八十四話 自作自演
政治家が四人いる。自己紹介はしてくれたけど、肩書きとか覚え切れないよ。
与党の議員が二人で、野党の議員が二人だ。総理大臣だけは、かろうじて理解できた。政治家のトップだよね。
交渉するのは、主に総理大臣らしい。
こっちは葉月さんで、二人が中心になって話し合いを行う。
堅苦しい挨拶は抜きにして、いきなり本題だ。
「今は、日本中で新人類が覚醒していると聞きます。新人類を滅ぼそうとしているのかもしれませんけれど、不可能です。戦いをやめてください」
「不可能と言い切る根拠は?」
「殺しても新しい新人類が覚醒します。今まで普通の人間だった人が、ある日突然新人類に覚醒するのです。年齢、性別、身分、いずれも関係ありません。誰が新人類に覚醒するか分からず、覚醒するたびに殺すことになります。殺して覚醒して、殺して覚醒して、この繰り返し。戦いは永遠に終わりません」
兵士たちを説得する時も使った言葉だし、葉月さんの口からはスラスラと出ていた。相変わらずよく通る声だ。
相手の四人は、それぞれ考え込んでいる。
口を開くのは総理大臣だ。
「では、旧人類と新人類が手と手を取り合い、仲良くしろと?」
「仲良くは無理でしょう。今まで争ってきましたし、確執があり過ぎます。いきなり仲良くと言われても、感情的に納得できません。わだかまりが解消するには長い時間がかかります。時間をかけて、互いに歩み寄りながら少しずつ、ですね」
何年かかるかは分からない。何十年かもしれないし、確執が完全に消えてなくなることもなく、根強く残るだろう。
それでも、なんとかやっていくしかないんだ。
旧人類と新人類、片方の理想を百パーセント押し付けるのは無理だ。我慢する部分は我慢して、共存の道を探る。
「問題が起きないとは思えないが」
「いきなり全て解決するとは考えません。できるならとっくに解決しています。今のような状況にはなっていません。私たちが提案したいのは、新人類を人として認め、日本国民として受け入れることです。新人類の町を広げ、基本的にはそこで暮らせばいいでしょう。ただし、記憶を奪うのはやめ、手続きを踏めば外にも出られるようにします」
新人類を国民として認めるとしても、義務はどうするか。権利はどうするかっていう問題がある。
たとえば納税だ。隊長さんも言っていたけど、町にいる新人類は税金を納めていなかった。なのに、物資は要求し、不自由なく暮らしていた。
旧人類としては不満だ。なんで怪物ごときが、自分たちを差し置いて裕福な暮らしをしているんだって感じる。
じゃあ、税金を納めるようにすればいいのか。
そんなに簡単じゃない。今度は、税金を納めているのに町に押し込められ、自由に移動もできないのは不公平だって文句が出る。まともな仕事にも就けず、権利が大幅に制限されてしまうのはよくない。
ここら辺は、僕たちじゃうまい案は出ない。
何をどうするか、政治家に頑張ってもらわなきゃ。
あちらを立てればこちらが立たずって展開になるし、大変だと思うけど。
「どうも納得がいきませんね」
口を挟んだのは、一人だけ若い政治家だ。
「ああ、形にはこだわらないのですよね? ワタシが発言してもよろしい?」
総理大臣に確認を取り、頷いたところで続きを話す。
「葉月さん、でしたか? あなたのお話をうかがっていると、我々人類が一方的に怪物を迫害し、滅ぼそうとしているように聞こえます。現在暴れているのは怪物たちですよ? 我々は被害者です。好き勝手に暴れ、人を殺し、奪い、犯しておきながら、綺麗さっぱり忘れて受け入れろと。無茶苦茶ですね」
「罪は、『人間の』法律で裁けばよいでしょう。新人類だからといって、問答無用で殺すような真似はせず、法に則ってです」
「なるほどなるほど。怪物ではなく、人間として扱えとおっしゃりたい」
「はい」
「しかし、怪物を人間として扱った時、我々人類に利益がありますか? 歩み寄りと言いつつ、人類だけが我慢を強いられ、損をする流れです。人類側に一切の利益がないのに、なぜ受け入れなければならないのですか?」
「利益でしたら、争いが収まることが一番の利益ではありませんか?」
「そこです。そこに認識の齟齬があるようですね」
認識の齟齬と言われて、葉月さんは意味が理解できていないみたいだ。言葉に詰まっている。
男性は、出来の悪い子供を諭すような口調で説明する。
「あなたは、戦いを止めるためには、怪物を殺しても無駄だとお考えだ。殺しても新しく覚醒するため、永遠に終わらないと。我々は違うのですよ」
「違う? 新人類を皆殺しにすれば、新たに覚醒もしなくなり、全てが解決すると考えているのですか?」
「はい、そうです。今回の怪物大量発生は、人為的に引き起こされたと考えます」
「私たちを疑っているのですか? 自作自演だと?」
「有体に言えば」
うわ、そうくるのか。
新人類の覚醒は、僕たち新人類の手で引き起こされている。
目的は、今訴えている内容そのままだ。
新人類を殺しても覚醒するだけであり、戦争は終わらない。戦っても無意味だから戦いをやめ、新人類を受け入れて共存していこう。
平時にこんな発言をしても聞いてもらえない。聞いてもらうために、新人類を覚醒させ、暴動も起こしていると考えていた。
「新人類の覚醒に、私たちは関与しておりません」
「ええ、認めるとは思っていませんよ。証拠もないですしね。しかし、怪物が覚醒し続ける証拠も出せないのでは?」
「証拠といいますか、証人なら……」
葉月さんは睦月たちを見たけど、首を横に振られてしまう。
「十二月の睦月が死に、俺が覚醒した。そう言いたいのだろうが、通用しない」
「だな。新人類の覚醒を自作自演だと思われているのだ。俺たちの覚醒も同じだと言われるだけだ」
睦月や卯月でも、葉月さんをフォローできなかった。
僕たちは、十二月の異様な覚醒スピードを体験し、知っている。
相手は知らないんだ。僕たちを疑っている以上、言葉は届かない。
「で、では、どうするつもりですか? あくまでも、新人類を全滅させようと?」
「それが最善でしょう。日本国に怪物は不要です。ですよね、総理」
総理大臣は、眉間にしわを寄せて考え込んでいた。
若い政治家は、先ほどからずっと「怪物」と呼んでいる。新人類を人間扱いしておらず、恐ろしい怪物であると考えているから、「新人類」とは呼ばないんだ。
総理大臣は違う。「新人類」と呼んでいた。
交渉をスムーズに進めるためかもしれないけど、若い人よりは話が通じそうだ。
「私は、日本国と日本国民を第一に考える」
総理大臣の口から出たのは、こんな言葉だった。
続きもあるので、大人しく聞こう。
「新人類を殲滅し、平和が訪れるのであれば、迷わずそちらを選ぶ。殲滅が不可能であり、次々と覚醒する無限ループが続くのであれば、和平の道を選ぶ」
「総理ともあろうお方が、問題発言ですねえ。怪物に迎合するなど、引責辞任では済みませんよ。売国行為であり、犯罪者です」
「うむ、まったくだ。正式な会談ではないからといって、総理の発言に責任が伴わないわけではない。これは責任を問われますなあ」
なんか、面倒臭い人たちだなあ。
野党議員二人が、総理大臣を責めている。
まさか、暴動が起きている今の状況で、自分の利益しか考えていない? もう少しまともな人を連れてきてもらいたいよ。
「私も、新人類覚醒が自作自演である疑いは持っている。だが、殺しても問題が解決しないという意見にも一理あると考える。お二方にうかがいたい。自作自演であると決めつける根拠は?」
「根拠も何も、怪物が死ねば新しい怪物が誕生する、などという話を聞いたことがありますか? ワタシには、怪物が自分たちに都合のいい設定を考え、持ち出したとしか思えませんね」
「新人類が、自由自在に新人類を生み出せるという話も聞いたことがない。それはどう説明する?」
「怪物の生態や能力は解明できていません。あり得る話でしょう」
「自分で言っていて、矛盾していると思わないか? 片や、話を聞いたことがないのであり得ない。片や、話を聞いたことがないがあり得る」
「総理! あなたはどちらの味方ですか!」
ダブルスタンダードな態度を指摘されたら、声を荒らげていた。
この人は、相手にする価値がない。常識に疎い僕ですら思うし、葉月さんたちも当然思っている。
「ふう……話を戻すが、今回の事件が自作自演である可能性は排除し切れない。とはいえ、可能性は低いとも考える。新人類が新人類を覚醒させているなら、やり口が中途半端だからだ。日本中の旧人類を新人類にしてしまえばいい。制約があり、人数が限られるなら、狙うのは一般人ではなく私たちだろう」
「ご理解いただけて助かります」
「ゆえに、私は新人類の提案を受け入れることを前向きに検討する」
おお! 話の分かる人だ!
前向きに検討するだし、確約ではない。反対意見も多いだろうし、安心はできないけど、解決の糸口が見えてきた。




