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僕たちは明日に向かう  作者: ともむらゆう
第3章 明日への一歩
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八十八話 奇跡を

「はぁ……はぁ……」


 偽四季(しき)との激闘があり、僕は疲労困憊になっていた。

 睦月(むつき)冬将(ふゆまさ)がリタイアしたため、今戦っているのは僕と四季の二人になる。


 秋陽刀(あきひと)皐月(さつき)を守っている。姉は加勢しようとしてくれたけど、葉月(はづき)さんの守りに集中してもらいたい。葉月さんを失うわけにはいかない。

 睦月以外の十二月(じゅうにつき)は、悪いけど戦力外だ。それほどまでに偽四季は強い。


 人数ではこちらが有利なのに、僕や四季はボロボロで、偽四季は余裕がある。傷付いていても倒れるほどじゃない。

 至近距離での殴り合いが続いていたけど、一旦離れて睨み合っている。


「最強を名乗るくせに、たいしたことない」


 四季が挑発した。押されているのは僕たちなのに、よく言えると感心する。

 あるいは、怒らせて隙を突きたいとかなのかもしれない。


「俺に押され気味の奴に言われても、負け犬の遠吠えにしか聞こえないな。同じ四季でも、俺は強い。お前は弱い」

「弱い犬ほどよく吠える」

「よく吠えているのはどっちだ」


 二人の舌戦を聞きつつ、僕は体力の回復に努める。

 あちこちが痛む。春に覚醒しても痛覚は残っているし、痛みに慣れているわけでもない。痛いのは嫌だな。


速峰(はやみね)春真(はるま)は、夏帆(かほ)と交代した方がいい。これ以上は危険」

「それはできないね。こいつは僕が倒したい」


 四季は僕を心配してくれたけど、気持ちだけ受け取っておく。戦いから退くつもりはない。

 如月(きさらぎ)や四季の名を騙るこいつが許せない。

 仲間の中で、霜月(しもつき)長月(ながつき)が殺されているし、それも許せない。こいつにとどめを刺さなかった責任を取りたい。

 僕は僕の望みを叶えるために、退く気はなかった。


「速峰春真が殺されれば、こいつがさらに強化しかねない」

「困るね。死なないように注意するよ」


 もしかして、命に代えてでもって考えたことを見透かされたかな。

 僕の命を奪い、偽四季が強化する。いかにもありそうだ。

 今でさえ押されているのに、より強化されれば本気で勝ち目がなくなる。


 そして、強化となると、偽四季に勝つ方法がある。実に簡単な方法がね。

 四季がみんなを殺せばいいんだ。五人殺しているし、睦月たちも殺せば、四季は本物の四季に近付き強くなる。

 四季も気付いているはずだ。気付いていて、その方法を選ばない。


 偽物との大きな違いはそこにある。平気で他人を犠牲にする偽四季と、犠牲にしたくないのに犠牲にしなくちゃいけなかった四季。

 優しい方が弱いのは、嫌になるほど理不尽だ。


 こいつさえ倒してしまえば、四季が本物の四季になる必要もない。

 僕が姉の記憶を失っていた頃、四季はお姉ちゃんを名乗り、守ってくれた。

 お姉ちゃんは、弟を守ると言ってくれて、嬉しかった。

 今度は僕の番だ。


「僕は速峰春真。速峰夏帆と速峰四季の弟だ」

「急に何を?」

「弟は、お姉ちゃんを守る」


 偽四季を許したくないという気持ちで戦うよりも。

 仲間たちを死なせてしまった悔恨の念で戦うよりも。

 大切な人たちを守りたい気持ちで戦う方がいい。


 自分の欲望に忠実で、偽四季を憎み、殺したがる方が強くなれる。理解はしているけど、僕にはできないんだ。

 甘ったれた性格は、最後まで変わらなかった。変えられなかった。

 偽四季を憎んではいても、全兎を望む気持ちを捨てられない。

 どこまでも中途半端な僕は、偽四季のように最強にはなれない。


 僕は、全兎を望む。

 散々失ってきたけど。

 最期なら、せめて。


「奇跡の一つや二つ、起こしてやる!」


 甘ったれた僕のままで、速峰春真のままで勝つんだ。

 休憩は終わりだ。両足に力を込め、偽四季に突進する。

 春の身体能力があっても、まともにぶつかれば、悠々と対処されるのは目に見えている。


 知ったことか!

 真正面から殴りつける。当たるわけのない攻撃だ。

 カウンターを合わせられてしまい、偽四季のパンチが僕の鼻に直撃する。

 拳が顔面にめり込んで、メキメキって嫌な音が聞こえた。鼻が折れたか歯が折れたかだろう。


 不思議と痛みを感じない。頭がおかしくなったのかな。脳内物質が分泌されていて、何も感じなくなっているとも考えられる。

 痛くないなら好都合だ。どんどん攻撃する。

 四季も加勢してくれて、再び激闘だ。三人がもみくちゃになりつつ、不格好な殴り合いを繰り広げる。


 僕の目の前は真っ赤に染まっている。目に血が入ったんだ。

 視界が悪いけど、偽四季の顔は見えているし問題ない。

 むしろ、偽四季以外は目に入らなくなり、体も軽くなる。なかなか当たらなかったパンチが、ようやく偽四季を捉えた。


 さっきはメキメキだったと思えば、今度はブチブチって音が聞こえる。

 偽四季じゃなくて、僕の腕から発せられる音だ。

 いや、腕だけじゃない。足も体も、全身から壊れる音が鳴る。


「速峰春真! 止まって!」


 四季は、おそらく大声で叫んだんだろう。

 僕の耳には、碌に届かない。何十メートルも離れた位置から話しているような小声としか感じない。


「春ちゃん! ダメ!」


 こっちは姉の声かな。

 二人の姉に心配をかけてしまい申し訳ないけど、意識から外す。


「リーダー命令よ! 止まりなさい速峰!」

「春真!」


 多分、葉月さんと冬将の声だ。

 でも、ごめんね。聞けないよ。

 僕は戦うんだ。みんなを守るんだ。全兎を手に入れるんだ。

 親友を失い、恋人を失い、クラスメイトを失い、仲間を失い。

 多くのものを失ってきたから、ここにいるみんなは失いたくない。


「舐めるな! 俺は最強だ!」

「知るか! 最強でも、僕の望む全兎は奪わせない!」


 拳をふるうたびに、僕の肉体は壊れてゆく。

 壊れ切る前に、倒せばいいだけだ。単純明快だね。

 決着まで、長い時間は必要ない。一分とかからずに終わる。

 お願いだから壊れないでよ。

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