07 運命を変えました
トラネス王が宣戦布告を宣言した。
ユニを奪われたフィーニアス国に対してかと思ったが、各国全てに対して「滅ぼす」と宣言したのだ。
皆『トラネス王が乱心した』と噂を立て始めた。
「まさか……」
ルイーゼはユニを見ると「可能性は高いと思う」と冷静に返事をした。
「僕が邪神に憑りつかれた後、僕がおかしくなったんだとみんな恐れて、しばらく邪神だとバレなかった」
「確かにあの時はトラネス王崩御、ユニ様が即位なされたとフィーニアス国でも祝いの品を贈りました。その記憶はあります」
ルイーゼ様が即位したユニ様に会いに行こうとしましたがユニ様に断られましたねとアンドリューも自身の記憶を追った。
邪神が出現した『一度目』と同じく黒々とした雲が大空を覆い、薄暗い淀んだ空気を醸し出している。
今トラネスでは兵士も民も関係なく徴収され、国民全員が戦に出る。明らかに異常な事態だった。
『一度目』で邪神に取り込まれたユニが即位した後も同じ状態に陥っていた。
確定、と見て間違いはなさそうだ。
つまり……と、三人は目を合わせた。
「……あの王、ユニをあれだけ虐めておいて自分は一撃もらっただけで邪神に乗っ取られるのか!」
不甲斐ない。不甲斐なさすぎる。ルイーゼは激怒した。
ユニはあれだけ強くなれと周りに言われ続け、それでもなお頑張って、あそこまで生きてきたというのに……
「ルイーゼ、落ち着いて」
怒れるルイーゼをなだめるが、流石のユニであっても効果が薄かった。
「これが落ち着いていられるか! あの王、ぶん殴らねば私の気が収まらん」
「どっちにしてもぶん殴らねば国が滅びますから思う存分殴れますよ」
「そうだったな!」
ルイーゼは生き生きと軽装から戦闘用の服に着替えようとクローゼットへ向かい、戦闘準備を始める。
急なトラネス国王の大号令に各国はざわめきたっていた。
そんな中トラネス国の姫であるユニとその婚約者のルイーゼは皆に事実を知らせる為、重役達を呼んだ。
「……トラネス王である父は、おそらく……邪神に取り込まれて操られた状態にあります」
「そんな……!」
「トラネス国のおとぎ話の邪神伝説が本当にあったというのか……!」
信じられない様子のフィーニアス国王や重役達であったが、トラネス国の異様な動きと戦争が起きるのであったら一定数国民が逃げる筈なのに一切それが無い様子などで信憑性を感じ始めていた。
「私たちは夢で恋に落ち結ばれた身だが、その夢でこの様な不吉な予感も感じ取っていた」
「なんと……!」
完全に口から出任せの口八丁であるが、夢が本当になった者の言う事なら少しは説得力もあるだろう。
「トラネス国民は操られて身体が勝手に襲いかかる魔法にかかっていると思われます」
ユニは各国に邪神の存在の説明をし、警戒を強める様求めた。
「戦った場合泥沼化する。防戦にして極力戦わない様にと各国に伝令を飛ばせ」
「はっ、はい!!」
これは『一度目』では出来なかったことだ。
「『一度目』ではユニ様が邪神に取り込まれていたことに気付くのは各国に攻め込んできたトラネス国民がおかしかったところでやっとわかった事でしたからね」
アンドリューは前よりも先手を打てていると二人を励ました。
「あの時は身体が勝手に攻撃をすると泣き叫ぶトラネス国民に各国は混乱と恐怖で士気が落ち、しかし戦わねばならず殺し合いどの国もかなり疲弊することになったからな」
それと、ルイーゼが王子なことでフィーニアス国の中で発言力が強くなっているのが大きい。
「僕が父様を殺して即位した時はその場にいたり止めた家臣たちも全員殺して死体を操っていた状態だったけれど、死体を操るより生きた人間を操る方が楽だからまだ殆ど殺されてはいないと思う」
「全てが動かなくなった死体より脳を洗脳して動かすだけの生きた人間の方が動かしやすいと言われたら納得ではあるな」
憑りついた先が王であったことである不幸中の幸いともいえる状態ではある。
そして『一度目』に憑りつかれていた本人がここにいることによる知識……
「操るのはどういう感覚だったんだ? 永続的に操れるのか、戦闘になったりしても持続出来るのか?」
「そうだね……操っている状態だからやっぱり集中力は必要で、永続は無理だったよ。力を抜けば死骸は崩れ落ちるし、生きた人間は解放されるから。邪神に取り込まれてからは睡眠もなかったから常に操ってたかな」
ユニという触媒がなければそういった細かい魔法が使えず彷徨っていた状態だったという予想通り、魔力、魔法は憑りつかれた人間依存なものだった。
女神を取り込んではいるが、人間の器がなければ力が使えない。人間の器も小さいものであれば効果を発揮しない。
そう言った意味では王になる為努力を惜しまなかったユニは最高の器だったといえる。
「我々が邪神にたどり着くまで相当な数の兵士が邪魔してきたのは兵士と一緒に戦闘を行うような操縦が出来ないからだったんですね」
確かに邪神にたどり着いた時には操っていた兵士は一人もいない状態だった。
「なら私たちが転移で邪神前まで行って攻撃を仕掛ければ集中力は切れてトラネス国民は解放されるわけだな」
『一度目』の地下深くの廃神殿に移動してしまったユニと違い、今はまだトラネス国の見知った王宮の中にいるのであろうなら罠の心配なども少ないし、転移で行ってもおおよそ大丈夫であろう。
「アンドリューの育てていた直属部隊も連れてトラネスへ飛び国民たちの避難をさせよう」
「はい。避難誘導の練習はさせております」
「さすればトラネス王とは一対三で挑めることになるな」
邪神に取り込まれたのがトラネス王だとわかり本格的に対策を練っていたルイーゼとアンドリューであったが、その中でぽつりとユニが呟いた。
「……邪神に取り込まれたら、もう元には戻れないんだよね」
ユニはまだ自分の父であるトラネス王に未練があるようだった。
「……それが出来るのであればもう私がユニにしている」
ルイーゼはユニに諦めさせるように促し、共にユニの心を心配する。
「ユニ、辛ければ戦わなくてもいいんだぞ」
今度こそユニを守りたいルイーゼは、むしろ安全なここで待っていてほしかった。
しかし、ユニは少しの活路を見出していた。
「――……邪神伝説のおとぎ話には、治癒の魔法が特効で……そして、その上位魔法である浄化――光魔法で浄化が出来ると……」
「ユニ。無茶なことはよせ」
もしかしたらトラネス王を、自分の父親を助けられるかもしれないと考えている。
それは反して危険でもあった。
「でも、僕の代わりに父様が」
「ユニの代わりなどではない! あいつが弱かったから取り込まれたのだ」
ユニはまだ『一度目』で父親を殺して即位したことを後悔している。
救いたいという気持ちは痛い程伝わってきた。しかし……
「――救いたい。などで手を抜いてユニが死んでしまったら私は悔やんでも悔やみきれない」
ルイーゼの為に生きてくれるというのなら、ルイーゼの為に守られて欲しかった。
「……ルイーゼ……そうだよね、ごめん」
そう微笑んで「危ないことはやめるよ」と言うユニを、ルイーゼは信じていなかった。
『一度目』でも、「私がユニを守る」と約束したのにユニはルイーゼを頼らず、「ごめん」と邪神に乗っ取られた姿で謝った。
きっと父親を助けて自らが死んでも自業自得。
ルイーゼには「ごめん」と済ませるつもりなのだ。
そういう男なのだ。ユニ=トラネスは。
「僕も邪神に取り込まれて身体が勝手に僕の大切なものたちを……破壊を繰り返している様を見る苦痛はわかっているつもりだ。……父様を……止めて差し上げないと」
なんでもない風にユニは対策を練り始めたが、ルイーゼの脳裏には違うものがよぎっていた。
止めても何かしらの方法でついてくるかもしれない。
(ならまだ近くに置いておいた方が安心だ……)
そこまで考えて、ルイーゼはふと思った。
今微笑んで嘘をつき、父親の死を一人で阻止しようとするユニも、ユニだった。
それを辞めさせようとするこんなルイーゼだから、ルイーゼを頼らず、ユニは一人で戦い、潰れてしまったのかもしれない
と。
「ユニ」
ルイーゼはユニを呼び止め真剣な表情で見つめた。
「君は私が守る」
今度こそ。
その言葉にユニは少し驚きながら
「ありがとう、ルイーゼ」
感情の乗っていない笑顔で返した。
◇
僕も皆の前に出る服に着替えてくるとユニが部屋から出て行き、部屋にはアンドリューとルイーゼだけになった。
「……ユニ様は父であるトラネス王を助けるために死ぬ気でしたね」
「そうだな」
軽く返事をするルイーゼと対照的にアンドリューは頭を痛めながら作戦を立て直しを検討した。
「ああ……邪神を倒すだけなら我々とユニ様のサポートで楽勝だと高を括っていましたが、とんでもない苦戦を強いられそうです」
「助けたいというユニの気持ちは痛い程わかる」
……自分もそうであったから。
「姫様……」
「私はな、アンドリュー。ユニが救いたいというのなら、救ってみせようと思う」
今まで不可能を可能にしてきたのだ。それくらい出来るだろう。と笑えば、アンドリューは苦笑交じりのため息を吐く。
「……ユニ様の仰っていたトラネス国の邪神伝説にヒントがないか探してみます」
「頼んだ」
礼をしているアンドリューに一言残し、支度の終わったルイーゼは立ち上がり部屋を出た。
◇
ルイーゼとユニが各国に防戦を提示したことにより今甚大な被害は伝わってこなかった。
やはり「身体が勝手に動く」とトラネス国民が嘆きながら攻撃してくるとのことで、フィーニアス国のルイーゼ王子とトラネス国のユニ姫が結ばれたのは、この邪神に対抗する為の創造主と崇められる女神様からの啓示だったのではないかと密やかに噂された。
そしてその噂ではこの邪神を倒せるのは女神の啓示を受けた、トラネス騎士団を半壊に追いやる程の実力を兼ね備えた、神に選ばれたルイーゼ王子しかいないと言われていた。
「私はアンドリューとユニを連れて邪神に憑りつかれているトラネス王の元へ向かい、止めて参ります」
そのルイーゼ王子が向かうと宣言したフィーニアス国は盛大な盛り上がりを見せた。
「姫なのに戦うなんてとグダグダしていた『一度目』と比べると相当効率化が図れましたね」
「男になった恩恵がこんなところにもあったな」
集団転移は魔道具などの補助機能がいる。
それを用意して貰いながら待っている間にルイーゼはユニに話しかけた。
「ユニ、君は浄化魔法の大魔法を敷いてくれ」
「え……」
私たちの回復などはしなくていい。と言えばユニは戸惑った。
「邪神伝説によると浄化魔法の大魔法で浄化することで助かる説があるんだろう。大魔法は詠唱に時間がかかる。それまで私たちが君を守るし、戦う」
二度目だからそれくらい出来るだろうというルイーゼにユニが困惑顔で返せば、ルイーゼは優しく笑った。
「私はユニの、総ての苦しみから守りたかった」
ユニの身だけではなく、心も。守りたかった。
「だから君はトラネス王を助けるんだ」
「ルイーゼ……」
そう声をかけようとしたタイミングで魔方陣は光り、集団転移をした。
場所はトラネス王宮
「避難誘導班は最初は襲って来られても逃げてくれ。そのうち魔法が解ける。そしたらトラネスからフィーニアスへ避難誘導を」
「はっ!」
そうして避難誘導班と別れ、玉座の間へと進む。
「昔感じた禍々しい邪気を感じますね……」
「ああ。久々だな」
そう言いながら扉を開けると邪気が充満した禍々しい部屋に一人、トラネス王が座っていた。
トラネス王の身体は所々異形に変化し、辛うじて人間の姿を保っている。という言葉がしっくりときた。
「父様……!」
「……ユ、ニ……」
ユニに反応するトラネス王の意識はまだ朦朧とではあるが残っているようだ。
「ユニ! 浄化魔法の詠唱を! それまで君には近づかせないから任せてくれ!」
「る、ルイーゼ」
早く! と急かせばユニは魔法を展開し、詠唱を始めた。
「このクソ親父……ユニはな……お前を助けたいが為にここに来てんだよ!」
ルイーゼの怒りと共に繰り出された斬撃に邪神が取り憑いているトラネス王はダメージを食らい後退する。
「まだ取り込まれたのが最近なせいか変形もユニ様の時ほど酷くありませんし、精神攻撃も効いてますね」
トラネス王はユニの出現に若干狼狽しているようにも感じられた。
あれだけボロクソに言いつつもやっぱりユニに反応しているあたり好きなんじゃないかとイラつきつつルイーゼはユニの魔法の時間を稼ぐ。
「しかし……っ! やはり強いな……!」
力で頂点に上りつめたトラネス王はユニとは比べものにならない強さを持っていた。
身体も固ければ魔力もある。まさに理想的な触媒だ。
「……っ!」
「ルイーゼ!!」
トラネス王に剣の鍔迫り合いから思いっきり蹴り飛ばされ、ルイーゼは派手に飛んだ。
ユニは詠唱の魔方陣から出ることが出来ないままルイーゼを呼んだ。
追撃をしようとするトラネス王にアンドリューが斬りかかり援護する。
「大丈夫だユニ! 詠唱を続けろ!」
「……っ!」
今の取り憑かれたばかりのトラネス王になら完全に取り込まれたユニよりも浄化魔法は効くかもしれないな、とルイーゼは笑った。
しかしトラネス王自身の強さに邪神の力が乗り、かなり厳しい戦いとなっている。
アンドリューも防戦一方で致命傷を避けるのに必死だ。
魔法中心に撃ってきた耐久性のないユニと違い純粋なパワー負けしている。
(まだ身体作りが足りなかったか……!)
活路を見出そうと一瞬思考に気を取られたら瞬間一気に間を詰め殴りかかられた。
「やば……っ!」
と声が出ると同時に身体に覆い被さるように影が出来た。
トラネス王のパンチがずれて自ら壁の方に転がった。
「ユニ!!」
ルイーゼを守るように前に現れたのはユニだった。
詠唱を途中でやめたことにより、大魔法は消えてしまっている。
「ルイーゼ、ごめん。僕、いつも君にこんな気持ちにさせていたんだね」
「ユニ……」
ユニは父親を助けたい気持ちと愛するルイーゼを守りたい気持ちを天秤にかけられ苦しそうな声を絞り出すように声をあげた。
「父様は助けたい、けど、君がいなくなるなんて、僕は耐えられないよ……」
ルイーゼが「ユニを守りたい、死なせたくない」と言っていた気持ちを何度も踏みにじっていたことにユニは申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「……ユ……ニ……」
瓦礫から起き上がるトラネス王はまたもユニの名前を呼んでいた。
「トラネス王はユニ様に攻撃が当たらないように明らかに打撃を逸らしました!まだチャンスはあります」
「父様……!」
ユニの方に向かうトラネス王は先程と違いノロノロとしていて、まるで邪神を押さえ込んでいる様だった。
「……娘の前ではカッコつけたいんだな」
トラネス王とどこか似ているルイーゼはなんとなく気持ちを察した。
やっぱり、なんだかんだ言って邪神に取り憑かれてもユニへの攻撃を妨害するくらいには、ユニを愛しているのだ。
「父様……」
ユニは変わり果てたトラネス王の手を取った。
「ユニ様! 邪神の中には女神様が囚われています! 浄化で全て振り払えなくとも、女神様が這い出れる程の穴を作るように浄化をかけてみてください!」
アンドリューが叫ぶ。トラネス王程の者であれば、女神の居ない邪の者ならば蹴散らせるかもしれない。
ユニはアンドリューに言われるまま、女神が抜け出せるようにと祈り浄化魔法を使う。
「う、うがあああああ!!」
「父様……!」
「ユニ、トラネス王ならきっと大丈夫だ」
苦しむトラネス王に心配の色を宿しつつ自分の父を信じ、浄化の力を込め続ける。
「がっ、がは……っ!」
すると、トラネス王から神々しい光が放たれ始め溢れでるかのように女神が飛び出してきた。
女神は天高く上り、暗く覆った薄暗い雲を綺麗な大空に晴れやかにした。
それと共にトラネス王の身体は人間離れした変化が元に戻り、ばたりと倒れた。
女神の力を有していない邪神などルイーゼたちの敵では無い。
もう一度浄化魔法をかける為に拘束しておこう、とアンドリューとルイーゼがトラネス王に近寄るとトラネス王は自分で目を覚ました。
「起きたか」
ルイーゼとアンドリューは戦闘準備をするが、トラネス王は動かぬままだった。
「……ルイーゼ王子よ。儂を解放してくれたこと、礼を言おう」
動かず座ったまま、トラネス王は言った。
「助けたのはユニだ」
「……ああ、そうだな」
トラネス王はユニに向き直る。
「父様……」
儂は我が子に固執しているにも関わらず、それでも強い王でいようと歪んだ愛情をぶつけた。……すまなかった。とユニに謝罪する。
「もう遅いのかもしれんが、本当は、……とてもお前が大切なのだ」
「……っ父様……!」
飛び込もうとするユニにアンドリューは制止する。
「まだ邪神の欠片が残っております」
「認められない弱さに向き直れた今のトラネス王なら大丈夫だ。ユニ、浄化魔法で追い払ってみるといい」
ユニはこくりと頷くともう一度トラネス王に浄化魔法をかけた。
スウ……と小さい邪気が浄化されるようにトラネス王の身体から抜ける。
「女神を救い出せばこれだけ小さい邪気だったのか」
「こんなこと、私たちには考えも及びませんでしたね」
『一度目』には女神などという知識も浄化魔法などもなく、そして浄化魔法も効かないほど侵食されたユニであった為、仕方のないことではあったが不可能が可能になった光景に二人は感嘆の声を上げた。
そんな不可能を可能にしたユニは父と抱き合い、救えたことを喜んでいた。
『人の子よ……、……運命を変えたのじゃな』
神々しく登場した女神はルイーゼの横にいるユニを見つけ、ルイーゼに微笑んだ。
「ああ。女神よ、礼を言う」
『もう一度囚われるなど、なかなかない経験であった』
女神は愉快そうに笑いながらルイーゼとユニ、そしてアンドリューに金粉の様な魔法をかけた。
『褒美として我が加護をやろう。……幸せにおなり』
そう言って女神は天に戻っていった。
◇
トラネスの各国への攻撃の大号令は解かれた。
国民たちも自由になり、ルイーゼ王子たちの邪神討伐成功を祝う。
『一度目』と同じく、トラネス国王が邪神に憑りつかれたという話は大陸中に広まったが……
「このトラネス国をトラネスと大陸を救ったルイーゼ王子に譲り、ルイーゼ王子をトラネス国王とする」
女神の祝福を持ったこの大陸の英雄となるルイーゼがその地を治めるということに、皆は安堵した。
他国の王子に自国を譲る。
そんなことを認めるのは実力主義であるトラネス国だからこそ出来る話であった。
「フィーニアス国の属国などにはしない。私はトラネス国王として、フィーニアス国と共に繁栄していきたいと思う」
傍らにユニというトラネス国の姫がいるのなら、その英雄の言葉をトラネス国民も信じられた。
「アンドリュー、お前もトラネスへくるのか」
ルイーゼ王子と共に大陸を救った騎士として人気を博しているアンドリューであったが、彼の行動は依然として変わらない。
「はい。ルイーゼ様とユニ様を見ているほうが、面白いですから」
二人を支える忠臣として彼の名は騎士の誉として語り継がれることになる。
「僕も、今度からは自分を……君を大切にするよ」
「ああそうしてくれ」
ユニの無茶は心臓がいくつあっても足りない。とルイーゼがため息をすれば、君をそんなに驚かせるなんてとユニが笑う。
そうしてトラネス国の城のバルコニーから美しいトラネスの街並みを見渡した。
「ユニ、君が描きたかったトラネスへの夢。これからも私が守ろう」
『一度目』からやりたかった王としての政策、トラネスの改革を進めることを可決した。
「ルイーゼ……君は本当に、僕の想像の上を行くね」
「それがユニの望みだからな」
ルイーゼは愛したユニの全てを守りたかった。
「やっと、君を守れた」
そう涙ぐみながら微笑むルイーゼを、ユニは抱きしめキスした。