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僕たちは明日に向かう  作者: ともむらゆう
第2章 後退、復活、再度前進
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三十九話 最後の十二月

 如月(きさらぎ)紺屋(こうや)さんと会えて、楽しく過ごせた。

 次はいつ会えるかなって考えつつ、学校に通う日々を送る。

 ところが、少し異変が起きた。


 月曜日と火曜日は何もなかったのに、水曜日は葉月(はづき)さんが学校を休んだんだ。

 僕の見張りより優先される任務でもあったのかな。

 それとも、もっとまずいことが? 四季(しき)と戦って殺されたとか?


 大丈夫であってもらいたいと祈っていると、金曜日になって登校してきた。

 普段よりも表情は暗い。疲れている様子だ。

 生きていたみたいで安心したけど、問題が起きたのかな。


「葉月さん、おはよう。二日間休んでたけど、何かあった? 今日は元気もないみたいだし」

「あったから休んだのよ。私の判断で速峰(はやみね)に伝えてもいいものかどうか」

「言えないなら無理に聞き出さないよ。もし言えるなら言える範囲で教えて」

「今は保留にするわ。放課後まで待って」

「分かった」


 どんな内容なのかな。葉月さんが登校しているし、解決したのか解決のめどがついたのか、どっちかだと思うけど。

 気になりながらも授業を受けた。


 葉月さんは授業を聞いていないみたいだ。ずっと携帯電話をいじっている。

 学校で堂々と使っていいのかな? クラスメイトは携帯電話の存在を知らないし平気?

 葉月さんが気になる僕も、授業に集中できなかった。

 繰り返し受けている内容だし、別にいいや。


 休み時間になれば、葉月さんは毎回教室を出て行った。電話でもしているの?

 ここまで切羽詰まっているなら、学校を休めばよかったのに。僕の見張りよりも重要そうだ。

 如月や紺屋さんが携帯電話を持っていれば、二人と連絡が取れるのに。

 もどかしく思いながら、授業が終わる。

 生徒たちが帰宅する中、僕は教室に残った。

 葉月さんも残っているね。しばらくすれば、僕たち二人以外は全員帰宅した。


「速峰、朝の件だけど」

「教えてもらえるの?」

「ごめんなさい。言えないわ」

「ええー」


 そりゃないよ。

 確かに、教えるって約束したわけじゃない。保留にしただけだ。

 だからって、こんなにも焦らされて教えませんってなると、余計に気になる。


睦月(むつき)が、速峰には教えるなって言っていたのよ。リーダーの指示だから、私は素直に従うわ」

「ちょっとだけでもダメ?」

「ダメね。諦めてちょうだい。私は帰るし、またね」

「またってことは、明日は登校するの?」

「絶対とは言えないけど、多分登校するわ。速峰を見張る任務もあるし、私自身学校生活が意外と気に入ってるしね。今日だって休んでもよかったのに、登校したいからしたの」

「真面目だなあ。僕は、サボれるならサボりたいって考えるのに」

「それは、速峰が高校生だから……私も高校生だけど! 若いけど!」


 葉月さんは、勝手に年齢の話に踏み込んで自爆しかけていた。

 もっと年上でしょとは、あえて指摘しない。


「この制服だって、着慣れればイメクラじゃないのよ。私は若い。大丈夫。まだいける。弥生(やよい)は上位互換だって言ってくれたけど、年齢っていう最重要項目を含んでいなかったのは皮肉じゃないのよね。素で考えが及んでいないの。皮肉じゃないのが皮肉だわ。若いから若さの価値を知らない。贅沢者め」


 葉月さんは文句を呟きつつ、帰ってしまった。

 しょうがないし、僕も帰る。

 帰ってもやることないんだよなあ。

 変死事件を追いかけるのはやめている。外には出ないって睦月と約束した。如月や紺屋さんを取り返すのも、おおよそ解決したようなものだ。


 残るは四季だけど、どこにもいないんだよ。この数日、余裕ができたから町を探してみたのに、見つからない。

 僕のお姉ちゃんを自称するくせに、弟を放置するのは酷いよね。

 四季への文句を考えながら帰宅して、家で孤独に過ごす。

 夕飯は冷凍食品とインスタント食品で済ませ、自室でゴロゴロしていたら、だ。

 いきなり僕の部屋の窓ガラスが割れた。


「何、何? 何事!?」

「速峰春真(はるま)。久しぶり。今日は巨乳(あくま)がいないようで何より」


 現れたのは四季だった。


「悪魔は四季だよ! また窓を割っちゃって! この前割られた分をせっかく直したのに!」


 業者に依頼して直してもらったんだよ。結構高かったんだよ。

 この前は緊急事態だったし、窓を割って入ってきても許せる。

 今日は何もないのに、なんで窓から?


「普通に玄関からきてよ」

「気に入った」

「気に入ったって何が?」

「窓を割って飛び込むのが。私、格好いい」

「最悪な理由だった!」


 格好いいで窓を割られる僕の身にもなって。お願いだから。

 四季と言い合っていれば、今度はインターホンが鳴る。


「今度は誰!?」

「私の連れ。入ってもらう」

「あ、ちょっと」


 四季と一緒に玄関に行くと、二人の人がいた。男女二人組だ。

 男性は、高校生くらいかな。もう少し上かもしれない。精悍な顔つきをしていて男前だ。背も高いね。

 神無月(かんなづき)かとも思ったけど、白髪だから違う。四季も「彼女」と呼んでいたし、彼が神無月なのはあり得ない。


 神無月は、おそらく女性の方だ。

 水無月(みなづき)ほどではないにせよ。幼めの少女になる。小柄で童顔な可愛い少女だ。中学生くらいかな。

 彼女は黒髪だった。十二月(じゅうにつき)の証だ。


「おたくが速峰春真?」

「そうですけど、あなたは?」


 男性に話しかけられた。僕の名前を知っているのは、四季が教えたからかな。


「俺は冬将(ふゆまさ)だ。冬の(しょう)って書いて冬将。こんな時間に押しかけて悪いな」

「冬将さんはいい人ですね!」

「お、おう?」

「四季みたいに窓ガラスを突き破って突入しませんし、『こんな時間に押しかけて悪い』って言ってくれて常識があります! 四季も見習って!」

「なんか、苦労してんだな。心中察するぜ」


 やっぱりいい人だ。感動した。

 口調は少し乱暴だけど声色は穏やかだし、何より四季とは違って常識がある。

 その四季はといえば、家主の僕よりも家主っぽく振る舞う。


「詳しい紹介は中で。入って」

「それ、僕のセリフだよね? なんで四季が言うのさ」

「お姉ちゃんだから。ここは私の家でもある」

「ずっと留守にしてたくせに」

「でも帰ってきた。とにかく入って」

「四季に言われるのは釈然としないけど、立ち話をさせるのも悪いですよね。お二人とも入ってください。たいしたおもてなしはできませんけど」

「お構いなく」

「お構いなくぅ。おじゃましまーす」


 冬将さんと少女が順番に言って、中に入る。

 冬将さんの声は、低音で男らしい。ハキハキした口調で話す人だ。

 少女の声は可愛いけど、失礼ながら作っているって感じるものだ。もっと失礼な言い方をするなら、媚びているというか。


 とりあえず二人を招き入れて、四季も含めて僕の部屋に四人が集まった。

 日曜日に如月たちがきていたから、その時に使った座布団がある。四人分用意して座ってもらった。


「自己紹介した方がいいですか? 冬将さんは僕の名前を呼んでましたし、知ってるでしょうけど」

「四季から聞いてる」

「やっぱりですか。まあ、一応。速峰春真です。よろしくお願いします」

「さっきも名乗ったが、冬将だ」

神和(かんな)。神様の神に、和風の和で神和ね。よろしくぅ」


 少女の名前は神和さんだった。神無月に近い名前だ。

 仲間たちとは別行動している最後の十二月、神無月で確定だね。

 神和さんが名乗ると、四季は不機嫌そうな顔になる。


「神和はフルネームを名乗って。あなたのせいで、私は誤解していた。速峰春真も確実に誤解している」

「フルネームは可愛くないから嫌ぁ」

「じゃあ、私が言う。こいつの名前は神和都(かんなづ)喜太郎(きたろう)。字はこんなの」


 四季は、床に指で文字を書いた。

 神和都喜太郎。


「分かりにくいけど、苗字が神和都、名前が喜太郎」

「……喜太郎?」

「その名前は可愛くないのぉ。ヤなのぉ。神和は神和。可愛い神和。速峰君も、神和って呼んで。ね?」

「神和さん?」

「呼び捨てで、神和でいいよ。うふっ」


 神和は、パチリとウィンクをしていた。

 外見が美少女だから似合うけど、でも名前が喜太郎ってことは。


「まさか、男性?」

「一応ね。でも、女の子の格好が好き。可愛いから。神和は可愛い物が好きで、可愛くない物が嫌いなの。四季は可愛いから好き。冬将はごつくて可愛くないから嫌い。速峰君は結構可愛いから、まあまあ好き」

「わりいな。こういう奴なんだよ。悪人じゃないが問題児だ」


 冬将さんが苦笑して言った。

 四季は苦虫を噛み潰した顔だ。「よくも騙したな」とか言っている。


「四季は、神和が女性だと勘違いしていた? この外見なら、男性だって言われなきゃ絶対に勘違いするよね」

「してた。私は、神和が女だと思っていた。胸が小さいのも素晴らしい。十二月は敵だけど、胸だけは仲間。ちょっとだけ心を許してもいい。一緒にお風呂に入るほどには心を許してもいい。私は神和を信じていたのに、脱衣所で」

「神和の体を見ちゃったんだよね。キャッ、恥ずかしい」

「おぞましい。ちょん切る」


 体を見て、ちょん切るって言っているし、男性のアレか。

 四季が目撃した以上、神和は男性で確定だ。

 性別を教えてもらっても半信半疑だったのに。


「この見た目で男性なんですね……信じられない」

「男の娘っつったっけか? 外じゃ一部で人気あるって聞いたぞ」

「男の子?」

「男の(むすめ)って書いて、男の()って読むんだとさ。外の連中()変態だよな。よくもまあ、こんなアホなことを考えるもんだ」

「冬将の言い方に悪意を感じるぅ。外の連中『も』って何よ?」

「お前も変態の仲間だって自覚しろ」

「神和は変態じゃないもん。可愛い物が好きなだけだもん。プンプン」


 プンプンって擬音を口に出して、頬を膨らませている。

 明らかに「可愛い」を意識しているって分かる言動だ。

 一人称が自分の名前で、声のトーンから話し方、仕草の一つ一つまで、全て可愛く振る舞っている。

 本人の自由だしいいんだけどさ。


「十二月って、変人じゃなきゃなれない決まりでもあるの?」

「他の十二月も、神和みたいな変人ばかりなのか? 俺は会ったことなくてな」

「全員じゃないですけどね。リーダーの睦月さんは紳士的なおじさんって雰囲気でしたし、如月は僕の友人でまともです。紺屋さん……弥生もまともで、葉月さんは親切でいい人です」

「四人がまともってことか。神和を入れて八人がヤバいと」

「僕も全員と会ったわけじゃないですし、確かなことは言えませんけど」


 見たことがないのは、皐月(さつき)長月(ながつき)だ。

 こうやって考えると、大半の十二月に会っている。


「まあ、十二月のことはいいとして、三人はどうしてここに? 冬将さんと神和を僕に紹介するためですか?」

「俺も呼び捨てにしてくれ。さんって呼ばれるのは性に合わん。堅苦しいのは苦手なんだよ。敬語もやめてくれ」

「分かった。冬将だね」

「おう。いやあ、まともな男がいてくれて助かる。変態二人と一緒なのは、疲れて疲れて」


 僕と冬将が少し仲良くなったところで、先ほどの質問に答えてくれる。


「俺たちがきた理由だよな。簡単だ。春を迎えにきた」


 その答えは、僕には理解できないものだった。

 僕の名前は春真だし、「春真を迎えにきた」ならまだ理解できる。僕を迎え入れてどうするのかって疑問は残るけど。


 春を迎えにきた?

 そもそも、春って何?

 睦月からもらった謎のメッセージにもあった。春夏秋冬って。

 春。思い出している外の記憶にあるような……

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