プランB 36
空間が超引力で引っ張られるなら、ブラックホールは引っ張るモノとされている、どの段階で空間圧縮が始まるのか。 ヒロの頭の中で、ブラックホールはバネに置き換わっている。 引っ張られれば最初は伸びるのだ。
『 なるほど、面白いな 』
「 ええ、本当に 」
何が面白いのかヒロには理解できない、ただ二人とも微笑んでるから馬鹿されてるんじゃない事は判る、まぁそれなりに付き合い長いし。
『 絶対引力下における空間圧縮比の偏移か。 面白い論文が書けそうじゃな 』
「 絶対引力? 今考えついたでしょ 」
ジュンとローズが楽しそうに会話する、会議室の参加者はメモを取る。 ヒロはポテトチップス片手にコーヒーを飲む。 ヒロのポテトチップはチョコ掛けで、ノンフライタイプのクリスプだから脂分は少ない。 ゆえに胃もたれも少ない、チョコレートが掛かっているからカロリーは高い。
「 絶対引力ってなに? 」
「 引力の極限値よ 」
それが分からないから聞いているヒロなのだが。 説明によるとどうやら絶対零度みたいなモノらしい、それの引力版だと。 温度だけではなく引力にも限界値が在るらしい。 仮説の段階で証明は出来ないらしい、オマケについさっきの会話で初めて出てきたらしい。
「 よく分からんけどさ、そこに物質は存在すんの? それとも物質は全部エネルギー化すんの? 」
『 どうじゃろな 』
「 分からんのかい 」
38万km向こうへとツッコミが入る。
『 まぁホワイトホールが在るそうじゃからな。 質量が在っても、あちらに吸い出されておるじゃろうな 』
ローズは小馬鹿にした口調で話す。 彼女の理論では空間に穴は開かない。
『 それにしてもじゃ、新しい情報が入ると新しい疑問が出て来るの 』
疑問が増えても、ローズは嬉しそうだ。
そもそも、巨大な質量が引力崩壊を起こしてブラックホールが出来るとして、ブラックホールの維持は何がどう行っているのか。 巨大な質量は崩壊してるし、やっぱりエネルギーなのか、エネルギーが集まると引力が持続されるのか。 それとも、ホワイトホールの先は真空より負圧の空間で、一度繋がったら吸い出され続けるのか。
ローズの独り言が続いているが、周りは聞いてるだけだ。
「 サイホンの原理じゃ無いのか? あれなら、流れが有れば圧力差は何とかなるし 」
ヒロがつぶやく、ローズの独り言が長かったから。
『 サイホンの原理。 どうかの、いや行けるか・・・ 』
「 可能性は在るわね、検討してみるわ 」
『 そうじゃの。 こちらでも検討させよう 』
振り返り、会議室の何人かに指示を出すローズ。 どうやら本格的に検討するらしい。
「 スゲーな、サイホンの原理 」
宇宙でも通用するサイホンの原理、ヒロは改めて感心していた。
BDによる調査はその後何十回も実施された。 ムーンベースの科学者や技術者が考案したセンサーを使用して、観察も行われている。
今も一日の観測を終えたローズが、通信でジュンとヒロと話している。 ローズは夜食を食べながら、ジュンとヒロは朝食を食べながらだ。 時差と言うか、地球とムーンベースでは設定されている時刻が異なっている。
日本は朝の07:00、ムーンベースの時刻は22:00を過ぎたあたりになる。 もちろんムーンベースの時刻は前日の22:00である。
「 何もない? 」
『 そうじゃな。 何も無いと言うと語弊があるがな 』
観測の結果、ブラックホールの中には何かは在るらしいのだが、それが何なのかは分からないらしい。 少なくとも物質が崩壊したプラズマやら暗黒物質やらナンチャラ粒子やらが、高密度で存在してるんでは無いらしい。
「 へ~ 」
「 何かは在るみたいなんだけど、それが何なのか分からないのよ 」
ジュンがお皿をヒロの前に置く、ウインナーが三本と、ほうれん草入りの卵焼きがのった皿だ。 卵焼きと言っても、冷凍のホウレン草を解凍して卵で和えたようなものだ。 ホウレン草入りのスクランブルドエッグだ。
二人だけで食べる朝食なのだ、見た目にこだわる必要はない。 ヒロの担当はコーヒーだ、パンは好きな物を適当にリベイクする。
『 センサーが無いんじゃよ 』
「 それが一番の問題よね 」
何があるか分からないから、何を測定したらよいか分からない。 つまりどんなセンサーを用意すべきか分からない。 優秀なムーンベースの科学者も技術者もお手上げらしい。 何を測定するのか分からないんだから、そりゃそうだよなとヒロは思った。
「 無理だからな 」
『 ・・・ 』
食事を始めた二人、ヒロがコーヒーを飲みながらモニターに向かって言った。 そこには俯いたローズが映っている。 長さなのか、大きさなのか、それとも重さなのか、何をどう測定するのか変わらないんだから、エンジニアにはどうしようもない。
それにヒロには、ワープ機関を量産している地球のあちらこちらから問い合わせが来ており、それの対応に一日の業務時間の大半を費やしている。 しっかり仕事はしているのだ、暇そうに見えても。
『 ダメかの~ 』
ローズは上目使いでカメラを見ている、かなり近づいている。 毛穴まで見える解像度なのだがそれは全く意味が無い。
「 何を観測したいのか、ハッキリさせるのが先ね 」
ジュンは理論の構築が先だと判断している、それに見合うセンサーを用意すれば少なくともそれが有るか無いかは判断できるだろうと。 センサーに関してヒロとも相談したのだが、無理な物は無理だと結論を出している。
モニターの中のローズが、ガックリとうなだれた。 それでも手に持ったサンドイッチが落ちることは無い、彼女は食べ物を大切にするよう家庭で教育を受けている。 由緒正しい貴族の出身なのだ。
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『 では、本プランで量産を進めるとします 』
「 ・・・ 」
ヒロも仕事をする、今日の仕事は黙って聞いてるお仕事だ。 今日は新たな融合炉に関しての打ち合わせに、オブザーバーの一人として参加している。
家庭用融合炉の市場は飽和しつつあった、少し前から売り上げは低下しつつあった。 新型への切り替え需要はあったがそれは限定的だった。 各融合炉のメーカーは大型化に舵を切ったが、各社様々な大きさをラインアップして競い合っている状況で収益は悪化していた。
そんな時、SFが結成された。 新たにもたらされた技術、ワープ機関、フィールドジェネレータそしてホール通信、どれにも融合炉は必須であった。 各社の、今後30年間の需要予測は限界を突破していた、SFに正式採用されたらの仮定の話ではある。
SFに採用されなかった場合のデメリット、採用された時のメリットの差が大きすぎて、各社は競争しないことを決定した。 談合ではなく企業の統合へと舵を切ったのだ。 融合炉の独占を通じて宇宙開発を裏から支配する、何てことを考えた者がいるとかいないとか。
宇宙関連機関の合併と異なり彼らは営利企業である、メリットが大きい企業統合は速やかに実施された。 合わせてSFからの受注に備えるための会合を繰り返した。 融合炉の出力と仕様を、SFの要求に適合する為である。
ヒロが出席していた会議は、その会議の最終案の決定の為であった。
「 ヒロ、終わった? 」
「 ああ、終わったよ 」
ジュンがマグカップを2つ持ってソファーに座る、中身はもちろんコーヒーで、一つはヒロ用である。
「 それで、どうなったの? 」
「 3タイプに絞り込んで量産するらしい 」
S,M,Lと言うべきか、普通、中型、大型と言うべきか。
Sはタンカーに搭載されているものと同程度か、少し小さい大きさになる。 母船に搭載される小型船の、主機関用だ。 Mは今後の母船の主機関用で、現在タンカーに搭載されているモノの三十倍の大きさになる。
Lは将来登場するであろう恒星間航行船の主機関用だ、形はタンカーを三隻つなげたような形状を予定している。 縦ではなく、横でもなく束ねたような形になる、上から見ると正三角形の各頂点にタンカーが有る形だ。
各船のフィールドには、Mサイズの融合炉を複数使うらしい。 SFではそう運用していく予定になっている。 ヒロは今日初めて聞いた話だったりする。
「 さっき聞いたんだけどな・・・ 」
現在量産が始まっている人類初の恒星間宇宙船は、タンカーを3隻束ねた形状になっている。 一隻当たりの搭乗員は約600名で、三隻の真ん中の隙間には追加の居住空間や燃料、その他もろもろの物資を積載予定になっている。
「 初の恒星系探索にはそれが30隻で、3グループだってさ 」
「 全部で90隻だけど、昔のタンカーだと270隻分よね。 改めて計算すると凄い数ね 」
「 だよな 」
二人そろってコーヒーを飲む。 ジュンとヒロは何度も話し合って、初の恒星間派遣の一次募集に応募しないことにした。 スポンサーが疑わしく感じるのが一番の理由だ。 そもそも、船団がどこに向かうのかハッキリしていない。 『 新たな惑星を探しに出かけよう! 』 なんてうたい文句が嘘くさく聞こえるのだ。
「 どうすんのかね~ 」
「 そうよね 」
地球で生活するつもりの二人には、割とどうでも良い話だったりする。
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