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僕たちは明日に向かう  作者: ともむらゆう
第3章 明日への一歩
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五十五話 嫌わないでください

 朝になっても紺屋(こうや)さんがなかなか起きない。幸せそうな寝顔だなあ。

 服に鼻血がついちゃっているのは、若干ホラーチックだけど。

 仕方ないので、リビングで待っていると、葉月(はづき)さんたちが僕の家にきた。


「昨晩はお楽しみでしたね。羨ましいぞこんちくしょう!」


 冬将(ふゆまさ)がからかっているけど、何もなかったんだよなあ。

 葉月さんは僕の顔を見ようとしない。想像して恥ずかしがっているっぽい。

 四季(しき)は「巨乳(あくま)め」といつも通りだし、如月(きさらぎ)はかける言葉に迷っている。

 他の四人はいないね。学校に残っているんだろう。


「で? で? どうだった? 感想を教えろよ」

「冬将に話せることはないよ」

「つれねえこと言うなよ。俺と春真(はるま)の仲じゃねえか」

「仲とかは関係なくて、何もなかったから」

「またまたあ」

「本当だって。紺屋さんが恥ずかしくて気絶したんだ。今も寝てるよ」

「うっそだろ、おい」


 冬将が疑うのも無理はない。昨日の様子で、何もありませんでしたとか聞かされても、到底信じられないよね。

 でも、実際に何もなかった。

 紺屋さんが起きてくれば信じてもらえるかなって考えていると、ドタバタする音が聞こえる。起きたみたいだ。

 リビングに顔を出すなり土下座を敢行する。


「ふしだらです! はしたないです! 私を嫌わないでくださいぃいいい!」


 昨日の出来事を後悔しているみたいだ。

 とりあえず土下座はやめてもらったけど、後悔の気持ちは消えない。

 懺悔するように話を聞かせてくれる。


「私から迫るのはふしだらだと思っていました。なのに、春真さんの告白が嬉しくて感極まってしまい、つい暴走を……挙句、いざとなると鼻血ブーですよ。私は一体何をやっているのでしょう」

「僕は気にしてな……」

「紺屋(よい)は男心を理解していない」


 気にしていないって言おうとしたのに、四季が割り込んだ。


「生殺しにされるのが一番辛い。速峰(はやみね)春真は怒っている。フラれる」

「うあああああっ!」

「ちょっと、四季。話をややこしくしないで。僕は怒ってないし、紺屋さんを嫌いになってもいないから」

「本当に? 生殺しにされて辛くない?」

「まあ……少しは」

「うああああああああああっ!」


 しまった。紺屋さんが大泣きしている。

 嘘でも大丈夫だって言っておくべきだったかな。

 フォローする言葉を探しているけど、四季がさらに追い打ちをかける。


「男は下半身で生きている生き物。抱けない女に価値はない。ここで葉月(よう)が速峰春真を誘惑すれば、そっちに転ぶ。他の女を抱いておきながら、臆面もなく『愛しているのは紺屋さん一人だけだぜ』とか言い出す」

「言わないから」

「私も誘惑しないわよ」


 抱けない女に価値はないって、あまりにも乱暴だし女性をバカにした意見だ。

 僕だって性欲はある。昨日のことを残念だとも思っている。

 そういった気持ちがあるのは否定しないけど、すぐ嫌いになるわけがないし、誘惑されもしないよ。

 葉月さんも誘惑しないと言っているのに、四季はお構いなしだ。


「男は重い女を嫌う。女には自分に一途でいて欲しいし、他の男になびくのは絶対に許さないけど、『私だけを見て。私だけを愛して』とは言われたくない。『他の子を愛してもいいし、抱いてもいい』と言われたい。矛盾した考えを持つ生き物」

「四季が男に偏見を持つのはよく分かったよ。何か嫌な経験でもあったの?」

「弟は、私も好きで妹も好きだった。浮気性。お姉ちゃんはあんな子に育てた覚えはない。お姉ちゃん大好きっ子に育てたのに」

「兄妹愛と男女の愛は別物じゃないかなあ」


 姉への愛って、どっちかっていうと母親に近いと思う。

 僕は母親の記憶がないから想像になるけど、無条件で自分を愛し、守ってくれる人っていうかさ。

 恋人にやっちゃうと嫌われることでも、姉なら許してくれる。甘えさせてくれるし愛してくれる。

 姉が好きだとしても、愛欲ではない。


「速峰春真も、お姉ちゃんの私が好きなのに、紺屋宵の巨乳に転んだ。浮気」

「巨乳だから紺屋さんを好きなわけじゃ……」


 これって、結局は胸の大きな女性への嫉妬じゃないの?

 四季が余計なことを言うせいで、紺屋さんが落ち込んだままだ。


「紺屋さんは、そろそろ立ち直って。僕は紺屋さんが好きだから」

「春真さんが私を……ブホ、ブホホホホホ、ヒャハハハハハ」


 ごめん、これは引く。紺屋さんが壊れちゃった。

 バカ話はやめにしておこう。いつまでたっても終わらない。


「葉月さん、外から接触がありました?」

「ないわね。食糧の供給も断たれたままよ」

「僕が使者になるのはどうします?」

「今日一日待って。何もなければ、明日速峰が……行かないに越したことはないけどね」


 僕も好んで危険に突っ込みたくはないし、行かずに済むならラッキーだ。

 ただ、行くことになるだろうとは考えている。

 捕虜が大勢いるし、遺体の返却もあるのに、外は何も言ってこないんだ。

 交渉する気が少しでもあるなら、遺体を返してもらうと同時に、しばらく待ってくれとか言えばいい。


 穏健派と強硬派が揉めているとしても、何も行動に移さないのはおかしい。

 隊長さんと話した時も言われたけど、交渉する気がないと考えるべきだ。

 今頃は、どうやって新人類と町を殲滅するか相談しるのかな。

 僕が迂闊に出向けば……


「捕虜を一人くらい連れて行きます? 牽制になるかもしれませんし」

「そうね……悪い案じゃないわ」


 僕の提案を葉月さんも認めてくれた。

 捕虜が一緒なら攻撃もしにくい。外に出た途端、問答無用で銃弾をばらまかれて全員ハチの巣に、なんてことが起きにくくなる。

 隊長さんに話して、一人ついてきてもらうことになった。

 学校に向かい、長月(ながつき)、葉月さん、僕の三人で隊長さんと話す。


「俺たちの誰か一人を外にねえ。盾代わりってことか」

「有体に言えばそうなる。はっきり言わせてもらえば、俺たちは外の連中を信用していない。こちらは怪物だからな。人間相手なら非難される行為でも、怪物相手となると何をやっても許される。人間同士の戦争で、敵国の人間だからといって非道な仕打ちをするのは許されない。国際社会からの批判を集める。怪物ならなんでもありだ。違うか?」

「ま、違わないな。どれだけ殺そうが拷問しようが、非人道的な人体実験を繰り返してぶっ壊そうが、怪物が相手だからの一言で終わる話だ」

「認めたのは少々意外だな」


 確かに意外だ。本音はどうであれ、誤魔化せばいいのに。

 そのような真似はしない。我らを侮辱するな。

 とか言い出してもおかしくない。


「これでも感謝しているんだ。捕虜の待遇としては破格だ。拘束もされておらず、学校内は自由に動ける。トイレも清潔だ。シャワーも浴びられる。最初はパンツ一枚だったが、今はシャツとズボンを配給してもらえた。食事は味気ないが、これは俺たちが持ち込んだ分だしな。欲を言うと、女も欲しいが」

「私を見ないで。手を出そうとするなら潰すわよ」


 葉月さんは、どこを潰すとは言わなかったものの、あそこだろうね。

 隊長さんは肩をすくめる。


「おっかないね。あんたほどの美人にお相手してもらえるなら大歓迎だが、そこまで高望みしないから、女を百人ばかし用意してくれないか? 俺一人で楽しむのは悪いし、全員平等にな」


 三百人いて、死んだ人もいるけど、生き残りの方が圧倒的に多い。

 女性を一人二人あてがっても足りないって言いたいんだ。


「聞けんな。やりたければそっちで勝手にやればいい」

「おいおい、男同士でやれってか?」

「一人でしろ。個室はないが、シャワー室やトイレはあるんだ。人の目を避けてやるのも難しくない。あるいは、女の兵士とするかだ。数は少ないがいるだろう」


 女の人もいるのは、僕は初耳だったりする。男性ばかりかと思っていた。

 四季や十二月(じゅうにつき)の女性たちは強いけど、これは特殊例だ。一般的には、女性よりも男性の方が強いし、戦いに向いている。


「仲間に手を出すのはまずいんだ。やりそうな奴もいるが、今のところはどうにか止めている。しかし、いつまで止められることやら。どうせ死ぬんだと自暴自棄になる奴が増え出せば、手がつけられなくなる」

「ふん、脅しということか。大方、女を犯した責任を俺たちになすりつけるつもりだろう。女の兵士は怪物に犯されました。そんなことになれば、交渉もうまくいかない。ただでさえうまくいきそうにないが、絶望的になる」

「さてな」

「たとえ、お前や被害者の女性が真実を話そうと、社会には伝わらない。政治的に都合のいい嘘を拡散するだろう」

「さすがに俺たちを疑い過ぎじゃないか?」

「信用する方が無理だ」

「長月、それはいいから」


 話が逸れていたところを、葉月さんが戻した。

 女性が欲しいって要求は聞き入れない。自分で処理してねってことだ。


「ふむ……葉月、女性兵が何人いるか覚えているか?」

「え? えっと……八……九? そのくらいだったはずよ。ほとんど男ね。女性だけで離れた教室を利用してもらってるわ」

「少々多いが、なんとかなるか。外に連れて行くのはそいつらでいい。そちらも嫌とは言わんだろ? 女性を帰すよりも、男の自分を帰してくれと言い出す腑抜けがいるか?」

「きったねえな。今は男女平等の世の中だぜ」

「男女平等だから、女を差し置いて男が帰ってきました。それを大々的に発表できる度胸があるなら男でもいい。まあ、言わないだろうな。自分は悪くないと声高に主張するに決まっている。女性を優先して帰すよう頼んだが、怪物たちが勝手に選んだので仕方なく、と」


 隊長さんは答えないけど、ありそうな話だ。

 自分だけ助かろうとしたなんて知られたら、非難轟々になる。

 それは分かるとして、長月の様子が変だ。

 妙に喧嘩腰というか刺々しいというか。

 僕ですら気付くんだし、葉月さんも気付いている。


「苛立ってる? 落ち着いてよ」

「すまん」


 二人の短いやり取りを聞いて、隊長さんは何かを察していた。


「あー、なるほど。怪物にも恋愛感情はあるのか? 単なる仲間意識か? どちらにせよ、女が欲しいっつってそっちの女を見たのが気に食わないと」


 そういうことか。僕は分からなかった。

 心の機微に聡いのはさすがだ。人生経験が豊富な大人ならではだね。

 この話題を続けるのは不利と見たのか、長月が無理矢理まとめにかかる。


「外に連れて行くのは女性兵で決定だ。変な真似をしなければ、そのまま外に残ってもらっていい。出立は明日だ。俺たちからも伝えるが、そちらはそちらで伝えておけ」

「へいへい」


 話もまとまったし終わりにする。

 長月って葉月さんが好きなのかな? ただの仲間意識?

 で、話し合いの内容を全員で共有したわけだけど、長月はいじられていた。


「俺の葉月に手ぇ出すな。キリッ」

「葉月は俺の女だキリッ」

「長月、素敵。抱いてぇ。キャッ」


 冬将と卯月(うづき)が長月の物真似をして、神和(かんな)は葉月さんの物真似だ。

 三人とも全然似ていないけどね。内容もデタラメだし。


「あの、長月は仲間として好きだけど、その……ごめんなさい」

「おい待て。告白したわけでもないのに、なぜ俺がフラれなければならん」

「あ、違うのね。安心したわ。気まずくなったらどうしようかと」

「仲間意識は持っているし、葉月のでかい胸も好きだが、それだけだ。第一、速峰春真に抱いてもらえと言ったことがあるだろう。好きな女が、自分以外の男に抱かれるのを、許容すると思うか?」

「特殊性癖を持つ人でもない限り、許容しないでしょうね。女も一緒だけど」


 二人の間では終わっていても、(てい)のいいおもちゃを見逃すわけもなく。


「長月さんと葉月さんは、今晩はどこかの空き家に泊まってください。お二人でごゆるりと」

「私が殺すまでの間、せいぜい愛し合えばいい」


 紺屋さんや四季もいじっていた。

 これは、しばらくはからかわれそうだ。

 僕はあとが怖いから便乗しない。長月なんか、今にもキレそうだ。

 多少はバカをやる方がいいって話もあるのかな。

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