六十二話 頼りにならないリーダー
町に戻りたい僕は、反対する姉を説得中だ。
でも、姉は首を縦に振ってくれない。
説得せずに行ってもいいけど、姉は覚醒済みの夏だ。僕よりも強いし、その気になれば無理矢理止められる。
時刻は早朝の五時。他の十二月も起きてきて揉めている。
最初から僕を看ていてくれた皐月以外の四人だ。
睦月、文月、霜月、師走。全員男性になる。
僕の知らない十二月の四人は、考え方としては秋陽刀に近い。
知り合いでもないし、「夏帆の弟」っていうだけの存在だ。
多少強くなったとはいえ、春に覚醒していない僕じゃ戦力にもならない。
町に戻りたければ戻ればいい。結果として死んでも自業自得だ。
当たり前の考えだよね。ここで「お前に死んで欲しくない」とか「死ぬのは認めない」とか言われる方が嘘臭いよ。
姉さえ説得できれば町に戻れる。
再会したばかりの姉を悲しませるのは申し訳ないけど、僕は戻りたいんだ。
「お姉ちゃん」
何度声をかけても、姉は僕から離れない。ずっと抱き締めていて逃がさないようにしている。
弱ったなあ。時間が惜しいのに。
「秋陽刀の力で、お姉ちゃんをなんとかできない? 夏と秋なら力も拮抗しているんじゃないの?」
仕方なく秋陽刀を巻き込むことにした。
十二月の上が春夏秋冬なので、姉に匹敵する力を持つとすれば秋しかいない。
「できなくはないが……ったく面倒な奴を拾ったな」
苦々しい顔つきになって皐月を見ている。
「私に判断を仰がれても困りますよ。睦月さん」
「俺? 好きにしろとしか」
「しっかりしてくれよ、リーダー」
積極的に関わろうとしない睦月に対して、師走が苦言を呈した。
新しい十二月の中でも睦月がリーダーらしいけど、僕の知る睦月に比べれば頼りなさげに見える。
毛髪の後退した四十歳がらみの男性で、鍛えている体つきだった前任の睦月とは対照的に、こちらは冴えないおじさんだ。
外見は置いておくとしても、覚醒したてじゃ頼りなくても無理ないか。
序列が一位だからって、すぐにリーダーらしく振る舞えるわけじゃない。
一朝一夕じゃ風格や威厳は身に着かない。
四季に力と覚悟って言われた時も思ったけど、なんでもそうだ。簡単に身に着けたと考えているなら大間違いだ。
今の睦月は、力は強いんだろう。なにせ十二月の序列一位だ。
力はあっても、前任の睦月とは経験の豊富さが違う。リーダーになったというよりは、序列一位だから祭り上げられてしまった感じだ。
経験っていう点だと、全員覚醒したばかりだし、正直物足りない部分はある。僕も含めてね。
如月や紺屋さんだって、序列が下の葉月さんを頼りにしていた。
葉月さんも困惑しつつリーダーの役目を全うしていた。
頼りになるリーダーの存在は重要だ。
「みなさんにとっても悪い話じゃないはずです。町にいる十二月は、みなさんが覚醒する以前から覚醒していました。経験も豊富です。町のメンバーの経験に、ここのみなさんが持つ外の知識。両者が合わされば、外との戦いでも有利になります」
睦月がリーダーらしくなくても、一人で全てをこなす必要はない。
前任の睦月は頼りになったかもしれないけど、仲間にも詳しいことを教えず一人でやろうとし過ぎたんじゃないかな。
足りない部分は協力して補い合えばいいと思った。
そのためには、町を見捨てる選択肢はない。
「町が滅び、全員死んでも、新しい十二月が覚醒するでしょう。冬もいますけど、新しい冬が覚醒します。でも、覚醒したばかりのメンバーで戦えますか?」
「痛いところを突かれたな。俺は会社をリストラされた元サラリーマンだ。リストラされる程度の人間だってことだ。覚醒とか戦争とか言われてもいまだに実感がないし、ましてやリーダーとか勘弁してくれってのが本音だな。荷が重い。俺よりも経験豊富でリーダーにふさわしい奴がいてくれるのは助かる」
「いますよ。町では、主に葉月さんと長月が仕切っていました。序列が上である如月や弥生も認めていましたし、序列は関係なく適材適所かと」
ここぞとばかりに町を助けるメリットをアピールする。
僕一人で行くのもいいけど、力を貸してもらえるなら助かるんだ。誰も助けられずに無駄死にするよりは、助けられる方がいい。
力を貸してもらえないなら一人で行くだけだし、どっちに転んでも僕は損をしない流れだ。
「リーダーかどうかは関係なく、俺は町に行くつもりはない。まだ死にたくないからな。他の奴らがどうするかは好きにすればいい」
「しっかりしてくれよ、リーダー。あ、ちなみに俺もパスな」
「俺もパス」
睦月は手を貸してくれる気はなくて、師走と文月もパスだって言った。
師走はチャラチャラした外見の男性だ。子供ではないけど年齢は若そうかな。
文月は高校生くらいだろう。僕と同じか少し上だ。眼鏡をかけていて、優等生然とした見た目をしている。
「睦月が認めてくれるなら、僕は速峰君と一緒に行きます」
「ほ、本当ですか?」
「はい」
細い目をさらに細めて微笑んでくれたのは霜月だった。
前任の霜月が三十歳くらいで、こちらの霜月も同年代になる。
性格はどうなんだろう。前任の霜月は弱者をいたぶるのが好きな性格破綻者だったけど、この霜月も同じ?
今は性格がどうのって気にしている場合じゃないし、考えないでおこう。
「私はご一緒できません。偽りのない気持ちを打ち明けますと、怖いのです」
「皐月が行かないなら俺も行かない」
皐月と秋陽刀は拒否した。
意見を述べていないのは姉だけになる。
「……春ちゃんは、どうしても行くの?」
「行くよ」
「じゃあ、お姉ちゃんも一緒。もう春ちゃんと離れたくないの」
「ありがとう、お姉ちゃん」
死地に赴かせてしまうのは悪いと思っている。
ありがとうと告げたのは、僕と一緒にいたいって言ってくれたことだ。
僕は記憶が完全に戻ったわけじゃない。姉との思い出もかなりの部分を忘れたままだ。
なのに、僕が町に戻ることを認め、自分も一緒に行くと決断してくれた。
「夏と霜月は、また代替わりするのか。新しいメンバーを迎え入れる準備をしないとな。探すのも手間だ」
睦月は、僕たちが死ぬと考えていた。
話は終わったって感じで、寝直すと言って部屋を出て行った。
文月と師走もいなくなり、五人が残る。
町に戻る僕と、一緒にきてくれる姉に霜月。
力を貸せないことを申し訳なさそうにする皐月と、そんな彼女を見守る秋陽刀。
僕は四人に向かって言葉を発する。
「時間がありません。僕はすぐに行きます。お姉ちゃんと霜月さんも、準備があるならなるべく早くお願いします」
一番弱くて年下の僕が仕切るのもなんだけど、細かいことは抜きだ。
作戦を考える時間もない。
本当は、町に戻るための作戦を考えるべきだろう。
正面から乗り込んでも殺されるだけだ。みんなを助けるどころじゃない。急がば回れで作戦を立て、準備を整えてから出発する方がいい。
分かっているけど時間がないんだよ。作戦会議をしたとして、妙案が浮かぶとも思えない。
行き当たりばったりで無謀な特攻になりそうだけど、町に戻る。
たったの三人で戻っても、状況は好転しないって意見もある。
そっちも無視だ。考えたり悩んだりしていて手遅れになるなら行動する。
姉と霜月は、準備らしい準備はないって言った。
僕の白髪が目立つから、帽子だけ貸してもらって隠す。
「よし、行こう」
声をかけて出発する。
使者として外に出る時よりも、さらに無茶なことを今からやらかす。
果たしてみんなと生きて再会できるか。
それとも、死んでしまいあの世での再会になるかもね。




