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iPhoneを捜せ

ロビーのソファで寛ぐ。なんとなく一緒にいて石爺の話なんかをしていた。ねぎまはももしおからら「青い珊瑚礁」を習っていた。一緒に歌ったところで、ねぎまの前じゃ石爺は緊張してどもるんじゃね? だいたい最初っから、ねぎまにはめちゃくちゃどもってたんだから。好みのタイプなのかもな。


「ミナトってお坊ちゃんだったんだなー」


ヤローは2人で会話。


「ぜんぜん。ここだけだから」

「すっげー羨ましい。ホテル替わりになるじゃん」

「まーな。今は必要ねーけど」

「ははは。自分で言ってっし」

「自分の部屋に女の子呼びたくてもさー、家、親がいるんだよね。だからここはありがたい」

「あー。家も。家なんて祖父母まで」

「それって困るよな」


カノジョなしのオレは困らないわけで。


「この先困ることもあるかも」


ん? いつの間にか歌声が聞こえない。ももしお×ねぎまがこっちをがっつり見ている。つーか、男同士の話に聞き耳を立ててやがる。目ぇ合っちまった。


「「「「……」」」」


気まずい沈黙。

だが、それは長く続かなかった。オレの角度から、エレベーターの灯りが動くのが見えたから。27階まで行ったエレベーターが下に向かってくる。


「CNPが来るかも」

「「「え?!」」」

「今、エレベーターかもしんない。違う人かもしんねーけど」


ビンゴ。エレベーターが開いたとき、箱の中にCNPを確認できた。どこかへ出かけるのか、さっきまでのラフなTシャツの上にジャケットを着ていた。バッグも持っている。


「どーすんの? どっち行くかくらい」


ぶぶぶぶーぶぶぶぶー


オレがみんなに聞こうとするとスマホが鳴った。


「こんなときに」


ポケットからスマホを取り出そうとすると、ミナトが走り出した。


「宗哲、電話に出て。で、切るな」

「は?」


取り出したスマホは着信相手がミナトだと告げている。オレは電話に出て通話状態にした。

一方、走り出したミナトは、エレベータから玄関に向かって歩くCNPにエントランスホールのど真ん中でぶつかった。


「すみません」

「君、大丈夫?」


走ってCNPにぶつかったミナトは派手に尻もちをついてから立ち上がった。ミナトはCNPにぺこぺことお辞儀をして謝っている。

その後、CNPは玄関を出ていき、ミナトはエレベーターの方へ向かうふりをし、CNPの姿が見えなくなると、ピースサインをしながらロビーに戻って来た。

ミナトが何をしたのかやっと理解できた。自分のiPhoneを盗聴器替りにしたんだ。太っ腹。だってさ、返ってこないかもしんねーじゃん。さっすがセレブ。

オレは急いでこちら側の声が入らないように「消音」をタップした。


「グッジョブ、ミナト」

「なんか聞こえる?」

「「なになになに」」


3人がオレの周りに集まってくる。


「シャーって音だけ。歩いてんだろ」

「あいつのジャケットのポケットに入れた。見つかったらすぐ切って」

「おう」

「すっごい、ミナト君。盗聴もできるし、これでどこに行くかも『iPhoneを捜せ』で分かるね」


ねぎまが感心する。


「取り返すときどーすんの?」


ももしおが心配そうに首を傾げる。


「保険に入ってるから、新しいの貰う。データはiクラウドで大丈夫」

「なーる」


さっきの瞬間にそこまで考えるなんて、ミナト天才。


「女の子はもう家に帰る? 宗哲、用がないならまた上行こ」

「まだ6時半じゃん。私、ぜんぜんOK」

「私も」

「2人とも門限とかねーの?」

「シオリンの名前出せば、一晩中でも大丈夫」

「私も。マイマイと一緒って言えば、どこに行くのも許してもらえる。ね」

「ね」


2人が可愛く言い合う。すっげー信用だな。親って分かってないよな。2人揃った方がマズイのに。


「なぁ、腹減らね? オレ、もうぺこぺこ。コンビニで何か買ってこよ」


オレ、限界。成長期が遅いオレは、未だに身長が伸び続け、際限なく腹が減る。


「「そーだね」」


みんなと会話の最中も、オレはiPhoneを耳に当てたまま。

ぶらぶらとスーパーに向かった。


「ミナト、作ってもらったりとかした?」


女の子が自分のために料理をするとか弁当を作ってくれるなんて、ちょっとした憧れ。


「鍋も包丁もないって」

「あ、そっか」

「基本、オレらの高校の女って、なんもできねーんじゃね?」

「そーなの?」


こそこそと2人で話す。


「聞いてみ?」


「あのさー、ももしおとねぎまって料理したりすんの?」

「ぜんぜん」

「しない」


あっさり。


「バレンタインに友チョコは作ったよ」

「マイマイの嘘つきー。お母さんに作らせたくせに」

「私は一緒に作ったの。シオリンだって、おばあちゃんが作ったって言ってたじゃん」


ホントだ。


「ちょっと、宗哲クン。まさかの料理できなきゃ女じゃないとかってアホ男?」


ねぎまが詰め寄ってくる。美人のムッとした顔って怖っ。


「ぜんっぜんそんなことないっす」


たじたじ。


「そんなの結婚してから覚えりゃいーの。ね、マイマイ」

「私は料理できる人を選ぶから大丈夫」

「これからは料理できなきゃ男じゃないよね」


おーっと。最近の風潮ってハードだよな。男は家事もやらなきゃダメ、育児もしなきゃダメ、仕事できなきゃ男じゃない。女もか。仕事して育児して家事。

先進国だから、欧米と同様にって言ってるけどさ、要するに納税者を増やすんだろ? 残業制限の働き方改革なんて言ってるけど、残業代分の賃金を抑えて企業利益を確保するんだろ? 言ってる政治家なんてプライベートの時間がないくらい働いてるじゃん。当然なのかもしんないけどさ。

家に帰ったら温かい美味しいごはんなんて、幻想になるんだろな。


「な。だろ? オレらと同じ量部活やって塾も行ってたのに、料理覚える時間あるわけねーじゃん」

「んだんだ」


掌で会話を制止させ、みんなにiPhoneを聞けとゼスチャーで示した。


「駅じゃね?」


iPhoneからは雑踏に混じって発車メロディや構内アナウンスが聞こえてきた。CNPは電車に乗ったようだ。


「ももしおちゃんかねぎまちゃん、オレのiPhone捜して」

「私の使って」


ももしおがミナトにiPhoneを差し出す。ミナトはアプリに自分のIDとパスワードを入力して位置を表示させた。地図を見ていると、白で縁取られた青い円が動く。それは横浜駅を通過した。


「買い物しよ」

「「そーだね」」

「お菓子もいっぱい」


大量の買い物をしてミナトのマンションに戻るころ、青い円は武蔵小杉付近で止まった。

オレは4分で焼肉弁当を食べ終わり、スマホに神経を集中させた。

居酒屋だろうか。「へい、いらっしゃい」という声がときどき聞こえる。が、全体的にざわざわ。しばらくすると会話が聞こえた。


『おう』『ちょっと飲んでた』『何頼む?』


CNPのポケットにあるせいか、基本、CNPの声だけがなんとか聞き取れる。


「なぁミナト、電池大丈夫?」

「たぶん。10時くらいまでなら。通話しっぱなしってやったことねーけど」

「オレの方が充電しないとまずいかも」

「私、コード持ってるよ。たぶん使えると思う」


ねぎまもiPhoneらしく、コードを繋いで充電しながら盗聴。


『え? 恵比寿の**だっけ』『今週金曜の7時。分かった』『LINEも来るんだろ? え? メール?』


大急ぎでオレは、ラケットバッグから右手だけでメモを出そうとする。


「どうしたの? 宗哲クン」

「恵比寿の**って店に金曜の7時って」

「分かった。メモする」


ねぎまは自分のリュックの中から筆箱を出し、ポストイットにメモした。


『へー。50人も。そんなに来るんだ』『大学生も』『すっげーな。派手だねー』

『アメリカ株やる人増えたな』


CNPは誰かと2人で飲んでいるらしい。


『お、から揚げ来た』『配当が大きいよな』『日本株は政権交代もオリンピック後も怖いもんな』


気づけばももしおがくっつきそうなくらい近くに耳を寄せて頷いていた。


「交代」


近すぎて恥ずい。オレはももしおにiPhoneを渡した。コイツには羞恥心ってものがないのかも。パンツ見せるしさ。


ミナトはオレのゴミもまとめてくれていた。

リビングテーブルの上にはお菓子とジュースが広げられている。女の子と2、2でこんな風に過ごすなんて。しかも、ももしお×ねぎまと。すっげーありがたい。


「あ、やばい!」


いきなりももしおが慌てて電話を切り、電源をオフにした。


「バレたの?」

「コンって音がして『あれ、ポケットになんか入ってる』って言ってるのが聞こえた」

「あ"ー。オレのiPhone」

「さっき大丈夫って言ってたじゃん、ミナト」

「できるなら無事がいいじゃん?」

「確かに」

「まだiPhoneは同じ場所みたい」


ねぎまがももしおのスマホの画面をみんなの方に向けた。


「はー。今日はメシ食ったら解散すっか」

「ミナト、iPhone一緒にとりに行こうか?」

「頼む」


武蔵小杉か。テニスの試合で行ったことあるだけ。それより、どうやって取り返す? いきなり「iPhone知りませんか?」って聞いたら怪しすぎるだろ。


「私も行きたーい」


ももしおが挙手した。


「ダメ」


暴力団と絡んでる男に接触させるかよ。


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