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僕たちは明日に向かう  作者: ともむらゆう
第2章 後退、復活、再度前進
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四十二話 運命の分かれ道

 春を迎えにきた。四季(しき)に言われ、手を差し出される。

 握るべきか握らないべきか、運命の分かれ道だ。

 僕が選んだのは。


「握れない……かな」

「どうして?」


 四季は僕を責めないけど、わずかに悲しそうな顔をした。


「正確に言うと、条件付きになる。四季も知ってるように、僕は理想論者だ。四季はもちろんとして、親友の如月(きさらぎ)紺屋(こうや)さん。葉月(はづき)さんたち十二月(じゅうにつき)のメンバー。クラスメイトとかも含まれるかな。全部欲しいの。全部手に入れたいの。身の程知らずは百も承知で、僕は全兎を望む」


 みんなで仲良くしたい。笑い合い、幸せに暮らしたい。

 一人だけ助けて、他の人は犠牲になったんじゃ無意味だ。何も失いたくない。

 それは不可能だと告げられても、なお全てを求める。


 四季からも他の人からも何度も言われているように、脳内お花畑の理想論者だ。

 甘ったれた人間だけど、僕は自分の理想を捨てない。捨てたくない。

 理想を追い求めるために、前に進む。


「ここで四季の手を取っちゃうと、僕の望みは叶わない。如月たちが死ぬことになるし、四季だって辛いよね」

「……分かった」

「あ、待って待って」


 四季は手を下げかけたけど待ったをかける。


「条件付きって言ったでしょ。僕は、十二月を殺すっていう四季の行動に協力する気はない。でもさ、四季が何をしようと知らないって突き放す気もないんだ。全兎を望む。この全兎の中には、四季も含まれる」

「わがまま」

「わがままだよ。僕が力になれるならなりたい。だから、僕は僕の望みを叶えるため、理想を追い求めて四季も助けるためになら、四季の手を取りたいって思う」


 我ながら、随分と無茶苦茶なことを言っているとは自覚している。

 僕の性格を知る四季ですら呆れているし、初めて会った冬将(ふゆまさ)神和(かんな)はもっと呆れてぽかんとしている。

 でも、引かないよ。絶対に譲らないよ。


「多分、邪魔でしかないだろうけどね。四季が戦う中、僕は十二月を殺さないでって反対するんだ。四季のやることなすことにケチをつけて、あれはダメだ、これは嫌だって口を挟む邪魔者にしかならない。鬱陶しいよね? 面倒臭いよね? 士気がだだ下がりだ」

「ダジャレ?」

「ダジャレじゃなくてね」


 四季の士気がだだ下がりになる。

 ダジャレっぽいけど真面目な話だ。真面目モードでいかせて。


「僕みたいな人間は不要だ。足を引っ張り、士気を下げるだけにしかならない。いてもらっちゃ困る。自覚した上で邪魔者になろうとするんだから、救いようのないバカだ」

「うん、バカ」

「バカでも傍観者は嫌だから。舞台に上がりたいから。全兎を望むから。こんな邪魔者でも受け入れてくれるなら、どうか受け入れてください」


 四季たちに対し、深々と頭を下げた。

 僕からすれば、仲間にならないって断るのは簡単だ。四季の手をはねのけて帰ってもらえばいい。

 それはそれで、僕が困るんだよ。傍観者になっちゃうし。


 葉月さんは、何か問題が起きていたのに話してくれなかった。睦月(むつき)が教えるなって指示を出したからってことだ。

 十二月の側には行けない。向こうは僕を必要としていないし拒否する。


 僕一人でいても何もできない。何をしていいかも分からない。

 そんな時、四季がきてくれた。僕を、春を迎えにきたと言ってくれた。

 渡りに船だ。これはぜひとも乗っかりたい。

 だからって、僕の望みを捨てるのは嫌だ。理想を追い求めたいし、全兎を望む。


 本心を隠して仲間になってもトラブルになるだけだ。

 全部打ち明けた。僕の望みを、考えを。

 あとは、四季たちが僕でもいいと言ってくれるかどうか。


速峰(はやみね)春真(はるま)には、十二月を殺す覚悟がない」

「ないよ。代わりに、殺さない覚悟はある。殺す方が簡単で、最善の方法だとしても、殺さない。殺さないで解決できる道を模索する」


 僕が甘ったれて殺さないせいで、より大きな問題が生じるかもしれない。

 誰かが傷付き、苦しむかもしれない。被害が大きくなるかもしれない。

 全部僕のせいだ。唾棄すべき甘っちょろさのせいだ。

 責任も取れないし、直接殺してはいなくても、最低最悪の大量殺人犯とかになるかな。

 僕を許さない人も大勢いるだろうね。天誅でも下されて殺されるかも。


 しょうがないよ。

 しょうがないで済ませちゃいけない問題だけど、責任を取る方法もないしね。どうなっても受け入れる程度しかできない。

 どうなってもしょうがない。そうなることも含めて、殺さない覚悟を決めた。


「私は殺す覚悟で、速峰春真は殺さない覚悟?」

「そうだね」

「言葉遊びというか詭弁というか。速峰春真は、自分の弱さから目を背けているだけにも見えるけど……」

「弱い人間の顔にゃあ見えねえな」


 冬将が僕をフォローしてくれた。

 先ほどは呆れていたけど、今は面白そうに笑っている。


「なんでも表裏一体だ。強さにもなり得るし、弱さにもなり得る。弱いから殺せません、殺したくありませんって話なら却下だが、速峰春真は殺さない強さを持ってると俺は判断する。殺すことだけが強さじゃねえよ。殺すから偉いとか正しいとかぬかしやがるバカがいるなら、そいつとは仲間になれねえな。適当に理由をくっつけて殺したいだけだ。単なる快楽殺人犯だ」

「好意的に解釈し過ぎじゃない? 僕はそこまで立派じゃないよ」

「なんでもいいさ。俺は速峰春真を気に入った。迎えにきて正解だったな。よろしく頼むぜ、春真」

「ありがと、冬将」


 冬将は認めてくれたみたいだけど、四季と神和はどうだろう?


「神和は反対かなぁ。神和は可愛く死にたいの。可愛いままで生き続けられれば理想だけど、無理だもん。外に負けちゃうよ。汚泥にまみれながら醜く生きるなら、可愛く死にたい。速峰君がいると、神和は可愛く死ねなくなっちゃうよ」


 神和は反対だった。彼女……彼? まあ、神和の考えは、僕とは全然違うし、この考えもありだね。

 これで、賛成と反対が一対一になった。

 多数決で決めるなら、四季の意見が重要になる。

 三人分の視線が四季に集中すると、彼女はため息をついた。

 どちらと答えるか注目していれば、予想外のセリフをのたまう。


「速峰春真は、なぜか男にモテる。モテモテ」

「はい?」

「如月は速峰春真が好き。師走(しわす)カケルにも気に入られていた。十二月のリーダー、睦月月賀(げつが)も速峰春真には一目置いている。今度は冬将まで。男たらし」

「不名誉な称号だ!」


 男たらしって何? 女たらしも不名誉だけど、同性の男をたらし込むのは違った意味で不名誉だ。

 冬将はドン引きしている。


「前言を撤回してもいいか?」

「しないで。僕は男たらしじゃないから。女性が好きだから。冬将と同じで、大きな胸とか大好き」

「気が合うな!」


 あっさりと仲直りできた。

 男同士はこれで済むから楽だよね。少しエッチな話でもすれば友達になれる。

 性欲のない如月には通じないし、冬将に通じてくれて助かるよ。

 冬将とは対照的に、四季は大変不機嫌になっている。


「速峰春真はいらない。こんな男を引き入れようとしたのが間違いだった。私が愚かだった。巨乳(あくま)に魅入られた人間。悪魔憑きめ。世が世なら火あぶり」

「真面目モードが長続きしないなあ。真面目に答えてよ」

「……しょうがないし真面目に答える。よろしく、速峰春真」

「あ、うん!」


 今度こそ、四季の手を握る。

 無茶苦茶なことを言ったのに受け入れてくれた。ありがたい。


「えっと、神和もよろしくね。迷惑かけると思うけど」

「四季と冬将が認めたし、神和もいいよ。可愛い神和は性格も可愛いの。ネチネチクドクド文句は言わなぁい」

「ありがとう」

「仲を深めるために、神和とお風呂に入る? 冬将も入れて三人でどぉ?」

「やめておきます」


 三人とも男だし、何もおかしくないはずだ。裸の付き合いをして仲良くなるのはありだ。

 おかしくないのに、神和と入るのは……そこはかとない犯罪臭がさ。


「冬将は、神和とお風呂に入ったことあるの?」

「ない。それをやっちまうと、人として大切なものを失う気がする。万が一、万が一だぞ。神和でもいいや、とか思っちまったらどうすんだ?」

「巨乳好きなら、神和が女性だとしても守備範囲外じゃないの? ガキには興味ないんでしょ?」

「こいつは、妙な色気があるんだよ。根本部分が男だからだろうな。どうすりゃ男に訴えかけられるか、熟知してやらかすからタチが悪い。四季よりもヤバいぞ。そのうち春真も分かる」

「うふっ」


 神和はウィンクが得意技みたいだ。似合うんだよねえ、これが。

 冬将に、男の神和以下の扱いをされた四季は、より不機嫌になっている。


「なぜ誰も膨らみかけのよさを理解しない? 大きいのがそこまでいいのか? 大きいのが好きなら、紺屋(よい)や葉月(よう)の胸でも揉んでいればいい」

「神和は小さいのが好きだよ。大きいのはねぇ、なんか下品なの。あれって可愛くないよねぇ。見苦しいし、慎ましい方が可愛いよ」

「神和に言われると、傷の舐め合いにしか聞こえない」

「失礼しちゃう。プンプン」


 少し変な話になっているけど、とりあえず僕は三人の仲間になったってことだ。


「で、これからどうするの?」

「私たちはここに住む。ここを拠点に動く」

「急だね。今まではどこにいたの?」

「空き家を使っていた。外から新しい人間が入ってくるし、町の人間が十二月に始末されることもあるし、空き家が意外と多い」

「そこじゃダメなの?」

「ライフラインを止められた。居場所がバレたんじゃなくて、空き家に電気やガスを通していても無駄だから止められたんだと思う」


 管理しているのは十二月なのかな。外の誰か?

 いずれにしろ、しばらくは放置していたけど、無駄だから止めたってわけだ。


「神和、お風呂に入ってもいい? 数日ほど入ってないの。可愛い神和でも、不潔なのは可愛くないの」

「どうぞ。場所を教えるね。寝る場所はどうする? 四季部屋は、ベッドも何もなくなっちゃってるよ」

「明日買いに行く。今日はここで雑魚寝」


 今日はもう遅いし、順番に入浴して休むことになった。

 明日は、僕は学校に行ってもいいって言われた。葉月さんから少しでも情報を聞き出せるかもしれないし。

 四季たちは生活の準備だ。


「出歩いて大丈夫なの? 覚醒した十二月は、お互いに居場所が分かるんじゃ?」

「神和なら大丈夫だよ。神和を従えてるのは冬将だからねぇ。十二月同士よりも、上位存在の冬が優先されるの。帽子でも被って髪の毛を隠せばOK」

「冬将は? どこにいるか分からない夏や秋が、冬の居場所を把握してるってことはない?」

「ないな。その理屈だと、俺も把握してなきゃおかしい。俺は分かんねえし、仮に夏や秋が覚醒してても俺の存在は分かんねえよ」

「四季は?」

「本拠地が落とされないよう、私が守り抜く」


 要は留守番だね。無駄に格好つけた言い方をしているけど意味はない。

 明日以降の予定はこんな感じになった。

 のんびりできる時間はないけど、最低限の生活基盤は整えておかないと何もできないよねってことだ。

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