202話 愛の力です!
その後の練習が、妙にはっきり伸びたのは偶然ではなかった。
ミオはスイングの迫力を増し、ノゾミは吹っ切れた勢いのまま盗塁の一歩目をさらに鋭くした。
ユイは褒められた責任感をそのまま配球へ変え、セツナは勝負の儀式が効いたのか、打球への初動が目に見えて速くなる。
マキは軽口の裏で送球のぶれを減らし、アイリは声のかけ方と立ち位置で守備全体の流れを作り続けた。
そしてサユは、恋の一歩を踏み込んだことで、守備でも打撃でも“逃げないほう”へ体が向き始めていた。
怖いものは、消えない。
でも、怖いまま前へ出ることはできる。
それはたぶん、恋でも野球でも同じだった。
最後に、龍之介はノックバットを肩に乗せ、冬空の下で全員を見回した。
白い息が、薄くほどける。
「今日、全員ちょっと伸びたな。……甘いものの力か?」
「龍様。愛の力です!!」
即座に返されて、また笑いが起きた。
乾いたグラウンドに、その笑いは前よりずっと自然に広がっていく。
バレンタインは、ただチョコを渡す日ではなかった。
チームの距離がひとつ前へ進み、それぞれの競技で培ってきた強みが野球の中へ混ざり合い、サユの居場所がまた少し確かなものになった日だった。
ライトの端から矢のような送球を刺すその姿は、もう「端にいる子」のものではない。
下位打線から這い上がるという宣言は、甘い余韻と一緒に、確かな手応えとしてグラウンドに刻まれていた。




