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僕たちは明日に向かう  作者: ともむらゆう
第3章 明日への一歩
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六十話 仲間たちの危機を知り

 僕は七日間も眠っていたそうだし、深夜なのに眠気はなかった。

 長く眠っていたにしては、不思議と調子も悪くない。空腹で倒れそうとか、体がだるいとかはなくて元気だ。

 元気だから、朝になるまで皐月(さつき)と話をして情報収集に努める。


 皐月自身の話も聞いた。中学一年生だって知って驚いたよ。

 外見はそのくらいだけど、話し方や態度が妙に大人びているから、四季(しき)みたいに見た目は幼くても年上かと思った。

 年下だから言葉遣いも普通でいいと言ってもらえたので、砕けた話し方にさせてもらう。

 雑談以外に真面目な話もきちんとする。


「あのさ、皐月以外の十二月(じゅうにつき)って……新しく覚醒した人なの?」


 正直聞くのが怖いけど、聞いておかなきゃいけない。

 僕の知る睦月(むつき)師走(しわす)が生きているのか死んでいるのか、この質問の答えで明らかになる。


「はい。私を含めて五人いますけど、全員が最近覚醒したばかりの十二月です」


 皐月の答えは肯定だった。

 五人全員が新しく覚醒した十二月。

 外に出た睦月たち五人は全滅したって意味だ。


 睦月、皐月、文月(ふみつき)霜月(しもつき)、師走。みんな死んだ。

 これは……キツイな。薄々予想はしていても、実際に聞かされるとキツイ。

 僕ですらこれだし、十二月のメンバーはもっとキツイだろう。

 みんなに伝えるが怖い。

 みんなといえば、僕は使者として外に出たのに、眠りっぱなしで役目を果たせていない。心配しているだろう。


「皐月。僕は町に戻りたいんだけど、できるかな?」


 僕の質問に対し、皐月は即答しなかった。

 難しいからかと思ったけど、悲しげな顔になっている。


「町に何かあった?」

「……気を確かに持って聞いてください。町は、滅びました」


 滅びた? 町が?

 じゃあ、みんなは?


「正確に言えば、まだ滅びてはいませんけど、時間の問題です。外の軍隊が攻め込んでいる真っ最中です。前回の襲撃とは比較にならない規模です。町では激しい戦闘が行われているでしょう。戦力的に、新人類には勝ち目がありません。じきに滅びます」

「そんな!」


 皐月は沈痛な面持ちをしながらも、事実を淡々と語ってくれた。

 でも、町やみんながピンチなら、ここでこんなことをしている場合じゃないよ!


「助けに行かないと!」

「行きたくても行けないのです。旧人類にとってもっとも恐ろしいのは、町から新人類が出てきて、外の一般人の中に紛れ込んでしまうことです。町から出さないよう警戒していますし、そのために周囲には多くの人員と兵器が配備されています。私たちが町に入ることもできなくなっています」


 理路整然と反論されて、僕も口をつぐむしかなかった。

 ここは外だ。兵士だろうと武器だろうといくらでも用意できる。僕の想像を超える包囲網が敷かれているだろう。

 町に入るのは不可能と言われても納得できる。できるけど。


「何か方法は……師走の能力は使えないの? 離れた場所に転移できるよね?」


 十二月の能力は受け継がれるって話だ。

 僕の知る師走カケルが死んだとしても、新しい師走も同様の能力を持つ。

 転移能力があれば、見つからない場所から町に入れないかと考えた。


「不可能でしょう。私は師走ではありませんし、能力の詳しい効果を知りませんけど、そこまでの長距離は転移できないはずです。連続での使用も、せいぜい二、三度ですね。どうやっても見つかってしまいますし、攻撃もされます」

「どうしてそんな冷静に……!」


 文句を言いかけて、思いとどまった。

 皐月は悪くない。僕はなんの力を持たず、行動もできないのに、彼女に文句をつけるのはお門違いだ。

 冷静さを取り戻そうと深呼吸をした。少しはマシになったかな。


「ごめんなさい。ただの八つ当たりだった」

「気にしないでください」


 皐月は許してくれたし、それはいいとして、僕にできることを考えよう。

 町には大切な人たちがいる。

 如月(きさらぎ)紺屋(こうや)さん、四季、葉月(はづき)さん、長月(ながつき)卯月(うづき)水無月(みなづき)神和(かんな)冬将(ふゆまさ)

 簡単に死ぬほど弱くないけど、放っておけば多勢に無勢でいずれ死ぬ。

 死なせたくないんだ。


「僕が春なら……覚醒していれば……」

「春になっていても無理です。こちらには、覚醒済みの夏と秋がいます。二人に十二月の五人を合わせても無理だと判断したのです。春が加わっても変わりません」


 秋だけじゃなくて、夏もいるのか。

 七人もいて、まだ戦力が足りないと言っている。

 僕が春に覚醒しても無理。覚醒していない今じゃもっと無理。

 隠れ家を飛び出して、町に戻ろうとすることはできても、あっさりと発見されて殺される。

 だからって、のんびりと休んでいていい? 僕は嫌だ。


「皐月たちの考えはどうなっているの?」

「町にいる人たちは、残念ですけど見捨てます。助ける手段はありません。町は滅び、住人である新人類も十二月も死にます。避けられない運命と考え、諦めるしかありません」


 運命? 避けられない運命だって?

 そんな言葉で納得できるもんか。諦められるもんか。


「町を滅ぼせば、表向きは戦いが終息したと発表するでしょう。怪物を打ち倒したため新しい怪物が誕生する心配もない、とでも言っておきます。まだ残っていると知られてしまえば、隣にいる人が怪物ではないかと邪推しパニックになります。疑わしい人を次々と殺していく魔女狩りの始まりです。日本政府としては困るため、全部終わったのだとしておきます」


 皐月の言いたいことが、なんとなく分かってしまった。

 終息宣言が行われ、仮初の平和が訪れる。

 一般人はともかく、偉い人たちは終わっていないと知っているから、残党狩りは行われるだろう。


 だけど、終わったって宣言したんだし、なりふり構わず探すのは難しい。

 それじゃあ終わっていないって言っているに等しいから、秘密裏にやる。

 皐月たちも逃げやすいってわけだ。


「町を犠牲にして、みんなを見捨てて、その間に戦力を整える気?」

「はい。十二月は死にません。新しい十二月が覚醒します。たとえ町が滅びても、新人類が死んでも、決して終わらないのです。季節は永遠に巡ります。十二の月と春夏秋冬は、まるで呪いのように永遠に続きます」


 永遠の呪い。言い得て妙だと思った。


「日本政府は外の人間を検査するでしょう。新人類ではないかどうかの検査とは告げず、なんらかの理由をつけて。しかし、日本の人口は一億人近くにもなるため、検査にはそれなりの時間を要します。大きく動くこともできませんし、私たちには十分な時間があります」

「理屈は分かるけど……」

速峰(はやみね)さんは、春には覚醒しないかもしれません。それならそれでいいではないですか。運よく命を拾ったと考え、外で暮らせばいいのです。私たちもバックアップします」


 ありがたい話ではある。

 みんなのことは残念だけど、しょうがないと思って諦める。

 僕だけは助かった。ラッキーだ。外で隠れ住むこともできる。

 大手を振って生活するのは無理だろう。僕の白髪は、町では珍しくないけど外だと珍しい。一発でバレそうだ。


 髪の毛を黒く染めて、検査を受けずに済むよう皐月たちの力を借りる。

 多分、ちょっと外の町に出るくらいはできるんじゃないかな。

 贅沢は言っていられない。

 生き延びて、最低限人間らしい生活を送れる。これで十分だ。


「……僕は町に戻る」

「無茶ですよ。包囲網の隙をついて町に入れるとお考えでしたら、絶対に不可能だと断言します」

「それでも! それでも戻るんだ!」


 つい強い口調になってしまい、皐月は肩をビクッと震わせた。


「大声を出してごめん。僕の行動がおかしいのは自覚してるよ。無事に戻れるとも思ってないし、きっと殺される。でも約束したんだ。必ず戻るって。失敗してもいいから僕は戻る。死んだとしても戻る」


 まともな理屈にもならない。バカなことを言っている。

 のこのこ出て行って、せっかく拾った命を捨てる。

 愚かだよね。バカだよね。救いようがないよ。


 ()()()()()()。僕はこういう人間だ。

 賢く生きられる人間なら、もっと前から賢く生きている。


 四季と出会い、事情を聞こうとしなかった。前に進もうとも、変死事件を追いかけようともしなかった。

 如月や紺屋さんのことも諦めた。四季に殺されてもしょうがないって言った。

 記憶を封じられ、そのまま忘れていてもよかった。

 思い出したあとも、外に出ようとしたり睦月に会ったりしなかった。大人しくしていた。

 外との戦いになった時、使者になろうとしなかった。


 僕が歩いてきた道は、真っ直ぐ前には続いていなかったかもしれない。変な方向に逸れた時も多い。

 うまくできたことの方が少なくて、失敗ばかりだ。やろうと決めたことは、ことごとく失敗したと言ってもいい。


 迷路のように入り組んだ道を、僕は歩いた。

 僕の道には、僕の性格が反映されている。

 甘ったれていて、脳内お花畑の理想論者。

 全兎を望んだ。欲しい物は全部欲しかった。そのために右往左往した。

 諦めるなんてできなかったんだ。

 だから、今も。


「僕は町に戻る。それが、僕なりの前に進む方法だ」


 皐月にきっぱりと宣言するのだった。

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