第9話 スノーラビットを討伐せよ!
何とか1日1話を続けています。
9/12:一部改訂を行いました。
ノルテランド暦1991年3月20日
《王都ノルテ》
クースと別れたオレは百舌亭で鎧などを脱ぎ服に着替えた。
(この服は、王都についた翌日にジョアンナさんから贈られた一張羅だ。)
着替えを終えたオレは、王都ノルテ内を散策することにした。
冒険者ギルドに登録した農奴の子はろくな服を持っていないので、ギルドから1着だけいい服が贈られるのだ。
王都ノルテはノルテランド王国の王都で人口は数十万らしい。この前人口を聞いたが多すぎて覚えていない。
王城であるノルテ城は王国随一の高さと美しさを誇り、その荘厳さは隣国にまで知れ渡っているのである。
「ノルテ城を見て死ね。」
ノルテランド王国ではそう言われているのだ。
そんな王城を正面に見て、左手はいわゆる商業地区だ。武器防具店や道具店、飲食店が軒を連ねる。オレの泊まる百舌亭やルイーゼの泊まる大丼亭があるのもここだ。王城へ渡る跳ね橋の向かいには冒険者ギルドなど各ギルドが並んで建っている。
右手は山の手となっており。いわゆる金持ちの住宅街が広がっている。上へ上がれば上がるほど大きな貴族の邸宅、いわゆる大豪邸が広がるのだ。
そんな王城を見ながら裏手に回りこんだオレは薄汚れた一角に出た。貧民街だ。この華やかな王都にも人の寄り付かない一角があるのだ。
(なんだここは。道も汚いし。建物の影には酔っ払って寝込んでるやつもいるぞ。おっ、でもあの店は繁盛していそうだな。中の様子は見えないけど大きな声が聞こえるぞ。よし、行ってみよう。)
そう思ったオレは、好奇心から足を踏み入れようとしていた。
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『待てっ!!』
オレに向かって鋭い声が飛ぶ。
一際煌びやかな鎧を纏った屈強な男が馬上からオレを呼び止める。
「私は、王都警備隊第一大隊のリュングベリだ。そこは、子供の足の踏み入れるところではないぞ。早々に立ち去るがよい。」
威厳に満ちた声が響く。
「オレは子供じゃない。【冒険者】だ。」
オレは応えた。
そんなオレを見てリュングベリは眉を顰める。
「どこぞの貴族のお子さんですかな。【冒険者】ごっこもいいと思いますが、そこは全うな者が近寄るところではございませんぞ。お父上やお母上に心配をかけないためにも早々にお帰りになられたほうが賢明ですぞ。」
オレの一張羅を見たリュングベリは、オレを貴族の子だと思ったようだ。
「オレは農奴の子だ。忠告はありがたいが、なぜそこには近寄らないほうがいいのか教えてもらえないだろうか。」
そうオレは尋ねた。
「失礼した【冒険者】殿。そこはいわゆる貧民街だ。何も知らずに入った者の身包みを剥ごうとする。下手をすると命を落とすこともある。そんな場所だ。【冒険者】として全うに生きるのであれば近付かないほうが懸命な場所なのだ。」
そう説明してくれた。
「しかし、そなた、農奴の子にしてはしっかりとしているな。着ている服もいいものだ。盗んだものではないのか。」
と言って馬上からオレを値踏みするように眺める。
「オレは元騎士爵、ヴォルフガング=ヴォルツが次男、ノアシュランだ。父は、領主であるユリウス辺境伯の罠に嵌められ騎士爵を廃され、農奴となった。この服は、ギルド登録の支給品だ。父の名誉に賭けて盗みなどしない。」
オレは憤慨する。
すると、リュングベリは驚きで目を見開く。
「なんと、ヴォル殿のお子か。それは失礼なことを申した。許されよ。」
リュングベリは下馬し頭を下げる。
「ヴォル殿のことは聞いている。あのお方が領主に反旗を翻すなどありえないとは思っていたが、そのようなことが有りもうしたか。たしかに、ヴォル殿に目もとなどがよう似ている。」
懐かしそうな目をしながらオレを見る。
「父をご存知なのですか。」
オレは驚く。
「あぁ、存じておる。ヴォル殿が神虎隊で魔族相手に猛攻をかけていた時、私は前国王の近衛隊で新米の一兵卒として参戦していた。ヴォル殿をはじめ神虎隊の方々、特に隊長のヨアヒム殿は私ども、新米兵の憧れでもあった。」
そう言って懐かしそうに話す。
それから父の話もしてくれた。
すると、王城の鐘が鳴る。
「おぉ、もうこんな時間か。すまぬが行かねばならん。ここで出会ったのも何かの縁だ、困ったことがあったら、王都警備隊の詰所に私を訪ねなさい。お父さんのためにもしっかりとやるのだぞ。」
そう言って、リュングベリは去っていった。
独りになったオレは、道具屋で回復薬を購入し明日の準備を整え、百舌亭へ戻った。
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ノルテランド暦1991年3月21日
《王都ノルテ冒険者ギルド内》
翌日いよいよ自分達だけでの討伐を行う朝を迎えた。
オレとクースは冒険者ギルドの依頼ボードの前でジョアンナさんにどのような依頼を受けるべきか相談する。このボードの報酬は、税金と手数料を差し引いた金額になるらしい。
「あなたたちは【冒険者F】なので、FランクかEランクの依頼になるわね。報酬がよくて、安全度の高いものだと…。あぁ、そうだわ。これなんかどうかしら。」
そう言って、ジョアンナは薬草採取の依頼カードを見せた。
〔F:薬草採取:回復薬に用いる薬草の採取:~3月23日:パラム高原:達成報酬1万5千C(報酬は薬草と引き換えです。)〕
(パラム高原は遠いな。そもそもオレは薬草の種類もわからないし。たぶんエルフとか【薬術士】向けの依頼なんだよな。)
そんなことを考えてクースを見ると手をバッテンにして拒否の構え。やっぱり討伐がいいようだ。
「じゃあ、この雪兎の討伐はどうかしら。1体ごとの報酬は少ないけど、群れで数も多いし、毛皮も素材となるわ。お肉も売れるからその報酬も見込めるわよ。注意することは、弓矢で胴体に穴を開けてしまうと、素材として買い取れないから、出来るだけ頭を刎ねてね。あと、ほかの魔物・魔獣も雪兎を餌にしているから、鉢合わせしないように周りに気を配るのよ。」
〔F:雪兎討伐:雪兎の討伐:随時:王都近郊:達成報酬×1千5百C(報酬は魔結石と引き換えです。)〕
王都近郊は詳しい場所を教えてもらえるそうだ。
・雪兎…雪のように真っ白な体色が特徴。体当たりしかしないが、動きが俊敏で、新人では討伐に苦労することもある。
オレとクースはこの依頼を受けることにした。
「いよいよ、自分たちで受ける依頼ね。いい、絶対に無理をしないこと。回復薬が切れたら速やかに帰還すること。自分の力以上の魔物とは戦わないこと。これは約束よ。」
そう言って、笑顔でオレたちを送り出してくれた。
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《王都ノルテ近郊:草原》
王都を出て2時間後、オレとクースは草原を歩んでいた。
「しかし、いい天気だな。こんな日は草原で寝っころがると気持ちいいんだよな。」
春めく日差しに独りごちるクース。
(クースもやっぱり平民の子なんだな。そもそもエルフだもんな。エルフは奴隷になんか落ちないよな。エルフの横のつながりで助け合うって言うしな。)
「オレはまだ農奴じゃなかったけど、オレたちはいい天気ほど仕事があるんだ。いい天気で気持ちいいなんて感覚はわかんないな。」
そんな話をしながら草原を進む。すると、左手の草叢がゆれている。
オレは、手でクースにサインを送り、【隠密小】を使って草叢を覗き込んだ。すると大柄なイヌほどのウサギ、雪兎の群れを見つけた。どうやらクースも気付いたようだ。
オレたちは、一斉に雪兎に飛び掛った。
剣を振るオレ、よけるウサギ。レイピアを突くクース。よけるウサギ。剣を振るオレ、よけるウサギ。レイピアを突くクース。よけるウサギ。剣を振るオレ、よけるウサギ。レイピアを突くクース。よけるウサギ。剣を振るオレ、よけるウサギ。レイピアを突くクース。よけるウサギ。
オレたちは20分以上剣を振り回し続けた。
「はぁ、はぁ、はぁ。ダメだ。動きが早くて捕らえられない。クースどうだ。」
「はぁ、はぁ。私は何とか1匹だ。あいつら、動きが速過ぎる。少し休憩してもう一度行こう。」
剣を振るオレ、よけるウサギ。レイピアを突くクース。よけるウサギ。剣を振るオレ、よけるウサギ。レイピアを突くクース。よけるウサギ。剣を振るオレ、よけるウサギ。レイピアを突くクース。よけるウサギ。剣を振るオレ、よけるウサギ。レイピアを突くクース。よけるウサギ。
それでも、オレたちは雪兎を討伐することが出来なかった。
討伐開始から2時間、途方にくれて座り込む。20mほど先で小馬鹿にするようにウサギが跳ね回る。そんなウサギを見ていたオレはあることに気付いた。
「おいっ!クース、見てくれっ!あいつら、左右に動くとき飛ぶ方向の逆の前足が前に出るぞ。右足が前なら左。左足が前なら右だ。これなら、先回りできるぞっ!」
オレたちは、喜び勇んで雪兎に飛び掛った。
しかし、足元ばかりを見ていると体当たりをかましてくる。何度も体当たりを受けているうちにHPが減っていることに気付いた。
(昨日、回復薬を買っておいてよかった。しかし、慣れてきたのか体当たりされる数も減ってきたな。)
回復薬を飲み狩りを続ける。
剣を振るオレ、倒れるウサギ。レイピアを突くクース。倒れるウサギ。剣を振るオレ、倒れるウサギ。レイピアを突くクース。倒れるウサギ。剣を振るオレ、倒れるウサギ。レイピアを突くクース。倒れるウサギ。剣を振るオレ、倒れるウサギ。レイピアを突くクース。倒れるウサギ。
オレたちは、群れを狩り尽くすと、魔結石と毛皮、肉をBOPして回収する。そして、また群れを探す。
そして群れを見つけると、
剣を振るオレ、倒れるウサギ。レイピアを突くクース。倒れるウサギ。剣を振るオレ、倒れるウサギ。レイピアを突くクース。倒れるウサギ。剣を振るオレ、倒れるウサギ。レイピアを突くクース。倒れるウサギ。剣を振るオレ、倒れるウサギ。レイピアを突くクース。倒れるウサギ。
オレたちは、半日ほどの討伐で合わせて20匹ほどの雪兎の討伐に成功した。オレたちは、話し合って報酬は折半することにした。
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《王都ノルテ冒険者ギルド内買取カウンター》
魔結石、毛皮、肉を精算すると合わせて5万Cになった。オレの取り分は2万5千Cだった。
そして今日の反省会を開く。
「報酬のうちの5千Cは回復薬にまわしたほうがいいな。」
とクースが提案する。
「そうだな。今回もあの体当たりはあと少しで倒れるところだった。それに、現地で魔物を観察してから討伐に掛かったほうがよさそうだ。今日も最初っから観察してればもっと狩れたはずだ。」
オレも提案する。
するとそこへ、ジョアンナがやって来た。
「どうだった~。」
笑顔で声をかけてくる。
オレとクースの報酬を確認する。
「討伐方法に気付いたようね。雪兎の討伐依頼はね、あなたたちのような初心者のためにギルドが出しているのよ。魔物を観察して討伐することを気付かせる依頼でもあるのよ。初回で気付けたんだもの、自信を持っていいわよ。過信はダメだけどね。」
と教えてくれた。
その後、ギルドの食堂でクース、ジョアンナと食事をして、オレはいつもの百舌亭へ戻っていった。
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