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僕たちは明日に向かう  作者: ともむらゆう
第3章 明日への一歩
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七十七話 一夜明けて

 外の兵士が撤退して、安息の時間が訪れた。

 何事もなく、朝日を拝めるといいなって思っていれば、本当に拝めた。一晩もの時間があったのに、攻撃されなかったんだ。

 助かるけど不気味でもある。考えがまるで読めない。


 僕たちに休む時間を与える意味はないんだ。攻めて攻めて攻め続けて、数の暴力で押し切ればいい。

 兵士の犠牲者は増えてしまうけど、そんなのは最初から分かっていた。犠牲が出るのを覚悟の上で攻めてきた。

 今になって撤退する理由はない。僕たちを全滅させずに逃げるのは、死んでいった人たちの犠牲を無駄にする行為になる。


 何を考えているのやら。

 分からないけど、一晩を安全に過ごせたのは間違いない。

 一夜明けて翌朝、眠っていた人たちも起き出す。


「よし。万全とは言えないけど、かなり回復したわ」


 葉月(はづき)さんは、ストレッチで体をほぐしつつ、元気な声を出した。

 疲労困憊だったのに、一晩眠っただけで復活するんだから凄い。


「お腹空いた」


 空腹を訴えたのは四季(しき)だ。食い意地が張っている彼女にとって、まともな食事にありつけない状況は辛いだろう。


「私もお腹空いたわね。何日食べてないか忘れたわ」

「ダイエットになったと考えておけばどうだ?」

「デリカシーのない発言をしないで」


 長月(ながつき)の言葉に、葉月さんは顔をしかめていた。

 前任の睦月(むつき)も、葉月さんに対して太るとかなんとか言っていたっけ。彼が生きていた頃、喫茶店で会った時の一幕だ。懐かしい。

 ダイエットはともかく、戦って体力を消耗したメンバーは空腹だった。


「葉月(よう)、リーダーとして許可が欲しい」

「何を?」

「食べ物を探しに行く。町は崩壊しているけど、どこかに食べ物が埋まっているかもしれない」

「構わないけど、四季一人じゃちょっとね。何があるか分からないし、単独行動は避けたいの」

「私が一緒に行く」


 名乗り出たのは姉だ。

 四季と夏がいれば問題ないってことで、葉月さんも許可を出す。二人で出かけて行った。

 冬将(ふゆまさ)はまだ眠っていて、起きているのは五人になる。


「何を考えてるのかしらね」


 葉月さんが疑問を漏らした。


「休めたのは助かったけど、考えが読めないのは困るわ」

「僕も一晩考えてみたよ。結局、答えは分からなかったけど」

「長月の意見も聞かせてもらえる?」

「意見と言われてもな。俺よりも、軍の関係者だった卯月(うづき)神無月(かんなづき)の方が詳しいのでは?」


 長月に話を振られた二人は、しかしそろって険しい表情になった。

 二人でもよく分かっていない様子だ。分からないなりに推測を述べてくれる。


「戦略的な話をすると、兵力の三割を失えば全滅と見なされる。たったの三割で全滅はおかしいと思うかもしれないが、そうなっている」


 卯月の話は、確かにピンとこない。被害が三割で全滅扱いなんだ。

 僕たちなら、十二月(じゅうにつき)と春夏秋冬、さらに四季を合わせても十七人しかいない。

 五、六人死ねば全滅? 十人以上残っていれば戦えるのになって思う。

 少数精鋭のこちら側と、万単位の兵士がいるあちら側じゃ、一緒くたにはできないのかな。


「不思議そうな顔をしてるね」

「まあ、僕たちのことを考えれば、七割残れば戦えるって思いました」


 神無月は僕の内心を見抜いたようだ。

 三割失えば全滅の意味を教えてくれる。


「色々あってね。兵力って、戦闘を担当する兵士だけとは限らないでしょ。指揮官とか軍医とかもいる。私たちのケースとは同一視できないんだ。それに、三割も失うほどの戦闘なら、負傷者はその二倍三倍いてもおかしくない。組織的な戦闘が継続不可能になるし、三割で全滅って言われてる」

「へえ、勉強になります」


 知らなかった。自分が関わる戦いじゃなければ、まるで映画みたいで興味深く聞けたのにな。


「こんなうんちくはどうでもいいが、兵力を失って組織的な動きができなくなり撤退した。考えられる線はこれしかないが……神無月」

「腑に落ちないよねえ。三割も死んだ? 仮に死んだとしても、外にとっては引けない戦いだよ。ここで新人類を全滅させなきゃいけないの。新しい戦力を送り込んできそうなのに」

「ならば、埒が明かないと判断したか?」


 これは長月の意見だ。僕の方を見つつ話す。


速峰(はやみね)春真(はるま)も言っていたが、十二月を殺しても、一日ともたたずに覚醒する。全滅させても永遠に終わらない。予想よりも早いが、気付いたので撤退した」

「あり得そうですね」

「もしくは、外にいる十二月たちが何かやったかだな」

「うーん……そっちはなさそうな気がします。絶対にないとは言えませんけど」


 こう言っちゃなんだけど、睦月は頼りにならないリーダーだった。

 他のメンバーも、新人類の町を見捨てる方針だったし、特別な行動を起こすかというとやらないだろう。


「僕たちが全滅し、新しい十二月や春夏秋冬が覚醒するのを待ちそうなんですよ。戦力を十全に整えてから反撃するんじゃないかなって」

「そうなのか?」

「僕も彼らの人格を詳しく知っているわけじゃありませんし、多分としか。姉に聞けばいいかもしれませんね」


 僕よりも、姉の方が睦月たちとの付き合いは長い。性格も知っている。

 姉は四季と一緒に食べ物を探しに行ったから、戻ってきた時に聞こう。

 外にいる人たちの考えも重要だけど、こちらの方針も決める。これからどうするべきか。

 リーダーの葉月さんが仕切り、話し合いだ。


「ここに残るか、外に攻め込むかよね。物凄く楽観的な考えになるけど、戦いが不毛だと気付いて撤退したなら、向こうから接触してくるかもしれないわ。これまでは交渉できなかったけど、できるかも」


 いつまでたっても戦いが終わらないと悟った。

 町に閉じ込めておく方がいくらかマシだし、和平の道を選ぶ。

 悪くない結末だね。そうなってくれればラッキーだ。


「私たちが外に出て刺激してしまえば、交渉できなくなるかもしれない。待つ方が得策になる。ただ……」

「戦力を整え直し、改めて攻めてきた場合だな」

「ええ。黙って待っていれば不利になる可能性も高い。弱ったわね」


 どちらが正解か分からないせいで、葉月さんは困り果てていた。


「しばらく様子を見る?」

「それはダメ」


 僕の提案は、妙に強い口調で拒否された。


「速峰が使者として外に出たあと、なかなか戻ってこなかったでしょ。交渉に時間がかかっているだけならいいけど、既に殺されている可能性も考えたのよ。殺されている人間をいくら待っても無駄だし、外に攻め込むべきかって」

皐月(さつき)たちに助けられて生きていたけど、ずっと気を失った状態だったね。交渉どころじゃなかった」

「今になって考えるなら、外に攻め込むのが最善策だったって分かるわ。あの時は分からなかったから待とうとして、限界だってなった時にようやく攻め込む決断をしたの。でも遅かった。外の方が決断は早くて、町に攻め込まれて……」


 そして、今の状況になっているってわけか。

 全部終わってからなら、あの時はああするのが正解だったと判断できる。

 答えを知っているし、なんでも言えるよ。後出しジャンケンみたいなものだ。

 情報が少ない中、最適な行動を選び続けるのは、全知全能の神様でもなければ不可能だ。待つと決断した葉月さんは間違っていない。


「今回は、決断が遅かったってことにしたくないの。だから様子見はダメ。何をするにしても、すぐに決めましょう」

「待つとすれば、交渉しようと言ってくれるのを待てばいいんだよね? 外に出るとすれば、戦いに行く? こちらから交渉を求めに行く?」

「それも含めて決めるの。四季と夏帆(かほ)を行かせたのは失敗だったわね」

「私が呼び戻そうか? 私は、神無月の能力でテレパシーが使えるよ?」

「本当? お願い」


 食べ物を探しに行ってから時間もたっていないけど、呼び戻すことになった。

 どうしても場当たり的になっちゃうな。

 神無月が連絡してくれて、二人の帰りを待つ。もちろん、黙って待っているのは時間がもったいないので、話し合いも継続する。


「僕たちの選択肢は三つ……ってことでいいんだよね?」

「そうね。町で待つ。外に攻め込む。外に交渉を求めに行く。この三つよ」

「僕としては三つ目がいいかな。何度も言ってるように、この戦いは永遠に終わらない。十二月は何度でも覚醒する。これを訴えて、戦いをやめるチャンスだ」


 旧人類も新人類も、お互いに大勢の犠牲者が出た。

 相手を憎む気持ちは消せない。わだかまりは残り続ける。

 だとしても、不毛な戦いを継続するのはごめんだ。仲良くするのは無理だけど、以前のような冷戦状態に戻れればいい。

 甘ったれているって言われるかと思った僕の意見は、意外にも認められる。


「私も速峰に賛成ね。全員の意見を聞かなきゃ決められないけど」

「リーダーは葉月なのだから、決めてもいいのでは?」

「見落としがあるかもしれないでしょ。様子見はできないけど、拙速がいいとも思えないわ」


 じっくりと話し合いをする時間はない。

 時間がない中で、精一杯考えて行動しようってことだ。

 四季と姉を呼び戻したし、冬将も起こそう。全員で決める。

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