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僕たちは明日に向かう  作者: ともむらゆう
第3章 明日への一歩
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六十五話 突入

「次で降りるよ」


 電車に乗っていると、霜月(しもつき)に言われた。

 次か。電車を降りてからも歩くらしいし、すぐに戦闘にはならない。

 だとしても、気を引き締めて行こう。


 駅に停車し、他の乗客たちに交ざって僕たちも降りた。

 駅前は人でいっぱいだ。スーツを着ている人や学校の制服を着ている人が多く見られる。

 新人類の町では戦いの最中でも、外の一般人は日常生活を送っている。

 いつもと何も変わらない、平穏な一日だ。


「今日は平日なんですか?」

「平日だね。休日の方が野次馬も多いし、その点でも不利だ」


 僕が質問して、霜月が答えてくれた。

 空は暗くて雨粒が落ちている。大雨ではないけど、傘が必要なレベルだ。僕たちも駅で購入した傘をさしている。

 加えて平日となれば、野次馬も少ない。


 僕なんか、どこから見ても子供だし、学校に通っている年齢だ。平日に何をやっているんだって思われてしまう。

 見咎められずに済めばいいけど。

 不安になりつつ、町に向かって歩く。


 実は、駅を降りた時からそれらしき物が見えている。

 町はドームの中にあるって聞いていたけど、見えているのは黒色の壁だ。大き過ぎて全容は把握し切れない。

 あれがドーム。あの中に町がある。


 ドームの周辺には、民家や店の類はほとんどない。建物はあるけど、一般人が住む場所ではなさそうだ。

 スーツ姿の人も制服姿の人も、ドームの方へは歩いて行かない。

 会社や学校は、あっちにないんだろう。

 人の流れに逆らいながら、僕たち三人はドームの方へ。


 近付けば近付くほど人は少なくなる。

 私服姿の人もちらほら見かけるし、野次馬なのかな。僕たちだけだとさすがに不審に思われるから、野次馬がいてくれてよかった。

 野次馬たちを見て、姉がため息をつく。


「天候が悪くて平日なのに、暇人だねえ。春ちゃんくらいの年齢の人もいるよ。学校はどうしたんだろ?」

「おかげで助かるんだし、いいじゃない」

「そうだけどさ。私は覚醒したせいで、学校にも通えなくなっちゃったんだよ。学校に通えるのは幸せだって、通えなくなってから知ったよ。勉強が嫌とか人間関係がうまくいかないとか、問題はあるにしても、自分から幸せを放棄しているみたいでちょっとね」


 僕もしばらく学校に行っていないな。

 退屈な授業を繰り返す毎日だった。英語なんか面白くないし苦手だし、はっきり言って嫌いだった。

 通わなきゃいけないっていう義務感と、如月(きさらぎ)紺屋(こうや)さんのような友人に会えるのが楽しいから通っていたようなものだ。


 今は学校が恋しいよ。退屈で平凡な日常が戻って欲しい。

 つまらなくても、ちゃんと勉強しようと思える。学校に通えるのも勉強していられるのも、本当に幸せなんだなって。

 学校に通えるのは幸せって言った姉の言葉は、僕にも理解できる。


「お姉ちゃんって、僕の一歳上だよね? 高校二年生?」

「私は大学生になったよ。大学一年」

「え? そうなの?」

「春ちゃんは、新人類の町だと一年生だったの?」

「うん」

「春ちゃんがいなくなったのが一年生の時で、それから二年近くたってるよ」


 てことは、僕は二年間ずっと高校一年生をやっていたのか。

 四季(しき)は三年生の設定だって言っていたけど、あれも嘘だね。姉より年上だし大学生の年齢だ。

 大学生であの容姿か。本人には言えないし、心の中にしまっておこう。


速峰(はやみね)君、夏帆(かほ)、おしゃべりはそこまで」


 霜月に注意されて、僕と姉は会話を中断した。

 僕たちは、立ち入り禁止区域のすぐ近くに到着した。

 立ち入り禁止って割には、さほど厳重になっていない。フェンスというか柵というか、そういった物でバリケードが設置されている。

 高さは二メートルほど。入ろうと思えば、よじ登ってでも蹴破ってでも入れてしまう程度の囲いだ。


 ドームは大きいせいで、全体を強固に囲うのは無理だったのかな。

 武装した兵士が見張っているけど、こちらも人数は少ない。ドーム全体を警備しようとすれば、とんでもない人数が必要になるからだ。

 とはいえ、兵士を突破して入ろうと試みる人はいない。フェンスの傍に寄って写真を撮影していたりする。


「まずいね」


 霜月が小さく声を発した。

 何がまずいのか、僕にも分かる。

 帽子などは脱ぐように警告する看板があるんだ。髪の毛を隠すなって意味だ。


 ここはドームに近いから、怪物が出てくる可能性を考えてあるんだ。帽子を被っていれば疑われる。

 かといって、脱ぐわけにはいかない。

 注意されるまでは被っていよう。注意されてしまった時は……強行突破かな。

 もしくは、僕以外に注意を向けられれば。


「霜月さん、ここにいる人を操ることってできます? 操って帽子を被らせれば、僕もバレにくくなりますよね?」

「やってみよう」


 一旦立ち止まって、霜月が精神を集中する。

 どこまで操れるのか、範囲や効果時間はどの程度なのか、詳しいことは知らないけど、うまくいったみたいだ。


 周囲にいた人たちが、髪の毛を隠す行動をし出した。

 帽子やパーカーで隠したり、タオルを巻いたりと。

 自分の行動が分からなくて、不思議そうな顔をしている人もいる。

 ただ、脱ごうとはせずに、写真を撮り始めている。


「成功かな。ドームの傍で髪の毛を隠して、写真を撮影する。度胸試しみたいなものだって思い込ませたんだ。こういう『やり過ぎと思えるほどのいたずら』の方が注目を集めやすいからね。写真をネット上にアップしたりして自慢するんだ」

「凄いですね。そこまでできるんですか。霜月の能力は、死者を操るだけかと思っていました」

「前任の霜月の能力は知らないけど、僕はできるっぽい。死者の方が操りやすいのはあるよ。生きている人間の場合は、心にもない行動はさせられない。注目を浴びたいとか、興味本位で立ち入り禁止区域の中に入ってみたいとか、心の中で思っているから操れるんだ」


 制限はあるにしても、凄い能力だと思う。

 代替わりするごとに強化されていたりするのかな。

 さておき、野次馬たちのおかげで、僕が目立たずに済む。

 見張りの兵士たちも「髪の毛を隠さないでください」みたいな注意はしているけど、言うことを聞く人はいない。

 注意を無視して写真をパシャパシャ撮っている。


 再び「髪の毛を隠さないでください」の注意だ。

 苛立っている声だけど、暴力に訴えて無理矢理脱がそうとはしていない。

 射殺はもちろん、威嚇射撃すらやっちゃダメなんだろう。


 さらに、霜月が操っていない人まで、自主的に髪の毛を隠す。

 人間の心理だね。周囲がやっていれば、自分もやっていい気分になる。たとえ違反行為だとしても、「みんながやっているから」は感覚を麻痺させる。

 みんなもやっているのに、どうして自分だけ怒られなきゃいけないんだ? って考えるものだ。


「髪を隠すな!」


 ついに怒号が飛んだ。丁寧語でもなくなって、命令口調になっている。

 霜月に操られていない人は、これ以上はヤバいって判断して脱いだ。

 操られている人は、とうとう立ち入り禁止区域の中に入ろうとまでしている。

 これは注意するだけじゃ済まない。兵士が取り押さえる。

 応援も呼んでいるみたいだ。野次馬の方が多いから対処し切れない。


「今のうちに」


 霜月が歩き出す。

 ここから入るんじゃなくて、応援に駆けつけたせいで警備が手薄になった場所から入ろうと考えている。

 野次馬たちには悪いけど、生贄になってもらおう。

 殺されることはないはずだ。悪くても罰金で済む。


「立ち入り禁止区域の中にも兵士はいる。そっちはどうしようもないから、入ったあとは全速力で駆け抜けるよ」

「オッケー。春ちゃんは、お姉ちゃんが抱っこするね。抱っこした状態でも、お姉ちゃんの方が速く走れる。これでも覚醒済みの夏だから」


 格好悪いけど、事実なんだよね。

 ちょっと強くなった僕よりも、姉の方が強いし身体能力も高い。


「それと、もしお姉ちゃんが撃たれたら、春ちゃんは自分で走って行ってね。立ち止まらないで。春ちゃんを守るために一緒にいるんだから」

「……分かった」


 本当は分かりたくないけど、立ち止まれば全滅必至だ。

 僕は町に戻る――たとえ姉を犠牲にしてでも。

 僕の行動が正しいとは言えない。でも戻る。


「ここら辺でいいかな。入るよ」


 警備が手薄になっている場所で、霜月がフェンスを蹴破った。

 霜月と、僕をお姫様抱っこした姉が突入する。

 あとはもう、ひたすらに全力疾走だ。黒い壁、新人類の町があるドームを目指して一直線。

 傘をさす余裕もないし放り捨てて、ただただ走る。


 僕たちの侵入はすぐに察知され、警報が鳴り響いている。雨音をかき消す大音量だ。

 普通の人間とは比較にならないスピードで走っているし、新人類だともバレている。銃弾も飛んできた。

 行かせてくれればいいのに。町に入ったって兵士が大勢いるから大丈夫だ、とか考えてくれないかな。

 心の中で勝手な文句を吐き捨てた。


「気にせず走って! 当たる可能性は低い! 当たっても数発は耐えられる!」

「分かってる!」


 霜月が叫び、並走する姉が返事をした。

 僕は舌を噛まないよう口を閉じている。

 三人で町に入れるかどうか、勝負の時だ。

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