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「それでは、明日、クラスに提案する文化祭の出し物は〝おもてなしカフェ〟ということでいいね?」
ユリウスさんの言葉に、みんな一様に頷いた。
あれから話し合った結果、男女の意見を取り入れてカフェに、そしてメイドも王子様も却下で、クラスみんなで〝おもてなしカフェ〟をしようということになったのよね。
カフェでは効率化を図るために裏方と表方で完全に分かれたほうがいいというのはコレットさんの意見。
お客様をおもてなしするのが得意な人と、そうでない人といるでしょうから、そこはクラスで希望を聞いて決めることに。
ちなみに王子様三人と、わたしとリザベルは強制的に表方になってしまった。
それが絶対集客を見込めるからですって。
なぜ集客数一位を目指すかの答えは簡単。
毎年、一位になったクラスには学院長から豪華なご褒美がもらえるから。
なので、今年は他のクラスは一位をもう諦めているとか。
だけど三位まではご褒美があるので、二位、三位は熾烈な争いになるみたい。
殿下やマティアス、ユリウスさんの王子様三人は、他のクラスからぜひ遊びに来てと頼まれているんですって。
わたしもルナさんに無料にするから遊びに来てねと言われたわ。
どうやらそれも呼び込みのネタになるそうなのよね。
みんなたくましいわ。
「エリカ。わたしとコレットさんはこのまま部活に行くけど、エリカはどうする?」
「わたしはもう帰るわ。この時間なら、馬車ももう着いているはずだし」
「そう、じゃあ……」
「エリカさん、馬車寄せまで送るよ」
リザベルの問いに何も考えずに答えると、殿下が親切に申し出てくれた。
でもリザベルは「いいの?」という表情。
大丈夫と頷いてみせて、殿下に向き直る。
「ありがとうございます、殿下。お願いします」
「うん。荷物はそれだけ?」
資料をまとめて入れた鞄を殿下が指さす。
今日は体育もなかったので、鞄一つだけ。
「ええ、――」
「ヴィクトル殿下、ユリウス殿下、これで失礼いたします。エリカちゃん、またね。みんなも、さよなら」
「っ、ギデオン様、ありがとうございました」
「ギデオン、ありがとう」
ギデオン様から別れの挨拶をされるなんて酷い失態だわ。
本当ならここはわたしからするべきだったのに。
慌てるわたしに続いて殿下やみんなが次々にお礼を言う。
ギデオン様は手を振って教室を出て行き、見送るみんなの間にちょっとだけ沈黙が落ちた。
「さて。帰ろうか、エリカさん」
「は、はい」
「じゃあね、エリカ」
「エリカさん、さようなら」
「リザベル、コレットさん、また明日ね。ユリウスさん、マティアスさん、さようなら」
みんなに挨拶をしてから、すでに歩き出している殿下の後を追いかける。
ちょっと。送るって言ったのに、どうして先に行くの?
しかも、殿下はわたしの鞄を持っているから、追わずにはいられないし。
「殿下――」
「邪魔をしたかな?」
「え?」
「僕がいなければ、ギデオンに送ってもらえたのにね?」
「例え……そうだったとしても、殿下を邪魔になんて思いません。殿下はわたしにとって……」
「――エリカさんにとって?」
「と、友達ですもの。友達を邪魔になんて思いません」
「……そうか。では、婚約者としては?」
「婚約者……でもありますけど、友達です。――って、まさかわたしの独りよがりですか?」
「いや、友達だよ」
「そうですか……」
殿下の返事になぜかほっとしてしまう。
ついこの前までは苦手な相手だったのに。
自分の心境の変化にびっくりだわ。
「文化祭まであとひと月余りか……」
ぽつりと呟いた殿下はもう先ほどの会話は頭にないみたい。
殿下って本当によくわからないわ。
でも文化祭の話題は安心。
「そうですね。それまでに外注するパティスリーを決めたり、茶葉を選んだり、それに内装やテーブルセッティングも考えないと。あと食器類も。これは女子に任せてくださればできますから、男子はお茶を淹れる練習をしてくださいね」
「そうなんだよね……。マティアスもそうだし、ほとんどの男子に練習が必要だろうね」
「本決まりになるのは、明日のクラス会でみんなに賛成してもらってからですけど、わたしでよろしければ、練習に付き合いますよ?」
「――本当に?」
「ええ。マティアスさんとリザベルも呼んで、我が家でお茶会を開きましょう」
「……ありがとう、エリカさん。助かるよ」
「いいえ。ただ、偉そうに言っておいて申し訳ないのですが、実はわたし……カフェに行ったことがないんです」
「そうなの?」
「ええ。あの……フェリシテさんとパティスリーに行ったのが、初めてというか……」
先ほどまでの意見は全部、聞いたことや本で知ったことを言っていただけ。
それを正直に打ち明けると、殿下はちょっと驚いて、それから柔らかく微笑んだ。
これは意地悪じゃない、本物の笑みだと思う。
「では、練習の前に一度、街へ出てカフェに行ってみようか?」
「ええ、ぜひ!」
あまりにも嬉しい提案に勢い込んで応じると、殿下はくすくす笑った。
別に笑われたってかまわないわ。冗談でさえなければ。
殿下と一緒なら、お母様だって許してくれるだろうし。
「エリカさんさえよければ、次の休みはどうかな? ちょっと変装して二、三軒のカフェをはしごしてみようか」
「はしご?」
「ええっと……何軒かのお店に続けて行くことだよ」
「なるほど」
初めて知る言葉にちょっと嬉しくなる。
はしごって高い所に上るあの〝はしご〟だけの意味じゃないのね。
「今度のお休みは、わたしは大丈夫ですけど、リザベルにも都合を聞いてみますね」
「え?」
「え?」
「いや……あまり人数が増えると、色々難しいかな……。二人とも目立つタイプだし。エリカさんだけのほうが僕も護衛も動きやすいから……。護衛にはレオンスにも頼むつもりだし、その、リザベルさんとは別の機会に堂々と行ってみてはどうかな? 女性同士、また違った雰囲気をきっと楽しめるよ」
「そう、ですね。わかりました」
リザベルと一緒に行けないのは残念だけど、また別の楽しみ方があるのね。
よし。コレットさんも誘ってみよう。
「エリカさん、今度の休みは街に露店もたくさん出るはずだから、お昼より少し早めに出かけよう」
「露店!」
思わず興奮して声を上げてしまったけれど、殿下には今さらだし、他には誰もいないから平気。
ああ、次のお休みまでまだ三日もあるのが残念だわ。
「楽しみですね!」
「そうだね」
また柔らかく微笑んでくれた殿下を目にして、わたしは調子に乗ってしまったんだと思う。
気分も高揚していたから。
ぴたりと足を止めて、殿下に呼びかける。
「殿下」
「うん?」
「ありがとうございます、ご主人様」
先ほど聞いたセリフをアレンジして、満面の笑みで可愛いらしく言ってみる。
もちろんちょっとした冗談のつもり。
それなのに殿下は唖然として、持っていた鞄を落とした。
「す、すみません……悪乗りしました……」
予想した笑いが返ってこなくて、恥ずかしさに居たたまれなくなる。
謝罪しながら落ちた鞄を拾おうとすると、殿下が慌てて拾い上げた。
「いや! ちがう。ちょっと驚いただけで、ごめん……」
あたふたしながらなぜか殿下も謝ってくれる。
こんな殿下を見るのは初めてで、つい笑ってしまった。
すると殿下も一緒になって笑う。
うん。これでこそ冗談の甲斐があったわ。
馬車寄せに着くと、殿下はわたしの鞄をトムへと渡してくれてお別れ。
今日は登校するのが少し億劫だったけれど、お休みの日のお出掛けの約束までできるなんて、来て良かった。
帰ったら、さっそくお母様に許可をもらわないと。




