表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕たちは明日に向かう  作者: ともむらゆう
第3章 明日への一歩
84/92

八十四話 自作自演

 政治家が四人いる。自己紹介はしてくれたけど、肩書きとか覚え切れないよ。

 与党の議員が二人で、野党の議員が二人だ。総理大臣だけは、かろうじて理解できた。政治家のトップだよね。


 交渉するのは、主に総理大臣らしい。

 こっちは葉月(はづき)さんで、二人が中心になって話し合いを行う。

 堅苦しい挨拶は抜きにして、いきなり本題だ。


「今は、日本中で新人類が覚醒していると聞きます。新人類を滅ぼそうとしているのかもしれませんけれど、不可能です。戦いをやめてください」

「不可能と言い切る根拠は?」

「殺しても新しい新人類が覚醒します。今まで普通の人間だった人が、ある日突然新人類に覚醒するのです。年齢、性別、身分、いずれも関係ありません。誰が新人類に覚醒するか分からず、覚醒するたびに殺すことになります。殺して覚醒して、殺して覚醒して、この繰り返し。戦いは永遠に終わりません」


 兵士たちを説得する時も使った言葉だし、葉月さんの口からはスラスラと出ていた。相変わらずよく通る声だ。

 相手の四人は、それぞれ考え込んでいる。

 口を開くのは総理大臣だ。


「では、旧人類と新人類が手と手を取り合い、仲良くしろと?」

「仲良くは無理でしょう。今まで争ってきましたし、確執があり過ぎます。いきなり仲良くと言われても、感情的に納得できません。わだかまりが解消するには長い時間がかかります。時間をかけて、互いに歩み寄りながら少しずつ、ですね」


 何年かかるかは分からない。何十年かもしれないし、確執が完全に消えてなくなることもなく、根強く残るだろう。

 それでも、なんとかやっていくしかないんだ。

 旧人類と新人類、片方の理想を百パーセント押し付けるのは無理だ。我慢する部分は我慢して、共存の道を探る。


「問題が起きないとは思えないが」

「いきなり全て解決するとは考えません。できるならとっくに解決しています。今のような状況にはなっていません。私たちが提案したいのは、新人類を人として認め、日本国民として受け入れることです。新人類の町を広げ、基本的にはそこで暮らせばいいでしょう。ただし、記憶を奪うのはやめ、手続きを踏めば外にも出られるようにします」


 新人類を国民として認めるとしても、義務はどうするか。権利はどうするかっていう問題がある。

 たとえば納税だ。隊長さんも言っていたけど、町にいる新人類は税金を納めていなかった。なのに、物資は要求し、不自由なく暮らしていた。

 旧人類としては不満だ。なんで怪物ごときが、自分たちを差し置いて裕福な暮らしをしているんだって感じる。


 じゃあ、税金を納めるようにすればいいのか。

 そんなに簡単じゃない。今度は、税金を納めているのに町に押し込められ、自由に移動もできないのは不公平だって文句が出る。まともな仕事にも就けず、権利が大幅に制限されてしまうのはよくない。


 ここら辺は、僕たちじゃうまい案は出ない。

 何をどうするか、政治家に頑張ってもらわなきゃ。

 あちらを立てればこちらが立たずって展開になるし、大変だと思うけど。


「どうも納得がいきませんね」


 口を挟んだのは、一人だけ若い政治家だ。


「ああ、形にはこだわらないのですよね? ワタシが発言してもよろしい?」


 総理大臣に確認を取り、頷いたところで続きを話す。


「葉月さん、でしたか? あなたのお話をうかがっていると、我々人類が一方的に怪物を迫害し、滅ぼそうとしているように聞こえます。現在暴れているのは怪物たちですよ? 我々は被害者です。好き勝手に暴れ、人を殺し、奪い、犯しておきながら、綺麗さっぱり忘れて受け入れろと。無茶苦茶ですね」

「罪は、『人間の』法律で裁けばよいでしょう。新人類だからといって、問答無用で殺すような真似はせず、法に則ってです」

「なるほどなるほど。怪物ではなく、人間として扱えとおっしゃりたい」

「はい」

「しかし、怪物を人間として扱った時、我々人類に利益がありますか? 歩み寄りと言いつつ、人類だけが我慢を強いられ、損をする流れです。人類側に一切の利益がないのに、なぜ受け入れなければならないのですか?」

「利益でしたら、争いが収まることが一番の利益ではありませんか?」

「そこです。そこに認識の齟齬があるようですね」


 認識の齟齬と言われて、葉月さんは意味が理解できていないみたいだ。言葉に詰まっている。

 男性は、出来の悪い子供を諭すような口調で説明する。


「あなたは、戦いを止めるためには、怪物を殺しても無駄だとお考えだ。殺しても新しく覚醒するため、永遠に終わらないと。我々は違うのですよ」

「違う? 新人類を皆殺しにすれば、新たに覚醒もしなくなり、全てが解決すると考えているのですか?」

「はい、そうです。今回の怪物大量発生は、人為的に引き起こされたと考えます」

「私たちを疑っているのですか? 自作自演だと?」

「有体に言えば」


 うわ、そうくるのか。

 新人類の覚醒は、僕たち新人類の手で引き起こされている。

 目的は、今訴えている内容そのままだ。


 新人類を殺しても覚醒するだけであり、戦争は終わらない。戦っても無意味だから戦いをやめ、新人類を受け入れて共存していこう。

 平時にこんな発言をしても聞いてもらえない。聞いてもらうために、新人類を覚醒させ、暴動も起こしていると考えていた。


「新人類の覚醒に、私たちは関与しておりません」

「ええ、認めるとは思っていませんよ。証拠もないですしね。しかし、怪物が覚醒し続ける証拠も出せないのでは?」

「証拠といいますか、証人なら……」


 葉月さんは睦月(むつき)たちを見たけど、首を横に振られてしまう。


十二月(じゅうにつき)の睦月が死に、俺が覚醒した。そう言いたいのだろうが、通用しない」

「だな。新人類の覚醒を自作自演だと思われているのだ。俺たちの覚醒も同じだと言われるだけだ」


 睦月や卯月(うづき)でも、葉月さんをフォローできなかった。

 僕たちは、十二月の異様な覚醒スピードを体験し、知っている。

 相手は知らないんだ。僕たちを疑っている以上、言葉は届かない。


「で、では、どうするつもりですか? あくまでも、新人類を全滅させようと?」

「それが最善でしょう。日本国に怪物は不要です。ですよね、総理」


 総理大臣は、眉間にしわを寄せて考え込んでいた。

 若い政治家は、先ほどからずっと「怪物」と呼んでいる。新人類を人間扱いしておらず、恐ろしい怪物であると考えているから、「新人類」とは呼ばないんだ。


 総理大臣は違う。「新人類」と呼んでいた。

 交渉をスムーズに進めるためかもしれないけど、若い人よりは話が通じそうだ。


「私は、日本国と日本国民を第一に考える」


 総理大臣の口から出たのは、こんな言葉だった。

 続きもあるので、大人しく聞こう。


「新人類を殲滅し、平和が訪れるのであれば、迷わずそちらを選ぶ。殲滅が不可能であり、次々と覚醒する無限ループが続くのであれば、和平の道を選ぶ」

「総理ともあろうお方が、問題発言ですねえ。怪物に迎合するなど、引責辞任では済みませんよ。売国行為であり、犯罪者です」

「うむ、まったくだ。正式な会談ではないからといって、総理の発言に責任が伴わないわけではない。これは責任を問われますなあ」


 なんか、面倒臭い人たちだなあ。

 野党議員二人が、総理大臣を責めている。

 まさか、暴動が起きている今の状況で、自分の利益しか考えていない? もう少しまともな人を連れてきてもらいたいよ。


「私も、新人類覚醒が自作自演である疑いは持っている。だが、殺しても問題が解決しないという意見にも一理あると考える。お二方にうかがいたい。自作自演であると決めつける根拠は?」

「根拠も何も、怪物が死ねば新しい怪物が誕生する、などという話を聞いたことがありますか? ワタシには、怪物が自分たちに都合のいい設定を考え、持ち出したとしか思えませんね」

「新人類が、自由自在に新人類を生み出せるという話も聞いたことがない。それはどう説明する?」

「怪物の生態や能力は解明できていません。あり得る話でしょう」

「自分で言っていて、矛盾していると思わないか? 片や、話を聞いたことがないのであり得ない。片や、話を聞いたことがないがあり得る」

「総理! あなたはどちらの味方ですか!」


 ダブルスタンダードな態度を指摘されたら、声を荒らげていた。

 この人は、相手にする価値がない。常識に疎い僕ですら思うし、葉月さんたちも当然思っている。


「ふう……話を戻すが、今回の事件が自作自演である可能性は排除し切れない。とはいえ、可能性は低いとも考える。新人類が新人類を覚醒させているなら、やり口が中途半端だからだ。日本中の旧人類を新人類にしてしまえばいい。制約があり、人数が限られるなら、狙うのは一般人ではなく私たちだろう」

「ご理解いただけて助かります」

「ゆえに、私は新人類の提案を受け入れることを前向きに検討する」


 おお! 話の分かる人だ!

 前向きに検討するだし、確約ではない。反対意見も多いだろうし、安心はできないけど、解決の糸口が見えてきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ