7話:もう一人じゃないんだな……
「私には、何か分からない記憶がある。いつだったかは覚えてないが、私は見たことないような平和な世界にいた。荷物のたくさん積まれた車に乗って、幼稚園を卒業した私は窓から外を見ていた。恐らく引っ越しする時だったのだろう。たくさんの人が送りに来ている中、同じ幼稚園だった男の子の友達も来ていた。男の子が何かをしゃべった。でも、車のエンジンの音で男の子の声は掻き消され、何と言ったかは今でも分からない……」
白い壁に囲まれた病室で、雪乃は昔書いた作文を読み返した。
「刹……。何か聞いたことある……」
静けさの中で窓から吹いてくる風が音をたてる。
「やっぱりバカでしょ、あんた。人に頼らないで自分でなんでもやって……。あんたが思ってるほど、私たちは役立たずじゃないんだから……」
ベットの上には、高瀬羅 刹が眠っている。昨日の訓練が終わってから、雪乃はずっと付き添っていた。
「雪乃……?」
高瀬羅 刹がやっと目を覚ました。
「ここは? 俺はどうなったんだ……?」
「ここは病院よ。あんた、20時間も寝てたのよ。もっと早く起きなさいよ、待ちくたびれたわ」
「雪乃が待っててくれてたのか?」
「中隊長だからよ、仕方ないでしょ」
雪乃は静かに立ち上がった。
「先生呼んでくるわ」
病室から出た雪乃はガッツポーズを作った。
「刹が生き返ったぁーッ!!」
スキップで雪乃は廊下を走っていく。それが見えていない高瀬羅 刹は、また天井を眺めた。
「いつもと違う天井……」
「この世界は、我々が占領する。我々の星では、敵からの攻撃に対する正当防衛のみ許される。よって秘術の書を手にした今、我々は我々の力で敵に先制攻撃させ、正当防衛の一環として地球を占領する」
夢の中で聞こえてきた誰かの声が、頭から離れない。
「この世界で、俺は何をすれば……」
「機体K200395の調査、完了しました」
「製作者不明のロボットのため、入手した情報は少数です」
「それぞれのANGELには、リンク度100%を上回る人間が世界中で一人だけ登録されています」
「リンク度100%を越えた機体は、血液採取後脳波共有化を行います」
「操作を頭で考えただけで全て実行に移せるようになります」
「性能上昇率は、250%です。二倍以上性能が上昇します」
「身体にかかる負担は、現在不明です」
「今後、この機体をMarkSと呼称する」
本部では、初めての出来事に騒ぎが起こりそうだった。
「ご心配お掛けしました。無事帰還しました」
食堂では、雪乃班が集まっていた。
「自己紹介まだだったな。俺の名前は、高見 悠。よろしくッ!!」
「私は……、星夏……美紗 。……よろしく……お願いします」
「私、光林 賢司と申します。お見知りおきを」
「最後に私、由衣崎 雪乃。この隊には、体格しっかりで頼れる悠、超恥ずかしがりやの美紗、メガネは外さないのっぽの未来の天才博士賢司。おかしい奴ばっかだけど、仲良くしてやって」
高瀬羅 刹はみんなの顔を見た。すると、後ろから何者かが走ってくるのが見える。それはどんどん近づいてくる。
「俺を忘れるなーい」
身長の低い奴が、悠の肩に手をかけた。
「俺、山瀬 遼似。よろしくなッ!!」
「こいつは、バカでアホで天然なチビだ。ちなみに、雪乃班じゃないぞ。ANGELの操作はくそ下手だからな」
笑いが巻き上がる。みんな、仲がいい人ばかりで、高瀬羅 刹は自分がここにいていいのか分からなくなるくらいだった。
「俺は、もう一人じゃないんだな……」




