報告、そして…1
日が落ち夜がおとずれる。
惶真達はリムルの家で、リムル手製の夕食を頂いていた。
「はむ、はむ……ゴックン…。うん、美味いな…」
素直な感想だった。
惶真は少なくとも両親を事故で亡くしてからはほぼ自分で食事の用意をしていた。
母以外で誰かの手料理を口にする機会がなかった。
従姉であり唯一信頼している美柑は家事、特に料理は壊滅的な腕なので惶真自身が振るうのが殆どだった。
自分で作る上で、惶真自身の料理スキルは上がっている。
だからこそこうしてリムルの手料理は喜ばしく感じていた。
最初はリムルの容姿が耳や髪の色などの差異はあるが、従姉の美柑に似通っていた事もあり、リムルの料理の腕に懐疑的だったが、今では優しい味付けに惚れ込んでいる。
「うふふ、それほどではありませんわ。…その、ありがとうございますわ」
「いや、それほどのもんだよ。少なくとも俺は好きなだな、リムルのは」
「もう、そんなに褒めても……デザートしか出ませんよ!」
苦笑しつつ嬉しさから頬が赤く染まっているリムル。
「むむむ、なんだか、オウマとリムルってば怪しい雰囲気が…」
「うんなの。今日一日で何か二人にあったのかも、なの…」
「むぅ…確かに……ってダメだよ!お母さんは私のお母さんなんだから!」
「……何を馬鹿な事を言ってんだ、お前ら?特に黒兎娘」
「もう!なんでちゃんと私の名前、ヴァニラ!って呼んでくれないの!お兄さんってば!」
お母さんはちゃんと名前で呼んでるのになんで私はダメなのよ!と不満一杯な表情のヴァニラ。そんなヴァニラに対して――
「ん?なんか言ったか?」
難聴系主人公の如くスルーした。
「むぅ!ぜぇったい!聞こえてたでしょおぉ!!」
「何のことやら。さて、デザートも食い終わったことだし、お互いの今日の成果を伝え合うか。明日からの予定も決めないといけないしな」
さらにスルーし話を強制終了し切り替えす惶真。
うぅ…と少し涙目で悔しそうなヴァニラに「がんばろ」「これからなの」とマナ、カナの二人があははと(まったく困ったオウマね『なの』と)苦笑しながら慰めていた。
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テーブルから食器を片付けた。
そして惶真は”空間魔法”を使い、大きめの一枚の紙を取り出した。
その紙をテーブルに置く。
マナ、カナ、ヴァニラはじっと紙を覗き込む。
「ん?これは迷宮の最下層にあった読めなかった碑文なの」
「え、そうなの?…なんとなく見たような、気がするような?」
「マナは魔力消耗のし過ぎでグロッキーだったからな。覚えてなくても仕方ないだろな。カナはよく覚えてたな」
「記憶力は良い方なの。それに、やっぱり読めないの」
「……なにコレ?」
「とりあえず簡単にコレについて説明していくかな。このリムル以外にとって未知の解読不可の文字は、どうやら≪神代文字≫と呼ぶものらしい」
「「「≪神代文字≫?」」」
「ああ。コレはそう呼ばれているもので、今のこの世界の人間達にとっての基本文字はどうやらこの≪神代文字≫を基に作られた、いわば劣化言語だと言う事らしいな」
碑文をリムルが解析し読み解いた結果≪神代文字≫であると解った。
今のこの世界の人間は、かつて存在した始まりの12の神人達が作り出した≪神代文字≫を今の人々にも理解出来る様にと作られた言語文字なのだ。
「かつて存在し、今でこそ姿を見せないが≪女神≫が存在している12の神人が使っていた言語。それが≪神代文字≫のようだ。どうやら過去はどうかは知らないが、少なくとも今の人間達には理解出来ない文字。その≪神代文字≫が迷宮の奥底に碑文として残されていた。つまりは――」
「迷宮ガルダは神人が作った場所で、隠された迷宮部分は神人が利用するための専用場所ってことなの?」
「カナは正解だな。どう言う理由で神なんて存在が此処に残したのかはわからんが、少なくともどの神達が創り残したのかはわかる」
「……魔神様と残りの女神達?」
「なかなか感がいいな、さすがだなマナ」
褒められて嬉しそうなマナとカナの二人。
おそらくはと惶真もそう考えた。
聞く所によると≪神≫の力を持った12人は、この世界の上に自分達の高次元世界を作りそこに暮らしていたとされている。
そして人族、獣人、エルフ、魔人の人間達に知恵を授ける為に度々下界に降りていたらしい。
だけど神人達には制約があったらしく≪神≫の力を持つがゆえに長くは下界であるこの世界に留まれなかった。
ある時を境に12のうちの半数の神人が裏切りこの下界である人の世界に身を寄せていた記録があるようだ。
それを聞いて、もしかしたら?と思うに至った。
身を隠す為であれば辺境の目立たない場所は理想的な場所だ。
実際この辺は迷宮があっても初級の迷宮として扱われており、ほとんど訪れる者は少ないはずだ。
そして、初心の冒険者は迷宮攻略クリアしたと勘違いした喜びもあり、この碑文の存在に対して疎かになる可能性が高い。それが解読出来ない文字であれば、そう言うものだと思うかもしれない。
惶真の知覚探知能力に迷宮として未完の空間があると直ぐにわかった。
だから注意深くなり、この碑文の≪神代文字≫発見にも至っている。
そしてリムルの存在によりこの≪神代文字≫を読み解く結果も得た。
リムルには”古代言語解析”技能を有していた。
これは獣人族として生まれ持った特殊な能力だった。
「いやはや、本当にリムルがいてくれてよかったよ。リムルの翻訳解析能力がなかったら少なくともこんな数日で事態を動かす事には繋がらなかったからな。ほんと、あんまり信じてないんだが運命ってやつがあるんじゃないかとすら思えてくるよ」
「いえ、お褒め頂き、その、光栄ですわ、オウマさん」
リムルは御世辞と受け取るが、惶真は本気だった。
この世界の言語を改めてリムルから学んだあと、さっそくと碑文の思い出し作業を行った。
そして全て写し出し、解析作業に入ろうとした。
どんなものにも原点があるはず。
この碑文の不可解な文字も少なくともこの世界の文字に関係あるはずと考えていた。
だからそこから読み解いて行こうと思っていた。
当然当日だけで終えられるとは少なくとも考えていなかった。
しかしリムルの存在によってその考えは覆ることになった。
リムルは≪神代文字≫を解読することが出来たのだ。
無論完全と言う訳ではないようだった。
それでも大部分の解析を行う事が出来た。
リムルが解析するに当たり、惶真も≪神代文字≫を理解しようと、彼女の師事を受けた。しかしながらぼんやりと浮かぶような感触だった。
要するに完全な意味で理解できなかったのだ。
そう話し終えるとマナ、カナの二人はリムルに尊敬の眼差しを向けた。
「リムルってば凄い!あのオウマも解らない事を知ってるなんて!尊敬しちゃうわ!」
「マ、マナッ、『あの』なんてご主人様に失礼だよ?怒られるよ、なの」
「へ?………あ、あの、オウマ、怒ってる?」
「ん?いや、怒る理由はないな。俺が理解出来なかったのは事実だからな。リムルを尊敬するという点は俺も同意見だからな」
惶真の言葉を聞いてホッとするマナ。
マナは思った事を素直に言葉にする癖があった。何度かその癖が出て惶真のおしおきを受ける結果も少なくなかったりする。
「とりあえずこの解析し翻訳をリムルにしてもらったのを伝えていくぞ。まあ結果としてはガルダ迷宮の深層部に行く為の方法が書かれていたようだ」
惶真はここからリムルに説明を譲った。
既に惶真はリムルから教えられているから説明可能だが、言語理解が出来ているリムル本人の方が分かり易いと判断したのだ。




