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プランB 19



『 ・先ずは、実験成功おめでとうと言わせて頂く 』


「 ・・・ 」


ヒロとジュンはモニターの前で、黙って静かに頭を下げた。

二人共どこかで聞いたセリフだなとは思ったが、それを口には出したりはしない。



パーティーの最中に護衛の兵士からヒロとジュンに伝言があった、スポンサーから二人に連絡が来たと。

ホール通信がこれからの超長距離通信の基軸となるのは確約された未来だが、誰でも所持しているモノではない。

国家として保有しているのは8ヶ国だけだし、個人として使用できるのは数人だけだ。

どうやらスポンサーはその少ない一人に含まれているようだ。


組織としてはタンカーの管理センターは保有しているし、当然タンカーにも搭載している。

運行スケジュールの関係でまだ搭載していないタンカーもあるが、次のドッグ入り時にはフィールド発生装置と共に搭載される予定になっている。


二人はパーティー会場と化した食堂を抜け、二人専用のプライベートエリアにある専用の通信室に向かった。

二人の行動は可能な限り素早く行われたが、ローズの成功を涙を流して喜んでいたジュンは顔を洗ってからになった。

ジュンは何時も薄化粧しかしていない、宇宙ではそれが当たり前だ、ヒロがそういう趣味だし、お手入れが楽だって言うのもあるらしい。


『 ・君達三人のおかげで、私達のプロジェクトは一部を除いて予定以上に進行している。 ありがたいことにね。 お礼と言う訳ではないが、料理と酒は気に入ってくれたかな? 』


「 ありがとうございます、料理は美味しく頂きました。 アルコールはちょっと・・・ 」


ヒロは小さなコップ半分で酔える、と言うか飲めないと言うべきだろう。

ジュンはお付き合い程度には飲めるが、毎日晩酌をするほどではないしほとんど飲むことはない。

だからどれだけ高価な酒を用意されても、二人にとっては不純物が混ざっているエタノール程度の価値しかない。


実験に使うには不純物が多すぎるし、残留物が在るから洗浄液としても使えない実に不便なモノだ。

飲めると言っても身体にとってはどれだけ少量でも充分有害であり、そんなモノに百万円の金額を支払う意味を認めない。

自分で摂取する毒物にそんな価値は無い、二人はそう考えている。


摂取すると体に悪いという点ではヒロのタバコも同じだが、タバコに酔って喧嘩をしたり、タバコ酔い交通事故もない。


寝タバコによる火災はあるが、酒を飲んで寝てしまうケースがほとんどであり、タバコが原因ではなくアルコールが原因と統計すべきだろう。

世間で何故かはそうなっていない、不思議な事だが。


酒は自分の身体が被害を受けるのは当然だが、周りにより大きな直接損害をもたらすことが多い。

タバコは酒ほど周囲に迷惑を掛けない、”タバコの煙は壁などに付いて10年以上後でも影響が残る” と言う科学者の研究報告もあるが、根拠は非現実的で再現性が無い実験となっているから意味はない。 


モニター内で広い机に向かい、豪華な椅子に座っている男性とその隣に立っている女性は顔の部分がハッキリ見えない。

ホール通信にはノイズが乗る、鮮明な画像なのだが常にある小さなノイズの除去は現段階では出来ていない。

だからと言って顔が見えないほどノイズがある訳ではない、顔が見えないのは故意に隠しているからだ。


金持ちの特有の秘密主義か何かだろうな、程度に二人は思っている。 

巨額の資金と軍を動かせるだけの力を持った存在に逆らうほど、ヒロもジュンもバカではない。

ジュンは研究費用と研究に関する自由裁量を得られれば(そして余計な口出しをしてこなければ)、ヒロは賃金を払ってくれれば、他はさほど気にした様子はない。


二人の血液型が共にB型なのが関係しているのかもしれない。

B型は自分が気になる事はとことん気にするが、それ以外は気にしないとされている。

それが事実か否かは不明だ、2228年現在でも血液型と性格の関連性は科学で立証できていない。


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2228年。

人類は停滞し、病んでいる。


人類が初めて月に到達してから300年近く経過したが、人類はまだ太陽系内に居座り続けている。

宇宙は特別な才能を持った者 = タレント が行く場所で、誰もが気軽に行ける所ではない。

札束を積み上げて行く者もいたが、それらは金持ちではあるがタレントではない。


致死性の病はいくつも克服され怖い病気ではなくなった、その代わり新たな致死性の病気が見つかった。

治療法を一つ確立すると次の病気が見つかる、終わりなき闘いだ。


女性の身体を外部の病原菌から守るための免疫機構は、異常のある精子の受精を阻害する機能も兼ねている。

その免疫機構を低下させるウイルスが発見され、多産ウイルスと名付けられた。

外部の病原菌と共に、異常のある精子の受精を阻害する機構も失われたからだ。

受精の可能性が増えて結果的に出産の回数が上がった。


環境問題が解決しても、無計画で無秩序な出産を続けている限り水不足と食糧不足は解決しなかった。

三人以上子供を産んだ女性と、その子供へのワクチン接種を推奨したが接種は遅々として進んでいない。

子供を産むのは権利であり勝ち組の証だ、子供は宝だから多くても問題無い、むしろ多い方が偉いんだまであった。

結果として人口は増え続けている。


世代を重ねる毎に、男性の男性ホルモンの減少傾向が続いた。

ホルモンが減少しても遺伝子的には男性なのだが、女性に近い発想をするものが増えた。

ユニセックスな服装が原因と主張する者も存在したが、詳細は不明だ。


とにかくホルモン不足による変化した精子保有者が増え、多産ウイルスと相乗効果もあり、結果として生誕した時から心身に異常がある子供が増加した。


新たな生命の誕生は喜ばしい事である。

しかし、心身に変化のある生命は社会システム全体に負担を掛ける事も事実だ。

治療や介護やそれに伴う移動など、全てを個人資産で賄うことが出来る家庭なら問題ない。

親が医師で自身で対処可能な場合は社会システムへの負担は少なくなるが、全ての人類が医師ではない。


それ以上に深刻なのが心の平衡を欠いた者の増加だ、それらを外見で判別するのは困難だ。

しかし行動で判別する事は出来る、それらは容易く”死”を口にした。

”死にたいのか?”  ”殺してやる”  ”死ね” 、それらの中で ”死” は言葉の羅列でしかないのだ。


何度も口にすることで死は軽い物として扱われるようになり、殺人とイジメと自殺が増加した。

死を恐怖しないモノ、死を畏怖しないモノは、生命体として致命的なのにだ。


新たな発明や発見は減少した、反面、文化と芸術、新たな思想に基づく活動が活発になった。 

関係の無い第三者の視点では、雑音とお絵描きとお布施集めの信者勧誘活動となる。



自分が宇宙の中心だとする()動説を唱える者が増えた、それらの子供もまた同じように自動説を唱え行動するようになった。

親を見て、親の教育を受けて育つから当然そうなる。

親の行動を伴う実地教育に対して、学校教育は無力だった。


結果として中二病は消滅した。

自動説を唱える者達は自ら成長する事が無い(自分が世界の中心なのだから同然だ)、精神年齢が大幅に下がった。

高校生は昔の小学生程度の精神年齢となり、旧中二病の発症は20代が主体となった。

また病状が多岐に渡ったため()ではなくシンドロームと呼称されるようになった、20シンドロームである。


それらは世界を救うのは、アイアンマン(・・)でもなく、ワンダーウーマン(・・・・)でもなく、若者でなければならないと唱えた。

”若者が経験値を獲得してレベルを上げてスキルと技術を磨く”、やがて老害を排除して、新たな素晴らしい世界を創造するのだとそれらは口にした。


本当に世界を救ってくれるのなら文句も出ないのだが、世界は何も変わらなかった。

当たり前だ。

経験値を得るために日々生きてきた(そして年をとった)若者の現在(・・)が、オジサンやオバサンなのだから。


そんなツッコミも、20シンドローム発症者の耳には届かなかった。

それらは都合が悪いとウッセイワと唱えて、何も聞こうとしないのだ。

そうして嫌な事から逃げ、忠告も指摘も聞かない新たな人類が誕生した。



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