9 不吉な招待状が楽しい気分に水を差します
サーカス~サーカス~♪
発表会が終わったら~キセノとサーカス~♪
私の脳内でミュージカルが開催されている。
だってだって! 二人でサーカスよ!?
それって、それって……!
デート!! と言っていい……はず。うん。いいと思う!
キセノからサーカスに誘われて数日。私は浮かれに浮かれていた。
フェルミィにも、嬉しいのは分かったから少しは落ち着きなさいと言われたくらいだ。
だけど考えてみて? 好きな人から二人きりでお出かけのお誘いよ?
浮かれるなって言う方が無理な話だ。
「……お姉さま。何かいいことでもあったんですか?」
おっといけない。私は緩んだ頬を頑張って引き締めた。今は家族団らん中。
夕食後のお茶をしている真っ最中だった。
「ええと、発表会が終わったら、その、友達とサーカスを見に行く約束をしたの」
「サーカス? そんな予定は無いだろう。あったら俺がスズをデートに誘っているはずだ」
私の言葉に兄が疑惑の目を向けてきた。
「貴族向けじゃなく、平民向けのサーカスなんですって。噴水広場の辺りで公演するみたいですよ」
「へぇ、平民向けのサーカスか。面白そうだな。俺もスズを誘ってみようかな」
「えっ!?」
お兄さまが来るのは困る! 万が一キセノと一緒のところを見られたら、おかしな暴走をされるかもしれない。断固阻止しなければ!
「ス、スズ様を誘うのはやめた方がいいですよ! ほ、ほら、平民向けだし、デートとしてはロマンスが足りないっていうか、ね? ここはやっぱり、ラブでロマンスなお芝居とかを見に行かないと! ね? ね!?」
「……そうだな。やはり、やめておこう」
セ~フ! グッジョブ私!
ほっと胸を撫でおろした私に、今度は母から爆弾発言がきた。
「セレン。サーカスはいいけど、サマリウム侯爵家からお茶会の招待状が届いてるわよ」
ぎゃあああ! タンタル! あいつ本気だったんだ!
「まあ、タンタル様からですか? お姉さま宛てに?」
「テルルにもよ。どうやら侯爵家もそろそろタンタル様の婚約者を本格的に見繕うつもりみたいね。伯爵家以上の年頃の女性に、片っ端から招待状を送っているらしいわ」
「うわあ……そんな大規模なお茶会なんて行きたくないです。そもそも私はタンタル様には嫌われてるし、欠席じゃダメですか?」
私は目を潤ませてお母さまを見つめたが、お母さまは首を振った。
「ダメに決まってるでしょ。タンタル様には挨拶するだけでいいから、テルルと一緒に適当に飲み食いしてらっしゃい。侯爵家だから美味しい物たくさんあるわよ、きっと」
「飲み食いって……。お母さま、私のこと食いしん坊みたいに思ってません?」
「違うの?」
「う。ち、違いません……」
仕方ない。欠席できない以上、せめて美味しい物をたらふく食べて帰ることにしよう。
「テルル! 二人でたくさん美味しい物食べて、とっとと帰ってこようね!」
「私はお姉さまから離れるつもりはありませんけど……厄介事に巻き込まれないといいですね」
テルルも渋い顔をしている。まあ昔こっぴどく振ってるから、タンタルとはあまり関わりたくないだろうな。
幸い、憂鬱なお茶会はキセノとのサーカスの前だ。嫌なことはちゃちゃっと終わらせるぞ~。私にはキセノとのデートの方が重要なのだ。
デートまでに、美容に力を入れておかなくちゃね!
とりあえず私は専属メイドのマリーに、パックの準備をするようお願いした。