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僕たちは明日に向かう  作者: ともむらゆう
第1章 停滞、前進
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三話 同棲? 同居?

時忘(ときわす)(ちょう)……」

「そうだよ。でさ、四季(しき)のことを教えてくれないかな?」


 昨晩は、なんで道に倒れていたのか。

 どこに住んでいるのか。

 年齢……は僕と似たようなものか。制服を着ていたから、同じ高校に通っているんだろう。見たことはないけど、生徒全員を知っているわけじゃない。

 他に聞くべきことはあったかな。


「ハヤミネハルマ」

「何?」

「どんな字?」


 四季の事情を知りたいのに、彼女は僕のことを聞いてきた。

 しょうがないし、先に教えるか。隠すほどの内容じゃない。

 四季の質問に全部答えてから、改めて彼女の素性を尋ねよう。

 ノートに自分の名前を書いて、四季に見せる。


速峰(はやみね)春真(はるま)。これが僕の名前ね」

「覚えた。何歳?」

「十五歳の高校一年生」

「ご両親は?」

「いないよ。一人暮らしだね」

「なんで? 仕事でどこかに行ってる? 死に別れた?」

「なんでって聞かれても、いないものはいないから」


 僕が答えれば、四季は眉をひそめた。

 両親がいないことが、そこまで変? よくある話だと思うけど。

 僕の友人の如月(きさらぎ)もそうだ。両親はいないし一人暮らしをしている。

 他にも一人暮らしの生徒は大勢いる。全員の家庭事情を知っているわけじゃないけど、クラスの半分以上は一人暮らしだろう。


「一人暮らしなんて、珍しくもないでしょ」

「ご両親の顔や名前を覚えてる?」

「全然。気付いたら一人暮らしをしていたし」

「お金は?」

「貯金がある」

「食事は?」

「冷凍食品万歳」

「食欲はある。眠っていたし睡眠欲もある。ロリコンだから性欲も」

「ロリコンじゃないよ!」

「助けてくれたお礼に、エッチさせてあげる」

「いいの!?」

「ロリコン」

「純真な男心を弄ばれた!」


 というか、これって四季がロリだって言っているに等しい。

 自分で自分をロリと認めていいの?


「やっぱり」

「ロリコンじゃないからね!」

「エッチの意味、理解できてる」

「そりゃそうだよ! 小さな子供じゃないんだし!」

「子供を作る方法は?」

「うえっ!? え、えっと、その……おしべとめしべがコウノトリさんで……」


 僕は何を言わされているんだ? そういうプレイ?


「男の○×△を女の」

「わーわーわー!」


 女の子が何を言っているんですか! 言っちゃダメです!


「理解できてる」

「四季の頭の中が理解できないよ!」

「思ったよりも重症じゃない。深度は二から三」

「僕、心が折れそう……」


 言動がめちゃくちゃだ。何を考えているのかさっぱり理解できない。

 ジャージを着ずに僕をからかって、着てくれたと思えば変態的な質問ばかりだ。

 本気で誘っているの? ないと思いたいけど。


「速峰春真」

「今度は何?」

「お腹空いた」

「……朝ご飯にしよう」


 四季に振り回されっぱなしだけど、朝食を食べて落ち着こう。

 台所に移動して、冷凍食品の焼きおにぎりを四つレンジで温める。インスタントの味噌汁にお湯をそそげば、あっという間に朝食の完成だ。

 冷凍食品万歳。インスタント食品万歳。


「栄養偏る」

「贅沢言わないの」

「成長できない。巨乳になれない」

「知りません」

「私を成長させないようにしてる」

「ロリコンじゃないよ」

「先回りされた」

「天丼は飽き飽きだよ。さっさと食べよう。いただきます」


 四季のペースに付き合っていても疲れるだけだ。

 焼きおにぎり二つと味噌汁。質素な朝食を食べ始める。

 栄養がどうのって文句を言っていた四季も、ちゃんと食べている。

 無言のままの食事は、わずか数分で終わった。量も少ないし、お腹が空いていたのか四季の食べるペースが速かった。


「おかわりいる?」

「速峰春真がどうしても食べて欲しいなら」

「いらないんだね」

「ごめんなさい。おかわり欲しい」

「正直でよろしい。おにぎりいくつ食べる?」

「二つ。お味噌汁もおかわり」


 小柄な割に、食欲は旺盛だった。

 焼きおにぎりは結構大きいから、男の僕でもそんなに食べられない。朝なら二つで十分なのに、四季は四つをぺろりと平らげた。


「デザート欲しい」

「贅沢というか図々しいというか。なんかあったかな?」


 冷凍庫の中を見れば、カップアイスがあった。

 いつ買ったっけ? 冷凍食品をまとめ買いする時に、アイスも一緒に買ったんだと思うけど、記憶にないや。


「賞味期限は大丈夫かな?」

「アイスに賞味期限はない」

「そうなの?」

「見てみればいい。どこにも賞味期限は書いてない」


 言われて確認するけど、確かに賞味期限の表記がなかった。

 気にしないし、書いてないことを知らなかったな。


「温度管理をして、冷凍庫で保存していれば何年でも平気。溶ければおしまい」

「変なこと知ってるね」


 雑学っていうのかな。学校で習う勉強とは違う知識だ。

 平気って話ならあげよう。

 カップアイスとスプーンを渡してあげた。

 四季はおいしそうに食べている。幸せそうな顔だ。


 こんな風に、誰かと一緒に朝食を食べたのって、ひょっとして初めて?

 楽しいな。

 一人暮らしには慣れているし、普段は特に寂しいとも思わない。四季にも言ったけど、珍しい話じゃない。

 ただ、四季との食事は楽しかった。


「速峰春真も欲しいの?」


 アイスを食べる四季を見ていたら、そんなことを聞かれた。


「僕はいいよ」

「一口食べる? はい、あーん」

「これを食べたら、ロリコン認定するんでしょ?」

「人の親切を疑うのはよくない。性格がひねくれている」

「正しいけどさ……まあ、くれるって話ならもらうよ」


 四季が差し出したスプーンを口に含んだ。

 冷たくて甘い味が口内に広がる。おいしい。


「おいしい?」

「おいしいよ。アイスをくれてありがとう」

「どういたしまして」


 間接キスとか言ってからかうかと思ったけど、何も言わなかった。

 四季はアイスを食べる作業に戻り、ほどなくして食べ終えた。


「ごちそうさま」

「おそまつさま」


 食事に使った食器を洗う。二人分なので時間はかからない。

 お腹も膨れたことだし、さっきの話の続きをしよう。


「四季はどこに住んでいるの?」

「家はない」

「まさかのホームレス? じゃあ、これまでどうやって生活を?」

「適当に」

「昨晩倒れてたのも、家がないせい?」

「そういうことにしておく」


 どこまで本当なのか知らないけど、面倒な子を拾っちゃったな。


「これからどうするの?」

「速峰四季」

「はい?」

「速峰四季になる。お姉ちゃんって呼んでくれていいよ」

「えっと……僕の家に住む気?」

「住む気。お姉ちゃん」

「どっちかっていうと妹でしょ」

「ママ?」

「んなわけあるか!」


 強い口調で突っ込みを入れても、四季は動じない。

 大物だなあ。あんまり褒める気にもなれないけど。


「ねえ、本気で僕と同居するの?」

「同棲」

「同居です。僕はいいけど、見ず知らずの男を簡単に信用するの?」

「襲う?」

「襲いません」

「衣食住の代価は、私の体で払う」

「いりません」

「速峰春真を気持ちよくしてあげる」

「いりません」

「マッサージ」

「いり……マッサージ?」

「肩とか腰とか。ナニを想像した?」


 この子、耳年増で小悪魔だ。僕をからかって楽しんでいる。

 バカにされるだけなのは男がすたる。流されてばかりだと今後の関係にも影響しそうだ。

 主導権を握るためにもガツンと言っておこう。僕も健康な男なんだ。


「分かったよ。同居しよう。部屋は余ってるしね」

「ありがとう」

「僕が狼になってもよければだけど」

「返り討ち」

「小柄な僕でも、四季には負けないと思うな。力ずくでねじ伏せられるよ」

「私、強い」

「あははは」

「信じてない。本当に強い」

「強がるところが子供っぽいね。それじゃあ、今日から同居するってことで。いつまでも僕のシャツを着るわけにもいかないし、これから買い物に行こうか」

「速峰春真の学校は?」

「今日は休むよ。一日くらいはサボってもいいでしょ。ちなみに、四季はお金を持ってる?」


 僕の問いかけに、四季はフルフルと首を横に振った。

 お金は持っていないんだね。となると、僕が出すしかないか。

 お金には困っていないからいいけど、単純計算で生活費は倍になるし、先々のことを考えなきゃいけないな。

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