37.エロエルフは言いつけを守らない!
今日は素早さを上げるクィックステップって魔法を習った。
これも風魔法だ。俺、まだ風系しか習ってねーな。
意外と発動のタイミングが難しい。背後からこう、フワッと相手に纏わせないと、昨日、タローを転ばしたみたいな妨害系になってしまう。
何度かミミをこけさせてしまった。
「ティアちゃん、ひっどーい!」
「お嬢、どう考えても才能ないのー?」
「うるせー、うるせー!」
隙あらば近寄って来ようとするドワーフをガシガシ蹴る。
精霊石のサークレットを買ったことはまだミミたちには内緒だ。
だって絶対、あの金額、引かれるもん。せっかく仲良くなったのに疎遠になりたくない。
「じゃあ、今日もちゃんと練習しとくんじゃぞ」
「1人で森に行ってちゃダメだよ~」
言い置いて、彼らは今日もダンジョンに行ってしまった。
禁止されても行きます。
ダンジョンは街の中央にあって、低層階からならわりかとすぐ帰って来られる。この世界の街はダンジョンの近くに発展していくものなのだ。
日帰りも十分、可能だ。
でも基本は何日かかけて潜るのが普通みたいだ。
今は彼らも復帰間もないので低層階で連携などを確かめているようだが、きっともう数日したら稼ぐために深層へ行ってしまうのだろう。
ちょっと淋しいな。
森に行く前にフィオの店に寄る。実はミミとメイヴィスさんに、美容品を買うように言いつけられていたのだ。
だけどあんな量の液を毎日、塗っていては身が持たない。
結局、順番も覚えられなかったしな。
困った時のフィオ頼み!
悪徳小人は俺の話を聞くとニーッコリと満面の笑みで、掌くらいの大きさの入れ物をカウンターに取り出した。
「それならこちらはいかがですか? 錬金術師マーロウ作、オールインワンジェルです。現在、王都でも大人気! これひとつで化粧水、乳液、美容液、保湿液、ビタミンまで補える優れものですよ」
「1個で済むなんてさいっこーじゃん! それください!」
今日もふっかけられて、金貨でお支払いをして店を出る。なぜかこれ1本でとか言う割に他にも色々売りつけられたぞ?
おかげでマジックバッグの容量が化粧品で圧迫されている。
まぁ、まだ空きはあるからいいけど。
ちゃんとミミたちに言われた通りに市場でシャンプーとリンスも買っといた。だけどシャンプーの後にリンスするとか面倒くさいな。
こっちの世界にもリンスインシャンプーないかな?
俺は宿に戻って、タロちゃん用に買った円形の小盾を背負った。本来は腕にはめて使うものだが、俺が持ったら重くて戦闘にならない。
タローのいる洞窟に到着するまでにモンスターに遭遇したら困るから、背負って行こう。
背中にかついでも、まぁまぁ重いわ。
マジックバッグに入れば良かったのに。
門番さんたちは今日も心配性だった。
「だーから、大丈夫ですって。恥ずかしいから捜索隊なんか出さないでくださいね?」
言い聞かせてきたけど、怪しいな。タローの居場所がバレないようにしないと。
俺は盾を背負ってえっちらおっちらと森まで歩いた。
さて、洞窟はどっちだ。帰る時はおおよそ東に向かって行けば森を抜けられたが、行く時のことを考えてなかった。
仕方ない子ね、と言うように1匹の精霊さんがスーッと俺の視界に入ってきて、クルクルと目の前で回る。
「お前、昨日もいた子なの? 案内してくれるの?」
精霊さんはツンと鼻を上げて、ついてらっしゃい、とばかりに先をフヨフヨ飛んでくれる。
かぁいーな。
しばらく、ザカザカと精霊さんについて進む。その内に俺にも見覚えのあるよーな風景になってきた。
「タロちゃーん。俺だよ、ティアだよー」
声をかけながら進むと、崖に開いた穴からピュッと緑色の肌の子供が飛び出してきた。
正直、顔なんて区別ついてないけど、俺に近づいてくるオークの子供なんて他にいるはずがない。
膝をついて両腕を広げて迎える。
「マ、マ……ママ!」
「タロちゃんッ!!」
よっぽど寂しかったんだろう。タローは俺にギュウギュウしがみついて離れなかった。
と思ったら、また窒息しかけてた。
真っ赤な顔で口から泡を吹いているタローを慌てて引き剥がす。
死因、○っぱいとか、洒落にならんわ。
「タロちゃん、ちゃんと朝ご飯食べた?」
聞くと、コクコクと頷いている。いい子、いい子と頭を撫でてあげた。
ニヘーッと嬉しそうにタローの顔が歪む。
俺には威嚇してるように見えてちょっと怖いけど、ちゃんと笑ってるんだよな?
昨日からたくさん食べてぐっすり眠ったからか、頰もふっくらして血色もよくなってるような気がする。
とにかく緑色だからよく分かんないが。
お菓子を渡すと夢中でハムハムの食べている。
「じゃあ、タロちゃん、今日は一緒に戦いに行ってみよっか?」
俺が伝えると、口元にボロボロと食べかすをつけた状態で、タローはきょとんと俺を見上げてきた。




