十二話 生き返った人
僕、四季、如月、紺屋さん。
四人での共同生活が始まって三日目になった。
今日は日曜日で、買い物に出かける。四人で家を出て、ショッピングモールに向かって歩きながら、今日の予定を決めているところだ。
如月はベッドを買うし、紺屋さんは食材やらなんやらを買うと言っていた。
僕と四季は特に買う物はないけど、変死事件の犯人を探すために情報を集める。
「春真さんとご一緒したいですけれど、変死事件には関わりたくありませんし、悩みどころです。どうしましょう」
「紺屋さんは如月と買い物すればいいんじゃない? 二組になって行動するの」
「デートをするなら春真さんがいいです」
「光栄だけどデートじゃないって。こんな物騒なデートはないでしょ」
買い物ではなく遊ぶのでもない。変死事件を追いかけるのがデートとか勘弁だ。
如月と紺屋さんならデートになるかもだけどね。
「紺屋宵」
「なんです?」
「ふっ」
四季は紺屋さんを挑発するようにあざ笑った。
僕と腕を絡め、未成熟な体を押し付けてくる。あからさまな態度だ。
紺屋さんも不機嫌になっているし、頭が痛い。仲良くしてよ。
僕を取り合っているようにも見える。本当にそうなら男冥利に尽きる話だ。
でも、二人ともどこまで本気なのか分からないからなあ。四季はお姉ちゃんだって言っているし、紺屋さんも僕と恋人になる気はさほどない。
さすがに失礼だから聞いていないけど、如月に性欲があれば、紺屋さんは彼を選ぶんじゃないかなって思う。
僕より如月の方がイケメンだ。美男美女でお似合いの恋人同士になる。
僕と四季は、小柄で頼りなさげに見えるところがお似合いかもしれない。四季は幼いながらも美少女だし、僕と釣り合うとは言えないけど。
変な思考になっていると、紺屋さんは決意を固めた様子で告げる。
「分かりました。私も春真さんとご一緒します」
「いいの? 危ないよ?」
「情報を聞いて回るだけであれば、あまり危険もないでしょう。これから犯人と相対するわけではありませんし」
「でもさ、何かあれば、僕の力じゃ紺屋さんを守れないよ?」
「ここで引き下がれば女がすたります」
四季への反発心から、紺屋さんは僕たちと一緒にくると言っている。
「俺はやめとく。買う物を買って先に帰る。春真も、あんまり無茶はするなよ」
「分かってる。僕もわざわざ危険に飛び込みたいわけじゃないし、飛び込んで何かができるとも思えないからね」
今日の予定は、如月は単独行動になった。
僕、四季、紺屋さんは、三人で情報収集だ。最後に食材を買って帰宅する。
途中で如月と別れ、僕は二人の女性を連れて適当なお店に行く。
八百屋とか魚屋とか、食材を買えるお店だ。
犯人が食糧を買いそうなお店だね。スーパーにも行く予定だけど、話を聞くなら個人商店の方がやりやすい。
黒髪の人物に心当たりがないか聞けば、店主の男性はあると答えた。
ただし、外見の特徴からして如月っぽい。
高校生くらいで、長身のイケメン。犯人と如月の外見が偶然似通っている可能性もあるけど、素直に如月だと考えるべきだろう。
他に心当たりはないらしく、お礼を言って別のお店にも行く。
結果は同じだ。集まるのは如月の情報ばかりになる。
「うまくいかないなあ」
「春真さんと四季さんは、黒髪の人を探しておられるのですか?」
「そうだけど、言ってなかった?」
「初耳です。私がうかがったのは、変死事件の犯人とだけ。その犯人が黒髪なのですか?」
「四季が言うにはね」
「間違いない」
四季が断定したので、紺屋さんも信じた。
間違っていても、他に手がかりはないし、信じるしかできない。
「黒髪の人は珍しいですよね。私も如月さん以外は知りません。学校にもいなかったと思います」
僕も如月以外は知らない。
全校生徒を知っているわけじゃなくても、黒髪は目立つし嫌でも気付く。
顔や名前を覚えるかはともかく、最低限黒髪の人がいることは記憶に残る。
「犯人といえど、人間である以上は、飲食物を必要としますよね。買い物のためにここを訪れていれば、誰かが目撃しています」
「だよね。僕も同じように考えたし、黒髪の人物を尋ねればいけると思ったんだ」
正確には人間じゃないけどね。紺屋さんには言えない。
「しかし、情報が集まりません。犯人が黒髪であるという四季さんの言葉を信じるのであれば、黒髪ではない共犯者がいて買い物をしているとも考えられますね。あるいは変装ですか。ウィッグを着けているか、髪の毛を染めているか、スキンヘッドにしているか。帽子などで髪の毛を隠している可能性も」
紺屋さんが複数の可能性を指摘してくれた。
頼りになるね。僕じゃ思いつかなかったこともある。
「事件を起こしているのに、目立つ黒髪をそのままにはしていない、か」
「少なくとも、私が犯人の立場であれば隠します。後ろ暗い行為をしていれば、素顔をさらけ出すのは躊躇するものですよ。そこまで考えが及んでいない、頭のイカれた人物とも思えません。捕まらずに事件を起こし続けていますから」
もっともな意見だ。
隠し過ぎて、かえって怪しく見えてしまえば本末転倒だけど、目立つ黒髪をなんとかしようとするのは理に適っている。
黒髪の人物で探せなければ、他の方法が思い浮かばない。
弱ったな。調査を始めたばかりで、早くも暗礁に乗り上げたっぽい。
「四季は何か考えがある?」
「速峰春真」
四季に質問すれば、深刻そうな表情を浮かべた。
「私の頭脳に期待しないで」
深刻な顔で何を言い出すかと思えば、非常に情けないセリフだった。
「そりゃないでしょ」
「私は武闘派。肉体派。頭脳派じゃない」
「頼りにならないなあ」
「春真さんには私がおります。春真さんのためでしたら、私の頭脳をいくらでも使いましょう」
「紺屋宵の頭蓋骨をかち割って、速峰春真が脳みそをムシャムシャ?」
「怖いよ!」
猟奇的な発言をした四季に突っ込みを入れた。
頭脳を使うからって、本物の脳みそを差し出されても困る。欲しくもない。
「頭蓋骨をかち割れば、私が死んでしまうではありませんか。手足の一本程度でしたら、春真さんに差し上げるのもやぶさかではございませんけれど」
「いらないからね! 怖い発言はやめて!」
この二人、怖いよ。さすがに冗談だと思いたい。
女の子二人と一緒なのに、色っぽい話にはならずに不穏な内容ばかりだ。
僕たちが不穏な会話をしていたせいじゃないと思うけど、不穏な出来事に遭遇してしまう。
学校をサボり、四季の服や下着を買いにきた時みたく、ショッピングモールの一画に人が集まっていた。
まさかと思って人だかりに近付く。
すると、案の定だった。若い女性が倒れていたんだ。
以前と違うのは、倒れている相手が顔見知りだったことだ。
僕や如月、紺屋さんのクラスメイトの女子生徒だった。
「美央さん……」
紺屋さんが彼女の名前を呼んだ。
美央さん。それが名前だ。如月と同じで苗字はなく、ただの美央さんになる。
男子の僕よりも、女子の紺屋さんの方が親しい。
親しい人の死を目撃して、顔を青ざめさせていた。
「知り合い?」
「クラスメイトだよ」
僕も少なからずショックを受けているし、四季への返答は簡潔になった。
昨日は、ちゃんと学校にきていた。僕は親しいわけじゃないから話さなかったけど、元気な姿は見ている。
なのに、今では変わり果てた姿で……
紺屋さんは、吐き気をこらえるようにして、口に手を当てていた。
「ここを離れよう。紺屋さんを休ませなきゃ」
僕と四季で、両側から紺屋さんを支えて立ち去る。
早く休ませたいけど、死体の近くにいると落ち着けない。できるだけ離れた。
死体も人だかりも見えなくなる場所まで移動して、ベンチに座らせる。
一時的に四季に任せ、僕はミネラルウォーターを買いに行く。
自動販売機で購入し、すぐに戻って紺屋さんに渡した。
「ありがとうございます……」
弱々しい口調だったけど、受け取ってもらえた。水を一口飲み、気持ちを落ち着けている。
しばらくして、紺屋さんが口を開く。
「私は、美央さんとはさほど親しいわけではありませんでした。多少はお話もしますけれど、その程度です。春真さんや如月さんほど親しい相手ではありません。ですけれど、知り合いが死んでいるのを目にすれば……」
「ショックだよね。ほとんど話したことがなかった僕でもショックなのに」
「事件が起きていることは存じておりました。私や春真さんも被害にあうかもしれず、危険だと。理解しているようで、実は理解していなかったのかもしれません。実際に目にするまで、遠い世界の話だと思い込んでいたといいますか」
これは、しょうがないと思う。
自分自身や親しい人が被害にあうまでは、現実味が湧かないものだ。
他人事。遠い世界。そう思ってしまうのは無理もない。
「今日は帰ろうか」
「はい……」
調査の続きって気分じゃない。
紺屋さんを一人にするのも心配だし、一緒に帰宅する。
如月は先に帰宅していて、事情を説明した。クラスメイトが死んだって事実に驚いていたね。
一番ショックを受けている紺屋さんは、食事も取らずに眠った。
明日は学校を休ませてもいいかな。
そうやって考えつつ僕も眠り、翌月曜日になる。
紺屋さんはちゃんと起きてきて、登校しようとしていた。
「今日は休めば? なんなら、僕たちも休むよ」
「サボりはいけませんよ。私を口実にするなど、なおさら認められません。真面目に登校しましょう」
紺屋さんは気丈に振る舞い、四人で登校する。
一人だけ学年が違う四季と別れて教室に入れば。
そこでは、目を疑う光景があった。
「美央……さん……?」
紺屋さんがかすれた声で名前を呼んだ。
昨日死んでいたはずの美央さんが、教室にいたんだ。
なんで? 実は死んでいなかった?
わけが分からなくて美央さんに問いかければ、昨日は一日中家にいて、出かけなかったって話だ。
どこも怪我をしていないし、変死事件も知らないって。
「他人の空似でしょ。あたしはこの通り元気だよ。ピンピンしてる」
「春真と紺屋から聞いて驚いたが、無事でよかった」
「ありがとね、如月君」
美央さんは朗らかに笑い、直接目撃していない如月は彼女の言い分を信じた。
だけど、僕と紺屋さんは確かに見たんだ。
見間違いじゃないし、別人でもない。あれは美央さん本人だった。
どうなっているんだ? 死んだ人が生き返った?
そんなバカな。




