五十二話 リーダーは誰?
僕がやることは意外と多かった。
家で待つだけだった時よりは、仕事がある方がいい。自分だけサボっているのは罪悪感があるし。
戦いで役に立てないなら他の作業をする。
遺体を埋める穴を掘り、鹵獲した武器で僕が使えそうな物を探す。
最初に武器を探しておく方がいいとなった。護身のためにも必要だ。
学校の一画に集めてあるので、その場所に葉月さんと一緒に向かう。
でも、残念ながら使えそうになかった。
僕には武器を扱う知識がないし技能もない。難しそうだとは考えた。
同時に、数も種類も豊富だし、何かは使えるかなって気持ちもあったんだ。ボタン一つで攻撃できる操作が簡単な物とか。
使い方が分かる分からない以前の問題だった。僕が使おうとしても、うんともすんとも言わない。
「生体認証ね。持ち主以外は使えない設定になってるみたい」
「セイタイニンショウ?」
「私も専門家じゃないし詳しくないけど、指紋とか声紋とか、個人を識別できる身体情報を用いる技術よ。登録した人しか使えなくなるの」
「へえ、凄い技術だね」
武器を鹵獲されても、相手に使われてしまう心配はないって意味だ。
武器が強ければ強いほど、相手を有利にしてしまうし、対策はしていて当然ってことか。
僕たちじゃ、分解して解析したりとかもできないし、使い道がない。
「物騒な意見を言うけど、捕虜になっている人たちを脅して、僕でも使えるようにしてもらう?」
「それが合理的な判断かもしれないけど……ごめん、すぐには決められないわ。保留にさせて。穴掘りに戻るわよ」
「分かった」
武器を集めてある場所を離れ、校庭で穴掘り作業を続ける。
他のメンバーだって仕事は山積みだ。人質になっている兵士の世話もしないといけない。
慌しく動いていると、少し困った事態が起きた。
紺屋さんと葉月さんで捕虜の様子を見に行っていたのに、葉月さんが一人で戻ってきて相談された。
「家族や恋人に会いたい?」
「そうなの。怪我の治療をしていた長月も聞いたし、私や弥生、卯月も聞いたわ」
葉月さんは、どうしたものかと頭を悩ませていた。
町に攻めてきた兵士は、およそ三百人だ。
怪物の住処に攻め込むにしては、随分と少ない戦力になる。
外とこの町なら、戦力差は明らかだ。ガチンコ勝負をすれば外が確実に勝つ。
それは、十全な戦力を整えたらって前提での話だ。たったの三百人じゃ、外にだけある強力な武器を用いたとしても勝ち目があるとは思えない。
事実、昨晩のぶつかり合いはこちらに軍配が上がっている。
怪物になった町の人たちと、十二月の四人、四季と冬将っていうメンバーで、十分に撃退できた。
町の人たちには結構被害が出たけど、無事な人も多い。
主要メンバーには一切被害がない。死んでいないし戦闘不能になる怪我も負っていないんだ。
お粗末な行動だよね。一部の人間が先走ったせいかと思ったけど、それだけでもなかった。
こちらを舐めていたわけじゃなく、外の力を過信していたのでもない。
捨て駒だ。僕たちが、怪物になった住人をけしかけたように、外も三百人をけしかけてこちらの戦力を削る目的だった。
で、望んで捨て駒になりたがる人は少ない。目的があったから志願した。
新人類となり、町に入れられてしまった大切な人に会いたい。
これが目的だ。三百人全員ではないみたいだけど、町に入り込むチャンスだと考えて志願した人もいた。
「家族に会いたがっている人は、何人くらいいるの?」
「五十人程度かしら。カウントしてないし、正確な人数は不明よ」
三百人中五十人。多いのか少ないのか。
「会わせるにしても、こっちは家族の記憶がないよね? 会えば思い出す?」
「思い出さない可能性が高いけど、絶対とは言えないわ。人によるとしか」
「お互いに記憶があるなら再会する意味もあるだろうけど、一方的だとなあ。葉月さんたちの考えは?」
「会わせてあげたい気持ちはあるわよ。とはいえ、面倒事の方が多そうだし難しいわね。やるとしても今じゃないわ」
今は何かと忙しいし、それどころじゃないって判断だった。妥当なところだ。
僕と葉月さんで話していれば、怪我の治療を終えた長月がやってきた。
「葉月、終わったぞ。冬将はそのまま捕虜の様子を見ている」
「ありがとう。捕虜の状態はどう?」
「傷は治した。命が危険な者はいなくなったし、手足を失っていたのも治した。内臓がイカれていて死にかけだった奴は、いくらなんでもすぐには治せん。少しずつだな。大部分を五体満足に戻したぞ。腹を空かせている者が多いが、食事を与えるか?」
「町の分は使えないけど、外の人たちが持ち込んだ分はあげてもいいと思うわ。みんなの意見も聞いて決めましょう」
「葉月が決めてもいいのでは?」
「あのねえ、私はリーダーじゃないの。序列ならむしろ下の方になるわよ」
十二月の序列で、葉月さんは八番目だ。
もっと上には、如月、紺屋さんこと弥生、卯月、水無月がいる。
葉月さんがリーダーっぽい真似をしているのには、ある理由があった。
「俺が最年長で、次が葉月だぞ」
「……長月。いくら事実だからって、年齢の話はやめて」
「何を今さら。高校生に化けていたのは任務のためで、お前の実年齢は二十……」
「現実を直視させないで!」
葉月さんが悲痛な叫び声を上げていた。よほど触れられたくない部分らしい。
睦月が若い人を中心に残したせいで、葉月さんは年長者組に入ってしまう。
序列が上の四人だって、全員葉月さんより年下だ。僕や四季、冬将、神和もみんな年下だし、年長者の長月と葉月さんが中心になっている。
僕からすれば、葉月さんも若いし綺麗だけど、本人は気にしているんだろう。
迂闊な発言はやめておく。
僕は自重したのに、年齢を気にしている葉月さんに追い打ちをかけるかのごとく他の人が集まってくる。
「葉月、結界を張る作業が終わった。ボクたちの出入りは自由にしたいし、例外処理が大変だった」
「水無月ちゃんは頑張った偉い偉いペロペロしてあげるね」
「卯月のペロペロはいらないから、次の指示をちょうだい」
水無月と卯月が戻ってきて、葉月さんに指示を仰いでいた。
さらには。
「葉月さん、鹵獲した武器の処理ですが」
「葉月さん、私にセクハラをした捕虜をぶち殺す許可をください」
如月と紺屋さんまでだ。
「葉月葉。私も神和みたいにお風呂に入りたい。一時帰宅の許可を求める」
とどめとして四季も。
頼られている証拠ではあるけど、葉月さん本人は不服そうだ。
「なんでみんなして私のところにくるの!? 最年長の長月もいるでしょ!」
葉月さんの訴えに対し、各々が答える。
「長月が頼りにならないとは言わない。でも葉月が一番頼れる」
「困ったことがあれば葉月に言っておけばいいかなって気分だよね」
「俺も、なんか葉月さんに報告しなきゃって気持ちが」
「葉月さんがリーダーでは?」
「巨乳の指示に従ってあげる」
水無月、卯月、如月、紺屋さん、四季。
そろいもそろって、要約すれば「葉月さんだから」と。
睦月に並ぶ常識人って話でもあったし、とりあえず葉月さんに相談しておけって感覚があるみたいだ。
「大人気だな。俺も葉月がいてくれて助かる。じゃなきゃ、俺がまとめ役にさせられていた可能性が高い」
「嬉しくないわよ! 私はまだ若いの! まだいけるの! リーダーって、もっと年長者がやるべきでしょ!」
「表向きは俺をリーダーにしておけばいい。外の連中と交渉するにしても、葉月では舐められる。俺でも舐められるが、葉月よりはマシだ。俺はお飾りで、実質的なリーダーは葉月。これでいいだろう」
「よくない!」
葉月さんは地団太を踏んでいた。いつも落ち着いている彼女にしては珍しい。
僕は、悪いけど傍観者でいさせてもらう。ここで舞台に上がるのは勘弁だ。
「あまりムキになると、本気でババアかと思われるぞ。その胸も実は垂れ……」
長月は最後まで言えず、地面に沈んだ。
葉月さんが暴力をふるう姿は初めて見るね。
「垂れている? 悪魔め、ざまあみろ」
「四季も長月の二の舞になりたい?」
「私は負けない。悪魔は死すべし」
なんだか変な言い合いもしているし、収集がつかなくなってきた。
僕は傍観者。僕は傍観者。
ここで割って入る度胸はない。
如月や紺屋さんが落ち着かせてくれて、衝突は避けられた。二人は頼りになる。
「はあ……リーダーになる気はないけど、一つずつ解決していきましょう。四季は帰宅していいわよ。卯月も一旦帰って、休める時に休んでおいて。水無月は、結界を張り終わったならすぐに仕事はないから、卯月と一緒でいいわ」
テキパキ指示を出す姿は、どう考えてもリーダーだよなあ。
「如月は、武器は置いておいていいから、余力があるなら穴掘りを手伝って。長月もね。弥生は、セクハラ野郎をぶち殺したい気持ちは理解するけどやめて。捕虜の虐待や拷問はダメよ。あなたは、捕虜の見張りと穴掘り、好きな方を選んで。見張るなら冬将と交代よ」
葉月さんが指示を出し終えれば、誰からともなく拍手が巻き起こった。
実に見事なリーダーの風格です。格好いい女性です。
「私は若いのに……」
「垂れていないと?」
「長月、いい加減にしないと私も本気で殴るわよ?」
「俺を止めたければ命令すればいいだろうに。序列は葉月が上だ。命令として発せられた言葉には逆らえん。俺たちの決まりだ」
「嫌よ。睦月みたいなリーダーなら命令できる権限もあるけど、私は八番目なの。バカなこと言ってないで行動して」
リーダー、もとい葉月さんの指示で、各々行動する。
四季たち三人は一時的に帰宅して休憩だ。神和も家にいるし、四人で待機していてもらう。
冬将は捕虜の見張りで、食糧も少し与える。
残り五人はせっせと穴掘りだ。
僕はあまり活躍できなかったけど、十二月が四人もいてくれたおかげで、夜になる前には作業が終わった。
人々の遺体を埋めて、校庭を元通りにする。
「疲れたぁ……みんなは体力あるよね。羨ましい」
「お疲れ様。速峰は一度帰っていいわよ。夕飯を食べて、お風呂にも入って、ゆっくりと寝てちょうだい」
「お言葉に甘えるよ」
まだまだ仕事ができるとは言えなかった。
慣れない力仕事をしたせいでヘトヘトだ。体力も残っていない。
無理に仕事をしようとしても、途中で倒れかねない。情けない話だけどさ。
「如月さんや葉月さんも帰宅した方がいいのではないですか? 昨夜戦ってから、寝ずに働きっぱなしですよね?」
「弥生も帰宅しろ。こちらは俺や冬将に任せておけ。帰宅している連中を二、三人こちらによこしてもらえれば、戦力的にも足りる」
「私は長月さんよりも強いですよ?」
「速峰春真たちに食事を作ってやる方がいいだろう。俺が作ってもいいが、弥生の料理の方がうまい」
「確かに、食事を作る必要がありますね。では、私も帰宅させてもらいます」
こうして、学校に残るメンバーと、僕の家で休むメンバーになった。
明日も朝から作業がある。学校に集合することにして、今日はおしまいだ。
何かあれば携帯電話で連絡を取り合う。
何も起きないことを祈りたいね。
外の襲撃があってから、もうすぐ二十四時間が経過する。
まだ一日なんだなあって気分だ。




