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褒賞

 辺りに散らばっているそれなりの量の聖銀の装備を回収して

 討伐証明として、豚の鼻先を切り取り布に包んでしまいこむ。

 それ以外にも幾つか重要そうな部位を切り取っておくのも忘れない。

 この討伐証明というのが中々厄介で、偽造をする冒険者も後を絶たないらしい。

 まぁ今回は聖銀装備という収穫があるのでこれを見せれば信じてもらえない、という事はないだろう。


 という訳で俺たちは夜になってしまう前に街に戻ろうと急ぎ足で街道を戻り

 太陽が街を茜色に染めている頃にギルドへとたどり着く事ができた。


 先遣隊が出発して、足止めを行い明日の朝には総力を挙げて出陣する。

 ギルドからの公式発表ではそうなっている為、街の中の空気は少しピリピリとしていた。

 といっても、そんな空気を醸しだしていたのは大体が戦いの場に生きるような人物。

 つまり俺たちの同業者ばかりだったのだが。


 街を歩いているだけでこれなのだから、旗の看板が掲げられた建物の内側。

 冒険者ギルドの中はそれはもう酷かった。

 俺たちが入ってくるなり一斉に視線が浴びせられ、一挙一動に注目される。

 彼らは俺たち三人が先遣隊であり、あのオークキング討伐の任務を受けているとは知らないはずだ。

 

 なら何故、と思ったがなるほど…もしかしたら、俺たちが悪い知らせを持ってきたのかもしれない、と気がたっているのだ。

 事態が悪化した、今すぐにでも街を出立して総力戦を行う。

 そんな可能性が微粒子レベルで存在しているとしたら俺だって他人の言動に気を使うだろうな。




「失礼、悪食の王のことで少しお話があるのですが」


 

 三人を代表して一番ランクの高いシフォンのギルドカードを取り出し、カウンターに置いて告げる。

 こんな時でもカウンターで人の良さそうな笑顔を浮かべていたいつものおじさん…確かザラムさんの表情が硬直し

 その瞬間、俺たちに向ける視線の数が増えた。


 注目されているとはっきりわかるくらいの感覚に、物凄い息苦しさを覚えながら深呼吸。

 何も悪い事はしていないのだし、堂々としていれば構わないさ。


「リーゲン氏に直接ご報告した方が良いですか?」

「あ…あぁ……コウタ…くん、きみ…ぁ…」

「はい、おかげさまで無事に戻ってこれました、色々と収穫もこみで」


 収穫という響きにオジさんの視線が後ろの二人に向けられたのを感じて、俺も一緒に振り返る

 流石に剥ぎ取ったばかりの聖銀装備を裸のまま持ち歩かせる、というのは目立ちすぎるということで、三人で装備を持ち街の入り口まで運び

 シフォンに先行させて一番安く大きな布を買わせて、ソレに包み込むようにして持たせたのだ。

 なので今のシフォンは酷く不恰好にごつごつとした風呂敷を背負っているという、何とも滑稽な姿に見えてしまうだろう。

 聖銀がいくら軽いからとはいえ、結構な量の武具を一人で運ぶ彼女の身体能力には驚かされるばかりだ。


 …後でお詫びをしなくてはいけないな。



「……こほん、コウタ君…君がこの時間に戻ってきたという事は、本当に? …逃げて戻ってきたのなら、他の皆の為にも正直に話しておいてもらいたい」


 ようやく事態を飲み込む事が出来たオジさんは少し嬉しそうな顔をしながら問い詰めてきたが

 すぐに別の可能性に気がついたのか、声を小さくし辺りを伺いながらその可能性を口にする。

 その瞳は何処までも真面目で、声も気づかう優しさを含んでおり

 もし俺たちが奴に敵わず逃げ帰ったと言っても、許してくれるだろうなと思った…良い人なんだな。


 アイリとシフォンがいたからです、という前置きを一つおいてから懐に手を差し入れ、布に包まれたソレを取り出す。

 包みを僅かに解いて討伐証明である豚の鼻の姿をちらり、と見せたら、後は他の誰かに見られないようにまた仕舞いこむ。


 彼は最初信じられないようなものを見る目つきだったが、次第にぷるぷると身体全体を小刻みに震わせはじめ

 嬉しくてたまらないといった表情をしながらカウンターの内側を立ち上がり。


「コウタ君とお付きの二人、今すぐリーゲンさんに報告するからついてきてくれ…いやね、実を言うと君達が戻ってきたら最優先で通せって言われているのさ、はは!」


「その割には信じられないものを見たって顔をされましたが?」

「ははっ! しょうがないだろう…でも、君は…君たちは…くぅっ…!」


 握り拳を固めたオジさんはずんずんと、他の冒険者や職員から向けられる視線を気にもとめずに階段を上っていく。

 俺たち以上に今回の討伐成功を喜んでくれる彼の背中を見ながら、本日二度目の三階へと足を踏み入れると

 未だ今回の対応で慌しい事務所を素通りし、重苦しいギルド長室の部屋の前で止まる。



「ここの扉の素材、凄く上等ですよね」


 オジさんがノックを響かせるのを聞きながら、後ろに控えていたアイリが楽しそうにそんな事を言い出す。

 確かに一度目に見た時は篭城なんかに使えそうなくらい頑丈って感じがするなぁ、とか思っていたな。

 

「確かに強そうだよな」

「あ、いえ…そういう意味ではなくてですね、木の質感や音の響き方や彫刻を刻んだ時の出来栄えを想像したりするとですね…

私、この材木、好きかも知れません」

「…アイリのそういう好みの話、初めて聞いたかもしれん」

「ふふ…そうですか?」

「だと思う…しかし木かぁ、うーん……」


 アイリが意外にも好きと言い出した、上等そうな木製の扉。

 これが扉とかじゃなければプレゼントしてあげるよ!

 なーんて男らしい事も言えるんだけどなぁ……。


「あ、それならボクに良い考えがありますよ!」

「本当か? …じゃあソレを聞かせてもらお―――」



 う、と言おうとした所で扉の向こうから落ち着いた声が返ってきた。

 少し前に聞いた理知的な人物の変わりない、入りなさい、という一言にオジさんの手がノブにかかる。

 扉そのものが重量があるのだろう、ギィッと蝶番が錆びたのとはまた違った趣の音を鳴らして、扉が開く。








「…あぁ、コウタさんですか…帰ってきたという事はもしや?」


 ギルド長室は本当に一日でここまで変化してしまうのだろうかというほど荒れはてていた。

 まだこの世界では微妙に高価であろう紙は床に放り捨てられ放置され、代わりに羊皮紙が机の上にずらりと並べられており

 リーゲン氏の手元は、文字を書く為のインクが飛び散り、黒い斑点が出来上がっている。

 流石に着ているものにインクがついてしまうのがさけているのか、上着は脱ぎ捨てられてはいるが、それにしても窓際に適当にかけられているだけだ。


 まるでデスマーチの最中みたいだ。


 その感想を抱いてから、今の事態はまさに突然沸いて出たデスマーチなのだと思い直す。

 しかも失敗すれば街の人間や、最悪自分達の命まで失う事になる本当のデスマーチ。

 

 …だとすれば、その状況を俺はある意味……


「はははっ! あはははっ!!」

「…コウタさん? いかがしました?」

「いえ…その…ぷふっ…ふっ、くく……ちょっと自分の故郷の言い回しを思い出しまして……仕様変更の連絡です」

「………?」


 リーゲン氏は知性溢れる人物だ、多分俺なんかよりよっぽど頭の回転は良いだろう。

 しかし異世界…日本のことなんてわかるはずもなく、しかし何かの意味があるのだろうかと鋭い目つきで考え込む仕草を見せていた。


「あぁいえ、すいません…深い意味はないのです、本当に…

ただこの様な状況で、故郷でこのセリフを聞いてしまうと、どんな大人でも悲鳴をあげるというジンクスのようなものがありまして…」


「なるほど…では私達一同も、コウタさんに嬉しい悲鳴をあげさせていただけるのでしょうか」

「……ふふっ」


 後ろからは楽しそうな笑い声が、微かに聞こえてくる。

 確かにこれから報告する事の内容は、彼に対して悲鳴をあげさせるには十分かもしれないなぁ。

 自慢の従者の功績を称えるように二人に目配せをすると、代表して俺が軽く頭を下げてから。


「えぇ、簡単に報告しますと…街に向かっていた変異種をボスとした一団は一匹残らず殲滅しました、コレが証明部位です…もっとも、普通のオークと見分けはつかないかもしれませんが…」


 オークの鼻を包み込んだ布を取り出すと、リーゲン氏に見せ付けるように包みを解いてソレを取り出す。

 帰り道すがらにシフォンから聞いた話では、平均的なオークの倍あるくらいで後は普通と代わらない、というソレを見た彼がゆっくりと息を吐く。

 信じられないが信じたい、そんな感じの表情のまま俺たち三人を見回すと、シフォンが背負った荷物を見つけ指をさす。


「失礼ですが、そちらは…」

「あぁ…シフォン、中を見せてあげて…これも、魔物の群れが装備していたのを貰ってきたんです、なにせ高価なものですから…」

「うんっ、それではリーゲンさんこちらをご覧ください…ギルドの規定でこれらはボクたちのモノで構いませんよね?」


 ガシャァン、と金属のぶつかり合う音を響かせながら荷物が床におろされる。

 そしてそこにある銀の輝きを見た瞬間、今度こそリーゲン氏はその表情を綻ばせた。


「良かった…本当に…国への救援の要請、街の人たちの非難の手配、領主である貴族様への連絡……抱えていた問題の多くが、今私の肩から降りていきました」

「そこまでなさるのですか?」

「えぇ…私はこの街の冒険者達が所属する組合の長ですから、実を言うとアレから食事をとるのも忘れて仕事をしていまして…

今、ようやく空腹を思い出した所ですよ」

「あはは、おかげさまで俺たちも今晩はご馳走にありつけそうです」

「是非、最高の夜を…あぁ、何でしたらホテルの手配でもいたしますか、今なら権限を全て使って貸切にでもさせますよ?」


 

 何も食べていないというのは本当なのだろう、自らのお腹に手をあてて若干苦しそうなリーゲン氏は、しかし

 どこまでも晴れやかな顔で、インクとは別の場所に置いてあったカップに残されていた僅かなお茶をぐいっと一気に飲み干した。

 俺も経験があるからわかるのだが、アレは多分結構前に用意されて忘れていたものだろうな、うん。

 そう考えると、リーゲン氏には何処か親近感のようなものが沸いてきてしまう…この人にコネが出来るのって案外良い話なのかも知れん。


「さて、いつまでも喜んではいられませんね…ザラム、職員にこの事を伝えたうえで銀貨の準備をして、軽食を用意させてください…私はもう、お腹がぺこぺこだ」

「了解しました、それではコウタさん…私はコレで失礼します、またお会いしましょう」

「あ…これはどうも、あの…ザラムって名前かっこいいですね」

「名前負けしないように日々必死です…それでは」


 軽く俺たちに頭を下げたオジさんは、そのまま部屋を出て行く。

 扉の向こう側、つまり職員達の仕事のスペースから彼が声を張り上げて何事かを伝えているような音が、微かに聞こえてきた。

 コレは俺も早いうちに退散した方が良いかも知れないな。


「では、コウタさん…手続きの関係もありますので数日後に約束の金額とギルドカード…といいたいところですが、今晩は色々とありますでしょうし

先に100毎ほどお渡しするという形でも構いませんか?」


「良いんですか?」


「英雄を手ぶらで返すことのほうが失礼ですから…そちらの装備の方もよければお預かりして、後日…信頼できる引取り場所を紹介しましょうか

それとも、コウタさん達は個人で使用しますか?」

「…使用する分を残して換金でお願いします」

「かしこまりました、この私リーゲンの名にかけて最良の店を紹介しましょう」


 この人の知ってる最良の店か

 纏ってる雰囲気が冒険者ギルド支部の長というより、いかにも商人って感じだからソレは楽しみだ。

 もしかしたら会員制のお店とか商会されちゃうのかもしれない。


 やだ、どうしよう…この世界の正装とかしないと入れない店とか連れて行かれちゃうんだ。

 もしかしたら接待とか受けちゃうかも…いやだめだよ、俺にはアイリとシフォンという愛する二人がいるわけだし…。


 なんて考えていたのがいけなかったのだろう。

 リーゲン氏はくすりっと微笑を浮かべると


「安心してください、私の大事な客という事ですから普段どおりに…お供のお二人も、どうぞいらしてください」


 あ、そうでしたか…ちょっと残念。


「わかりました、それじゃあ荷物はここに?」

「えぇ、後で職員に運ばせます…不正をするものはいないと思うのですが…目を光らせておきますので」

「お願いします」



 至れりつくせりじゃないか、この人。

 それにしても銀貨100枚かぁ…旅のために資金を貯めるとしても、今日くらいは贅沢をしても許されるよなぁ…。

 そう考えると色々と楽しく思えてくるから不思議なもので。

 

 詳しい報告なんかもまた後日にしましょうって事で、軽い挨拶や連絡の後に、ギルドを後にするのであった。

 久しぶりに銀貨100枚を現金で持ち歩くと、なんだかすれ違う人の多くが泥棒に見えたりもしたのは秘密ってことで。

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