三十五話 謎のメッセージ
小休止も終わったし、続きだ。
「十二月の目的や役目は分かりました。おそらく、僕には『人を殺すな』とか言える資格はないんですよね」
切り捨てられる小の立場になれば、ふざけるなって思うだろう。
この小の中に僕の親しい人が含まれていれば、僕だって思う。
犠牲者を出して町を維持しても意味がない、とかなんとかってね。
というか、今だって思っている。美央さんたちクラスメイトを犠牲にしたことを許せるかとなると、許せそうにない。
小を切り捨てずに大を救う手段もないくせに、口先だけは立派なセリフを吐く。
「言うだけであれば自由だ。聞き入れはしないが」
「正直思っていますけど、言ってもしょうがないので言いません。根本的な解決策とかはないんですか?」
「ない」
睦月は間髪を入れずに「ない」と言い切った。
「こちらが滅ぼされる前に、外の連中を滅ぼす手もなくはない。善悪、老若男女を問わず、外にいるというだけで殺す理由になる。強力な武器を奪い、ワタシたちに抗う手段がなくなれば、生かしておいてもいいな」
「勝ち目がないという話では?」
「そうだ。ゆえに、根本的な解決策がないと言った。現状維持で精一杯だ」
強い力を持つ睦月さんですら、これなのか。
僕では想像も及ばないほど厳しい状況だ。
「では、少し話を変えます。四季のことです。四季は十二月を殺すと言っていますし、戦っています。彼女の目的や、睦月さんたちの考えはどうなっていますか?」
「ワタシは四季本人ではないため、正確なところは分からない。彼女の目的だが、おそらく復讐だろう」
「復讐?」
「四季には兄弟がいた。弟と妹が一人ずつで、この町に住んでいた人間だ」
住んでいた。過去形だ。
町の外には出られないし、これまでの話と合わせて考えれば。
「十二月が殺した?」
「ああ、そうだ。名前は、弟が夏樹で妹が秋穂。二人はワタシたちが殺した。外にも町にも既に存在しない」
「四季の目的は、弟妹の敵討ちですか」
小の中に僕の親しい人が含まれていればって考えた。
四季は、まさしく含まれていたんだ。到底認められず、ふざけるなと思い、敵討ちを狙っている。
僕を弟だって言っていたのは、実の弟さんに重ねていたのかな。
弟を失った経験があるから、僕を守ろうとしてくれた。
「個人的な恨み以外にも理由はあると思う。詳しい事情は、本人に聞かなければ分からん」
「睦月さんたちは、四季をどうするんです?」
「殺されてやるとは言えないな。むしろ、味方になってもらいたい。四季の力は発展途上だ。今でこそ、ワタシたちの中では下位の実力だが、いずれ強くなる可能性を秘めている。それだけの力の持ち主だ。殺すよりも引き入れたい」
「私は反対よ。獅子身中の虫を飼うようなものじゃない」
葉月さんは反対の立場だ。彼女の言い分はもっともだと思う。
四季も十二月の仲間にはならないだろうし。
「まあ、四季の事情は、ワタシよりも本人に聞く方がいい。ワタシでは推測や主観が多く混ざるため、正確さに欠ける」
「そうですね。次が最後の質問ですけど、お時間は大丈夫ですか?」
「少しであれば」
「ありがとうございます。最後は外についてです」
「外か。一番話しにくいな。今まで話した内容が聞かせられる範囲になる。答えられないかもしれないが、聞くだけ聞こうか」
睦月からすれば、話せないって言って終わらせてもいい。
聞いてくれるのは助かるな。少しでも知りたい。
「僕は、おぼろげですけど外の記憶を思い出しました。外と隔絶されたこの町が異様であるとも認識できています。外がどのような場所かまでは分かりませんけど、出られれば何かあるかと考え、出ようと試していました」
「出られなかっただろう?」
「はい。真っ直ぐ歩いているつもりが、いつの間にか元の場所に戻っていました。いくつかの道を試したり時間を変えたりしてもダメでしたね」
「出られてしまっては困るからな。出られない仕組みにしてある。外に出る方法は教えられない」
「私も知らないものね」
「葉月さんも?」
十二月のメンバーでも外には出ないのか。
そりゃあ、一般人の僕じゃ出られないに決まっている。
「私は、一応外に関する知識はあるわ。速峰以上にね。でも知識だけで、外に出ているわけじゃないの。出ようと思えば出られるけど、睦月の許可が必要よ」
「十二月に覚醒後、外に出た経験があるのは、ワタシ以外では卯月だけだ」
卯月は、水無月のことが大好きで、変な格好をさせている女性だ。
あの人って重要な立場なの? 睦月の右腕的な?
ナンバーツーの如月と、ナンバースリーの弥生は覚醒してなかったし、繰り上げみたいな形だったのかな。
「先ほども注意したが、速峰君は外に出ようとしないでもらいたい。出られない仕組みになっているとはいえ、勝手な行動をされては困るのだ」
「理由をうかがっても?」
「ワタシたちの管理下から外れ、外を目指そうとしている者がいるとなれば、外の連中が黙っていない。町の住人は危険分子だ。危険分子が外に出るのであれば、その前に殲滅しようと戦争になりかねないからな」
僕の行動が、町全体を危険にさらすんだ。
そう言われたらやめるしかない。探索は断念する。
「外に出ようとするのはやめます。お約束します」
「助かる」
「代わりと言ってはなんですけど、外のことを教えていただけませんか?」
「悪いが話せない。本音を言うなら、おぼろげながらも思い出している速峰君の記憶を奪いたいところだ。奪ったのに戻ってしまったため、再度やっても同じ結果になると判断して見逃している。今が許せるギリギリの範囲と考えてもらいたい」
教えてもらえなかった。残念だ。
今がギリギリ。これ以上踏み込んではいけない。
もしも踏み込めば、その時は。
「もっと記憶が戻れば殺します?」
「必要とあらば」
「今までが大丈夫だったからって、今後も大丈夫とは限らないってことですか」
「ワタシは速峰君に期待している。殺そうと思えばとっくに殺せたが、今でも生きているし、ワタシが出向いてまで話している。本気で殺そうとしていなかったからだ。だが、邪魔になれば始末するのをためらわない。葉月と結ばれ、味方につけたとしても関係ない」
僕なんかに何を期待してくれているのかは知らない。期待されているなら応えたいけど、応えられるかどうか。
ただ、最後の一文はおかしいね。
僕と葉月さんが結ばれるってあり得ないと思う。
記憶を失っている時は、葉月さんに対して恋心みたいなものを抱いていた。
美人だしスタイル抜群だし親切だし、おまけに紺屋さんや四季の存在を忘れていたせいで、僕の知り合いの中じゃ最高の女性だってね。
だけど、今は友人だと思っている。
葉月さんにとっても、僕はよくて友人だろう。ゲスい強姦魔って思われていなければラッキーだ。
「なんで私との恋愛が出てくるのよ」
「お互い、憎からず思っているのだろう?」
「嫌いじゃないけど、恋愛対象でもないわね」
「嫌いじゃないって言ってもらえて光栄です。僕も葉月さんは好きですけど、恋人になるかというと……」
「私よりも弥生よ。あの子、毎日速峰のシャ……言わない方がいいわね。私は死にたくないし」
「怖いよ!」
シャって何? 紺屋さんは何をしているの? 知りたいけど怖い。
「速峰も、弥生と付き合うなら覚悟する方がいいわよ。ヤンデレというかメンヘラというか、そういう素質あるから」
「少しスケベでも、普通だったけどなあ」
「猫被ってたのよ。きっとね」
「葉月さんって、紺屋さんが苦手なの?」
「速峰が絡まなければ真人間だしいいのよ。私、学校にも通ってるしこうして休日にも会ったりしてるし、おかげで嫉妬されちゃっててね。嫉妬した女は怖いわ。私と速峰が付き合うことになれば……南無」
「僕の冥福を祈らないで!」
え? 僕、紺屋さんに殺されちゃうの?
十二月とか外とかは関係なく、痴情のもつれから?
如月も僕を殺したがっていた。他の人に渡すなら自分で殺すって。
こっちはこっちで、言葉だけを聞けば痴情のもつれっぽいなあ。
僕の親友二人は、どうして僕を殺したがるの? 普通に仲良くしようよ。
この場で言ってもしょうがないし、二人に直接言うべきだけどさ。
「春真さんを殺せば、私の中で永遠に生き続けますわ。きひ、きひひひ。みたいな感じ?」
「僕の知る紺屋さんは、そんなこと言わない」
「私の知る弥生なら、言っても不思議じゃないわ」
見解の相違があった。
多少大げさに表現しているのだとしても、完全に嘘でもなさそうだ。
紺屋さんには全然会っていないけど、そんなことになっているんだ。
「如月や紺屋さんに会いたいな」
「正気? 今の話を聞いて、弥生に会いたがるの?」
「会いたい。四人で暮らしていた時期があったから、一人暮らしが寂しくてさ。食事も一人じゃ味気ないし、みんなでワイワイやりながら食べたい」
紺屋さんの料理が恋しいし、別に冷凍食品でもいい。
みんなで楽しく食事すれば、冷凍食品でもおいしく感じる。
僕が望んでいると睦月が軽く頷いた。
「会う分には構わない。ワタシが許可しよう」
「いいんですか!?」
思わず声が大きくなった。
二人と会っていいの? 本当なら凄く嬉しい。
「速峰君と一緒に暮らすのは認めない。今、ワタシたちが会っているように、どこかで会って話すのは許可する。監視役として、葉月か誰かが同行することが条件になるが」
「十分です。ありがとうございます」
「物好きね。弥生はメンヘラだし、如月には殺されかけたんでしょう? それでよく会おうと思えるわね。恨んだり嫌いになったりしないの?」
「僕は脳内お花畑の理想論者だから、嫌いにはならないよ」
「変な子」
変でもなんでも構わない。
正直、これが今日一番の収穫だ。
「セッティングは葉月さんにお願いすればいい?」
「私しかいないでしょうね。殺し殺されの任務よりも気が楽でいいわ」
葉月さんにはお世話になりっぱなしだ。感謝してばかりだ。
「如月や弥生と会うのは認めるが、話の内容は報告してもらうぞ。葉月が監視役になるなら、正確に報告しろ」
「私は嘘ついたりしないわよ」
「ワタシに報告していないことはないと? 本当か?」
「ない……わよ?」
「速峰君に襲われかけた件は?」
「ちょっと! なんで睦月が知ってるの!?」
「隠し通せると思ったか? 十二月のリーダーとして、メンバーの行動には目を光らせている」
「あ、あんなの、言えるわけないでしょ。私だって恥ずかしいのよ」
「その節は、大変申し訳ありませんでした」
何度も謝罪しているけど、改めて謝罪した。
葉月さんにも睦月にも。
「速峰君の行動よりも、葉月の報告の仕方が問題だ。記憶に混濁が見られ、壊れかけていた。治療のために長月を伴い、家に行けば、四季が現れた。彼女がきっかけとなり、速峰君の記憶が全て戻った。ワタシが受けた報告ではこうなっている」
「十分でしょ。襲われかけたとか言う必要がある?」
「正確に報告しろと言っている。都合の悪い事実を隠されてしまえば、不測の事態が起きてしまう」
「悪かったわよ。次からは気を付けるわ」
葉月さんへの注意は終わったようで、睦月はそれ以上言わなかった。
被害者なのに注意されるって理不尽だ。僕が加害者なのに。
「罪を償うためなら、できる限りのことはします」
「よい心がけだ。では、速峰君にはこれを渡しておこうか」
睦月は、僕に封筒を手渡した。
手紙でも入っているの?
「のちほど目を通しておいて欲しい。おそらく、今は理解できない。理解できる日がこない方がいいとも思っているが、念のためだ」
「分かりました」
封筒を渡したところで、今日はお開きになる。
長く話し込んでいたから、午後六時ちょうどだ。時間ギリギリだね。
このあとも用事がある睦月は、支払いを済ませて店を出て行った。
「葉月さん、今日はありがとう。睦月さんと会わせてもらえて助かったよ」
「どういたしまして。無事に終わってよかったわ」
僕と葉月さんも帰宅する。
また学校で会おう。
帰宅後、睦月からもらった封筒を確認する。一枚の紙が入っていた。
見れば、こんな四文字が。なんのメッセージなのかな?
春夏秋冬。




