第一話:午前3時、俺の人生がバグった
初投稿です。
学園推理×システム作品になります。
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
午前3時。
神代翔は、喉の奥から漏れた自分の荒い息で目を覚ました。
「……っ、はぁ……はぁ……」
薄暗い六畳の部屋。
天井に貼った蓄光シールの星だけが、ぼんやりと緑色に光っている。
春先だというのに、パジャマの背中は汗でじっとり濡れていた。
また、あの夢だ。
最近、何度も見る悪夢。
教室の真ん中に立たされ、クラス全員に笑われる夢。
机の上には赤ペンで書かれた落書き。
――陰キャ。
――キモい。
――空気読め。
――なんで生きてんの?
そして最後に、顔の見えない誰かが耳元で囁くのだ。
「お前は、一生脇役だ」
「……うるせぇよ」
翔は舌打ちしながら体を起こした。
枕元のスマホを手に取り、時刻を見る。
3:00
最悪だ。
中途半端に目が覚める時間としては、これ以上ないほど最悪だった。
二度寝すれば朝が地獄になる。
起き続ければ睡眠不足で学校が地獄になる。
どっちに転んでも地獄。
「俺の人生、選択肢少なすぎだろ……」
独り言を吐きながら、水でも飲もうとベッドから足を下ろした。
その瞬間だった。
視界の中央に、青白い光が走った。
「……え?」
翔は動きを止める。
目の前の空中に、ゲーム画面のような半透明ウィンドウが浮かんでいた。
⸻
【断罪システム 起動】
⸻
「……は?」
数秒、理解が追いつかなかった。
寝ぼけているのかと思い、目をこする。
だが消えない。
頬をつねる。
痛い。
「夢じゃないのかよ……」
さらに文字が切り替わる。
⸻
【宿主確認:神代 翔】
【年齢:17】
【所属:私立星ヶ峰学園 二年C組】
【社会評価:最低ランク】
【友人数:2(実質1)】
【女子人気:0】
【陰キャ適性:SSS】
【将来期待値:測定不能】
⸻
「待て待て待て」
翔は思わず立ち上がった。
「悪意しかねぇだろ、この診断!」
【事実を表示しています】
「AIみたいな冷静さで刺してくんな!」
【補足:宿主は現状、学園カースト下位0.8%です】
「細かく傷つけるな!」
翔はスマホで画面を撮ろうとした。
だがカメラには何も映らない。
自分にしか見えていないらしい。
「なにこれ……俺、ついに壊れた?」
【いいえ】
【宿主の人生を是正するため、断罪システムが選定されました】
「人生を是正ってなんだよ」
【理不尽、虚偽、悪意、隠蔽。そうした不正を暴き、正しい裁定を下す】
【その過程で宿主の評価・能力・未来を改善します】
「いや急に責任重いな」
【初回任務を開始します】
「人の話聞けよ!」
ウィンドウが赤く点滅した。
⸻
【初回任務】
【本日、学園内で発生した財布盗難事件の真犯人を24時間以内に特定せよ】
【成功報酬:会話能力+10/観察力+5】
【失敗ペナルティ:コミュ障固定】
⸻
「…………は?」
翔は数秒固まった。
「財布盗難?」
【はい】
「今日って、まだ昨日扱いだろ!? 深夜3時だぞ!?」
【一般的な感覚は不要です】
「不要じゃねぇよ!」
財布盗難なんて聞いていない。
そんな事件、学校で起きたのか?
だが次の瞬間、ベッドの上に置いたスマホが震えた。
ブブブッ、と連続通知。
クラスLINEグループだった。
嫌な予感しかしない。
翔は恐る恐る画面を開く。
⸻
『白石さんの財布なくなったってマジ?』
『今日の放課後、教室で騒ぎになってたらしい』
『先生が明日確認するって』
『最後まで教室残ってたの誰?』
『神代じゃね?』
『あー、いたわ』
『なんか最近ずっと一人で残ってるよな』
『普通に怪しくね?』
⸻
翔の背筋に冷たいものが走った。
「……は?」
スクロールする指が震える。
⸻
『てかあいつ、金なさそうだし』
『陰キャって何考えてるかわからん』
『明日問い詰めれば?』
⸻
「いやいやいやいや」
翔は思わず声を上げた。
「なんで俺が犯人候補なんだよ!」
【回答:普段の印象】
「最悪すぎる!」
神代翔という人間は、目立たない。
クラスで発言しない。
昼休みは一人。
体育祭も文化祭も最低限。
女子と話せば挙動不審。
男子グループには入れない。
つまり、便利なのだ。
何かあった時、疑うのに。
「クソ……」
握ったスマホが軋む。
白石晴乃。
クラスでも人気の高い女子。
明るくて成績もよく、誰にでも優しい。
そんな彼女の財布がなくなった。
そして最後まで教室に残っていた自分が、都合よく疑われる。
「終わってるだろ……」
【補足】
【このまま放置した場合、宿主は犯人候補として固定されます】
【評判低下:大】
【学校生活難易度:地獄】
「もう十分地獄なんだが?」
【さらに悪化します】
「脅すな!」
翔は頭を抱えた。
だが、ひとつだけ引っかかることがあった。
「……最後まで教室にいたの、俺だけじゃない」
【詳細を述べてください】
「放課後、俺がプリント整理してた時……」
記憶を辿る。
夕方の教室。
オレンジ色の西日。
部活へ向かう足音。
空になった教室。
その時、確かに三人、残っていた。
一人目。
桐生蓮司。
サッカー部エース。
顔が良く、ノリも良く、女子人気も高い。
翔とは住む世界が違う男。
二人目。
早坂美優。
白石と仲の良い女子。
忘れ物を取りに戻ったと言っていた。
三人目。
担任の相沢先生。
職員室へ行く前に、教室で何か探していた。
「……俺だけじゃない」
【有力情報を確認】
【任務進行率:3%】
「3%しか上がらねぇの?」
【宿主の証言は信用度が低いため】
「お前まで!?」
翔はベッドに倒れ込んだ。
天井を見上げる。
どうする。
明日学校へ行けば、たぶん空気は最悪だ。
視線も痛い。
陰口も飛ぶ。
いつものことだ。
……いや、いつも以上か。
だが、今回は違う。
何もしていないのに犯人扱いされる。
それだけは、嫌だった。
「……やるしかないのか」
【任務受諾を確認】
【宿主の目標:冤罪回避】
【副次目標:格好悪くない初登場】
「誰の視点だよ」
翔は立ち上がり、机のノートを開いた。
人生で初めて、探偵みたいなことをする。
ペンを走らせる。
⸻
容疑者候補
① 桐生蓮司
・人気者
・金に困っている印象なし
・だが白石と近い位置にいた
② 早坂美優
・白石の友人
・財布の場所を知っている可能性高い
③ 相沢先生
・大人
・可能性低そうだが行動不明
④ 神代翔
・世間的本命(最悪)
⸻
「……最後の④消したい」
【現実を直視してください】
「うるさい」
そこへまたLINE通知。
個人メッセージだった。
送り主は、見慣れない相手。
白石晴乃
翔の心臓が止まりかけた。
「え?」
震える指で開く。
⸻
『神代くん、起きてたらごめん』
『少し聞きたいことがあるんだけど』
⸻
「え、なんで!?」
【イベント発生】
【ヒロイン接触】
【落ち着いて対応してください】
「お前の方が落ち着け!」
翔は深呼吸した。
返信欄を開く。
何を送る。
どう送る。
普通に返せばいいだけなのに、指が止まる。
既読をつけて三十秒。
【警告:返答遅延】
【陰キャ特有の熟考タイム】
「黙れ!」
翔は覚悟を決めて打ち込んだ。
『起きてる。どうしたの?』
送信。
三秒で既読。
早い。
⸻
『財布の件なんだけど』
『今日、放課後に教室いたよね?』
⸻
翔は固まった。
終わった。
本人から事情聴取だ。
【選択してください】
【A:テンパって自爆する】
【B:冷静に情報を引き出す】
【C:スマホを投げる】
「Cにしたい」
【推奨:B】
翔は唾を飲み込んだ。
ここでミスれば、完全終了。
だが逆に言えば――
ここが最初のチャンスだった。
財布盗難事件。
犯人にされかけた陰キャ男子。
そして午前3時に現れた謎システム。
神代翔の人生は、この瞬間から静かに壊れ、同時に動き出した。
⸻
『うん、いたよ。何か覚えてることある?』
送信。
既読。
返事が来るまでの数秒が、やけに長かった。
そして表示された一文に、翔は目を見開く。
⸻
『実はね……私、犯人が誰か見たかもしれない』
⸻
(第二話へ続く)
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第二話から一気に事件が動きます。




