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193話 バレンタイン-ノゾミ

 いちばん分かりやすく燃えたのはノゾミだった。

 短距離のスタートダッシュと同じで、思い立ったら動く。

 地面を蹴る音が号砲みたいに軽くて速い。


「龍先輩! 用意してたのは、ミオちゃんだけじゃありませんよ! じゃーん!!」


 小さな袋を勢いよく掲げる。

 ポップなラッピングがノゾミらしい明るさだ。

 明るすぎて、周りの視線がそこに吸い寄せられる。


「これは……義理か?」


 龍之介の問いには、半分ほど本気で、半分ほどは場を和ませるための逃げ道が混じっていた。

 受け取りやすいように軽口へ変える。

 その気遣いが分かるからこそ、なおさらノゾミには効かなかった。


「義理なわけないですっ! ド本命ですよ! 今のわたしがあるのは、龍先輩のおかげですから!!」


 ノゾミの声が冬の空気を真っ直ぐ突き破った。

 遠慮のない宣言。

 頬に熱が集まるのが分かるのに、本人は誇らしげで、胸を張っている。


「……直球だな」


 龍之介の返事には、どう受け止めたものかという照れと苦笑いが滲んでいる。

 困ったようでいて、嫌そうではない。

 むしろ、眩しいものを正面から見てしまった人間の顔に近かった。


 龍之介が受け取った瞬間、ノゾミは二塁ベースへダッシュした。

 土を蹴る足音が、乾いたグラウンドに小気味よく響く。

 ぱっ、ぱっ、と刻まれるリズムが妙に明るい。


「心が晴れやかです! 恐れるものは、もう何もありませんっ!」


「ははっ、ノゾミは元気だな」


 龍之介がくすりと笑う。

 さっきまで頬に集まっていた熱を、笑いに変えて吐き出すような声だった。

 肩から余計な力が抜けて、空気が少しやわらぐ。


 ノゾミが吹き飛ばした恥ずかしさの破片が、グラウンドに散る。

 そして、みんなの背中を押した。

 踏み出しにくかった一歩が、もうそこまで怖くなくなる。

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