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僕たちは明日に向かう  作者: ともむらゆう
第2章 後退、復活、再度前進
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四十話 春

 春。春ってなんだ? ここまで出かかっているのに。


「おい、四季(しき)。話が違うぞ。速峰(はやみね)春真(はるま)は、覚醒こそまだだが、思い出してるって話じゃないのか?」

「かなり思い出している。外の存在や、町の異常性にも気付いている。速峰春真の深度は、ほぼゼロに近い」


 深度? これは、昔聞いた言葉だ。四季を拾った直後だったかな。

 僕を指して、深度が二から三だって言っていた。

 今は、ほぼゼロ? どういう意味?


「これ、連れてって平気か? ぶっ壊れたりしそうで不安だぞ。ぶっ壊れたらさすがに寝覚めが悪いし、俺たちにとっても足枷になる」

「速峰春真」


 冬将(ふゆまさ)が僕を心配している横で、四季は僕をじっと見つめてくる。

 真剣な瞳だ。


「これから事情を話す。私が知る限りの全てを。それは、速峰春真にとって大きな負荷になる。記憶が混濁して廃人になりかねない」

「これまで四季が話してくれなかったのは、僕を心配して?」

「それもある。私は、速峰春真には踏み込んでもらいたくなかった。一度踏み込めば、後戻りはできない。速峰春真には今のままでいてもらいたくて、でも離れがたくもあって、私は中途半端な対応をしてきた。覚悟がなかったのは私の方」

「今は覚悟が決まった?」

「決まったというか、決めざるを得なかったというか。聞くかどうかは速峰春真の判断にゆだねる」

「聞かせて」


 僕は即答した。

 なんにも分からない状態で振り回されて、傍観者のままでいるのは嫌だ。


「分かった。ただし、これ以上はまずいと判断したらやめる。廃人になられると困るから」

「いいよ」


 そして、四季は話し始める。


 突拍子もない話だけど、外では永遠の命が真剣に研究されていた。

 永遠の命、不老不死といった言葉は使わない。それらは神の領域であり、人類が触れていいものではない。タブーだ。

 人々を救うとか世界を救うとか、耳触りのいい綺麗なお題目で誤魔化していた。

 一言「人々を救う」と言っておけば、行動を正当化できる。法や倫理に反したとしても、大局的に見れば「人々を救う」ことにつながるんだ。


 ある種のヒロイズムになるのかな。悲劇のヒーローだ。

 人々を救うために、時には非道とされる行いもできますよって。

 全員が全員そうだったとは思わないけど、英雄的行為をしている気分に浸りつつ研究は進められた。


 時は二〇二九年、外では新人類と呼ばれる人々が誕生した。

 強靭な肉体を持ち、人間離れした戦闘能力を誇る超人などだ。

 他にも様々な特徴を持っており、それまでの人間とは一線を画す存在になった。


 ところが、新人類は恐れられた。

 永遠の命を求めたくせに、いざ強い人間が誕生すると恐れ出したんだ。

 人間ではない。怪物だ。化け物だ。世界に存在してはならないモノだ。

 そう言って排除する方向に動いた。


「擁護するわけじゃないけど、無理もないんじゃない? 近くにとんでもなく強い人がいて、人間の百人や千人は簡単に殺せます。町の一つや二つも簡単に滅ぼせます。こんな状況じゃ安心できないよ。排除したがる気持ちは理解できる」


 これを弱さだと断じてしまうのは、持てる者の傲慢だ。

 怖い人とは仲良くしたくない。僕だって、変死事件を起こす霜月(しもつき)とは仲良くしたくないしね。

 事件を起こさなかったとしても、もしものことを考えれば排除したくなる。


 相手が強過ぎてどうしようもないなら、しょうがないし諦める。殺されないために媚でもなんでも売っておいて、表向きは仲良くする。

 勝とうと思えば勝てるんだ。排除しようと思えば排除できるんだ。

 だったらやるでしょ、普通は。


「客観的に考えれば速峰春真の言う通り。だからって、むざむざ排除されるのをよしとする?」

「しないだろうね」


 新人類だっけ? いまいち自覚はないけど、僕もこのカテゴリに含まれる。町に住んでいるんだし。

 僕は、永遠の命を求めた覚えがない。忘れているだけかもしれないけど。

 強靭な肉体なんて持っていないし、特別な力もない。これまでにも殺されかけているように、弱い人間だ。

 なのに、排除されるのはごめんだって感じる。ふざけるなってね。

 強い力を持つ十二月(じゅうにつき)たちだって、強いからって理由で殺されるのは嫌だろう。


 排除したがる側の気持ちも理解できる。

 排除される側が反発する気持ちも理解できる。

 どちらにも事情があり、どちらも大きく間違っているわけじゃない。

 じゃあ、どうなるか。


「お互いに不平不満はあれど、妥協できる部分は妥協し合って仲良くしよう。とはならないよね。僕は仲良くできればいいと思うけど、世の中の人は僕みたいな理想論者ばかりじゃない」

「仲良くするのは無理。特に為政者であれば、万が一の事態を想定しておかなきゃまずい。理想論者じゃ務まらない」


 旧人類は新人類を排除したい。殲滅したい。

 新人類だって、素直に殲滅される気はない。抵抗する。


 旧人類VS新人類。

 第三次世界大戦の勃発だとか世界の終わりだとか、色々と言われていた。

 世界中を巻き込んでの戦争……かと思われたけど。

 人類もそこまで愚かじゃなかった。


 新人類を排除するために、世界がめちゃくちゃになっては意味がない。核ミサイルでも使えば倒せるけど、同時に世界は滅びる。

 新人類だって、戦力の差は分かり切っている。個々の能力では上回るも、数では大きく下回る。圧倒的に劣勢だ。戦えば勝ち目はない。


「睦月さんから聞いた話と同じだ。冷戦状態になっているって聞いた」

「新人類側が、なんとか冷戦状態に持ち込んだが正しい。旧人類は、新人類の排除を諦めていない」


 新人類は、一般社会での生活を捨てた。

 特定の場所に閉じこもり、旧人類とは接触せず、静かに暮らす道を選んだ。

 この町、時忘(ときわす)(ちょう)もその一つだ。

 強大な力を持つ新人類が暮らすための場所になる。


 町には様々な仕掛けが施されている。

 結界を張り、外とのつながりを断って、簡単には行き来できないようにする。

 住人の記憶を操作する効果もあるらしい。完璧とは言いがたいけど、漏れた分は個別に対処してなんとかする。

 時を忘れた町。まさしく名前の通りだ。

 時の流れを忘れ、同じ時間を繰り返すがごとく暮らしている。

 時が流れ、変化すると、負担になる。負担は記憶を揺り起こすのでよくない。


 同様の町は世界中に存在し、隠れ住んでいる。

 自分たちは隠れます。表の社会には出て行きません。ひっそりと生きることをどうか許してください。

 こんな感じで譲歩の姿勢を見せたわけだ。

 これ以上は譲歩しないし、拒否するなら全面戦争だって言って、硬軟織り交ぜた交渉が行われたとか。


 旧人類としては、全面戦争になれば勝つと分かっている。しかし、大きな被害も出てしまう。

 大勢の人間が死に、町や国はめちゃくちゃに。

 荒廃した世界では生きることすらままならず、旧人類同士での争いも。

 まるで映画のような、滅びゆく世界になってしまうわけだ。

 これでは勝利とは言えない。渋々新人類の提案を認め、町を建設した。


「外の近くに町があるのも、攻撃されないための自衛策。時忘れ町なら、太平洋沖にでも作ろうと思えば作れた。日本列島から遠く離れた海上に町があり、新人類が住むと、格好の的になる。攻撃されて全滅するだけ」

「タイヘイヨウオキとかニホンレットウとかの意味は分からないけど、要するに外が人質みたいなものなんだ」


 このあたりも、睦月の話にあった。

 町を滅ぼせるほどの攻撃を加えれば、外にも大打撃になる。

 外からすれば、多大な犠牲を払って勝利を収めても意味がない。

 危険分子を町に押し込められれば、とりあえずはよしとしておく。


「僕が聞いたのは、十二月が町の秩序を守っていて、外と戦争にならないようにしているって話だった。変死事件とか怪物とかも町を維持するため。大を救うために小を切り捨てる方針だって。四季の認識と合致してる?」

「合ってる」

「じゃあ、四季の目的は? その……睦月さんからは、弟妹の敵討ちって聞いた。他にもあるとも言ってたけど」


 四季のプライバシーを勝手に聞いたし、少し言いにくかった。

 確か、弟が夏樹(なつき)さんで、妹が秋穂(あきほ)さんだっけ? 二人とも十二月に殺された。


 ……ん? ()樹? ()穂?

 僕が春で、冬将が冬。

 睦月のメッセージにあったのは……春夏秋冬。

 偶然の一致じゃないよね。意味がある。


 春夏秋冬……春と、夏と、秋と、冬と。

 ここまで出かかっている。頭痛もするけど、我慢して思い出せ。


「ぐ……」

「これ以上は、速峰春真が危ない。中断する」

「い……や、大丈夫。まだ」


 もうちょっとなんだよ。本当にあとちょっと。

 思い出せそうにないなら中断するけど、出かかっているのに中断される方がモヤモヤする。

 春夏秋冬。この四文字の読み方は。


『四つの季節。シュンカシュウトウの意味の四季』


 四季と出会った頃の、彼女の言葉だ。


「シュンカシュウトウ……春夏秋冬! そうだ! 思い出した!」


 四季の目的を聞いておいてなんだけど、それよりもやっと思い出したよ。

 外には季節がある。

 一月とか二月とかの各月。これは元々知っていた。

 で、この月は春とか夏とかって、四つの季節がある。春、夏、秋、冬の四つだ。


「思い出した?」

「思い出した。四季の名前、四つの季節の意味が理解できる。外には、春夏秋冬の四つがある。僕の名前にある春や、冬将の名前にある冬。あとは、夏と秋が」

「十二月の名前、睦月や如月(きさらぎ)は、一月や二月の旧暦。そして旧暦では、一月から三月が春、四月から六月が夏、七月から九月が秋、十月から十二月が冬になる」

「そっちは知らなかったけど、そうなんだ。意味があるんだよね?」

「ある。春夏秋冬は、ざっくり言うなら十二月の上位存在。睦月、如月、弥生(やよい)を従えるのが春といった具合」


 一月から三月が春だから、春がこの三人を従えるんだ。

 もっとも、僕が睦月たち三人を従えられるかっていうと……無理じゃない?


「速峰春真は覚醒前だからピンとこないと思う。冬将は覚醒済みの冬」

「そうなの?」

「だな。つっても、霜月と師走(しわす)にはまだ会ってないが」

「代わりに、神和(かんな)を従えてるもんねぇ。神和は冬将の物……オエ」

「吐きたいのは俺だっつうの。どうせなら、可愛い女の子を従えたかったぜ。残り二人も男なんだろ? ついてねえ」

「神和は可愛いもん」

「可愛い()()()って言ってんだろうが!」


 冬将と神和が漫才をしていた。

 神和はよく分からないけど、冬将の言い方からして性欲があるみたいだ。如月とは違う。


「女の子ってことなら、夏だとよかったのかな。四月から六月は全員女性だよ」

「マジかよ!? 俺、今日から夏将(なつまさ)になる!」

「ただまあ、三人が『可愛い女の子』かっていうと……あんまり言うと失礼かな」


 卯月(うづき)は、顔の大半が隠れるほど髪の毛を伸ばし、オシャレとは無縁だった。謙遜なのか本心なのか、本人も自分自身をブスって言っていた。

 皐月(さつき)はおばあさんだって聞いている。水無月(みなづき)は可愛いけど幼い。


「冬将はロリコン?」

「ちっげえよ! 俺はでっかい胸が好きだ!」

「となると、水無月は好みから外れるか。四季以上に幼い外見で、小学生くらいの可愛い女の子だね」

「ガキにゃあ興味ねえ」

「逆に、葉月さんは好みになりそうかな。美人でスタイルよくて親切で」

「今日から俺は秋将(あきまさ)だ!」


 冬将は面白いな。ちょっと重い話になっていたけど、空気が明るくなった。

 バカ話はここまでにして、本題に戻す。


「つまり、僕は十二月の上位存在である春に覚醒する可能性を秘めている? だから迎えにきたってこと?」

「そう」


 四季が肯定した。冬将と神和も頷いている。


「自覚ないなあ。そもそも、四季は僕を人間だって言ってなかった? 十二月を従える春になるなら、僕も怪物なんじゃないの?」

「そこは少しややこしい。十二月は、新人類の中でも古い存在」

「新しいのに古い?」


 新人類ってくくりの中では古いって意味だろうけど、確かにややこしい。


「永遠の命を求めた時、いきなり完成形には届かなかった。徐々に改善された。でかい顔の怪物は失敗作で、死人が動く技術も失敗から編み出された。十二月は成功例になるけど、強い力を得た代償も払っている。人間らしさを失うという代償」

「如月には性欲がないみたいな?」

「そんな感じ。食欲、性欲、睡眠欲の三大欲求を失ってしまえば、人間からかけ離れる。他にも欠点があるし、人間とは言えない。そこから改善して、春夏秋冬は人間らしさを残しながら強さも得られるようになった」


 十二月は新人類の中でも古くて、春夏秋冬は新しい。

 大雑把な説明になるけど、こんな風にイメージすればいいみたいだ。


「さらに言うと、四季は春夏秋冬よりも上。いわば頂点」

「言葉の印象からすれば納得だね。四つの季節だし、春夏秋冬を包含している。それらの上に立つ名前にふさわしい。四季ってそんなに凄いんだ」

「私は本当の四季じゃない。私は、本当は小春(こはる)

「うあ゛あ゛……僕の頭じゃ処理し切れなくなってきた……」


 僕も春で四季も春? どうなっているの?

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