第1話「俺のスキルは、日用品ガチャ」
登場人物紹介
◇神谷 蓮
本作の主人公。
何よりも平穏な日常を愛する高校二年生。
ある日、一日一回ガチャが引けるスキル【ワンデイ・ガチャ】に目覚める。
出るアイテムは基本的に日用品だが、ごく稀に世界を揺るがすような超レアアイテムを排出してしまう。
◇雪城 玲奈
ヒロインの一人。
蓮の同級生。
息を呑むほどの美貌と、学年トップの成績を誇るクール系美少女。
その正体は、強力な氷の魔法を操るS級探索者。
ある事情から、他人と距離を置いて孤独に戦っている。
◇日向 葵
ヒロインの一人。
蓮の家の隣に住む、世話焼きな幼馴染。
毎朝蓮を起こしに来るのが日課。
天真爛漫な笑顔の裏で、強力な回復スキルを持つヒーラーの一族としての秘密を抱えている。
◇謎の男
玲奈を執拗に狙う敵対組織の幹部。
冷酷非道な性格で、強力なスキルを持つ。
玲奈の一族が持つ古き血を狙っている。
「平凡こそ至高」
それが俺、神谷蓮の座右の銘だ。
ライトノベルの主人公みたいに劇的な人生なんてまっぴらごめんだった。
朝は幼馴染の日向葵に肩を揺さぶられて目を覚ます。
学校ではその他大勢のモブとして息を潜める。
放課後は友達と他愛のない話をして帰る。
そんな変わらない毎日こそが、俺にとっての宝物なのだ。
だが、そんな俺の平穏が、ほんの少しだけ揺らいだのは一ヶ月前のことだった。
世界中で確認されている、一部の人間に発現する特殊能力――スキルだ。
それが、この俺にも発現してしまったのだ。
頭を抱え込む俺の前に現れたのは、スマートフォンにインストールされた見慣れないアプリ。
【ワンデイ・ガチャ】。
それが俺のスキルの名前らしい。
指先を震わせながらアプリをタップする。
画面に眩しいエフェクトが走り、一つのアイテムがポップアップした。
【獲得】Nランク:よく消える消しゴム
「……は?」
思わず、気の抜けた声が漏れる。
机の上に、ポンッと軽い音を立てて現れたのは、見慣れた青と白のケースに入った消しゴム。
ただそれだけだ。
『え、これだけ?』
『世界を救う聖剣とか、すべてを焼き尽くす炎の魔法とかじゃなくて?』
だが、すぐに俺は顔をほころばせた。
これだ。
これこそ俺にふさわしいスキルじゃないか。
こんな地味なスキルなら、誰にもバレない。
面倒なことに巻き込まれる心配もない。
俺の平穏な日常は、これからも守られるのだ。
俺はこのガチャに深く感謝した。
◆ ◆ ◆
それからというもの、俺の日課に朝イチでガチャを引くというイベントが加わった。
「さて、今日は何かなっと」
スマートフォンを操作すると、今日も軽快なファンファーレが鳴る。
【獲得】Rランク:絶対に絡まないイヤホンコード
「お、地味にありがたいやつ」
カバンの中でスパゲッティみたいになるのが常だったイヤホンコードが、スルスルと解ける新品に変わる。
レアリティがRになったところで、この程度だ。
最高だ。
その次の日はRのちょっと良い香りのする付箋。
そのまた次の日はNの四つ葉のクローバーの押し花。
もはやスキルというより、通販サイトのおまけレベルである。
「このスキルなら秘密にするまでもないな」
すっかり油断しきった俺は、もう何の警戒もしていなかった。
スキルなんてものが存在しないかのように、いつも通りの日常を送っていた。
教室の窓から校庭を眺めれば、男子生徒たちの憧れの的、雪城玲奈が見える。
氷の彫刻のように整った顔立ちと、全国模試で一桁に入るほどの頭脳。
まさに高嶺の花だ。
俺のようなモブとは住む世界が違う。
「れーん、ぼーっとしてないで、次の授業の準備するよ!」
「うおっ!」
背後から肩を叩いてきたのは、腐れ縁の幼馴染、葵だ。
太陽みたいな笑顔が眩しい、世話焼きなクラスの人気者。
「さんきゅ、葵。助かる」
「もー、私がいないと蓮は本当にダメなんだから」
そう言って甲斐甲斐しく教科書を机に並べてくれる葵。
窓際の席で誰とも群れずに本を読む雪城さんと、俺の世話を焼いて笑う葵。
決して交わることのないこの距離感こそが、俺が愛する平穏な日常の象徴だった。
◆ ◆ ◆
そんなある日、俺のスキルに初めてSRの文字が表示された。
【獲得】SRランク:幸運を呼ぶキーホルダー(効果:小)
「おおっ! SR! しかも幸運!」
さすがに少しテンションが上がる。
手のひらに現れたのは、安っぽい猫のマスコットがついたキーホルダー。
効果は小というのが若干気になるが、それでもSRだ。
今日一日、俺はきっとツイているに違いない。
そんな期待を胸に、俺は放課後、商店街の福引に挑戦した。
特賞は最新ゲーム機。
幸運のキーホルダーの力、見せてもらおうじゃないか。
ガラガラとハンドルを回し、コロンと出てきた玉の色は――白。
「はい、残念賞のポケットティッシュねー」
おばちゃんの気の抜けた声が響く。
俺のポケットには、幸運のキーホルダーが虚しく揺れていた。
『やっぱり俺は俺』
『スキルなんかに左右されない、平凡な男なのだ』
俺はそう再確認し、ポケットティッシュをカバンにしまいながら、夕暮れの道を家路についた。
そう、このときの俺はまだ、自分のスキルがもたらす本当の奇跡を、知る由もなかったのだ。




