41 ミノタウロス ③
「ヴォォォォォォォォォォォォオオ!!」
ようやく視力が回復したのか目の前にいた俺に斧を振りかざす。
腕に力を入れたことでいくつもの傷口から血が流れ出る。
流石に傷だらけで今にも死にそうな魔物に負けるわけがない。
右に少し動き回避する。
斧は俺の数センチという距離の場所を通り空振りに終わる。
その間にミノタウロスの腹あたりに二回剣撃を放つ。
今までで一番深く切り裂いたその一撃は腹を大きく切り裂いた。
直後、ミノタウロスが大振りの横薙ぎを仕掛けてくる。
俺の左側から迫る斧を冷静になり迎え撃つ。
今の俺に焦りは無い。
ついさっきまでは馬鹿みたいに強く、魔法が効かなかったミノタウロスが迫るのを見て早く倒さないとと焦っていたが今は違う。
先程とは違い明らかに遅くなった斧の速度。
キレがなくなった動き。大雑把な攻撃。
しっかりと見れば当たるような攻撃ではない。
「ハァァァア!」
俺もミノタウロスの振るう斧と同じように横長を放つ。
左右から放たれた斧と剣が激突し火花を散らす。
俺は足の骨が軋むのを感じながら全力で押し返す。
そして、力が拮抗したのは一瞬。
すぐに俺の力が勝り斧が押し返され上に大きく弾き飛ばされる。
全身から血が流れ明らかに力が弱まっている。
いくら俺が骨を折っていて怪我をしていても負けるはずがない。
「ヴォ、ゥォォオ!」
弾き飛ばされた斧を取りに行くこともなく、俺に向かって拳を振り下ろす。
俺は前に踏み込むことでそれを回避し、ちょうど脇の下あたりで腕を切り落とそうと両手で剣を握り、魔力を込め、全身の力を集中させて半円を描くように剣を振る。
「ヴォ……ヴォ……ヴォ……」
俺はそのまま懐から抜けて少し距離をとって振り返る。
ミノタウロスは切られた腕の切り口を押さえて、声を上げている。
腕は丁度肩辺りから切り落とされていた。
うまくいったようだ。
それにしても、この状況で生きているなんてどんな生命力してんだ?
もし俺なら、腕を一本もってかれた時点でショック死してると思うが……
まぁ、たとえ死んでいなくても、もうこんなのは虫の息だ。
俺はミノタウロスに近づき剣を振り上げる。
出来るだけ力を乗せて首から斜めに切り裂こうと剣を振り下ろす。
ミノタウロスの目はここまでしてもまだ戦意を失っておらず最後まで抵抗を続けた。
俺に飛びかかり噛み付こうとして来たが、それよりも早く剣が身体を切り裂き絶命した。
「お、終わった……ハァ…ハァ…」
ミノタウロスの死骸のすぐ横で地面に座り込む。
あぁ、本当にやっと終わったよ。
今までで一番高いランクだから焦ったけど何とか勝てて良かった……
てか、召喚士が召喚した魔物だからって強すぎない?
それともミノタウロス自体が強い魔物なのだろうか?正直なところ死の恐怖って程じゃなかったが、この世界に来てから間違いなく一番恐怖を覚えた事件だろう。
異世界から来て、異常に強いスキルや未だ底をついたことがない魔力があったから自分の実力を過信していたのかも知れない。
そうじゃなきゃ一人でルシア達を助けにこないもんな。
それとも俺ってお人好し?
もっと実力をつけるべきかな?
ま、結果的にミノタウロスを倒してルシア達を助けられたんだから良いか。
ん?
「あ! ルシア達の事忘れてた!」
バッと座り込んでいたところから立ち上がり辺りを見回す。
「お、おぉ……」
血痕や戦闘と跡が残る木々が生い茂っているがルシア達の姿がない。
どうやら少し離れてしまったらしい。
「確か、こっち? だよな」
あんまり覚えてないがこっちだと思う方向に進んで行く。
そしてーー
「……お、お姉ちゃん?」
少しするとルシア達が固まっている場所についた。
足音で気づいたのかルシアがゆっくりと立ち上がって近寄ってくる。
「あの、魔物は?」
「もう死んだから気にしなくていいよ。さぁ、街に帰ろう」
「うっ、うっ」
近寄って来てそのまま俺にしがみつくと目尻に涙を浮かべて泣きそうになっている。
ミノタウロスを目の前で見たんだからこうなるのも仕方ない。
俺でも怖かったんだから。
「よーし、よし」
そう言いながら頭を撫でてやる。
「大丈夫だったんですか!?」
そんな事をしていると、やっと状況を飲み込んだのかレックスが混乱していた。
ついでにヴィル達もレックスにしがみついて大泣きをしていた。
「あぁ、大丈夫だレックス。それにヴィル、グロリア、ノーラもう心配はいらないよ。
あの怪物はお姉ちゃんが倒しちゃったから」
自分でお姉ちゃんって変な感じだな……
「さて、ルシアちょっと離れてくれ。俺はレティシアさんを連れてくるから」
ここから目視できる数十メートル先にレティシアさんとテオドルが倒れているのが見える。
俺が攻撃した時にできた半円状の結界は消えたみたいだし簡単に助けられそうだ。
そして、レティシアの方へ向かって歩き出した瞬間。
ドクン。
何かの音が聞こえたような気がしてその方向を見る。
そこには魔物を召喚する魔法陣が四つ。
そのうちの三つから魔力が波打っているような感覚が伝わってくる。
背後を振り返るとレックス達は何も感じていないような様子だがルシアは
「お姉ちゃん、あれ……」
俺の視線と同じ方向を指差す。
その先にあるのはやはり魔法陣。
そんなはずはない。
自分に言い聞かせるように否定する。
そんなわけない。
そんな事あるわけない。
早くレティシアさんを連れてこの場を離れよう。そう思って足を動かした。
それと同時にドクンッと大きな魔力の波が生じ、三つの魔法陣が満ちる。
その光の輝きはまるでミノタウロスが召喚された時と同じようで、同時にそれは絶対に認めたくないことだった。




