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僕たちは明日に向かう  作者: ともむらゆう
第3章 明日への一歩
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六十七話 早過ぎる覚醒

「ここは……町?」


 合言葉を唱え、壁をすり抜けた先は、屋外になっていた。

 青空と太陽が見える。コンクリートの地面に、立ち並ぶ家々。人通りはなく、自動車も走っていないし静かだ。


 新人類の住む町、時忘(ときわす)(ちょう)だと思う。

 ドーム周辺の様子とは全然違うし、今日は雨も降っていた。ドーム内部をグルグル走り回った挙句、外に出てしまったと考えるよりは、町に入ったと考える方が筋は通る。


 疑問があるとすれば、静か過ぎることだ。

 戦闘の真っ最中って割には、家は壊れていないし、人が死んでいたりもしない。


「ああ、そっか、完全に町に入ったわけじゃなくて、まだ結界内部なんだ」


 町と外を隔てている結界の中にいるので、一見すると平和になっている。


「ここが新人類の町なんだ。無事に入れたんだね。一時はどうなるかと思ったよ」

「あの声のおかげだね」


 僕たちを導いてくれた謎の声のおかげで、こうして町に入れた。

 結局誰なのかは分からないけど。


夏帆(かほ)、降ろして」

「大丈夫? 動ける?」

「なんとかね、運んでもらえて助かったよ」


 姉に抱えられていた霜月(しもつき)が、自分の足で地面に立つ。

 片腕を失っていて、血も多く流しているのに、足取りは意外なほどしっかりしていた。さすが十二月(じゅうにつき)だ。


速峰(はやみね)君、この先はどこに行けばいいか分かるかな?」

「ここは、おそらく結界の中です。町と外を隔てる結界ですね。先に進めば結界を抜け、町に入れるはずです」

「新人類の町……戦闘の真っただ中にか」

「はい。霜月さんやお姉ちゃんの怪我もありますし、なるべく戦わずに逃げたいですよね。町に入れば、霜月さんは十二月同士で居場所が分かりませんか? そっちに向かうのがいいかと思います」


 一刻も早く合流したい。みんなが無事でいるか心配だし、長月(ながつき)に怪我の治療をしてもらいたい。


「じゃあ、行こうか。僕の腕を治してもらわないと、いずれ気を失いそうだ」

『待って待って。あと一分待って』


 僕たちを止めたのは、例の声だった。

 ここまで導いてくれておしまいかと思ったのに、まだ何かあるのかな。

 三人で顔を見合わせる。


「待つ?」

「待ってみる?」

「待ってみようか」


 僕、姉、霜月の順で声を出した。大体同じ意見だ。

 一時間待てって言われたら断るけど、一分なら待ってもいい。恩もあるしね。

 言われた通り一分待てば、僕たちが抜けてきた場所から二人の人物が現れた。

 男性一人に女性一人だ。二人とも二十代前半くらいかな。

 軍服を着ているし、パッと見だと敵に思えるけど、味方なんだろう。

 なお、僕はどちらの顔も知らない。


「合流できてよかったよ」


 女性が声をかけてきた。

 謎の声にそっくりだ。この人が、僕たちを助けてくれた?


「はじめましてだね。わたしは神無月(かんなづき)。覚醒したての神無月だよ」

「神無月!? あなたが!?」

「俺は卯月(うづき)だ。よろしく」

「神無月に続いて卯月も? てことは……」


 新しい神無月と卯月が覚醒しているのは、僕の知る神和(かんな)と卯月ララが死んだ証でもある。


「神和……卯月……」

「悲しむのは仕方ないけど、立ち止まってる場合じゃないよ。歩きながら話そう」


 神無月に言われて、五人で歩き出す。

 歩くというか、小走りだね。なるべく急ぎたい。

 小走りで進みつつ、神無月から事情を教えてもらう。


「わたしと卯月が覚醒したのって、本当に最近なんだよ。一日もたってないね。十時間くらい前かな。能力を使ったのも初めて。うまくいくか不安だったよ」

「僕が感じていた気配は、やはりあなたたち二人のものですね。十二月がいるはずないのに、気配を感じるから不思議でした」


 霜月は、十二月同士なので気付いていたんだ。信用したのも十二月だからだ。

 あの声は、神無月のテレパシーだった。自分の声を届けるのはもちろん、こちらの声を拾うこともできるんだろう。

 謎の声の正体や、声が聞こえていた仕組みは理解した。

 でも、理解できない部分もある。


「いくらなんでも、覚醒するのが早過ぎませんか?」


 計算が合わない。

 僕が町を出てから一週間ちょっと経過している。一週間前までは、卯月も神和も生きていた。僕も会っているし間違いない。

 僕が攻撃されて意識を失い、直後に町に攻め込んだと仮定しても、すぐに殺されるほど弱くはないはずだ。十二月の二人があっさり殺されてしまうほどの戦力差があれば、今頃は新人類側の全滅で戦いが終わっている。


 いつ殺されたのかって考えると、せいぜいで三、四日前だろう。もっと直近で、昨日や一昨日の可能性も高い。

 ほんの数日で新しい十二月が覚醒する? しないと思うんだよなあ。

 如月(きさらぎ)紺屋(こうや)さんの覚醒を知っているし、二人と比較して明らかに早い。皐月(さつき)たちよりもさらに早い。


「早いの? わたしたちじゃよく分からないけど」

「僕が知る限りでは、相当早いです。町にいる十二月に聞けば、何か分かるかもしれません。ところで、話は変わりますけど、お二人は軍関係者ですか?」

「そうだよ。覚醒するまでは、新人類は敵だって思ってた。覚醒して、どっちの味方をするか悩んだけど」

「怪物になりました、なんて言えば身の破滅だ。新人類の味方をするしかない」


 神無月の言葉を、卯月が補った。

 消極的な理由だけど、味方になってくれるんだし文句はない。戦力は多い方がいいからね。


「わたしたちが、こうして町までついてきているのは、外にいれば捕まるからなんだよ。今までなら、捕まって記憶操作を行ったのち、町に入れるって流れになっていた。戦争中だと、即処刑になってもおかしくない。捕まえておく余裕はないし、怪物相手なら裁判もいらなくて処刑できる」


 十二月に覚醒してしまった時点で、戦う以外の道は残されていない。戦わなければ殺されるなら、生きるために戦う。

 外の人たちからすれば、怪物は大人しく死ねって考えるかな。抵抗して旧人類の平和を脅かすんじゃないって。

 ただ、この覚醒ペースだと……


「十二月を殺しても意味がない?」

「どうして意味ないの?」


 僕の呟きに反応したのは姉だ。


「さっきも言ったように、覚醒が相当早いんだよ。数日で、下手したら一日未満で覚醒しているペースになる。これはいつ終わる? ()()()()()()()()()


 十二月を皆殺しにする。新人類も皆殺しにする。

 敵はいなくなりました。めでたしめでたし。

 にはならない。時間稼ぎにすらならず、数日で新しい十二月が覚醒するだけだ。

 その人たちを殺しても次の十二月が。また次、次、次。

 永遠に続く。まるで呪いのように。


「殺さずに捕まえておく手もなくはない。残酷な話になるけど、四肢を切断して牢屋に閉じ込めて、チューブとかで栄養を投与して生かしておく。自殺されると困るから、それもできないようにする」

「怖いね」

「だけど……僕の勝手な予想、いや予想にもなってない願望かもしれないけど、これでも新しい十二月は覚醒するんじゃないかなって」


 覚醒ペースがどんどん早まっている。

 如月たちよりも皐月たち、皐月たちよりも神無月や卯月。十二月が死に、新しい人が覚醒するたびに早まる。


「うまい言葉が思いつかないけど、防衛本能みたいなもの? まるで、新人類が滅びないために、覚醒ペースを早めているっていうか」


 滅ぼされたくない。生きたい。

 その思いが、個人単位じゃなくて、新人類全体を守る方向に進む。

 覚醒ペースが早まるのは序の口だ。旧人類が対策を打ち出せば、新人類の防衛本能も高まる。死んでいなくても、十二月としての役目を果たせなくなった時に、新しい十二月が覚醒するとかさ。

 自分で言っておいてなんだけど、突拍子もない意見だ。


「興味深いね。殺しても殺しても復活する。いずれは旧人類が全て新人類に覚醒する。新人類を殺せって叫んでいた政治家とかが新人類になれば、一体どうするんだろうね。戦争とかやってる場合じゃなくなってくれるかな」


 突拍子もない意見なのに、霜月は支持してくれた。

 僕と同じで、願望も含まれていると思う。今のままじゃ着地点の見えない戦いが延々と続くだけだし、どこかで手を打ちたい。

 もしも、防衛本能があるとすれば、交渉次第ではうまくいくかも。

 その交渉テーブルに着くのが難しいけど。


 話しているうちに、僕たちは結界を抜けた。

 綺麗な町並みから打って変わって、荒廃した世界が広がる。

 空だけは変わらずに青いけど、町の様子は酷いものだ。何もかもが壊され、人の死体も転がっている。

 町の住人らしき人も、外の兵士らしき人もだ。


「霜月さん、十二月の居場所は把握できますか?」

「うーん……分かるような、分からないような……ちょっと難しいかも」

「わたしは感じるよ」

「俺もだ」


 霜月は難しいと答えたのに、神無月と卯月は分かると豪語した。

 序列の問題なのか、あとから覚醒した人の方が強いのか。

 いずれにせよ、分かるならそっちに行こう。


「どこですか?」

「あちこちに散らばってる。多分、戦ってるんだと思う。どこに行けば……」

「向こうが怪しいな。気配が一番弱い。何かに守られつつ隠れてるって雰囲気だ」


 卯月が教えてくれた方に向かうことにした。

 みんなと合流するまでもう少しだ。

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