三話 同棲? 同居?
「時忘れ町……」
「そうだよ。でさ、四季のことを教えてくれないかな?」
昨晩は、なんで道に倒れていたのか。
どこに住んでいるのか。
年齢……は僕と似たようなものか。制服を着ていたから、同じ高校に通っているんだろう。見たことはないけど、生徒全員を知っているわけじゃない。
他に聞くべきことはあったかな。
「ハヤミネハルマ」
「何?」
「どんな字?」
四季の事情を知りたいのに、彼女は僕のことを聞いてきた。
しょうがないし、先に教えるか。隠すほどの内容じゃない。
四季の質問に全部答えてから、改めて彼女の素性を尋ねよう。
ノートに自分の名前を書いて、四季に見せる。
「速峰春真。これが僕の名前ね」
「覚えた。何歳?」
「十五歳の高校一年生」
「ご両親は?」
「いないよ。一人暮らしだね」
「なんで? 仕事でどこかに行ってる? 死に別れた?」
「なんでって聞かれても、いないものはいないから」
僕が答えれば、四季は眉をひそめた。
両親がいないことが、そこまで変? よくある話だと思うけど。
僕の友人の如月もそうだ。両親はいないし一人暮らしをしている。
他にも一人暮らしの生徒は大勢いる。全員の家庭事情を知っているわけじゃないけど、クラスの半分以上は一人暮らしだろう。
「一人暮らしなんて、珍しくもないでしょ」
「ご両親の顔や名前を覚えてる?」
「全然。気付いたら一人暮らしをしていたし」
「お金は?」
「貯金がある」
「食事は?」
「冷凍食品万歳」
「食欲はある。眠っていたし睡眠欲もある。ロリコンだから性欲も」
「ロリコンじゃないよ!」
「助けてくれたお礼に、エッチさせてあげる」
「いいの!?」
「ロリコン」
「純真な男心を弄ばれた!」
というか、これって四季がロリだって言っているに等しい。
自分で自分をロリと認めていいの?
「やっぱり」
「ロリコンじゃないからね!」
「エッチの意味、理解できてる」
「そりゃそうだよ! 小さな子供じゃないんだし!」
「子供を作る方法は?」
「うえっ!? え、えっと、その……おしべとめしべがコウノトリさんで……」
僕は何を言わされているんだ? そういうプレイ?
「男の○×△を女の」
「わーわーわー!」
女の子が何を言っているんですか! 言っちゃダメです!
「理解できてる」
「四季の頭の中が理解できないよ!」
「思ったよりも重症じゃない。深度は二から三」
「僕、心が折れそう……」
言動がめちゃくちゃだ。何を考えているのかさっぱり理解できない。
ジャージを着ずに僕をからかって、着てくれたと思えば変態的な質問ばかりだ。
本気で誘っているの? ないと思いたいけど。
「速峰春真」
「今度は何?」
「お腹空いた」
「……朝ご飯にしよう」
四季に振り回されっぱなしだけど、朝食を食べて落ち着こう。
台所に移動して、冷凍食品の焼きおにぎりを四つレンジで温める。インスタントの味噌汁にお湯をそそげば、あっという間に朝食の完成だ。
冷凍食品万歳。インスタント食品万歳。
「栄養偏る」
「贅沢言わないの」
「成長できない。巨乳になれない」
「知りません」
「私を成長させないようにしてる」
「ロリコンじゃないよ」
「先回りされた」
「天丼は飽き飽きだよ。さっさと食べよう。いただきます」
四季のペースに付き合っていても疲れるだけだ。
焼きおにぎり二つと味噌汁。質素な朝食を食べ始める。
栄養がどうのって文句を言っていた四季も、ちゃんと食べている。
無言のままの食事は、わずか数分で終わった。量も少ないし、お腹が空いていたのか四季の食べるペースが速かった。
「おかわりいる?」
「速峰春真がどうしても食べて欲しいなら」
「いらないんだね」
「ごめんなさい。おかわり欲しい」
「正直でよろしい。おにぎりいくつ食べる?」
「二つ。お味噌汁もおかわり」
小柄な割に、食欲は旺盛だった。
焼きおにぎりは結構大きいから、男の僕でもそんなに食べられない。朝なら二つで十分なのに、四季は四つをぺろりと平らげた。
「デザート欲しい」
「贅沢というか図々しいというか。なんかあったかな?」
冷凍庫の中を見れば、カップアイスがあった。
いつ買ったっけ? 冷凍食品をまとめ買いする時に、アイスも一緒に買ったんだと思うけど、記憶にないや。
「賞味期限は大丈夫かな?」
「アイスに賞味期限はない」
「そうなの?」
「見てみればいい。どこにも賞味期限は書いてない」
言われて確認するけど、確かに賞味期限の表記がなかった。
気にしないし、書いてないことを知らなかったな。
「温度管理をして、冷凍庫で保存していれば何年でも平気。溶ければおしまい」
「変なこと知ってるね」
雑学っていうのかな。学校で習う勉強とは違う知識だ。
平気って話ならあげよう。
カップアイスとスプーンを渡してあげた。
四季はおいしそうに食べている。幸せそうな顔だ。
こんな風に、誰かと一緒に朝食を食べたのって、ひょっとして初めて?
楽しいな。
一人暮らしには慣れているし、普段は特に寂しいとも思わない。四季にも言ったけど、珍しい話じゃない。
ただ、四季との食事は楽しかった。
「速峰春真も欲しいの?」
アイスを食べる四季を見ていたら、そんなことを聞かれた。
「僕はいいよ」
「一口食べる? はい、あーん」
「これを食べたら、ロリコン認定するんでしょ?」
「人の親切を疑うのはよくない。性格がひねくれている」
「正しいけどさ……まあ、くれるって話ならもらうよ」
四季が差し出したスプーンを口に含んだ。
冷たくて甘い味が口内に広がる。おいしい。
「おいしい?」
「おいしいよ。アイスをくれてありがとう」
「どういたしまして」
間接キスとか言ってからかうかと思ったけど、何も言わなかった。
四季はアイスを食べる作業に戻り、ほどなくして食べ終えた。
「ごちそうさま」
「おそまつさま」
食事に使った食器を洗う。二人分なので時間はかからない。
お腹も膨れたことだし、さっきの話の続きをしよう。
「四季はどこに住んでいるの?」
「家はない」
「まさかのホームレス? じゃあ、これまでどうやって生活を?」
「適当に」
「昨晩倒れてたのも、家がないせい?」
「そういうことにしておく」
どこまで本当なのか知らないけど、面倒な子を拾っちゃったな。
「これからどうするの?」
「速峰四季」
「はい?」
「速峰四季になる。お姉ちゃんって呼んでくれていいよ」
「えっと……僕の家に住む気?」
「住む気。お姉ちゃん」
「どっちかっていうと妹でしょ」
「ママ?」
「んなわけあるか!」
強い口調で突っ込みを入れても、四季は動じない。
大物だなあ。あんまり褒める気にもなれないけど。
「ねえ、本気で僕と同居するの?」
「同棲」
「同居です。僕はいいけど、見ず知らずの男を簡単に信用するの?」
「襲う?」
「襲いません」
「衣食住の代価は、私の体で払う」
「いりません」
「速峰春真を気持ちよくしてあげる」
「いりません」
「マッサージ」
「いり……マッサージ?」
「肩とか腰とか。ナニを想像した?」
この子、耳年増で小悪魔だ。僕をからかって楽しんでいる。
バカにされるだけなのは男がすたる。流されてばかりだと今後の関係にも影響しそうだ。
主導権を握るためにもガツンと言っておこう。僕も健康な男なんだ。
「分かったよ。同居しよう。部屋は余ってるしね」
「ありがとう」
「僕が狼になってもよければだけど」
「返り討ち」
「小柄な僕でも、四季には負けないと思うな。力ずくでねじ伏せられるよ」
「私、強い」
「あははは」
「信じてない。本当に強い」
「強がるところが子供っぽいね。それじゃあ、今日から同居するってことで。いつまでも僕のシャツを着るわけにもいかないし、これから買い物に行こうか」
「速峰春真の学校は?」
「今日は休むよ。一日くらいはサボってもいいでしょ。ちなみに、四季はお金を持ってる?」
僕の問いかけに、四季はフルフルと首を横に振った。
お金は持っていないんだね。となると、僕が出すしかないか。
お金には困っていないからいいけど、単純計算で生活費は倍になるし、先々のことを考えなきゃいけないな。




