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悪役令嬢、時々本気、のち聖女。  作者: もり


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「それでは……明日、クラスで提案する文化祭の出し物について、最終打ち合わせをしたいと思います」


 放課後、教室内で始まった文化祭実行委員のクラス打ち合わせは、なぜか予定外の人数になっていた。

 実行委員のわたしとユリウスさん、アドバイザーのギデオン様、付き添いのリザベルにコレットさん、さらに殿下とマティアスまでいる。


(何なの、このカオス……)


 こぼれそうになるため息を飲み込んで、用意した資料を広げる。

 ユリウスさんを見れば、準備はできたというように頷いたので、先に始めてもらうことにした。


「では、ユリウスさんから男子の意見をまとめた案を出して頂けますか?」

「うん、了解。僕が先日から男子の希望を聞いていくつか出た案からまとめた結果、〝怪物屋敷〟と〝メイドカフェ〟が――」


 ユリウスさんの話途中で、なぜか殿下がむせて咳き込んだ。

 乱暴に背中を叩きながら「大丈夫か?」と問いかけているマティアスに、殿下は何度か頷いて応えている。

 急にどうしたのかしら?

 ちょっと心配になったけれど、大丈夫そうなので話に戻る。


「ユリウスさん、メイドカフェって聞いたことがないのですが、要するに給仕係のことですか? わざわざメイドと名付ける意味がわかりませんが」


 耳慣れない言葉に首を傾げると、ユリウスさんは困ったように笑った。


「それは、その……名前の通りなんだ。伝統的なメイドの衣装を着た女性が給仕をしてくれるカフェのことだよ。それで一部の男子が女子にメイドをやってもらおうと――」

「ちょっと待ってください。それでは不公平です。クラスの女子はたったの九人ですよ? 男子はその倍もいるのに」

「それに父兄が許してくれないでしょうね」


 男子ってどうしてそんなにずるくて無神経なのかしら。

 自分たちは楽をしようだなんて。

 しかもリザベルの言う通り、両親が許してくれるわけないもの。


「そもそもこの学院のラウンジではメイドがお茶を淹れてくれるのに、わざわざ出し物としてするほどではないと思います」

「いや、ユリウス殿下の言う〝メイドカフェ〟ってのは、ラウンジとは違う、街で今かなり流行っている店のことだろ」

「流行っているんですか? メイドカフェが? 制服が違うだけで?」


 わたしの言葉に口を挟んだマティアスの説明にますますわからなくなる。

 流行っているって、わたしは聞いたこともなかったのに。

 ひょっとして、わたしは流行に乗り遅れているのかしら。

 さっき殿下は咳き込んだけれど、何か知っていて驚いたのかも。


「殿下はご存知なんですか?」

「――いや、僕は少し聞いたことがある程度だから……ユリウス殿下はもちろん知っているよね? 提案する前に事前調査くらいはしているだろうから。きちんと説明してくれるかな?」

「まあ、それは……僕も先日初めて知ったばかりなんだ。僕の国にはなかったからね。ところで、子爵はご存知ですか?」


 殿下に訊いてもどうにも曖昧で、提案したユリウスさんまでなぜか説明を渋る。

 それどころか、ギデオン様に話を振るなんて。

 何なの? この反応は。


「申し訳ないですが、聞いたこともありませんね」


 こんな状況でもにっこり笑って答えるギデオン様はやっぱり大人だわ。

 それなのに殿下とマティアス、ユリウスさんまでが、「嘘だろ」とでも言いたげな表情でギデオン様へと勢いよく振り向いた。

 嫌だわ。ギデオン様が嘘なんて言うわけないのに。

 そのとき、隣でコレットさんから耳打ちされたリザベルが驚きの声を小さく洩らした。


「リザベル?」

「あの、わたし、寮の友達から聞きました。メイドカフェについて……」

「え? そうなの?」


 わたしが問いかけると、リザベルの代わりにコレットさんが遠慮がちに答えてくれた。

 つい好奇心に満ちた視線を向けると、コレットさんはちょっと眉間にしわを寄せ、考え考え続ける。

 その間、なぜか男性陣はおとなしい。


「それが……その、メイドカフェは女性店員さんがメイドという設定で、お客様がお店に訪れるのではなく、自宅に帰るというシチュエーションを楽しむそうです。そしてメイドが帰宅した主人を迎えるという……」

「メイドが? 執事や従僕じゃなくて?」

「ええ、その……決まり文句があるそうです。『おかえりなさいませ、ご主人様』と」

「……何でそんなお店が流行るの?」


 思わず男性陣を見ると、みんなぱっと目を逸らした。

 そこにギデオン様が困惑を隠しきれないながらも笑って首を振る。


「男は単純だからね。自分を持ち上げられると弱いんだよ。それが可愛い女性ならなおさらのこと。きっとこのクラスの男子も悪乗りしただけだろう。ユリウス殿下、違いますか?」

「そう、……だね。おそらく、みんなも採用されるとは考えていないと思うよ」


 何なの、それ。これじゃ時間の無駄じゃない。

 ちょっとイラっとしたところで、マティアスが明るい声を上げた。


「俺は怪物屋敷がいいな。絶対に面白いぞ」

「わたしは嫌です」

「何でだよ?」

「気持ち悪いからです。他の女子だって反対するに決まってます」


 もう一つの案を推すマティアスにはっきりと答える。

 怪物だなんて幼稚だし女性は喜ばないわ。


「そうねえ。怪物屋敷は手間もかかりそうだし、楽しくないわよね」

「確かに、それなりのものをしようと思えば、かなり手間がかかるだろうね。委託してもいいが、予算を考えるとなかなか厳しいだろうし、場所も教室では手狭だよ。他の場所を借りるなら早めに申請しなければいけない。その上、他のクラスや部活と被ると抽選になるしね」


 リザベルの同意のあとに、ギデオン様が現実的な意見を上げてくれる。

 予算はそれぞれのクラスに学院から支給されるけれど、それを超えるようなら生徒たちの自腹になるのよね。

 もちろんクラスの出し物には、文化祭当日に受付隣に設置される金券売り場で購入した金券が必要になるけれど、売り上げは全て寄付されることになっているから。


「じゃあ、女子はどんな案があるんだよ?」

「そうだね。僕も気になるな。次はエリカさん、お願いできるかな?」


 マティアスの言葉に頷いて促したのはユリウスさん。

 殿下がちらりと彼を見たけれど何も言わなかったので、昨日ギデオン様にアドバイスを頂いてまとめた案を口にする。


「わたしも女子の意見を聞いてまとめた結果、二案になりました。一つは〝占いの館〟で――」

「くだらねえ」

「うるさいです、マティアスさん。もう一つは〝王子様カフェ〟です」

「はあ!? 何だ、それ!? 気持ち悪いだろうが! そもそもメイドカフェとどう違うんだ!?」

「マティアスさんは少し黙っててください! それにわざわざ王子様に扮する必要もないでしょう? このクラスには三人も本物の王子様がいるんですから」

「三人?」

「ええ、マティアスさんも入ってますから」

「はあ!? ふざけんな! なんで俺が――」

「本当になぜかしらね。理想と現実って悲しいわ。お客さんはみんな本物の王子様を求めて来店してくださるのでしょうに、こんな……」

「んだよ?」


 言葉を濁すとマティアスが不機嫌に促す。

 だけど教えてあげない。ふん。

 そこにくすくす笑う声が聞こえてはっとする。

 なんてこと。

 今のはしたない姿をギデオン様に見られてしまったわ。


 おそるおそる目を向けると、ギデオン様は楽しそうに笑っていらした。

 今日は普通に接することができるか不安だったけれど、別の意味で失敗してしまうなんて。

 でもここで落ち込んでいる場合じゃないわ。

 せっかくギデオン様に手伝って頂いたんだもの。しっかり説明しないと。


「王子様カフェとは言っても、給仕はみんなでする予定です。ただ三人には申し訳ありませんが、営業している間は交代で常に一人はいてください。提供するお菓子はいくつか見積もりを取ったパティスリーの中から選んで外注しますし、お茶と珈琲は裏方で当番が淹れて、給仕係が運びます」

「それで、僕たちはどうするの? 全員のお相手をすることはできないし、一部のお客さんだけだと不公平じゃないかな?」

「おい、ヴィクトル。受ける気かよ」

「例えばだよ。これが一番いい案で、クラスのみんなの賛成が得られるなら、僕はクラスの一員として協力するよ」

「そうだね。僕も判断するのは全てを聞いてからかな」


 殿下が興味を持ってくれたけれど、マティアスが不満げに割り込む。

 それでも殿下は優等生的な意見で応え、ユリウスさんも無難な返事をしてくれた。


「今考えている案では、一つのテーブルで一定金額以上の注文をしてくださると、王子様がやって来て一定時間お話できる権利を得ることができるんです」

「あら、それでは全てのテーブルが注文するわよ。そうなると、王子様は大忙しになるわ」


 もう少し詳しい説明に意見を挟んだのはリザベル。

 確かにそれはギデオン様にも指摘されたこと。

 うむむむ。そこはやっぱり話し合いで解決したいのよね。ギデオン様に頼るだけでなく。


「そうですね。この機会を逃がすと、一般の方は王子様とお話できるなんて一生ないでしょうから、借金してでもたくさん注文して延長なんてことになるんじゃありませんか?」

「借金してでも?」


 次に発言してくれたのはコレットさん。

 その内容にはびっくり。借金ってお金を借りて、約束通りに返せないと監獄行きになるのよ。

 驚くわたしに、コレットさんは深く頷いた。


「エリカさん、この学院にいるとつい麻痺してしまいますけれど、わたしたちにとって王子様どころかエリカさんとリザベルさんだって雲の上の方なんです。この学院の文化祭招待券が裏で取引されるていることはご存知ですか? その値段にびっくりしますよ」

「そ、そうなの?」

「ええ。生徒一人につき四枚配布されますけれど、寮生の間では一枚ミリトス金貨五枚で取引されているんです。それが街に出回るともっと高額になるんですよ」


 ミリトス金貨五枚って……何が買えるのかしら?

 えっと、クラエイ村のお祭りで食べたチュロスが四〇リトスで、一〇〇〇リトス銀貨十枚でミリトス金貨一枚だから……。


「ええ!? そんなに!?」

「遅えよ、反応が」


 計算を終えたわたしにマティアスがすかさず突っ込む。

 うるさいわね。物価とかお金関係は苦手なんだもの。

 昨日、ギデオン様が「エリカちゃんのクラスなら何をしても一位になると思うよ」とおっしゃったのは、こういうことでもあったんだわ。

 うむむ。何もかも甘く見ていたわね。




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