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プランB 16


ジュンとヒロは、タンカーの食堂でアナウンサーからのインタビューを受けていた。


『 ・そう言えば帝都大学から、 "名誉助教授" のお話があったそうですね? 』


「 話はありましたね。 とてもありがたいお話でしたがお断りさせて頂きました 」

 

『 ・そうなんですね。 それにしても・・・ 』


ヒロが断った事がアナウンサーは意外だったが、すぐ次の質問に移っていった。


ヒロの元には帝都大学に限らず、聞いたことが無い名前の大学からも ”名誉教授” の話は有った。

あったのだが、彼はその全てを断っている。

 ”成果を出したんだね。じゃあうちの大学の教授にしてあげるよ、名誉でしょ?” と言われているような気がしたから。


ヒロは大学を卒業していない、正確には大学を受験さえしていない。 

どうやったら名誉教授になれるのかヒロには分からなかった。

他の大学からは教授で、帝都大学だけは助教授の提示だったがその理由も分からない。

 ”他の大学とは違うのだよ” と言いたかったのかもしれないな、と思っていたりするヒロだった。



三人へのインタビューはムーンベース、マーズベース、ヒロとジュンが搭乗しているタンカーの3元中継で一時間ほど続いた。

三人へのインタビューに割かれた時間は、シュタインリッヒ博士が50%、ジュンが45%、残りがヒロと言った感じの配分だった。

そこに悪意はない、諸々の都合と二人のアナウンサーの手腕だ。 


ヒロはあくまでジュン博士の配偶者で、優秀な妻の近くに居たから参加できた運の良い男と言うのが世間の認識だ。

ジュンとシュタインリッヒ博士に言わせれば論外な内容だ、行き詰まっていた研究の突破口を開けたのがヒロだったから。

しかし世間の関心は人類初のワープ実験とその発明者に集中していて、その他の些末な事はどうでも良いという風潮であった。

ジュンとシュタインリッヒ博士の個人的感情など、気にする者は多くない。


ジュンはヒロの事をある程度理解しているから、インタビューは面倒なだけでどうでも良いのだろうな、と気にもしていない。

ただ出来るだけ早くインタビューを切り上げましょう、と配慮している。 

科学者と違いエンジニアは、有名になっても良い事は一つもないと理解している。


二人のアナウンサーは、自分の発言に対する三人の反応がネガティブだった場合、さらりと流して次に移っていった。

”インタビューの内容に問題在りと判断した場合は、その場で放送画面から消えてもらう” と、アナウンサーには前もって十分過ぎるほど説明はされていたし、聴きたいことは世界中から集まっている。

三人のゴシップを追いかける余分な時間は無かった。


アナウンサーの二人は何か問題視とされる事があれば、自分が現実世界から消え去る可能性があると感じていた。

そんな危険があっても、歴史に残る偉業の放送を担当できる事実が大き過ぎた。

放送で自分が喋る事が歴史に残るのだ、二人のアナウンサーはその重大さが理解できる程度には優秀だった。

三人の気分を害してそれを失う事は、何としても回避するつもりだった。


------------------------------


当たり前だが、月 - 火星間の短距離ワープ実験は今回が初めてではない。


ヒロとジュンがノンビリ航宙している3か月の間に、(移動速度は速いのだがイベントが無いので体感的にゆっくりノンビリとなっている) 月 - 火星間の短距離ワープ実験は既に数十回実施されていて全て成功している。

もちろん極々秘密裏に。 


最初は無人で、次に単細胞生物を搭載して、次は様々な生命体を搭載して、そして最後の10数回は有人で実施されている。

それらすべての実験で、生命体や人体への影響は確認されていない。


空間安定化装置を用いたワープは人体だけでなく、他の生命体への影響が無いのは遺伝子レベルでの綿密で詳細な検査で確認済みで、全く問題無いことが確認できている。

空間安定化装置は、文字通り空間を安定化していることが証明されている。


つまりこれから実施される人類初(・・・)のワープ実験は、想定外のアクシデントが発生しない限り成功を約束されている。

実際にはすでに何十回も成功している、今のところ失敗は無い。


人類初を大々的にアピールするのは、人類に希望を与えたいと言うスポンサーの強い意向で、ヒロもジュン博士もシュタインリッヒ博士にも知らされている。

それに、史上初とか人類初とかの実際はそんなものだよと、スポンサーは三人にそう語った。


ヒロが嫌々ながらも渋々放送に参加しているのは、スポンサーの強い意向を汲んだからだ。

仕事の一部だと割り切っていて、短時間なら我慢も出来る程度にはヒロは大人である。

だが、本心はジュンが科学者として有名になって欲しいと思っているから参加している。


質問に対する返答も、そうなるように工夫しているが決して嘘はついていない。 

有名な科学者は何時でも特例扱いされるから、今後のジュンの仕事が楽になるだろうと思ってのことだ。



実験の成功を報道したのち、人類初となる他の恒星系へ調査船を派遣する計画が発表される予定となっている。

クルーは応募者の中から選ばれ、到着後は現地で基地の設営と運営と、惑星の調査を担当する予定になっている。

もちろん片道ではなく帰還が前提だ、到着後しばらくは忙しいから帰るのはかなり先にはなるだろうが。


メンバーからは、犯罪歴持ちや特殊思想持ちや宗教屋は除外される。

神に祈ることは任務に支障がなく、他者に迷惑が掛からない範囲で許可される。

従って何時でも何処でも祈れるわけでは無い。

目的地は他の恒星系であって神の用意した楽園ではない、それが理解出来ない者は選ばれ無い。


そのクルーの募集を幅広く実施するために、今回のアピールは必須だとスポンサーは言った。

計画では同時期にいくつかの惑星に、何10隻もの調査船を派遣するという大規模な試みとなっている。

行きたいが周りに止められているシュタインリッヒ博士や、行っても良いがヒロと離れるつもりが無いジュンと違い、地球の重力が必須なヒロにとっては全く無関係の話ではある。


『 ・それではワープアウト予定宙域の、林さんを呼んでみましょう。 林さん! 』


『 ・ハイ林です。 私は今、ワープアウト予定宙域である火星宙域に来ています! 』


地球 - 火星間はホール通信で繋がれており、通信時差はほとんどない。

画面の右上には、実験開始までのカウントダウンが控えめな大きさで表示され続けている。

大きさは控えめだが装飾と色は派手だ、誰が画面を見ても見逃すことは無いだろう。


『 ・こんにちはでいいのかな? 林さんは今回の実験に立ち会うため、1カ月前からマーズベースに滞在されているんですよね? 基地の様子はどうですか? 』


『 ・そうですね。 火星の基地も地下にあるんですが不便は感じませんでした。 地下って訊いて、最初は狭くて閉鎖的な施設を想像していたんですけど、天井が地球の建物より高く設計されていて・・・ 』


モニター内のアナウンサーのやり取りは英語で行われており、同時通訳のテロップは複数の言語で選択可能だ。

今はヒロとジュンの母国語である日本語のテロップが表示されている。


ジュンは英語で問題ないのだが、ヒロは極々簡単な英語しか理解できない。

そんなヒロに合わせての日本語表示だ。

タンカーに居るヒロとジュン以外の者は全員が英語圏出身者であるので、そもそもテロップは必要としない。


放送はホール通信で結ばれているため通信にほぼ(・・)時差は無い、映像も音声もだ。

全てはホール通信の恩恵なのだが、視聴者の中にはそれさえ初めて知る者も多かった。

アナウンサーはその技術も丁寧に説明していく。


モニターには、林アナウンサーが月基地から出発してマーズベースに到着するまで、それとマーズベースでの生活の模様がダイジェストで流れている。

彼女が確実に火星に居ることを証明するために、通信に遅れが無いのだから彼女は地球に居ると言わせないために。



今日の実験は前もって大々的に予告されているが、極々一部の陰謀論者はそれを信じていない。

火星は人類にとって過酷な環境だ、与圧服が無ければ1分以上生存するのは絶望な位には過酷だ。

それを証明するには火星の地表でヘルメットを取るだけで良いのだが、当然誰もやろうとはしない。 


それでは他の動物で証明しましょうかという手もあるのだが、それが昆虫であっても動物愛護団体と女性人権団体がそれを許さない。


モニター内の林アナウンサーは、マーズベースのエアロックで減圧に伴って徐々に膨らんでいくゴム風船や、沸騰し始める水と思われる透明な液体を映して映像が現実であると証明しようとしている。


「 陰謀論者はどうせ信じないんだから、ポテトチップスの袋でも使えばいいのにな。 その方がインパクトは在るだろ? 」


ポンと手を広げて見せるヒロ。

彼の頭の中では、エアロック内で破裂するポテトチップスの袋の映像が浮かんでいる。


「 その後はどうするの? 飛び散ったポテトチップスの掃除は大変よ? フィルターの掃除もね 」


勢いよく弾け飛んだ油を含んだポテトチップスは、色んな所に張り付くだろう、大小様々な大きさでだ。

あちらこちらに飛び散った油を含んで張り付いたモノの掃除は大変だ。


「 そりゃ、そうだろうけどね。 全人類に信じさせたいって言うスポンサーの意向にあってると思わないか? そのためにはインパクトは重要だろ? 掃除も必要経費だと思うけどな 」


「 今度提案してみるわ、採用されるか約束できないけど 」


ジュンはあきれ顔だ、同時にインパクトが在ることも否定できないでいる。

食べ物を無駄にするのは、何時でもどこでも悪い事なのはこの際だから忘れるとして。


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