現れた凶暴な赤鬼…【マナ/ヴァニラside】
「ここが、例の泉なんだ」
「うん。ここで間違いないんだけど…」
「うん?どうかした、ヴァニラ?何か気になることでも?」
(気になること……気になるというより、違和感?なのかな…なんだろ?)
何かが引っ掛かるヴァニラ。周囲に敵対する気配がないが、以前いきなり魔物が出現したこともあるので黒い兎耳をピンピンと動かしながら気を付けながら進む。
そしてふと感じた違和感がなんとなくわかった気がした。
「そうだよ…ここ、綺麗過ぎるんだ」
「それはどういう事なの?」
「私は数日前にここで魔物を蹴り飛ばして倒したのは話したよね、マナ」
「えっ、うん」
「その時に地面とかも勢いで削っちゃったんだよ。うん、やっぱりだ。跡も何もなかったみたいになってる」
ブラッドオーガと戦闘した場所は間違いない。なんだか争った形跡がないかのようだった。
数日間で元の状態になるなんて自然ではおかしい。
そう聞いたマナは思わず「迷宮みたい」と零した。
「えっ?迷宮みたいって?」
どういう事と訊ねるヴァニラ。
「えっとね、迷宮ってね、階を移動すると、その階が魔素によって補修されるんだよ。その補修の際に、魔素の集合体である魔物も復活するんだよ」
「ほぇ、なんだか難しい話だ。マナってば凄いなぁ」
難しい話、と言うか勉学が苦手なヴァニラは困った表情でそう言い、またそんな難しい事を知っているマナに尊敬の念を向ける。
そんなヴァニラに苦笑するマナ。
「あ、はは、これなんだけどね、オウマの受け売りなんだよ。オウマに教えて貰った事なんだよね。うん」
「それでもだよぉ。…いいなぁ、やっぱり…」
「……ヴァニラは私達、と言うかオウマに着いてきたいんだ」
「え?うん…。だって楽しそうなんだもん」
「……前にオウマも言ってたけど、私達の旅って楽しいだけじゃないんだよ?迷宮だって危険な場所で、一歩間違えば死ぬかもしれないんだよ」
「それでも、だよ!」
ヴァニラにとって今までは世界はこの小さな集落のみだった。
変わらない世界だと思っていた。
けどそんな世界に刺激を持ってきた人達がいる。
それにヴァニラ自身もなぜかわからないのだが、彼―惶真と言う存在が気になっているのだった。
こう昔から知っている様な、懐かしい雰囲気がどうしてか彼から感じる時があるのだ。
自分のショート黒髪を撫でる。
そう。惶真と同じ黒髪、そして黒い瞳が、どこか引っ掛かるのだ。
もしかしたら一緒に行動すればこの引っ掛かりも解るのでは?
それが一緒に行きたい理由の一つだったりする。
「だから着いて行きたい」
「……そっか」
一旦話を終える。
同行うんぬんは今あれこれ言っても進展はしない。
あくまで同行を認めるかどうか判断するのはマナではなく、惶真なのだから。
それよりも今は自分たちの与えられた役割をまっとうするのが最優先だ。
マナは実りのある結果が欲しいと思っている。成果があれば惶真に褒めて貰えるかもしれない。頭を撫でてくれるかもしれないので気合も入る。
惶真に触れて貰うのは何より心地良いのである。
「うふふ~」
「…マナ、変」
褒められる光景が浮かび思わずデレデレとした態度が溢れていた。
そんなマナを若干引くヴァニラだった。
+
コトノハナ。
薄紅色の花で、この泉にのみ生えている希少性のある花。
この花を見つけて相手に送ると、その二人は幸せな未来が約束される。
それがこの村に伝わる伝説だった。
―むかし、むかし…
―村に仲の良い二人の男女がいた…
―ある時に些細な事で喧嘩をした二人…
―二人の内の”男”は仲を修復する切欠を求めた…
―満月の出ている夜に”男”は村の近くの森に入った…
―森の奥に綺麗な赤い花があると聞いた”男”はソレをプレゼントしようと考えたのだ…
―しかし関係を修復したと考えていたのは”女”も同じだった…
―”男”が森に一人で、夜の時間に入るのを見た”女”は後を付いて行った…
―そして森の奥の泉に着いた”男”はその花を探した…
―満月の光が射し照らしていたので探すのは問題なかった…
―”女”は男”が何をしているのか、何を探している?とこっそり近づいた…
―”男”は探すので”女”に気付いていない…
―そして”女”が声をかけようとした時だった…
―”男”は叫んだ。「見つけた!」と…
―”男”の叫びに”女”は驚き「きゃ」と声を漏らした…
―その声に”男”は”女”の存在に初めて気づいた。そして驚いた…
―安全な森であっても女性が一人で夜の森に入るのは危険と怒る”男”…
―だって心配だったから、”女”はそう伝えた…
―お互いに「ゴメン」と謝り、喧嘩についても謝り合う…
―”男”はその手に見つけた赤い綺麗な花、夜の光で綺麗に輝いているその花を”女”に送った。自分の気持ちを、「愛」の気持ちと一緒に…
―”女”は”男”の贈り物にありがとうと嬉しい気持ちを伝えた…
―そして、”男”と”女”は生涯を仲の良い夫婦となり幸せを掴んだ…
その二人の話のあと、何組かの者達が、その話を聞いて泉に赴きその赤い花≪コトノハナ≫を求めた。
見つけられない場合もあった。
しかし見つけた者達は最初の二人の様に幸せを掴んだ。
それが伝説として村に残ったのだった。
+
ヴァニラはあの日コトノハナを見つけた場所にマナを案内する。
(……っ…)
ヴァニラは少し胸が痛む気がした。
あの日の光景が浮かんだからだ。
友人だった二人に裏切られたあの日。
「大丈夫だよ。ヴァニラには決して見捨てない掛け替えのない友達がここにいるんだから。ううん、私だけじゃなくカナもね」
そう笑みを浮かべながらマナはヴァニラの若干震える手を取る。
そのマナの手から伝わる温かさに、沈みそうだった心に光が灯ったようにヴァニラは感じた。
「大丈夫だよ、マナ。ありがと…」
「いえいえ」
手を繋ぎながら記憶を確かに探す。
(たしか、この辺だったはず……)
「あ!ヴァニラ、あれじゃない?」
「え?どこ?」
ヴァニラはマナの指さす方に目を向けた。
そこにはあの日見つけた花と同じ淡く光っている薄紅色のの花≪コトノハナ≫だった。
二人でその花に近づく。
(ん?……)
二人で近づく瞬間に、マナは泉に影が差したように見えた。
(ちょっと気になる……警戒しておこう)
「マナ!これだよ!間違いないよ!」
「そうなんだぁ、わぁ、綺麗だねぇ」
純粋に綺麗な花だと感想を抱くマナ。
「でも……なんだろ?」
「どうかした、マナ。コトノハナに思うところがあるの?」
どこか不思議そうな表情を浮かべるマナにヴァニラは聞く。
間違いのない、あの日見つけた花だ。
「うん。なんでだろ、多分これがコトノハナで良いと思うんだけど、何だろう、何かが足りないような感覚がこれからするんだよね」
「足りない何か?」
マナは一目見た時から足りない要素があるように感じていた。
魔力を感じ取る技術が迷宮に挑んだ事で向上した結果から違和感を感じたのだ。
「う~ん、分かんないなぁ。何かが足りない、そんな気がしてならないのよね…」
「ねえ、マナ。とりあえずこの花を持って帰らない?あのお兄さんなら、もしかしたら何かわかるかもしれないしさ」
「そうだね、オウマなら判るかもね。元々この花を目的に捜しに来たんだしね――!?」
ヴァニラがコトノハナを摘もうとしたその瞬間だった。
すぐ近く、泉から強烈な気配があるのにマナは気付いた。
そしてマナは自分の目に移った光景が信じられなかった。
その気配、明らかに魔物であるその存在が、まるで泉の中からすっと出現した様に見えたのだ。
ずっと花だけでなく泉にも違和感を持っていて警戒していた故にマナは気付けた。
「ヴァニラ、気を付けて!魔物よ!」
「え?えぇ!?あ、あれ、あの時の真っ赤なオーガ!?」
驚き目を丸くしながらヴァニラは叫んだ。
その声に「グガアァアァ!!!」と獲物を見つけた。獲物を殺す!と言わんばかりの声をだすオーガ。
二人の倍はあるまるでその名の通り血のような色をした体。
触れるもの全てを薙ぎ倒す強靭な腕と爪。
強烈なプレッシャーを放つ存在。
凶暴で血を好む魔鬼。
マナ、ヴァニラの二人はブラッドオーガと交戦することになった。




