最終話 永遠の夢から覚めて
ここがどこなのか、僕には分からない。あの世なのかな?
一つ言えるのは、ずっと会いたかった人たちがいることだ。
「お前はバカか? なんで死んでるんだよ」
「如月にバカって言われたくないね。そっちこそ、僕が外に出てる間に死んじゃったくせに。なんで死ぬの?」
「俺はいいんだよ。春真は生きなきゃダメだった。紺屋と幸せになれよ」
「僕は紺屋さんが好きだけど、如月も親友として好きなんだ。二人とも欲しい」
「バッカ野郎」
如月は僕を抱き締めてくれた。
いつだったかも同じことをされた覚えがある。睦月から、如月と紺屋さんに会ってもいいって許可をもらえて、久々に再会した時だ。
いや、あの時は、僕から抱きついたっけ?
僕と如月が同じ行動をしていれば、紺屋さんも同じ反応を示す。
「私の春真さんが如月さんに盗られましたこれが俗にいうNTRですか体験したくありませんねぶち殺したくなりますもちろん春真さんは殺しませんよぶち殺すのは如月さんですよくも私も春真さんを盗ってくれやがりましたね弥生の全力を持ってぶち殺します私の春真さんを取り戻すために私の春真さん私の春真さん春真さん春真さん春真さん春真さん」
「ぶち殺すも何も、俺たちは死んでるだろうが」
如月の冷静な突っ込みが入るけど、恋人を放置して親友との再会を喜んでいたのは申し訳なかった。
「死んじゃってごめん。紺屋さんとの約束を守れなかった。でも、また会えて嬉しいよ」
「私も嬉しいです。春真が死んでしまったことは悲しいですし、複雑ですけれど、こうして会えたのは嬉しく思います。神様のような存在がいるのであれば、感謝したいですね」
「聞きたかったんだけど、ここってどこなの? 天国? 地獄?」
見た感じだと、よく知っている場所に思える。
僕の部屋だ。家具とかもそのままになっている。
新人類の町は滅ぼされたし、家も壊れただろう。そもそも、死んでいるのに、僕の部屋にいるのはおかしい。
「春真さんには何に見えていますか?」
「僕の部屋」
「私も自分の部屋に見えます。春真さんのお部屋ではなく、私の」
「俺は学校の教室だな。クラスの連中はいないが、いつも通っていた教室だ」
三人それぞれ、違った場所に見えている? 変な話だ。
死んでいるのに再会して会話しているし、最初から変だけどね。
「自分にとって思い入れのある場所ってこと?」
「多分な。俺は、春真や紺屋と一緒に授業を受けていた時が楽しかった」
「待ってください。それでは、私が薄情者みたいではありませんか。教室でも春真さんのお部屋でもなく、自分の部屋に思い入れがあることになります」
「紺屋のことだし、自分の部屋で春真と同棲生活、とか考えてたんだろ? 春真の部屋でもいい気はするが、俺や四季ちゃんがいたからな。邪魔者のいない自分の部屋でって考えそうだ」
「納得しました。春真さんを拉致監き……なんでもありません」
考えていたんだ。紺屋さんらしいね。
後半のセリフは聞かなかったことにして、話を変えよう。
「僕たちは、いつまでここにいられるの?」
「さあ? つうか、時間の流れとかあるのかも分からん。空腹も感じなければ眠気もないし、同じ場所に居続けて気が狂ったりもしない。あれだな。人類が追い求めた永遠の命を、ある意味では実現できる場所だ」
「死んでいますし、永遠の命は違いませんか? 永遠の夢ですね。春真さんがいてくれて、如月さんもいます。幸せです」
「永遠の夢、か」
紺屋さんの表現が一番近そうだ。もっとも、永遠に続きはしないだろうけど。
神様なのかなんなのか知らないけど、死んでしまった僕たちに、こうして会う機会を恵んでくれた。
十分だよ。あとは、輪廻転生するのか、魂が消滅するのか、その時を待とう。
待つ間は三人で過ごす。昔やっていたのと同じ、他愛もない雑談だ。
話題は一向に尽きない。如月が覚醒してからは、十二月や戦いの話がどうしても切り離せなかった。
何も気にせず、くだらない話題で盛り上がるのは久しぶりだ。
「時に、如月さん。二時間ほど別の場所に行っていただけませんか?」
「どうやって行くんだよ」
「根性です」
「んな無茶な。紺屋が何をしたいのかは分かるが」
「というか、できるの? さっきは如月が抱き締めてくれたし、触れることはできるみたいだけど」
「根性です」
紺屋さんは無茶苦茶なことを言っていた。
僕も興味はある。死ぬ直前も考えた。
かといって、如月の前でやるのはなあ。
「如月さんが席を外してくれないのであれば、いっそ三人プレイもあり? 春真さんと如月さんが二人がかりで私を……ふしだらです!」
「紺屋の『ふしだらです』を久々に聞いた。懐かしいな」
「前も三人プレイって言ってたよね。紺屋さんってそういう趣味があるの?」
「ありません! 私は春真さん一筋です! 嫌わないでください!」
「嫌わないって。ただ、いくら如月でも紺屋さんは渡さないよ」
「春真さんが独占欲を……ぶっはっ!」
あ、鼻血吹いた。ここでも鼻血って出るんだ。
血だまりに沈んでいる猟奇的な姿なのに、紺屋さんの表情は幸せそうだった。
「鼻血が紺屋のアイデンティティになっちまってるな」
「嫌なアイデンティティだね」
これじゃあ、仮に行為が可能でも、前回の二の舞になる。紺屋さんが鼻血を吹いて、未遂で終わるって。
やらなくてもいいから、話し続けようか。それだけでも楽しい。
時間が流れているかも分からない場所で、延々と繰り返す。
時忘れ町、時を忘れた町。新人類の町を彷彿とさせるね。
これは凄く幸せで楽しいけど、時が止まったままじゃダメだ。前に進まなきゃ。
永遠の夢は終わる。夢から覚める。
「終わりだな。感覚的に分かる」
「みたいだね。僕たちは消えるのかな」
「魂が消えようとも、春真さんへの恋の炎は消えません。心から愛しております、春真さん」
「僕も紺屋さんを愛してるよ。如月も大好きだ」
「俺だって負けないぞ」
三人で横に並ぶ。紺屋さんが真ん中で、両隣に僕と如月だ。
僕の部屋で、仲良し三人組だねって話していた時を思い出す。
三人そろって、一歩踏み出した。その足が消えてゆく。
さてさて、どうなることやら。
不安な気持ちはあるけど、大丈夫だ。
夢から覚めて、明日に向かうんだから。
さあ、行こうか。僕たちの明日へ。
以上で完結です。お読みくださり、ありがとうございました。
賛否あると思いますが、この結末はプロット段階で決めていました。
主人公がどうなるのか、それはご想像にお任せします。




