55 え? ユリシア?
「お父様! Sランクで受かってました!」
そう言って元気よくデリウス王国魔法学院で自分の父親ーーオルドジフ国王陛下に飛びつく少女がいた。
「おぉ! Sランクか! 一番成績の良いクラスじゃないか!
流石セレスじゃ、よしよし、よしよし」
オルドジフは飛びついてきた自分の娘であるセレスティナをキャッチし、Sクラスで合格したことに喜び、娘の頭を撫で回した。
「ちょっとお父様、恥ずかしい!」
「おぉ、そうかそうか。すまない」
普段セレスティナが飛びついてくることなんてほとんどない。それに、仕事が多くあまり娘に構ってやる時間もないのでついつい可愛くて頭を撫で回してしまったのだ。
娘が自分から一歩距離をとったことにオルドジフの顔が悲しみにあふれた。
「でも……Sクラスだったけど、私一番じゃ無かったみたい……」
オルドジフから離れたセレスティナは先程までの雰囲気とは一転し、少し俯いて悔しそうに言った。
父は一国の王なので毎日仕事、仕事、仕事。
自分に構ってくれる時間はほとんどないし、自分も魔法の練習、礼儀作法の練習、その他色々な勉強があったためここ最近は会話すらまともにできていなかった。
だが、父親が自分のために時間を作って入学式に来てくれる。そう聞いてから、入学試験では首席をとると決めていた。
そう宣言していたのだ。
だから、首席でなかった事に申し訳なさと悔しさを感じていた。
「いや、一番じゃなくても十分凄いじゃないか。
それに、セレスが首席をとるためにどれだけ努力していたかも聞いている。
父さんはそれだけで十分だよ。
今回の首席と次席はあのオリハルコン加工の的を木っ端微塵にしたらしい。流石に相手が悪かったんだよ」
「……そう、かな?」
涙目のセレスティナの頭をオルドジフが優しく撫でる。
「あぁ。
父さんは入学試験で一番を取るよりも、学院で友達を作って楽しそうにしているセレスを見る方が何倍も嬉しいさ。
さぁ、そろそろ入学式が始まる時間だ。
行ってきない」
「はい……行ってきます、お父様!」
元気よく返事をして走り去って行くセレスティナを見送りながらオルドジフは自分も入学式で国王陛下からの言葉というスピーチをするために会場へ向かう。
「やはり、一番ではありませんでしたか……」
側から親子の会話を見守っていたホルガが姿をあらわした。
「まぁ、仕方ないだろう。
それに、儂は別に一番のセレスが見たいわけじゃない。
笑って楽しそうにしているセレスが一番だよ」
「そうですか。
それにしても、陛下があんなにも仕事をサボるからセレスティナ様達との時間がどんどん無くなっていくのですよ?
今後はしっかりと仕事をしてくださいね」
「わ、わかっておる。
だが、しかしなぁ。いくら一国の王だからといって一ヶ月働きっぱなしなんて、仕事を投げ出したくもなるだろう?」
な? わかるだろ? とホルガに視線を向ける。
「まぁ、そこは我慢してください。陛下が働かなければ国が回らないのですから。
それにしても、目にクマがあるようですがどうかされたんですか?」
白々しく言うホルガにオルドジフが言う。
「お前が、こんな入学式前に5日後までに終わらせてください、なんて言うからだぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」
「はっはっはっ。
それは大変でしたな。さっ、行きましょう。
入学式が始まってしまいます」
「おい、ホルガ! 国王をからかうなど死罪だ! 死罪!」
笑いながら先を歩くホルガにオルドジフは叫びながら追いかけて行くのだった。
◇
「……陛下、そろそろお時間です」
入学式会場の二階、ステラ達から見て斜め右方向にある数席の椅子がある場所が今回国王の席として用意されていた。
「分かった、行こうか」
静かに答えて立ち上がる。
ホールを出て階段を降りてからもう一度ホールに入りステージの横側の待機スペースにホルガと共に歩いて行く。
待機スペースに着くとホルガが順番の説明をする。
「この後入学試験主席からの挨拶があった後に陛下の出番でございます」
「うむ、そうか。……つまりあれが主席か」
オルドジフがステージの方を見ると赤髪の少女が順番を待っていた。
「ほう……」
入学試験でオリハルコン加工の的を壊したとあってどんな人間か気になっていたためにまじまじと見ていた。
(あんな小さな子がなぁ……しかもオリジナルを使えるとは……本当に人外だなぁ)
そう思って見ているとオルドジフはある事に気付いた。
あれ? ユリシア・メルビィにそっくりじゃね?
(髪の色とか、雰囲気とかそっくりだし……いや、流石に同一人物なわけないよなぁ)
オルドジフは流石にそんなわけがないと頭から考えていたことを振り払う。
だが、後ろ姿しか見えていなかったがユリシアが一瞬振り向いた事でオルドジフはユリシアの顔を把握する。
(え!? そっくりじゃん!? え、ちょっと、まさか本人!?
いや、流石に歳が……まさか、子供か? それにしても歳が合わないか……)
流石にこの歳の子供がいたら4.5歳で出産しているのでありえない。
同一人物にしても歳が違いすぎるし、こんなに幼い外見ではなかった筈だ。きっと他人の空似だろう。オルドジフはそう結論づける。
そして、スピーチの原稿をもう一度読んでおこうかと思いオルドジフが原稿に目を落とした直後入学試験主席の挨拶のアナウンスが流れた。
『続いては入学生代表のスピーチです。ユリシアさんお願いします』
(!? 待て待て待て、今ユリシアって言ったか!?あの見た目でユリシアとか絶対本人じゃん!?
いや……でも歳が合わないし、ちょっと人外で見た目が似てて、名前が同じだけじゃ、同一人物であるとは言い切れないか……言い切れないよな?)
オルドジフは自分に言い聞かせるように心の中呟いた。
あれが本物のユリシアなんてことはあってはならない。
そんなことになれば、この学院の大部分が魔法演習などによって破損したり消し炭になる可能性が出てくる。
娘の通う三年間は平穏で仲間と切磋琢磨する三年間でなくてはならない。
万が一にも自信を削ぎ落とされ、魔法演習の度に怯えるような学院生活になってはならないのだ。
(あれはユリシアじゃない! あれはユリシアじゃない!)
オルドジフは心の中で叫ぶ。
あれはユリシアではない。ただ少し才能があって見た目が似ていて、名前が同じだけである。と




