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192話 バレンタイン-ミオ

 その時だった。

 ミオが最初に動いた。

 ウェイトリフティング部の筋肉は、こういう場面でも迷いがない。

 準備運動の輪がほどけきらないタイミングで、ミオはまっすぐ龍之介の前に立った。


 手には箱。

 小さすぎず、大きすぎず。

 包装は完璧で、角の折り目が定規で引いたみたいに真っ直ぐだ。

 両手の指まできちんと揃い、渡す瞬間に揺れないよう支えている。


「龍様!!!」


 叫び声が乾いた空気を裂く。

 もはや号砲レベルの声量だった。

 部員たちの視線が一斉に集まる。

 龍之介は笑うべきか突っ込むべきか、一瞬迷った。


「……お、おお?」


「チョコレートをご用意いたしました! 練習前の糖分補給に!!」


「う、うおおおおぉっ!! これこそ、俺が長年求めていたもの……! ありがとう、ミオ!!」


 龍之介は箱に手を伸ばし、満面の笑みを浮かべた。

 受け取った。

 今、受け取った。

 これで終わりじゃない。

 始まったのだ。


「こちらこそ、受け取っていただけて嬉しいです!」


 ミオは一礼すると、スキップ混じりで戻っていく。

 一瞬、女子部員たちの動きが止まる。

 次の瞬間、火が点いた。

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