九話 商人
ふぅ。なかなかいい金額だ。来年からの支払いになるみたいだが八百人近くになると高いな。早く税収を回収できるようにしないとな。破綻する。
「この後はどうされますか?」
「スレッド商会に向かう。来年から収める税を確認したら眩暈がした。至急税収を上げないと村が潰れる」
「何故に奴隷商のとこに? 村にすぐに戻るべきでは?」
「木材の販売がうちの収入源だが木材をそのままで売るよりは家具などに加工したほうが沢山輸送も出来るし、製材所がない場所にも卸せるようになる。
加工する為に職人が必要だが野良の職人を募集より資金繰りに失敗して奴隷落ちした職人を探した方が早く、こちらを裏切ることがない。引き抜きしたいが揉め事はこれ以上勘弁だ」
大森林の付近の資源は魔物と樹木、植物の三つだ。開拓村の殆どは商人が喜んで買っていく、魔物が一番の収入源だが樹木の需要が高い。しかし、輸送面を考えると巨大な樹木を運ぶのは利益より危険性が高い為、あまり市場に出回っていない。
うちはグラハム領の木材商などに卸しているが輸送はゴーレムを使い、危険性と費用を抑えている。供給をほぼ独占しているが卸せる商会も少なく、売り上げは村の建設費に消えている。主に肉以外の食料と村で生産出来ない建築で使う資材に消える。
そこで樹木を木材に加工する製材所、更に家具などに加工する工房などを作って、グラハム領以外にも流通網を構築していく。早く金銭面で楽をしたい。
「デカいな、店」
「はい。貴族の別荘を改築して、店舗にしたようですね」
スレッド商会のグラハム領支店はデカかった。想像の倍はいってる。奴隷商の店は大きいと聞くがここまで大きいのはここくらいじゃなかろうか。
「中庭に飲食店があるようですね。奴隷商の店に飲食店があるなんて聞いたこと無いですね」
「客も奴隷を必要としているような人々で無いし、雰囲気は飲食店そのものだな」
グラハム様にも確認をとって来たんだが場所を間違えたか。しかし、看板にもスレッド商会の紋章もあるし、場所はここで間違いないはずだ。
「申し訳ありません。本日、当店のご利用はお食事でしょうか? それとも奴隷でしょうか?」
「スレッド商会で間違いなら今日は奴隷を見に来た」
「はい、当店はスレッド商会グラハム領支店でございます。では、ご案内いたします」
「よろしく頼む」
屋敷の中に案内されている途中で飲食店の様子を見れたがやっぱり普通の飲食店だが違うのは目に見える従業員は奴隷の証である首輪をつけている。人を殺傷出来るナイフなどの食器も扱えてるから契約自体は緩めなんだろうな。
「珍しいですね、奴隷の給仕なんて」
「グラハム領は長年奴隷商が無かったのが原因かわかりませんが風当たりが強くてですね。先ずは奴隷がどんなことを利用出来るか知って貰う為に軽食の提供を始めたら人気が出ましてね、いつの間にか住民の憩いの場になりました。
後は副産物で給仕をしていた奴隷がお客様に気に入られて、養子になったり、商店の後継ぎとして引き取られたりするようになりました。因みに私も奴隷です」
なるほど。奴隷を利用価値を浸透させるために住民との交流場を作ったのか。下層の労働力として見られている奴隷をその場所以外でも利用することが出来ると認知させたのか。スレッド殿も良く考えてらっしゃる。
「お久しぶりです、アルト殿!」
「ご無沙汰しております、スレッド殿。会頭自ら滞在されているとは驚きです」
「私もそろそろ引退を考える年でございまして、本店や運営自体は息子夫婦に任せているのですよ。なので、隠居暮らしの場所を探していたらアルト殿と出会いまして、グラハム領で生活することを決めた次第にございます」
「自分はそこまで言ってもらえるほどの人間ではありませんよ」
ご謙遜をとスレッド殿は言いながら応接間に案内してくれた。なんだこのふかふかのソファーは。俺のベッドより柔らかいぞ。欲しいがきっと手が出せない。
「さて、本日のご要望は?」
「木工や鍛冶師の能力がある奴隷を複数人と五体満足な奴隷を定期に提供して欲しい」
「なるほど、大森林の木材を加工して、付加価値を高めて売り出すのですね。しかし、鍛冶師は何故でしょうか? あの付近で鉱山が見つかったという話は聞いたことはないです」
この人と話たくねぇ。こっちの考えを予測でズバズバ当ててくる。商人怖い。話したくないが少しは情報を出さないと納得しないだろうな。
「はい。スレッド殿のお考えの通りで製材所までは目途が立っています。しかし、その後の加工する職人が居ないので野良や引き抜きをするよりも奴隷から探した方が早いと思って、本日訪ねてた次第です」
「そういう考えなら木工職人については納得がいきますね」
ニコニコしながら木工職人の強調して、鍛冶師の説明を催促してくるなよ。
「鍛冶職人については確定ではないのですがこの先に安定して鋼材を提供できる可能性があるのでその為の準備ですね。出来なくても村の道具の修繕に必要ですからね」
「ほぅ、なるほど」
この後は奴隷の購入数と専門職の奴隷は村まで連れてくるという細かい点を決めてから店を出た。これが王都の商人の実力か。戦いたくねぇ。俺はそのまま、村への帰路についた。