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誰が悪女を愛したか  作者: 十返香
三人の愛の形

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第二王子の贈り物

「セドリック殿下、またエレノア様宛てですか」

「また、とは失礼ですね、エミール」

「茶葉に薬草に手袋まで揃えておいて、偶然の顔をなさるのは無理があります」



——第二王子宮侍従エミール・ハザック私信

姉宛、冬月二十四日


 姉上、殿下の贈り物の話をさせてください。

 この冬、殿下がエレノア嬢に贈り物を届けたのは、これで何度目になるでしょう。私が覚えているだけでも五度です。


 最初は花茶と焼菓子でした。

 次は薬草束と蜜漬け果実。

 そのあとは茶葉と手袋。

 どれも高価なものではありません。宝石も、花束も、華やかな装飾品も一度もない。いつも、寒さと疲れと夜更けの執務を気にした品ばかりです。


「セドリック殿下、せめて少しは華やかな品を混ぜませんか。贈り物というのは、もう少し夢があってもよいのでは」

「華やかさで手は温まりませんよ、エミール」

「夢がありませんねぇ」

「実際に使ってもらえない贈り物のほうが、私にはよほど寂しい。飾り棚に置かれるだけの品を選ぶくらいなら、あの方が明日の朝も使ってくださるものを選びたいのです」


 殿下はそうおっしゃって、品物を一つずつ確かめていらっしゃいました。

 茶葉は香りの強すぎないもの。帳面を見ながら飲んでも邪魔にならないもの。

 薬草束は冷えと咳に効くもの。

 手袋は帳面仕事の妨げにならないよう、指先の動かしやすい薄仕立て。

 いずれも返礼を気遣わせない範囲で選ばれています。


 殿下が品物を選んでいる時のお顔は、穏やかです。

 けれど、穏やかなだけではない。真剣なのです。

 この茶葉であの方の目が少しでも休まるだろうか。この手袋であの方の指先が少しでも温まるだろうか。そういうことを、本気で考えていらっしゃる。



——添え書き控え


 殿下が今回添えられた文面はこうです。


「寒さが厳しいと聞きました。どうか、夜だけでもよくお休みください」


 これもいつも通りです。

 短くて、控えめで、直接的な感情は書かれていない。

 けれど姉上、殿下の添え書きには一つだけ、いつも同じ言葉が入っているのです。

 「お休みください」と。

 殿下はいつも、あの方に休んでほしいと願っている。

 それが届いているかどうかは、分かりません。



——エミール・ハザック私信 末尾


 姉上、正直に書きます。


 殿下の贈り物は、いつも正しいのです。

 相手のことをよく見ていて、必要なものを選んでいて、押しつけがましくない。

 返礼がなくても気にしない。届けるところまでが殿下の仕事で、受け取るかどうかは相手に任せる。

 それは、とてもやさしい贈り方です。


 けれど、ふと思うことがあります。

 あの方は殿下の贈り物を受け取っている。茶も飲むし、手袋も使う。

 でも、殿下がいちばん渡したいものは、茶でも手袋でもないのではないか。

 殿下が本当に渡したいのは、「あなたのそばにいたい」という言葉で、それだけは品物に包んで届けることができない。

 だから代わりに茶葉を選び、手袋を選び、添え書きには天気の話だけを書く。


 殿下のやさしさは、いつも贈り物の形をしています。

 それが報われるかどうかを、殿下はたぶん考えていません。

 考えないようにしているだけかもしれませんが。

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