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僕たちは明日に向かう  作者: ともむらゆう
第3章 明日への一歩
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六十三話 死にゆく中で

 外の軍と新人類の戦闘が、時忘れ町で行われている。

 戦況は新人類側が明らかに劣勢だった。

 戦力が違い過ぎる。しかも、外の人間は容赦しない。


 怪物となっている住人を戦闘に投入したが、外が使う兵器を前に肉片へと変わってしまった。

 怪物になっていない生きた人間は、わけが分からぬまま攻撃されて命を散らす。老若男女を問わず、命乞いの言葉も聞き入れられず、ただ死んでゆくのみだ。

 平和だった町は戦禍の炎に包まれ、あちこちで悲鳴や絶叫が響く。


 新人類側で戦力になり得るのは、わずかに九人だ。十二月(じゅうにつき)の七人と冬将(ふゆまさ)、そして四季(しき)

 九人で万単位の軍隊に挑むのだから、正気を疑ってしまう行動だ。

 九人は確かに強い。体力もあるし長期戦にも耐えうる。素手での戦闘となれば、旧人類が何千人いようと勝てるであろう。


 しかし、近代兵器を相手にしては、いくらなんでも分が悪い。

 善戦はしている。多くの兵士を殺した。

 恐れおののいて引き下がってくれればよかったが、仲間を殺されれば殺されるほど「怪物を許すな」の方向に進む。


 お互いに奪う者となり、奪われる者となり。

 奪われた悲しみを晴らすべく、相手から奪う。悪循環だ。

 新人類側としても、自分たちこそが奪われた者だとは言えない。

 誰も救われない戦いとなっている。


「戦争は碌でもないな」


 ぼやいたのは長月(ながつき)だ。

 最近は速峰(はやみね)春真(はるま)の家を拠点にしていたが、今は十二月の屋敷にいる。

 結界に守られているおかげで、ここが攻撃されるのは最後になるはずだ。しばらくは立てこもることもできる。


 それとて何日もつか定かではない。

 屋敷には、長月以外に町の住人も非難している。全員を避難させるのは無理だったため、百人ほどだ。

 長月以外の八人は戦っており、彼は治療が仕事になっている。

 最初は戦っていたが、途中からは治療に専念している。よって、十二月最弱でもいまだに生きていた。


 もっとも、治療してどうなると諦観する気持ちもある。

 魔法のように、呪文を唱えるだけでパッと治すことはできない。十二月は頑丈な肉体を持つが、重傷の場合は治療にも時間を要する。

 手の施しようがない怪我であれば死ぬ。

 己の力不足を嘆くばかりだ。

 そして、今も。


「長月! お願い、卯月(うづき)を助けて!」


 悲痛な声と共に駆け込んできたのは水無月(みなづき)だ。背中には大怪我を負った卯月を背負っている。

 水無月自身も怪我をしており、すぐにでも治療が必要な状態だ。

 卯月はさらに酷い。「大怪我」の一言で済ませていい傷ではない。

 はっきり言って、生きているのが不思議なほどだ。


「わたし……より、水無月ちゃん……を」


 卯月は苦しそうな声を発した。いつもの早口は見る影もなく、短い会話でも辛そうにしている。

 それでもなお、自分よりも水無月を優先してくれと。

 長月は卯月の様子を確認し、理解してしまう。


 これは助かる傷ではない。

 助からない者の治療に手を尽くすなら、助かる水無月の治療を優先すべきだ。

 非情な判断を下し、卯月を見捨てる選択をした。


「卯月は助からん。水無月の治療をするぞ」

「なんで? ボクじゃなくて卯月を助けて」


 水無月の声は、決して大きくない。

 現実を受け入れられないように、何を言われているか理解できないように。

 半狂乱になって泣きわめくことはなく、心底不思議そうに長月を見ている。

 だから余計に痛々しい。


「ごめんね……水無月ちゃん……」

「卯月?」

「言いたいこと、いっぱい、あるんだけど……限界、っぽい……ね」


 長い前髪の隙間から覗く瞳は、光を失いつつあった。

 本人の言っている通り限界だ。

 九人中最初の犠牲者は、十二月の序列四位、卯月ララだった。





「可愛く……なぁい……嫌ぁ」


 死闘をくぐり抜け、かろうじて生き延びた神和(かんな)は毒づいた。

 一応、勝つには勝った。何百という数を屠った。

 局所的な戦闘に勝利しただけで、まだ外の兵士は大勢いる。誰かに殺されるのがオチだ。

 いや、殺されるまで命がもちそうにない。半死半生どころか、ほぼ死にかけだ。


「もう、いいよね? 神和は、可愛く生きたよね?」


 可愛くない生き方をするのは嫌だった。

 汚泥にまみれるのは嫌だった。殺し殺されの戦いをして、血みどろになるのも嫌だった。

 可愛く死にたい。永遠に可愛いままでいたい。

 可愛い神和を可愛く殺して。

 望みは叶わなかったが、もういいだろう。


「四季……お願い」

「いいの? 長月のところに行けば、治療してもらえるかもしれない」

「分かってる、くせにぃ」


 神和と一緒に戦っていた四季は、死ぬほどの怪我ではない。

 神和は無理だ。助かる可能性は極めて低い。

 仮に助かるとしても、生きたいと思えなくなっている。


 十分だ。もう十分なのだ。

 可愛くない戦いから逃げてしまえば、性格が可愛くなくなる。可愛い神和としては許されない。

 その一心で戦っていたが、楽になりたいと思っている。

 可愛い四季に、可愛い神和を可愛く殺してもらう約束だ。

 神和が懇願すれば、四季も頷いてくれた。


「遺言があれば聞く」

「冬将に……やっぱり、いいや」


 冬将への伝言を頼もうとしたが、やめておいた。

 言葉を伝えても、気持ちは伝わりそうにないと思ったためだ。

 神和は可愛い物が好きで女性の格好をしているが、心まで女性ではない。

 ゆえに、冬将に抱いている気持ちも恋愛感情ではない。


 強いて言えば「感謝」になるだろうか。変わり者の神和と友達付き合いをしてくれたのは、冬将くらいだった。

 本人に対して告げたことはないが、本当に感謝している。


 四季と出会い、春真たちとも仲間になった。楽しかった。

 中でも、一番大切なのは誰かと問われれば、冬将だと答える。彼が好きだ。

 正確に言えば二番目だ。一番好きなのは自分自身、可愛い神和だから。


「冬将は、ごつくて、可愛くなぁい」


 可愛い物が好きな神和が、唯一好きになった可愛くない物。

 冬将が聞けば怒るだろうか。呆れるだろうか。

 反応を想像すると楽しくなる。


「四季……」

「分かった」


 楽しい気持ちのままで、四季に殺してもらう。

 外への憎悪に身を焦がすのは可愛くない。可愛い神和にふさわしくない。

 可愛い神和は、可愛い気持ちで眠りにつく。

 永遠に可愛くなれることを願って。

 二番目の犠牲者は、十二月の序列十位、神和都(かんなづ)喜太郎(きたろう)だった。





 如月(きさらぎ)紺屋(こうや)(よい)は、二人で協力しつつ戦っている。

 序列二位と三位であり、親友同士でもある。実力が近しく息も合うため、いいコンビになっていた。

 激しい戦闘が繰り広げられていたが、一息つける時間ができた。

 そこで気付く。卯月の気配が消えたことに。


「卯月が死んだ?」

「みたいですね。ですけれど、悲しむのは後回しにしましょう」


 悲しんでいる時間はない。

 気丈に振る舞い、紺屋宵は戦いを継続しようとする。


「紺屋は死ぬなよ。春真と生きて再会するんだ」

「もちろんです。春真さんとはキスしかしておりません。再会後は、血湧き肉躍る生活が待っているのですから、死ぬわけにはいきません」

「言葉の使い方が間違ってないか?」


 血湧き肉躍るとは、恋人同士の生活に用いる言葉だっただろうか。

 如月は疑問に思うが、紺屋宵は間違っていないと断言する。


「心がたかぶり、活力がみなぎる意味ですよね? 正しいではありませんか」

「戦いに心がたかぶる、だろ?」

「恋とは戦いです。春真さんの愛を失わないよう、私に向け続けてくれるよう、一生をかけて戦うのです。それに比べれば、今の戦いなどなんでもありません」


 無茶苦茶な理屈で自らを鼓舞し、戦いに身を投じる。

 如月も続き、二人で生きようともがく。

 親友との再会を望んでいるのは、如月も同じだ。





「この人……」


 葉月(はづき)(よう)が発見したのは男女の遺体だ。ボロボロになっているが顔は判別できる。

 女性の顔は知らない。おそらく、怪物にならずに生きていた町の住人であろう。

 男性の顔には見覚えがある。外から攻め込んできて、捕虜にしていた人だ。


「再会できたのね」


 町に家族や恋人がいるので、会いたいと望んでいた人がいる。

 男性はそれだろう。女性との関係は不明だが、恋人か妻か。姉や妹とも考えられる。

 なんにせよ、新人類の町に攻め込んでまで会おうとするほど大切な人だ。

 男性が女性に覆いかぶさる形で事切れている。最期まで守ろうとしたのだ。

 最期に再会できて幸せだったのか、それとも……


「葉さん、冷たいことを言うが、今は」

「分かってるわ。感傷に浸っている場合じゃないわよね」


 冬将に釘を刺され、葉月は頭の中から二人を追い出す。

 葉月も冬将も、かなり消耗している。傷も深く、いつ殺されてもおかしくない状態だ。

 倒しても倒しても、敵が減っている気がしない。無駄な犠牲を避けたがる葉月ですら、躊躇せずに殺しているのに減らない。

 ジリ貧になってしまいそうだ。


「あっ……神和……」


 不意に、冬将が神和の名前を呼んだ。


「神和がどうしたの?」

「……死んだ」


 短く答えた冬将に、葉月は言葉を返せない。

 先ほどは、卯月の気配が消えるのを感じ取ったばかりだ。

 卯月に続いて神和。二人の犠牲者が出た。


 町の住人や、外の兵士には、その何百倍もの犠牲が出ている。二人は大量にいる死者の中に加わっただけだ。

 人の死を数で考えればこうなるが、やはり辛いものはある。


 辛くても戦い続けるしかない。

 この先、仲間は次々と死んでいく。三番目の犠牲者は葉月になるかもしれない。

 敵も味方も、大勢が死にゆく中での戦いだ。

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