10 ネオンサイド その1
ここ数日セレンの様子がおかしい。
やたら上機嫌で鼻歌を歌っていたり、廊下をぴょこぴょこスキップしていたり。
夕食後の茶の席でテルルに指摘されたセレンは、挙動不審すぎた。
平民向けのサーカスねぇ……。
ここ王都は治安がいいとはいえ、箱入り令嬢が行くには少々心配だ。
スズを誘ってデートついでにセレンのことも見ておいてやろうと思ったら、セレンが全力で阻止してきた。……怪しい。
これはもしや、約束の相手は男なんじゃないだろうか?
しかも平民向けのサーカスとなると、男爵クラスか……もしくは平民か?
果たして相手の男は、うちの可愛い妹を任せるに足る人物なのだろうか。
セレンが自室に戻るのを見届けると、テルルが俺のそばへやってきた。
「どうした? テルル」
「……お兄さま。お姉さまが怪しいですわ」
険しい表情でテルルが拳を握りしめる。
「あの反応! 絶対デートですわ! お相手を突き止めないと!」
「落ち着け。まだデートと決まったわけじゃないだろう。セレンは友達だと言っていたぞ」
「何を言ってるんですか! あんなに浮かれたお姉さま、初めて見ましたわ! まだ恋人ではないのかもしれませんが、絶対にお姉さまは恋をしています!」
うぅむ。姉至上主義のテルルの言うことだ。おそらくそうなんだろうな。
「お相手のことを、調べなければいけませんわ」
「ん?」
「お兄さま。当日は一緒にお姉さまを尾行しますわよ」
「え、いや何もそこまでしなくても」
「私もお兄さまも今は学園に通えていないから、お姉さまの交友関係を完全には把握できていないじゃないですか! もしお姉さまが変な男に引っかかっていたらどうするんです!?」
「だからってどうして俺まで……」
「私に一人で平民向けのサーカスに行けと? お兄さまだってお姉さまのことが心配でしょう? 別に邪魔をするわけじゃありませんわ。お姉さまにふさわしいお相手なのか確かめたいだけです」
「……仕方ない。たまには兄妹でデートするか」
「どうせならお姉さまとのデートが良かったですわ」
「…………」
テルルは姉想いではあるが、兄に対しては少々クールだ。兄さんは少し寂しいよ。
まあセレンが恋人を作ったのなら褒めてやらないといけないしな。確かめに行くか。
変な男に引っかかってはいないと思うが、もしサマリウム家の巻き毛のような面倒な男にセレンが捕まっていたら大変だ。
「二人とも過保護過ぎないか?」
「どっちもシスコンなのよねぇ……」
父と母が呆れたように言うものの、俺たちを止めることは無かった。
結局みんな、セレンを心配しているのだった。




