28 雪景色
ダンジョンの入り口は下りの階段になっておりそこを進むと、人工的な通路が見えてくる。
明らかに自然にできた洞窟の通路、ではなくデコボコではあるが人が手を加えただろう綺麗さだ。
このダンジョンは全20階層からなっているがその全てが全て攻略済みなこともあって人間の手が加えることができたのだろう。
ダンジョンの中は洞窟だから真っ暗ということはなく、普通に進むことができるし魔物との戦闘にもさほど支障にはならない暗さだ。
壁がほのかに発光しているおかげだ。
ダンジョンに入った経験がないルシアは初めての場所に少し警戒があるように見てとれる。
この暗さも原因の一つだろうが、封鎖的な場所であることも恐怖心を煽っているのかもしれない。
この場所は、深く潜れば潜るほど出方は遠くなり魔物は強くなる。もし、絶体絶命の状況でも助けは来ないし、逃げ切ることも可能性は低い。
それに対して俺はダンジョンというザ・ファンタジー的な場所に興奮を隠せない。
これは厨二出なくても、男なら誰でも一度は行って見たい場所である。男のロマンというやつだ。
「どの道に進めばいいの?」
入り口からずっと一本道で数十メートル続いていた道が不意に三本に分かれる。
「地図なんて持ってないし、適当に進めばいいと思うよ。
まぁ、そのうち下に降りる階段も見つかるでしょ」
流石にずっと一本道と思って居たわけではないが、どの道が正解かなんて分かるわけないとで、安易な考えで適当に進むことを決断する。
「この階層はゴブリンしか出ないって受付のお姉さんが言ってたし、早く下の階層に行きたいねお姉ちゃん」
「そうだね。ゴブリンはどれだけ狩ろうが全然お金にならないもんね」
受付のお姉さんから聞いた話だが、一階層はゴブリンオンリーだそうで全く金にならないのでやめた方が良いのだそう。
実力がある人たちは最初の方の階層は大抵飛ばすそうだ。
正直、一気に10階層くらいまで降りてボス部屋に行きたいが階段を地道に探さないといけないのでそうもいかない。
「てか、ゴブリンしか出ない階層とか誰得だよ。駆除しないといけないのに報酬は安いクソ魔物だよ。
このダンジョンにダンジョンマスターがいるとしたら、そいつ絶対性格悪いな」
ペっ、と吐き捨てながらゴブリンを貶していると、前方から3匹緑色の生物が現れた。
噂をすればというやつだろうか。
学校で可愛い女の子の話をしていて、噂をすればなら大歓迎だが、世の中には許されるものと許されないものがある。
ゴブリン? 許されるはず無いだろう。
「雷矢三連」
俺の魔法はすぐに第1本目の矢を発射、まだ距離があるのに攻撃されたことと、速度が速いこともあってゴブリンの額を突き抜ける。
残りのゴブリンが仲間を殺されたことに気づき散開する。
このダンジョンの通路は数メートルから十数メートルある。通路と言うには少々広いが、そのおかげで戦いやすいとも言える。
ゴブリンが飛んだ瞬間に第ニ射目が放たれる。ある程度矢が飛んだ時の予想を立てて、ゴブリンが到達するであろうポイントに向けて放たれた矢は見事にゴブリンの命を刈り取った。
矢が放たれたことには気づいていたようだが、空中で方向転換をすることはできないので避けることができないのだ。
三射目も難なく命中し、ゴブリンに出会ってから数秒で全滅だ。
ルシアに戦わせても良かったんだが、今回は経験を積むことが重要なんじゃない。
重要なのは金なのだ。早く稼がないと死活問題だ。なのでこんなゴブリンしか出ない階層でチンタラしている余裕は無い。
俺が秒殺して奥に進むのが最も効率的だ。
そして、何度かゴブリンとの戦闘を繰り返し二階層へ。
そこにはコボルドやゴブリンジェネラルなどが居たがスルーした。
その後も大きな金になりそうな魔物を見つけるまで階層を攻略し続けていると五階層までたどり着いてしまった。
ここまでにかかった時間は三時間。このダンジョンが広いか狭いかは知らないが案外簡単に階段が見つかった。帰りは来た道を変えるだけだからもっと早く帰れると思う。
五階層に降りると、今までとはガラリと雰囲気が変わった。
この階層には通路というものが無く、一面森。
それも雪が降り積もって居てなんとも幻想的だ。出来ることならこの景色を切り取って持って帰りたい。
残念ながらこの世界にカメラなんて便利道具は無いのでどうしようもないが。
「きれい……」
流石女の子。この幻想的な光景に見とれているらしい。
だが、ここはダンジョン。入ってきた挑戦者が景色を見るのをゆっくりと待ってくれるわけもなく……
立ち並ぶ木々を避けながらこちらに何かが向かってくる。雪の中を走ってくるがよく見えない。
「犬?……いやオオカミか」
「ーーッ」
景色に見とれて居たルシアが、魔物が接近しているのに気づいてすぐさま刀を抜く。
その魔物が俺の視界に映る。
雪と同化してしまいそうなほど真っ白で、大型犬よりも大きい狼が二頭こちらに向かってくるのが目視できる。
「これは金になりそうだな」
今までの魔物はロクなのが居なかったが、これなら肉も爪もとれるし、あのモフモフの毛皮も剥ぎ取れる絶対金になるじゃないか。
鑑定で調べたところホワイトウルフらしい。
俺は頭を狙って雷矢を放つ。
一匹くらいは仕留められるだろうと考えたが、矢が届く前に跳躍して避けられてしまう。
だが、跳躍したということは空中にいるということだ。空中で攻撃を避けるのは至難の技。
俺はもう一度雷矢を二つ放つ。
ホワイトウルフは放たれた矢に向かって腕を一振り。
その動きに合わせて斬撃が形成され、矢と衝突する。すると、ボンッと音を立てて雷矢が押し負ける。そのまま斬撃は地面に叩きつけられる。
「お姉ちゃん……」
「大丈夫、あれより強い魔法だってあるから」
この階層に来るまでずっと雷矢だけで事足りていたのに急に防がれたことに不安らしい。
おそらく稲妻で倒すと素材を売れなくなってしまうので剣で狩るのが妥当だ。
俺はアイテムボックスから剣を取り出してゆっくりと近づいて行く。
「気をつけてねお姉ちゃん!」
「うん、大丈夫、大丈夫」
そんな軽口を叩きながら歩いて行くと、足元からパキッという音がした。
下を見れば先ほど斬撃が落ちた場所であり、その場所は斬撃の形のように細長く凍っていた。




