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ちなみに。
三体の魔族との決着は、それぞれ、やけにあっさりと――というか、一瞬でついた。
不意をついたモン勝ち、というか。先手必勝、というか。
そもそも魔族達にとって、リチウム等は有り得ない存在だったのだ。
「~いくわよ!!」
リタルが気合い一発、叫ぶと同時に左手を高々と上げる。
手の甲で輝きを放つエメラルドの石は『転位』の禁術封石だ。文字通り、一度行った事のある場所ならどこへでも一瞬で転位する事が出来るという、一味が最も多用している魔石である。
これまで微動だにしなかった犬の頭はしかし、少女の掲げる碧光に大きく瞳を見開いた。
そう、それこそがまさに、彼ら魔族の「予想外」。
魔族が一体でも目標に魔力を流し続けている限り、ここら一帯は『魔石の発動が不可能な空間』だ。人間は勿論の事、魔族や天使にだってこの原理に当てはまらぬ者は存在しない。……たった一例を除いて。
一例というのは勿論、特定の属性――魔力を備えた自分達。だけのはずだった。
だというのに、規定のど真ん中に位置しているはずの少女が、目の前で難なく魔石を発動させてみせた。
闇を裂く、エメラルドの光。少女が持つ『転位』と『魔眼』の二つの石は主の意を叶える為に、シュオオオオ……と鳴き、その属性を示す光を煌々と放つ。
使いこなす少女の属性がなんなのか――それこそが、不意打ちの種明かしだったのだが。気づいた魔族が瞬時に動くも……その反応はほんの一瞬だけ、だが、致命的に遅かった。
わざわざ声を張り上げ自身に注目させた後、魔石を使ってみせる。これには攻撃とは別の意図があった。
相手に与えた刹那の脅威。生まれたほんの僅かな一瞬の隙こそ、取り返しの付かない――魔族の致命傷となるのだ。
次の瞬間、リタルの全身をおぞましい殺気が貫いた。自身が標的となった確かな証拠に、勝利を確信して笑みを浮かべる少女。ようやく集中を一部だけ解く。
犬頭魔族がリタルに攻撃するよりも一瞬早く、犬頭魔族の目前にトランが転位した。
「~くらえ!!」
発動するはずのない赤光が輝き、再び魔族の視界を思考ごと奪う。
トランが左手に嵌めている指輪の石の名は『炎帝』。炎属性の魔力を統べるとされている石だ。
トランが意思と共に左の拳を突き出すと、『炎帝』は瞬時に膨大な炎を生んだ。強烈な反動でトランの体が後退する。
どこまでも地を擦る革靴。手首を右手で支え、歯を食いしばり、踏ん張って衝撃をなんとか堪える。
彼が人の身で放った炎はもはや、爆発のそれに等しかった。
慌てた魔族が口腔から雷を帯びた一撃を放つが、爆熱はそれをあっさり飲み込んでさらに直進する。猛り狂う炎の勢いは衰えない。
総てを溶かす灼熱は、瞬く間に主の敵を襲った。
炎塊と熱風の接近と共に、皮膚の焼ける匂いを嗅ぎ、……それが、己の熱傷だとも気付かぬまま、瞬間。
魔族はなんの抵抗も許されずに、あっさりと炎に食われた。
纏う熱量だけで敵の生命を焼失させ、飲み込んでは敵の肉体を消滅させる。
地獄の業火。
「――!!」
赤に囲まれた中心――目が潰れてしまいそうな程暴力的な白光の中、塵が僅かに揺らぐ。
炎の中で、影が消失してゆくのが微かに見えた。
左手の拳を構えたまま、静まる炎を見つめる黒瞳。
やがて炎塊から足元へ転がってきた黄色の欠片。トランはようやく構えを解くと、それに手を伸ばした。
「リタル」
背後に待機していた小さな少女に放り投げる。
黄色の欠片――魔石を片手でキャッチすると、少女は愛らしい容姿に似つかわしくないニヒルな笑みを浮かべた。
「ご苦労様」
答えた彼女の大きなエメラルドグリーンの瞳はしかし、トランを越えて、より奥を刺していた。
「これでようやく」
「……本星の登場ってか?」
リタルの後ろから悠然と歩いてきたリチウムが、腕組みしてトランの横に並ぶ。
――見抜いていたのか。人間風情が――
響く低音。
やがて、トランの目の前――先程炎が燃え盛っていた辺りの空間が歪んだ。




