初めて感じた殺意と恐怖…【マナ/ヴァニラside】
「グガアァー!!!」
大柄でその名の通り血のような真っ赤な体をしており、雄叫びを上げるその口には鋭い牙が生えている。丸太の如く太い腕に、その手の爪は鋭く尖っている。
血に飢え目の前の獲物を殺したいと目が血走っている。
全身からも真紅のオーラが揺らいでいる。
≪ブラッドオーガ≫。
オーガ種の特殊で、強力な能力値を誇り、相手を殺害する事しか頭にないオーガの中でも残虐なオーガである。
高い戦闘力に相手に対して決して手を緩めたりしないため強力だ。
とにかく相手を殺すことが頭に、本能として根付いている為、一対一でも強力だが決して倒せないレベルではない。
それでも戦う力のない者、非力な者であれば一瞬の間に殺され餌食となるだろう。
ズドンズドンと、マナとヴァニラに近づくブラッドオーガ。
完全に標的と認識しているようだ。
「…ヴァニラは下がってて。アレの相手は私がするから」
面前のオーガから目を離さず剣を構えつつマナは自身の魔力を開放しながらヴァニラに告げる。
【ヴァニラside―】
「ぇ…な、なんで…?…わ、私も…」
「だって、ヴァニラ、怖いんでしょ?震えてるよ」
マナに指摘されてヴァニラは初めて自覚した。
自分は今目の前に迫る魔物に恐怖の感情があるのに。
体の、特に自分の自慢でもある両足がガクガクと震えていた。
正面からこうして魔物と対峙して初めて知った。
魔物が自分を殺気を向けてくるのに。
魔物が本気で自分を殺そうとしているのに。
ヴァニラはそして思った。
自分は強い、魔物なんて自分の本気を出したら負けたりなんてしない。
あの時……二人の信じていた友人達を救った時の様に。
そう、あの時は目の前の赤いオーガを倒せた。
あの時は倒したんだ。
不意打ちの飛び蹴りであの時はオーガを倒したのだ。
なら今回も倒せる!
そう奮い立ちたい…のに。
体の震えが治まらない。
自覚してからは特にだった。
殺意を向けられる恐怖が止まらない。
そして一つ分かったことがあった。
……そっか、自分はあの時はただ必死だったんだ。
大事な友達を、ただ助けないとって。
だからこそあの時は体が動いたんだ。
恐怖せず、勇敢に相手に立ち向かえたんだ。
けど今回は違う。
前回とは状況が違い過ぎた。
要は火事場の馬鹿力と言うやつが発揮されたんだ。
それにあの時はこうして正面から相手と対峙していない。
魔物から殺気を向けられることもなかった。
そんな初めて感じる魔物の恐怖に震えを隠せないヴァニラに、マナは優しく声をかける。
「大丈夫、ヴァニラは何も恐れることなんてないんだよ。だって――ヴァニラには友達の私がいるんだから!」
マナは魔物に体を向けている。
それでも、マナが自信溢れる笑みをこちらに向けているのが分かった。
その言葉の通り「大丈夫」だと。
そしてこのマナの言葉を、態度で理解した。
今のマナはあの時の自分と同じだ、と。
そう理解すると、ふとヴァニラの恐れが軽くなった。
どうしても震える足に力が戻ってくる感じがした。
それでもまだまだだ。
今のままじゃ…駄目だ。
今の自分ではマナの足を引っ張ってしまうのがわかる。
だから今回は信じて待つ。
今までは守る側の方が多かったけど、初めて自分を守ってくれる友達の姿を信じて。
そして、今回のを教訓に強くなる。
今回は守られる側になる。けど次はこうはいかない!
「……わかった、マナ。お願い」
「ふふ、任せて!さっきも言ったけど、大丈夫よ!大船に乗ったつもりで見ててね♪」




