三十八話 十二月は珍名ぞろい
食事後は、僕の部屋に四人が集まり、適当にだべる。
最初は近況報告だ。
「学校は、特に変わったことはないかな。つまらない授業を受ける毎日だよ」
変わったことがないのがおかしいとも言える。
クラスメイトの中で、かなりの人が死んでいるはずだ。美央さんとかね。
死んでいるのに動いている人は、今後どうなるんだろう。
「如月や紺屋さんは、美央さんたちがどうなるか分かる?」
「春真に教えてもいいんですか?」
如月は葉月さんに確認を取った。
葉月さんが頷いたので、教えてくれる。
「町が維持されてるうちは、基本的に今のままだ。とはいえ、ずっと続くわけじゃない。体が限界を迎えれば動けなくなる。個人差があるから、一律にいつまでって決まってはいないな。早ければ数ヶ月、長ければ何年でも」
「永遠の命ってわけじゃないんだね。四季がそれっぽいことを言ってたけど」
「人によっては、永遠に動き続けるんじゃないか? そこまで時間が経過しないと確かなことは言えないが」
「そうなんだ」
複雑な気分だな。
美央さんは毎日元気に登校しているし、かつての襲撃で怪物になった生徒も大半は登校して授業を受けている。
僕が金属バットで殴った生徒もだね。
あの人たちは、生きている人間とは言えない。死者であり怪物だ。
でも、普通に過ごしている様子を見ると、人間だと感じてしまう。
人間として触れ合うべきか、恐ろしい怪物として忌避するべきか、悩ましい問題だ。
本人たちは自覚がないだろうし、これまで通りが一番かな。
自己保身というか、僕が死んで怪物になった時のことも考えちゃうし。
ここで僕が、死者だから、怪物だからって理由で忌避したら?
僕自身が死者になった時は、みんなから忌避される存在に早変わりだよ。
嫌だよね。悲しいよね。
クラスメイトとして普通に接すれば、僕が忌避されなくて済むとは言えないものの、自分がされて嫌なことをするのはよくない。
「クラスメイトの人たちが、この前みたいに襲ってくることはある?」
「勝手に襲うのはあり得ない。霜月がなんかやらかせば別だが」
「じゃあ、クラスメイトとして接しようかな。なんとかなるよね」
「春真は呑気だな」
「暗い話をしちゃってごめん。如月の近況を聞かせてくれる?」
「俺はたいしたことはないぞ。十二月の人たちとうまくやってる。紺屋も同じだ。つうか、紺屋は何をしてんだ?」
僕と如月、葉月さんは、床にクッションを敷いて座っている。
紺屋さんだけは、僕のベッドに寝転がっていた。なぜかうつぶせで。
「弥生の変態性に磨きがかかってるわ。あれ、速峰の匂いを堪能してるんでしょ」
「臭くないかな? 洗濯をサボってるし、布団カバーとか枕カバーとかあんまり取り替えてないんだ。最近取り替えたのはいつだっけ?」
「突っ込みどころはそっち? 本人の目の前で、堂々と変態行為に及んでることを突っ込みなさいよ」
「紺屋は、さっきからさっぱり動かないが、どうした?」
「臭くて失神したとか? 僕のだらしない生活を改めないといけないね」
ピクリとも動かない紺屋さんに、葉月さんが近寄る。
体を揺すり、ごろんと半回転すれば……
「うげ」
「マジかよ」
「これは僕もちょっと」
順に、葉月さん、如月、僕の言葉だった。
なんていうの? 恍惚の表情?
遠い世界へ旅立っているご様子だ。悪いけど、僕もドン引きした。
葉月さんは、紺屋さんを元の位置に戻し、見ないふりをする。
「私たちは何も見なかった。いいわね?」
僕と如月が、そろってこくこく頷いた。
これは放置しておくに限る。
「は、話を戻して、如月と紺屋さんの近況だけど」
「あ、ああ。つっても、さっき言った通りだ。何かしらの任務を命じられてるわけでもないし、やるべきこともない。忙しそうに動いてるのは睦月くらいだぞ」
「学校を襲って以降は平和?」
「だな。霜月は、ちょくちょく変死事件を起こしてるみたいだが」
変死事件か。四季と追いかけていたのに、何もできないうちに終わった。
被害者がかわいそうって気持ちはあるけど、睦月の話だと必要なことらしいし。
僕は薄情者なのかな。
また暗くなっている。もっと楽しい話をしよう。
「変なこと聞くけど、如月は今でも性欲ないの?」
「ないぞ。なんで気にするんだ?」
「友達同士の会話は、恋バナが定番でしょ。如月に好きな人ができたとか、恋人ができたとか、その手の進展があるなら聞きたいなって」
十二月になったのなら、内面の変化があったかなって思った。
学校で襲われた時は性欲がないって言っていたけど、変わっているかもって。
睦月も恋愛を禁止していないって話していた。僕と葉月さんの恋愛を認めるほどだし、十二月同士もありだろう。
「なんにもない。そもそも、俺に性欲があったとして、相手は誰だよ? 葉月さんか?」
「私は歓迎するわよ。如月はイケメンだし、性格も気に入ってるしね」
「光栄ですが、恋人や恋愛って感覚が分からないんですよ。春真も紺屋も葉月さんも好きですよ。だからって、キスとか? 裸を見るとか? 何が楽しいのか理解できませんね。したいとも思いません」
「そこで、男の速峰と女の私たちを一緒くたにするのが如月ね。私の春は遠いわ」
本当だよ。同性への気持ちと異性への気持ちは別物だ。
「ちなみに、女性陣の中じゃ、やっぱ葉月さんが一番好きだな」
「紺屋さんは?」
「紺屋も好きだが……最近は怖くて」
「分かるわ。私も怖い。速峰のことになると人格が豹変するもの」
「戦いになれば俺が勝つはずなのに、勝てないって感じる不気味さが……」
「絶対に敵に回したくないわよね」
二人とも好き放題言っている。
さっきの紺屋さんの顔を見ちゃうと否定できないけどね。
まだうつぶせ状態だし。
「他の女性は、卯月と水無月だっけ? 皐月も?」
「ああ。卯月ララ、皐月五子って名前だな。水無月はただの水無月だ」
「下の名前もあるんだ。葉月さんも、葉って名前でしたね」
「自分の名前は、あんまり好きじゃないのよね。どっちから読んでも葉月葉って。まあ、文月よりはマシだけど」
「そうそう。春真、文月の名前はすげえぞ」
でゅふでゅふって笑い声が特徴の、デブでニキビ面の人だ。水無月のことが好きなロリコンでもあるね。
「なんて名前?」
「帝だ。帝王の帝でみかど」
「ぷっ」
失礼ながら、つい笑ってしまった。
仰々しい名前だ。帝って名前に釣り合う人はなかなかいないよ。
人様の名前を笑うのはよくないし、ここまでにしよう。
「名前って言えば、睦月さんの名前は格好いいよね。月賀って」
「長月も格好いいぞ。長月究大だ。究極の究に大きい」
「格好いいね」
名前談義で盛り上がっている。
狙って聞き出したわけじゃないけど、十二月の名前が大体判明した。
睦月月賀。
如月。
紺屋宵。
卯月ララ。
皐月五子。
水無月。
文月帝。
葉月葉。
長月究大。
霜月夜流。
師走カケル。
以上、十一人だね。
こうやってみると、結構珍名がそろっている? 格好いいと呼ぶべきか珍名と呼ぶべきか、際どい線の人が多い。
四季と一緒にいる神無月だけは詳細不明だ。「彼女」って呼んでいたから、女性だと分かっているだけだ。
神無月の情報を聞いてみてもいいけど、楽しい話題の方がいい。
名前談義は終わりだ。
以降も色々と話す。ベッドで横になっている紺屋さんは会話に加わらず、三人でおしゃべりだ。
「あのさ、夕飯はどうする? お寿司でも注文しようか? この前は如月が奢ってくれたし、今日は僕が奢ろうかなって」
「俺は嬉しいが、紺屋は作る気満々だったぞ」
「そうですとも! 私に作らせてください!」
紺屋さんが急に起き上がった。
僕の部屋に入ってから、初めて声を聞いたよ。
部屋に入るなりベッドに直行して、それっきりだったし。
「紺屋さんも話そうよ」
「わ、私はどちらを選べば……春真さんとの甘々トークか、春真さんのかぐわしいベッドか……」
究極の二者択一ですぅ! とか言って身悶えていた。
僕の知る紺屋さんじゃないなあ。覚醒したせい?
「いえ、それも大切ですけれど、夕飯ですよ。私に作らせてください」
「昼も作ってもらったし、連続は悪いかなって。作るとしても、軽い物だけにしておけばどう? メインはお寿司で、紺屋さんはサラダやお吸い物を作るとか」
「俺は寿司がいい」
「私もお寿司。三対一でお寿司に決定ね。多数決万歳」
数の暴力に押されて、夕飯はお寿司になった。
今のうちに注文しておく。滅多に使わない電話を使って店に電話した。
電話といえば、だ。
「答えられないならしょうがないけど、葉月さんに聞いてもいい?」
「何?」
「このくらいのサイズで、板状の何かを操作してたでしょ。あれって携帯電話?」
指で長方形を描き、葉月さんに質問した。
僕がおかしくなっていた頃に使っていたやつだ。
四季が携帯電話の話をしていたし、あれがそうなのかなって思った。僕の記憶にもぼんやりと存在している。
「携帯電話ね。正確にはスマートフォンだけど。思い出したの?」
「少しだけ。なんとなく、そんな物があったなって程度だよ。あれって、如月や紺屋さんも持ってるの?」
「俺は持ってないぞ」
「私も持っておりません。睦月さんに頼めば用意してくれると思いますけれど、使い方がよく分かりませんし、持っていても仕方ないかと」
「残念。持ってるなら、離れてても電話できたのに」
十二月が住んでいる場所は知らないけど、家にしょっちゅう電話をかけるのは気が引ける。
知らない人が出たら気まずいし、電話番号を教えてもらえるかも怪しい。
携帯電話を持っているならかけやすかった。いつでも話ができる。
「葉月さん。今すぐ私に携帯電話を用意してください。春真さんと毎日毎日毎日電話します」
「私じゃ用意できないわ。睦月が帰ってくるまで待って」
「では、睦月さんに連絡を入れておいてください。どこでどうやって調達しているのか存じませんけれど、外の道具ですよね? 買ってきてくれるよう頼むのです」
「分かったわよ。ここで拒否したらぶち殺されそうだしね」
「紺屋さんが葉月さんを殺すの? 紺屋さんはそんなことしないよ」
「だってさ、弥生。速峰の信頼を裏切らないためにも、態度を改めたらどう?」
「春真さんが私を信じてくれています春真さんが私を信じてくれています春真さんが私を信じてくれています春真さんが私を信じてくれています……ふぅ」
紺屋さんが、再びベッドに倒れ込んだ。
なかなか起きなくて、お寿司が届くまでそのままだった。
慌ててお吸い物を作っていたね。お寿司と一緒に食べた。
これにて今日はお開きになる。名残惜しいけど、三人は帰って行った。
また会おうと約束して。
頻繁には無理でも、たまには会えるらしい。
これなら、如月や紺屋さんの問題は片付いたと考えていいかな。取り戻したいと望んでいたのは、完璧ではないにせよ達成できた。
あとは四季だ。十二月を狙っている彼女は、姿を見せない。
四季と如月たちが戦うのは嫌だし、なんとかしたいね。




