表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕たちは明日に向かう  作者: ともむらゆう
第3章 明日への一歩
66/92

六十六話 謎の声

 ドームに接近すれば兵士の数も増える。

 僕じゃ詳しく分からないけど、強そうな兵器も設置されている。そして、ドッカンドッカンと集中砲火だ。耳がおかしくなりそうな轟音が響く。

 姉や霜月(しもつき)がいくら強くても、食らえばひとたまりもない。

 生きた心地がしないけど、できるのは駆け抜けることだけだ。


 姉に抱きかかえられている僕は、自力で駆け抜けることもできない。ハラハラしつつ状況を見守る。

 夏に覚醒している姉は、僕を抱えていてもなお、霜月より動きがいい。

 相手からすれば、狙いを定めることもままならないみたいだ。

 軽やかに避け、駆け抜け、兵士がいる中にわざと突っ込む。これなら、味方への被害を恐れて攻撃しにくくなる。


 多分、ここにいる全員を殺そうと思えば、僕たち三人じゃ無理だ。

 覚醒している秋を含め、十二月(じゅうにつき)のメンバーを連れてきても足りない。

 戦っているうちに援軍が押し寄せてきて、数の暴力で潰される。

 今は、相手を殺すのが目的じゃない。まともに戦わず逃げればいい。

 これならなんとかなりそうだと思える。


「何をしている! そいつらを止めんか!」


 兵士の中でも年を取っている人が叫んでいた。

 偉い人なんだろう。慌てつつも指示を出している。

 だけど、止めろと言われて止められれば苦労しない。個々の実力じゃ、姉や霜月には遠く及ばない。


「撃て!」


 埒が明かないと判断したのか、周囲の兵士を巻き込んでまで小型ミサイルを撃ち込んできた。

 でも遅い。着弾前に、姉も霜月もその場を離れていた。

 威力もたいしたことはなかった。こんな場所で、都市一つを消し飛ばすミサイルは使わないか。


 追尾型でもなく、味方に損害を出しただけで終わってしまう。

 むしろ、僕たちを手助けする形になった。混乱しているし、逃げやすい。

 攻撃をくぐり抜けて黒い壁に近付く。


「春ちゃん! 合言葉は知ってる!?」

「ま、町から外に出る時と同じ? それなら知ってる」

「唱えて!」


 姉に言われ、三人で合言葉を唱える。

 明日に向かう。

 時を忘れた町に入る時までこの合言葉なのは、似つかわしくない。

 至極どうでもいい感想を持った。


 僕の感想はさておき、三人で壁をすり抜け、中に入る。

 入口からとかじゃなくて、こうやって入る仕組みなんだ。もしくは、正規の入口もあるのかもしれないけど。

 ドームの中に入った途端、攻撃はやんだ。追いかけてくる様子もない。

 姉は僕を下ろしてくれて一息つく。


「春ちゃんは、怪我はない?」

「僕は平気。お姉ちゃんは?」

「お姉ちゃんは頑丈だよ。女の子が頑丈っていうのもあれだけどね」


 姉は、「怪我はない」とは答えず、「頑丈だ」と答えた。


「ちょっと見せて」


 もしやと思って確認すれば、背中に傷がある。見た感じ、結構深手だ。

 僕を抱えていたから、前方からの攻撃は受けないようにしたんだ。

 代わりに、姉の背中が……


「気にしないでいいよ。春ちゃんを守るのは、お姉ちゃんの役目だから」

「……ありがとう」


 お礼を言ったけど、ごめんって謝りたかった。

 力がなくてごめん。足を引っ張ってごめん。

 中途半端な力のせいで、何もできなくてごめん。

 謝罪して姉の傷が治るわけでもないし、喉元にこみ上げてきた言葉を呑み込む。

 悔やんでいる暇があるなら先に進もう。


「霜月さんは……その怪我!?」

「大丈夫……とは言えないけど、死ぬほどじゃないよ」


 霜月の右腕がなくなっていた。必死で止血しているようだけど、血は止まらずに流れ続ける。


「いやあ……避けられない攻撃があってね。右手で払ったらご覧の有様だよ。ドジ踏んだね」


 僕は無傷なのに、姉と霜月は重傷だ。

 僕が弱いから……いや、考えない。最初から分かっていたことだし、考えて強くなれるわけじゃないんだ。

 先に進む。それしかできない。


「行きましょう。町には長月(ながつき)がいます。僕も右腕を失った時に治療してもらいました。霜月さんの腕も治せます」

「治るならありがたいね」


 先に進むのはいいとして、どこに行けばいいんだろ?

 ドームの中は人の気配がなく、無機質な通路が左右に続いている。当たり前だけど、案内板とかはない。


「霜月さんは、町にいる十二月の気配を感じたりしませんか? その感覚を頼りにして進めばいいかなって思ったんですけど」

「さすがに遠過ぎるよ。何も感じな……い? あれ?」


 霜月は、キョロキョロと辺りを見回し始めた。

 僕もつられて周辺を見るけど、人もいないし変わった物もない。


「勘違い? 血を流し過ぎておかしくなった? いやでも……」

「何かあるんですか?」


 霜月が挙動不審になっているせいで、こっちも不安になってくる。

 ここは敵陣のど真ん中だ。どこからどんな攻撃を受けるか分からない。


「こっちに」


 霜月が歩き出そうとした時、異変が起きた。

 天井からガスが噴出されたんだ。

 毒ガス? 催涙ガス? 催眠ガス?

 種類は判別できないけど、こちらを害する物なのは間違いない。立ち止まっていたらやられる。


「春ちゃん!」


 姉が僕を抱きかかえ、霜月と一緒に走り出そうとする。

 僕はガスを吸い込まないよう息を止めて、両目も閉じる。


『そっちじゃないよ! 逆! 逆に進んで!』


 そこで誰かの声が届いた。甲高い声音で女性っぽいけど、神和(かんな)の例もあるし女性とは言い切れない。

 どこから聞こえているんだろ? 天井にスピーカーでも設置されていて、声が流れている?

 にしては、妙に近くから聞こえた。すぐ隣にいる感じだ。

 声の主の正体は? 何が目的? 信用して大丈夫なの?

 思考がグルグル回り、まとまらない。


夏帆(かほ)、行くよ! これは信じてもよさそうだ!」

「オッケー!」


 僕よりも霜月の方が決断は早かった。進もうとしていた方角とは逆に走る。


『そこを左! 右手側に扉が見えるから、三つ目に入って!』


 謎の声はどんどん指示を出してくれる。

 罠にはめようとしていると考えられなくもない。霜月だって、罠の可能性は考慮しているはずだ。

 だけど、この声を信じても大丈夫だと判断した。

 理由までは、僕じゃ分からない。詳しい説明を聞いている余裕もないし、声の主じゃなくて霜月を信じる。

 ドカッと何かを壊す音が聞こえた。霜月が扉を蹴破ったんだろう。


『真っ直ぐ走って! 途中で曲がらずに、ひたすら真っ直ぐ!』


 目を閉じている僕は、周囲の様子が見えない。

 でも、声は隣から聞こえ続ける。

 ホラーみたいだ。誰かの守護霊とかが助けてくれている?

 バカバカしいけど、怪物もいるしオバケがいてもおかしくないかなって。


 というか、そろそろ息が苦しくなってきた。

 強くなったおかげか、結構な時間息を止めていられるけど、限界が近い。


「春ちゃん、ガスはなくなったから息していいよ」

「ぶはっ」


 ナイスタイミングで姉が教えてくれた。

 姉の腕の中で、必死で酸素を取り込む。

 ついでに周囲を見るけど、僕たち三人以外はいない。本当にホラーだ。


『ごめん! 次、右!』


 謎の声が焦っていた。ひたすら真っ直ぐと言っていたのに、指示の内容も変わっているね。

 姉と霜月は、言われた通り右に曲がる。

 直後、僕たちが走っていた通路に銃弾がばらまかれた。あのまま走っていたらハチの巣だった。


『もっかい右! 二つ目の左扉を左!』


 焦っているせいだと思うけど、日本語も少し変だ。

 理解できないほどではないから問題ない。

 謎の声よりも問題なのは、姉と霜月の怪我だ。

 特に霜月は心配だ。走っている今も顔が苦痛に歪んでいる。


「早く……目的地に到着させて欲しいね……」

『ごめんね! 兵士を避けて遠回りしてもらってるの! あ、戻って! 右!』


 霜月は小声でぼやいていたのに、相手はきっちりと拾っていた。

 声を届けるだけじゃなくて、こっちの声も聞こえているみたいだ。

 兵士の位置も把握しているけど、これは監視カメラとかでチェックすればできなくはない。

 声はどうやっているの?


『み……左! ごめ、やっぱ真っ直ぐ! ああもう、数が多いし、しつこい!』


 あなたは誰で、どうやって声を届けているのかとか、聞ける状況じゃないね。

 後回しにしよう。


『もうすぐ扉が見えるから中に入って! 階段を上って! 下っちゃダメだよ!』


 言われた通りに進み、階段を駆け上がる。

 霜月が少し遅れ気味だ。僕を抱える姉よりも遅い。


「お姉ちゃん、僕は自分で走るから、霜月を抱えてあげて」

「そっちの方がよさそうだね。霜月」

「はぁ……夏帆に抱かれるとはね。僕より十歳以上年下の女の子に」

「抱かれるって表現はエッチっぽいからやめて」


 軽口を叩き合いつつ、姉は霜月をお姫様抱っこする。シュールな光景だ。

 僕は体力も十分に残っているし、先ほどのガスの影響もない。ここからは自力で走って行く。

 姉と一緒に階段を上る。一段飛ばしで軽やかに。

 身体能力が高まっているのが分かる。昔の僕が同じ真似をすれば、すぐにへばったに違いない。


『そこのドア!』


 扉の先は、再び無機質な通路になっていた。


『真っ直ぐ!』


 言われるまでもなく走っている。一本道だから、隠し扉でもない限りは真っ直ぐ走るしかない。


『まだ真っ直ぐね!』


 途中に見える扉や、左右の通路には入るなって意味だろう。

 似たような構造になっているせいで、指示してもらわないと確実に迷う。

 兵士の一人でも捕まえて、尋問して道を聞き出すくらいしか方法はないね。謎の声の人がいてくれてよかった。


『もうちょっとだよ!』


 もうちょっとの言葉を信じて、息を切らせつつ全力疾走だ。

 さすがに疲れてきた。姉も汗だくになっている。


『左!』


 言われて左の通路に入る。

 そこは袋小路になっていた。


『合言葉!』


 この人、合言葉の存在まで知っているの?

 正体は気になるけど、合言葉を唱える。壁を通れるようになった。

 そしてたどり着いた先は――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ