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15 冒険者になりたい

  「はぁ……めんどくさいなこれ」


  俺は今自分の髪を洗っている。つい最近までは3センチ、4センチほどしかなかったのに、今は腰に届くくらい長い。

  ルシアの髪を洗っているときはまだ、肩につくくらいの長さだったから良かったものの、ここまで長くなると非常にめんどくさい。

 

  「それにしても、綺麗な髪の色だなぁ」


  何も不純物が入っていない綺麗な銀髪。普通なら主人公のヒロインとかに出て来そうだが、これが自分だと言うのだから何とも言えない。

  この大浴場には鏡が取り付けられている。

  こっちに来てからの初めての自分の顔だ。さっきはあまり気にしないようにしていたが、気になって仕方がない。

 

  「誰だ?この美少女は?」


  鏡に映っていたのは、銀髪、顔の整った美少女。胸はほんの少し膨らんでいるくらいだが、この容姿なら大抵……いや、ほぼ全ての人を落とそうと思えば落とせるんじゃないかと思うくらい可愛い。

 

  本当にこの子は誰なのだろう?

  当然鏡に映るのはたった一人しかいない。俺である。

  まさか、ここまで美少女だとは思わなかった。たしかに、アドルフとかに可愛いとは言われたがここまでとは……


  俺は膝から崩れ落ちる。

 

  「何というか、ますます男から遠ざかっている様な気がする」


  もうなんと言うか、本当に男に戻れるか不安になってきた。

  俺と一緒にこの世界に来たクラスメイト達の中から御都合主義勇者とかが出ようものなら、寄ってきそうだ。だいたい勇者(笑)なんて 俺のこと好きだよね? みたいに近づいてくる。

  いないと願いたいが、気をつけよう。



  「やっと、終わった」


  頭も身体もしっかりと洗い終えた。やっと湯船に浸かれる。

  俺は広い湯船の端っこに入って座る。ルシアの隣だ。



  「そういえば、ルシア。いつもはお風呂なんて入らないんでしょ?どうやって身体を綺麗にしてるの?」


  今ふと思った疑問を口にする。貴族以外なら商人や、高位の冒険者しか入らないと言うが、この街に入った時べつに嫌な臭いがしたわけでもないし、明らかに汚らしいというわけでもなかった。

  ルシアも風呂に入るのは初めてだと言うが、初めて会った時は普通だったし、アドルフとかも清潔感があった。


  「んーと、いつもはね濡れたタオルで身体を拭いたりして、3日に一回くらい生活魔法の魔石を使うの。それを使えば、身体が綺麗になるよ」


  それがあれば、風呂に入らなくても身体を綺麗にできるのか。なんとも便利なものだ。

  でも、この風呂とか宿の洗面台とかルシアの言った生活魔法とか色々なところに魔石が使われているが、いったいどこで作っているんだろう?もしくは採掘か。このファンタジーあふれる世界なら魔物から採っているのか?


  「その生活魔法の魔石ってどこから手に入れてるの?」


  「んーん……」


  とかで手に入れているかは分からないらしい。まぁ、いいかそのうちわかるだろ。


  「うぅぅ、久しぶりの風呂は気持ちいいなぁ」


  久しぶりと言うほどでもないが。

  身体を包み込まれている様だ。このじわじわあったかいお風呂って最高だね。


  「ねぇねぇ、お姉ちゃん。お願いがあるの」


  唐突に、真剣な表情でルシアがお願いをしてきた。


  「いいよ、なんでもきいてあげるよ」


  当然即答した。美少女のお願いを断るなどあり得ないのである。

  そして、そのお願いは。


  「ステラお姉ちゃん、私を冒険者にしてほしい。私を一人前の冒険者にして!」

 

  俺は一瞬耳を疑った。だって、こんなにも小さい女の子が(人のことを言えないが)冒険者だって?そう思ったからだ。

  何故冒険者になりたいんだ?お金か?それとも興味本位からか。また別の理由か。

 

  「ごめんね、ちょっと考えさせてくれるかな?それにしても、なんで冒険者になんてなりたいの?」


  冒険者は危険だ。初心者でもEランクに上がれば、お手伝いなんて依頼じゃなく魔物を狩る依頼を受ける様になる。魔物と戦うのに絶対に安全なんてことはない。

  冒険者を始める人が全員チートを持っているわけじゃない。命は一つしかない。変えはない。できれば、そのお願いは聞きたくないが、ルシアなりの考えがあるのかもしれない。


  だから今答えを出すことは出来ない。それに、俺一人では判断できない。本当に冒険者になるのなら、俺とパーティーを組むと思う。この街を離れるまでのパーティー。


  「お姉ちゃんは強いでしょ?だからお姉ちゃんと一緒なら大丈夫だし、孤児院にいる以上将来の道は多くないの。ほとんどが冒険者で、私も遠くない未来に冒険者になると思う。私には魔法の才能もあったから。だから少し時期を早めるだけだよお姉ちゃん」


  孤児院からの旅立ちがそこまで厳しいとは思わなかった。ルシアなりにしっかりと考えているのだろう。

  それでも、俺がいれば安全とは限らない。魔法の才能があっても、どこまで伸びるのかは分からない。



  「そっか、分かった。でも、しっかりと考えてから決めたいから少し待ってね。レティシアさんにも相談しないといけないから」

 

  「うん、分かった」


 


  ◇




  「おばさん、これ二つ」


  俺はそう言って、コーヒー牛乳二つを冷蔵庫から出しておばさんの前に置く。


  「二つで銀貨4枚だよ」


  一個2000円。馬鹿みたいに高い値段だ。

  片方をルシアに手渡す。初めて見る飲み物なのか、不思議そうに見つめてから蓋を開けた。


  「これ、美味しい!」


  満面の笑みを向けてくる。あ、眩しい!

  このコーヒー牛乳、本当に日本とまんま味が変わらない。牛乳とコーヒー、砂糖があれば多分作れると思うが……もしかしてこの世界甘いものって高級品ですか?ちょっとそれは困る。

  チーズケーキ、とかチョコレートケーキとかティラミスとか食えないじゃないか!(甘い物が好きなのは女の子になったからじゃなくて元からだからね?)

  頼む、これは砂糖が高いんじゃない、初代勇者が作ったから高いんだ。そうだ、そうに違いない。


  答えは怖いので聞かずに帰ることにする。

  いざとなったら、砂糖を作り出す魔法でも探そうかな?絶対ないと思うけど……

  さてと、帰ったらレティシアさんにルシアの件を相談しないとな。そんなことを考えながら、ルシアと一緒に孤児院へ帰った。

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