しばらくすればすぐにそんな噂は忘れられてしまったようだ。……とある子爵家以外には。






 そういえば王都から離れた所にある自然豊かだが何もない静かな田舎には、ちょっと変わった夫婦が暮らしているらしい。たまに動物に懐かれすぎて困っている夫の姿を妻が目を細めて見守る姿がとても幸せそうだったと、誰かが言っていた。





終


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